軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第890話 二者択一

マッピングスキルで転職神殿に戻ったライト達一行。

するとそこには、木陰にテーブルを出して優雅にお茶を飲んでいるヴァレリアとミーアがいた。

ライトの帰還にいち早く気づいたミーアが席を立ち、ライト達を迎え入れる。

『あっ、ライトさん、ミーナ、ルディ、おかえりなさい!』

「おお、ライト君。おかえりー♪」

ミーアに続きヴァレリアもライト達の帰還を喜んでいる。

この野晒しの転職神殿にテーブル累などはないので、今彼女達が座っていた椅子やテーブル、お茶等はヴァレリアが用意したものなのだろう。

「ただいま戻りましたー。ヴァレリアさんも、もう起きてたんですねー」

「うん、おかげさまでね、ぐっすり気持ち良ーくお昼寝しちゃった☆」

「それは良かったです!ミーアさんの膝枕なら、良い夢見れたのでは?」

「ウフフ……私は寝ても夢を見ないんだけどね」

ミーアの膝枕で寝てたヴァレリアを揶揄うように話しかけたライトだったが、意に反してヴァレリアは寂しそうに小さく笑う。

ライトはそのほんの僅かな翳りが気になったが、同時に『うん、俺も夢見てもすぐ忘れちゃうしね!』などとポジティブに捉える。

当のヴァレリアもすぐにパッ!と明るい顔になり、席から立ち上がってライトのもとに歩み寄りながら問いかけた。

「ところで!ライト君、【聖祈祷師】をマスターできたんでしょ?」

「はい!ヴァレリアさんからもらったエネルギードリンクグロスのおかげで、何とかマスターできました!本当にありがとうございました!」

「うんうん。このヴァレリアさんは、いつだって一生懸命頑張る勇者候補生の味方だからね!」

深々と頭を下げて支援物資のお礼を言うライトに、ヴァレリアも腕組みしつつドヤ顔で得意げにコクコクと頷いている。

実際のところ、先週ヴァレリアからもらったエネルギードリンクグロスがなければ、一週間で習熟度MAXにすることなど到底できなかっただろう。

四次職のラスト12%を一週間で仕上げろ、と暗に迫られた時には『この人、鬼だ!ブラック企業の極悪上司だ!』と内心思ったライト。

だが、口先だけでなく本当に支援してくれるなら多少の無茶振りも許せるというものだ。

そして満足げなヴァレリアが、いよいよ核心に迫る。

「さぁ、今回のご褒美の質問は決めてきたかい?」

「……はい」

「あ、先に言っておくけど、先日のCPのような大サービスは今日はしないからね?」

「……分かってます」

ヴァレリアにご褒美の質問のことを問われたライト。

それまでのにこやかな笑顔が、一瞬にして真剣な顔つきになる。

先週ヴァレリア達に『四次職マスターして、また皆で会おうね!』と言われてから、ライトは必死に習熟度上げに励みつつ質問内容を考え続けてきた。

そして考えに考え抜いた結果、ライトがこのサイサクス世界に生まれついてから最も不思議に思っていたことを聞こう、と心に決めていた。

ライトは意を決したように、徐にその口を開いた。

「ジョブシステムとは、一体誰が……何のために作り広めたんですか?」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライトの凛とした声が転職神殿内に響く。

その瞬間、一陣の風が吹いた。ザザッ、ザザァッ……という木々の葉擦れの音が辺り一面に響き渡る。

木の葉を大きく揺らした突風はいつしか止み、転職神殿内に静寂が戻る。

ライトがこのサイサクス世界でずっと疑問に思っていたこと。

それは、ライトが知る『職業システム』ではなく、『ジョブシステム』なる別のシステムが人々の職業を決めていたことだった。

この世界の人々は皆、転職神殿ではなくラグナ教の神殿でジョブ適性判断を受けて己の将来を決める―――それを知った時の絶望感を、ライトは今でもはっきりと覚えている。

ライトが知るBCO世界には『職業システム』があり、六つの職業を極めることで様々な能力を手に入れることができた。

このサイサクス世界、いや、少なくともライトが住むアクシーディア公国はBCOを元に作られた世界なのだから、当然『職業システム』も普通にあるものだとばかり思っていた。

それが一体どうしたことか、何と転職神殿は旧教扱いされていて誰一人寄り付かない廃墟と化しているではないか。

ライトからしてみれば、青天の霹靂もいいとこだった。

それでも何とか自分が知る転職神殿を探し出し、ライトだけが使えるシステムとして今は活用できている。

すっかり廃れてしまった『職業システム』だが、完全に潰えた訳ではないことにライトは心から救われて安堵もした。

だからこそ、ライトは知りたいと思う。『ジョブシステムとは一体何なのか』ということを。

一方のヴァレリアはというと、何故か無言のまま微動だにしない。

そしてその顔には何故か若干険しさが漂う。

普段は飄々としたヴァレリアの、初めて見せる不機嫌そうな顔つきに、ライトはだんだんと不安になってきた。

……もしかして、触れられたくない質問だったのか? いや、でもヴァレリアさんはあの時確かに言ったよな?

『君が四次職をマスターする度にまたここで会おうじゃないか』

『君がここに来る度に、私は私の知る真実を君に伝えよう』

って……

だったらジョブシステムのことだって、聞く権利はある……よな?

