軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第836話 ラウルの日常

ライトが次々と新しい力を手に入れ、レオニスがシュマルリ山脈でドラゴンや神樹と親睦を深めている間。

ラウルもまた忙しく動き回る日々が続いていた。

朝起きて一番に、ガラス温室に向かうラウル。温室内で育てている普通サイズの野菜類、それらの収穫や水遣りを済ますためだ。

そしてその後マキシとともに朝食を摂り、アイギスに出勤するマキシやラグーン学園に通うライトを送り出してから、カタポレンの家にある畑に移動する。

まずは殻類を焼却炉に放り込み、焼却を開始してから収穫可能な巨大野菜類を採取していく。朝のうちに採る野菜類の瑞々しさに、いつもラウルは惚れ惚れとしている。

トマトやキュウリなどは、もいだ実をそのまま空間魔法陣に放り込む。トウモロコシは素早く皮を剥き、ヒゲと実を空間魔法陣にいれて皮は後ほど茎や根とまとめて緑肥として再利用処理する。

ラグナロッツァの屋敷に作ったガラス温室や、このカタポレンの森に畑を作ってから既に幾度も収穫作業をしてきたので、諸々の農作業もすっかりお手の物である。

九月に入り、季節的にもそろそろ夏野菜の旬も終盤になってきた。

収穫後のトウモロコシの茎や根を引っこ抜きながら、ラウルは頭の中で様々なことを考える。

さて、次は何を植えようか。秋野菜というと、サツマイモとかナス、ニンジン、玉ねぎ、ゴボウなんかかな。

……いやいや、秋野菜を作り始めるには少し早いな。まだ夏の暑さが残っているうちに、夏野菜を作り続けてストックを増やしておこう。

トマトやキュウリ、トウモロコシは料理に使いやすい定番の食材だから、腐らせるほど有り余るなんてことは絶対にないし。

特にトウモロコシは、ヴィーちゃんやグリンちゃんも喜んで食べてくれてたからな。天空島の女王達にも、またヴィーちゃん達のための野菜を届けてくれって頼まれたっけ。

……よし、今日から一週間ぶっ続けでトウモロコシだけを作りまくるか。

何せ俺にはドライアドの加護で得た植物魔法があるからな!その練習も兼ねて一週間も全力稼働すりゃ、今からでもそこそこの量が採れるだろ!

今後の家庭菜園計画を考えながら、ひとまず四阿の椅子に腰掛けて休憩するラウル。空間魔法陣からエクスポーションとアークエーテルを取り出し、飲み物代わりにグビグビと飲んで体力と魔力を補給していく。

今カタポレンの家の周辺にある畑は、東西南北に一枚づつある。

家の敷地を中心に十字状態となっており、北西の角に四阿組立キットで作った四阿がある。

ちなみに四阿がある北西の角だけは、諸々の作業場も兼ねて広い平地に切り拓いてある。

もういっそのこと、東西南北の四面だけでなく北西以外の北東南西南東の三面も畑にしてしまおうか……とラウルは考えだしている。

このカタポレンの畑は、当初はオーガ族に野菜を提供するために開墾したものだった。

事の始まりは、ライトを通してオーガ達の料理の先生に就任したこと。ライトからオーガ族が作る五種の酒を譲ってもらったことがきっかけだ。

その流れでオーガに料理を指導していくうちに、どうしてもラウルはオーガ達に野菜の美味しさを知ってもらいたくなったのだ。

おかげで今ではオーガ達の食卓も彩り豊かになり、ラウルは料理の先生としてオーガ達の尊敬を一身に集めるにまで至った。

そして巨大野菜の需要は、それだけに留まらない。

その後天空島に住む高位の存在達とも懇意になり、天空神殿と雷光神殿の守護神である巨大な神鶏グリンカムビとヴィゾーヴニルにも巨大野菜を分け与える必要性が出てきたのだ。

