軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第892話 謎の人物『誰かさん』

サイサクス世界にジョブシステムがある第三の理由。

それは『埒内の者で、勇者に匹敵する力を持つ者を探し出して見つける』というものだとヴァレリアは言う。

ここでライトは、レオニスが以前話していた『サイサクス世界における勇者』の説を思い出していた。

レオニスの話によると、この世界に勇者と呼ばれる存在はいないのだという。

ジョブとしての『勇者』はこれまでの歴史、少なくともラグナ暦の中では一度も出現したことはないはずだ、とも言っていた。

その考えを見抜いたかのように、ヴァレリアもまたサイサクス世界における勇者論を語っていく。

「ライト君が、このことを知っているかどうかは分からないけど。サイサクス世界のジョブシステムで、勇者が生まれることは絶対にない」

「はい、それは聞いたことがあります。今までこの世界に勇者が生まれたことは一度もないって、レオ兄ちゃんがそう言っていました」

「さすがは現役冒険者だね、よく勉強している」

ライトの話に、ヴァレリアが感心したようにニッコリと笑顔になる。

「でね、何故ジョブシステムで勇者が生まれないかと言えば。ライト君なら、もう分かるよね?」

「はい……勇者とは、埒外の者のためにあるもの……ということですよね?」

「正解」

ヴァレリアのこれまでの話を聞けば、さすがにライトでも分かる。

特に第二の理由では、埒内の者は職業システムは絶対に使えないことが明かされた。

職業システムとは、勇者候補生を立派な勇者に育て上げるためのもの。言わば勇者専用育成プログラムのようなものだ。

埒内の者はそれが使えない―――それは必然的に、勇者が育つ環境にはないことを意味していた。

「だが、埒内の者全てが非力な存在ではない。君の保護者のように、途轍もない力を持って生まれた者だっている」

「そうした者達を見つけるのに、ジョブシステムは最適なんだ」

「……いや、これはジョブシステムそのものが最適というよりも、その過程である適性判断時に見つけやすい、と言うべきかな」

ヴァレリアの解説に、ライトは頷きながら得心している。

ライトの力も大概だが、埒内の者であるはずのレオニスの持つ力は規格外もいいところだからだ。

そんなレオニスであっても勇者ではないというのだから、やはりこの世界の勇者の定義はかなり厳しく歪であることが分かる。

埒内の者というだけでその定義からは弾かれ、逆に埒外の者はそれだけで勇者となる資格を得る。何とも理不尽な話である。

しかしそうなると、ライトには俄然気になることがある。

それは、埒内の者でも勇者に匹敵する力を持つ者を見つけ出す理由だ。

一体何のためにそんなことをするのか。力を持つ者を探し出して、どうしようというのか。

どう考えてもライトにはその理由が思いつかない。

気になるからには、ヴァレリアに聞くしかない。

もしかしたら、また『質問は一回一個までだよ!』とか断られるかもしれないが、その可能性は低いだろう。

何故ならば、それらこれまでヴァレリアが話してきた内容に対しての質問なのだから。話の流れで出てきた疑問に対してまで、逐一咎められるようなことにはならないはずだ。

また、もし断られたら断られたでも構わない。それなら致し方ないとすっぱり諦めて、素直に引っ込むだけである。

だが、ダメ元で聞くだけならタダだ。

ライトは思いきって、ヴァレリアに正直に疑問をぶつけた。

「ヴァレリアさん……どうして勇者並みに力のある埒内の人を探し出す必要があるんですか?」

「それは…………」

ライトの質問に、ヴァレリアはしばし言葉が淀む。

そして、若干困ったような表情でその答えを口にした。

「ごめんね、それは私には答えられない」

「何故ですか? 二個目の質問になっちゃうからですか?」

「いや、そうではなくてね。私はその理由、何故勇者並みに力を持つ者を探し出したいのかまでは知らないんだ」