ライトは内心でビクビクしつつ、懸命に思考を巡らす。

ライトとヴァレリア、双方とも黙したまま睨み合いのような状態がしばし続く。

その剣呑な空気にミーナやルディはオロオロとし、ミーアはライトと同じくヴァレリアの顔を無言のままじっと見つめている。

使い魔のミーナやルディはともかく、転職神殿の専属巫女であるミーアにとってもジョブシステムのことがかなり気になるのだろう。

何とも居心地の悪い空気の中、口を開いて静寂を破ったのはヴァレリアだった。

「……ライト君。私はさっきも忠告したはずだよ? 今日は大サービスはしないって」

「……?? 確かにそう言ってましたけど……ぼくの質問の仕方に、何か問題がありましたか?」

「問題大ありだとも」

眉間に皺を寄せ、ふぅ……と大きくため息をつくヴァレリア。

一方のライトは、何が問題大ありなのか今一つ分かっていない。

そんなライトのために、ヴァレリアは問題点を指摘していった。

「いいかい、ライト君。君の先程の質問には、二つの問いが含まれている。『誰がジョブシステムを作ったのか』というのと、『何のためにジョブシステムを作り広めたのか』という二点がね」

「……あ……」

ヴァレリアに指摘されたことで、ライトもようやくヴァレリアの言いたいことに気がついた。

この二つを同時に尋ねることを、彼女は良しとしていないのだ。

ライトとしては、CPの時のように欲張って質問したつもりなど毛頭なかった。だが、結果としてヴァレリアが指摘した通り、二つの質問を同時にしたも同然の尋ね方になってしまっていた。

そのことに気づかされたライトは愕然とし、咄嗟にヴァレリアに対して謝罪した。

「す、すみません……そんなつもりはなかったんですが……確かにヴァレリアさんの言う通りで……それらは二つ以上の答えが必要になる聞き方でしたよね……本当にごめんなさい」

些細なようでいて致命的なミスを犯したことに、ライトは涙目になりながらヴァレリアに謝罪する。

声は震え、眦には本物の涙が滲む。

前回の質問時には、つい欲張って『CPの全てを教えて!』と半ば強引な形でヴァレリアに迫ったライト。

あの時はヴァレリアもCPの重要性と特殊性を認めた上で、ライトの度重なる質問にも快く答えてくれた。

それに味を占めたかのように、また今回もライトが強欲な質問をしてきた―――ヴァレリアがそう考えても不思議ではない。

もしこれ以上ヴァレリアの機嫌を損ねたら―――ライトはここがBCO世界であることを知る、数少ない同志を失ってしまうかもしれない。

ただでさえBCOにまつわることは誰にも相談できないというのに、せっかく知己を得たBCO仲間のヴァレリアから見放されたら―――想像するだに恐ろしかった。

プルプルと震えるライトを見て、ミーアが堪らずヴァレリアに声をかけた。

『ヴァレリアさん……ライトさんもこのように深く反省しておられらことですし、今日のところは許してやっていただけませんか?』

「……ン? 私はちょっと軽く注意しただけで、何もそこまで激怒したりなんかしてないよ?」

ヴァレリアの執り成しに、心底不思議そうな顔でミーアに問い返すヴァレリア。

あれだけの圧を出しといて……と思わなくもないが、不穏な空気が幾分マシになって軽くなっただけでも御の字と思うべきかもしれない。

渾沌魔女は何事もなかったかのように、ケロッとした顔でライトの方に身体を向き直し話しかける。

「ライト君もやはり、ジョブシステムのことが気になるんだよね? うん、その気持ちは私もよーく分かるよ」

「…………」

「しかし、この問題は本当にサイサクス世界の根幹に関わることなんだ。そうおいそれと明かせるものではないことも、賢い君ならば分かるよね?」

「……はい……」

「だから、聞きたいなら今日はどちらか一つを選ばなければならない。『誰が』か、それとも『何のために』か。ライト君は、どっちを先に聞きたい?」

「…………」

ヴァレリアの問いかけに、ライトはしばし考え込む。

BCOをやり込んだライトですら知らない、謎のジョブシステム。

こんなものを作って世に広められる、そんな存在が一体『誰なのか』はもちろん気になる。

だがそれ以上に、『何のために』職業システムとは全く別物を広めたのか。ライトとしてはそちらの方、その目的がすごくが気になっていた。

作った人物が誰かよりも、まずはその目的を知りたい―――

自分の中でそう結論が出たライト。涙が滲んだ眦を手の甲でグシグシと拭い、改めて顔を上げてヴァレリアに告げた。

「何のためにジョブシステムがあるのかを、ぼくは知りたいです」

「そうか、君は『何のために』の方を先に知ることを選んだんだね。よし、分かった。今から君にそれを伝えよう」

先程までの険しい顔が嘘のように、穏やかな顔でライトに微笑むヴァレリア。

くるりと身体を翻し、先程までミーアとお茶を飲んでいたテーブルの席に戻り、ぽすん、と座った。

そして飲みかけだった紅茶のティーカップを手に取り、一口二口啜る。

喉と唇を潤したヴァレリアは、一息ついてからゆっくりと口を開いた。

「サイサクス世界のジョブシステム。BCOにはない、この世界だけの独自システム。何故それが作られたのか、それはひとえに―――」

これからヴァレリアが発する言葉を、一言一句聞き漏らすまい、と真剣に聞き入るライト。

そしてそれはライトだけではない。ミーア、ミーナ、ルディ、この場にいる全員が世界の真実の片鱗に触れる覚悟を決めて、ヴァレリアの言葉をタダタ待つ。

息を呑みつつ答えを待つライト達に、ヴァレリアは言葉を続けていった。

「埒内の者達のために作られたんだ」