「え、そうなんですか?」

「うん。そういう目的を持って作られた、ということまでは『誰かさん』から聞いて知っているんだけどね」

ヴァレリアは両手のひらを上に上げて、困ったように方を竦めながら答える。

これは典型的なお手上げポーズで、ヴァレリアは本当にその目的を知らないので残念ながら答えられない、ということを表していた。

「じゃあ、その『誰かさん』に改めて聞くことはできないんですか?」

「うーーーん、それは難しいなぁ……そもそも私もその『誰かさん』に会うこと自体が滅多にないからねぇ……」

「そうですかぁ……というか、その『誰かさん』って、普通にまだ生きてて会えるってことなんですね?」

「うん、一応ね」

答えを知ることを諦めきれないライトが、それを知るであろう人物『誰かさん』に会って聞くことの可否をヴァレリアに訪ねる。

残念ながらその案は不可っぽいが、それ以上にライトが驚いたのは『その誰かさんは今でも生きて存在する人物である』ということだった。

ジョブシステムが作られてから何年が経過しているか、ライトにはまだそこまで分からない。もしかしたら、ラグーン学園図書室の文献を漁れば何か分かるのかもしれないが。

それでもジョブシステムが使われるようになってから、数百年は経過しているだろう。

アクシーディア公国が旧王国から復興してから、八百年以上が経っているのだ。そのことを考えても、少なくともジョブシステムは五百年程度は稼働しているはずだ。

ということは、そのジョブシステムを作ったとされる『誰かさん』もとんでもない長寿ということになる。

おそらくというか、間違いなく人族ではないのだろう。

エルフや妖精、ドワーフなどの精霊に近しい存在か、もしくは仙人や神仙といった不老不死を求め手に入れた賢人か。

いずれにしても、ライトの想像もつかないような人物であることは間違いなさそうだ。

ライトがそんなことを考えていると、ヴァレリアがその『誰かさん』に対する所見を続けて述べる。

「今でもその『誰かさん』は生きてるよ。……多分?」

「え!? 多分!?!?」

「私自身、彼と前に会ったのがいつだったか思い出せないくらいには久しく会ってないからねぇ」

「そ、そうなんだぁ……」

ヴァレリアの話からするに、どうやらヴァレリアとその『誰かさん』は、頻繁に会うほど仲が良い訳でもないらしい。

そして『彼』というからには、『誰かさん』は男性なのだろうか。

聞けば聞くほど、考えれば考えるほど、『誰かさん』に対する謎は深まるばかりである。

しかし、そんな謎だらけの人物であっても———いや、そんな人物だからこそいつかは会ってみたい、と思うライト。

このサイサクス世界に、ジョブシステムという人々の人生の根幹を成す巨大な仕組みを作り齎した程の人物だ。きっとヴァレリア同様に、途轍もなく傑出した人物に違いない。

また、そうした人物に限って世俗を嫌い、世捨て人のような環境に身を置くのも定番だ。それ故ヴァレリアとも交流がほとんどないのだろう。

ライトとしては、『誰かさん』に対する謎の深さよりも『そんなにすごい人なら、是非とも一度直接会ってみたい!』という欲求の方が断然強かった。

「ヴァレリアさん、ぼくもその『誰かさん』に会って、お話を聞きたいんですが……いつか会えますかね?」

「うん、ライト君ならきっと会えると思うよー」

「できればぼくが生きてる間に、なるべく普通に動ける身体のうちに会いたいんですが」

「…………ま、そこら辺は、きっと、大丈夫、かな?」

ライトが口にした願いに、ヴァレリアはニッコリと笑顔になりながら『きっと会える』と答える。

その楽観的な見通しの根拠はどこから来るものなのか、ライトには全く分からない。

だが、ヴァレリア程の魔女にそう言われれば、その願いはいつか本当に叶うような気がしてくるから不思議だ。

もっとも、ライトがその直後に付け加えた『自分が生きて元気なうちに会いたい』という追加条件には、ヴァレリアの目が斜め上の宙を泳ぎまくっていたような気がするが。多分気のせいだろう。キニシナイ!

「とりあえず、今回の【聖祈祷師】マスターのご褒美質問は、これでいいかな?」

「はい!答えてくれてありがとうございます!……もっとも、謎が謎を呼びまくって今まで以上にこんがらがりそうですが」

「フフフ、そうかもしれないね」

ライトが答えを求めた質問『ジョブシステムとは、何のために作られたか』を一通り答え終えたヴァレリア。質疑応答を締めるべく、ライトに最後の確認をする。

もちろんライトもヴァレリアの確認に同意する。

実際にはジョブシステムに対する謎は深まるばかりだが、ジョブシステムの成り立ちが知れただけでも御の字と思わなければならない。

こんな『世界の真実』など、ヴァレリアの他にも知る者がいるなど到底思えないからだ。

いや、もしかしたらジョブシステムを作り上げたという『誰かさん』も、ヴァレリアに匹敵する知識を持っている可能性がある。

その人物だって、このサイサクス世界がBCOというゲーム世界であるということを知っているのだから。

世界の真実を知る数少ない人物。ライトの興味は俄然その人物に向けられていた。

「ヴァレリアさん、今日の質問で選ばなかった方の『誰が作ったか』は、次回聞いてもいいですよね?」

「ンーーー、もちろん聞かれたらちゃんと答えるけど……」

「何か問題でもあるんですか?」

「……できればその質問は、一番最後か十一番目にしてくれると嬉しいかな」

ライトの問いかけに、ヴァレリアはちょっとだけ困ったような苦笑いを浮かべつつ答える。

何故なのかは分からないが、『誰かさん』についてヴァレリアは余程答えたくないようだ。

だがそれでも希望はある。ヴァレリアは『聞かれたらちゃんと答える』と明言しており、質問すること自体を拒否してはいないのだから。

相当後回しということになるが、ライトとしては一向にそれでも構わない。ジョブシステム以外にも謎や聞きたいことはたくさんあるし、それら他の謎を明かしつつ全職業マスターを目指すべく、これからも日々精進あるのみだ。

「……分かりました。ヴァレリアさんの望み通り、これは一番最後に聞くことにします」

「そっか、ありがとう。我儘言ってすまないね」

「いいえ、そんなことないです!ヴァレリアさんが謝ることなんてないです」

ヴァレリアの望みを受け入れる、と明言したライト。

そんなライトに、ヴァレリアは珍しく申し訳なさそうに謝る。

だが、ライトは慌ててヴァレリアの謝意を否定する。

「ヴァレリアさんは、いつもぼくに良くしてくれますから。世話になってるヴァレリアさんがそう望むなら、ぼくもなるべく意に沿うようにしたいってだけのことですし」

「そう言ってもらえると、私も気が楽になるよ。……ライト君は、本当に良い子だねぇ」

ライトの言葉に、ヴァレリアがライトの頭を撫でる。

それは幼い弟を褒め称えるかのような、慈愛に満ちた優しい仕草だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「じゃ、私はそろそろ帰るね!今日もとても有意義な一日だったよ!」

「はい!ありがとうございました!」

ヴァレリアは空間魔法陣を開き、自分が座っていたテーブルや椅子を収納して帰り支度を始める。

ライトはそれを見守りつつ、ヴァレリアに礼を言う。

そしてライトだけでなく、ミーア達もヴァレリアに労いの言葉をかける。

『ヴァレリアさん、お疲れさまでした』

「いやいや、こちらこそありがとう。ミーアの膝枕のお昼寝は、とっても気持ち良かったよ!」

『ヴァレリアさんと主様のお話は、すっごく難しくて私にはさっぱり分かりませんでしたが……二人とも仲良くお話できて、とっても良かったです!』

「うん、ミーナの素直さも本当に良いことだと思うよ。ミーナもずっとそのままでいてね!」

『ヴァレリアさんは、パパ様の先生なのですよね? 今度僕にもお勉強を教えてください!』

「ルディに必要なお勉強って、何だろうね? ルディも私に聞きたいことがあったらいつでも聞いてね!分かる範囲で答えるから」

ミーア達の労いの言葉に、ヴァレリアも嬉しそうに答えていく。

こんなに笑顔に満ちたヴァレリアというのも、なかなかに珍しいことだ。

帰り支度を整えたヴァレリアが、その身体をふわりと宙に浮かせた。

「じゃ、またねー!」

「『『『さようならー!』』』」

ライト達は宙に浮いたヴァレリアを見上げながら、さよならの挨拶をする。

風に吹かれて舞い散っていく木の葉のように、フッ……と姿を消して宙に融けたヴァレリア。

彼女との再会は、いつになるか分からない。

普通にいけば第四の職業【魔術師】の四次職マスター時に再び現れるだろうし、あるいは幻のツルハシやマッピングスキル検証の時のように、ヴァレリアの気まぐれでヒョイ、と姿を現すかもしれない。

いずれにしても、神出鬼没のヴァレリアに過度な期待は禁物だ。

ヴァレリアが語る世界の真実、その一端に触れたライト。

このサイサクス世界のことを、もっともっと知りたい―――素直にそう思える一日だった。

これからも頑張って修行して、またヴァレリアさんに世界の謎を教えてもらおう!改めてそう心に誓ったライトだった。