神鶏達には、神樹襲撃事件でユグドラツィを救ってくれた大恩があり、ラウルとしてもできる限り恩返しをしていきたい。

そうなると、畑四面だけでは供給量が心許なくなってくる。

トウモロコシの集中生産は翌日から開始することにして、今日の残り時間は新しい角の畑を作るための伐採に充てることにした。

伐採した木は、もちろん全て丸太に加工していく。後日何らかの形で再利用するためだ。

一本伐る毎にカタポレンの家の敷地内に運び、枝払いをして樹皮を剥き、風魔法で満遍なく乾燥させていく。

伐採から乾燥まで、一本につき約十分の作業を経て次の木の伐採にとりかかる。

一時間につき六本、午後の五時間全部費やしても三十本といったところか。

その途中、夕方四時少し過ぎにライトがカタポレンの家に帰ってきた。

その日のラグーン学園の授業が終わり、転移門でラグナロッツァの屋敷からカタポレンの家の自室に戻ってきたのだ。

家の外に何らかの気配を感じたライト、鞄を机の上に置いてすぐに家の外に出る。

そしてラウルを見つけて駆け寄ってきた。

「ラウル、まだ畑仕事してるのー?」

「お、ライトか、おかえりー」

「ただいま!向こうの家にラウルがいなかったから、どうしたのかと思っちゃった」

「おお、そうか、向こうで出迎えてやれなくてすまんな」

「ううん、それは別にいいんだけどさ。ラウル、ホントに忙しそうというか働き詰めだねぇ……大丈夫? 疲れてない?」

ライトが心配そうにラウルの顔を覗き込む。

少し前までは、ラウルはラグナロッツァの屋敷にずっといて、大好きな料理三昧の日々を送っていた。

それが今では、一日の半分近くを畑仕事に費やしている。

手ずから食材作りまで拘るのは、ラウルがこよなく愛する料理の延長線上にある。そしてそのことはライトにも十分理解できる。

だが、ライトの目にはあまりにもラウルが働き過ぎに見えたのだ。

心配そうな顔のライトを見て、ラウルは静かに微笑む。

「大丈夫、心配すんな。俺は至って健康そのものだから」

「ホント? 夜は夜で、向こうの屋敷で料理の下拵えとかしてるんでしょ? ちゃんと寝てる?」

「ああ、零時前にはちゃんと布団に入ってたっぷり寝てるぞ?」

「ならいいけど……あまり無理しないでね?」

首にかけたタオルで額に滲んだ汗を軽く拭いながら、ライトの問いかけに答えていくラウル。

実際夜はマキシとともに晩御飯を食べた後、零時少し前まで食材の下拵えやスイーツ作りなどをしている。

そして零時にはベッドに入り、就寝する。これが最近のラウルの一日の過ごし方だ。

傍から見れば過労以外の何物でもないのだが、ラウルにとっては全部自分が好きでやっていることなので何の苦もない。

むしろ、自分の好きなことを好きなようにしてるだけなのに、ライトに心配してもらって申し訳ないくらいだとすらラウルは思う。

プーリアの里を飛び出すまでは、ラウルは誰かに心配してもらうことなどほとんどなかった。

あってもせいぜい親友のマキシくらいで、同じプーリアの妖精達からは一瞥もされなかった。

だからラウルは長らく知らなかった。誰かが自分のことを心配してくれる、それがどれだけ心を温かくしてくれるかを。

タオルで汗を拭い取った後、ラウルは両手でワシャワシャとライトの頭を撫でくり回す。

「心配してくれてありがとうな。でもこの通り、本当に大丈夫だ。むしろ前よりも体調は良いくらいなんだぞ?」

「そうなの? まぁね、外に出てお日様の日を浴びながら適度な運動をするのは、健康にとても良いことだけどね」

「だろ? それに、ご主人様達や皆に美味しい野菜を食べてもらえることが、俺は一番嬉しいんだ」

ラウルに撫でくり回されて、すっかり頭がボッサボサになってしまったライト。

だが、ライトはそんなことを気にすることもなく、料理馬鹿のラウルが放った心優しい言葉に破顔する。

「そっか!ラウル、いつも美味しいお料理を作ってくれて、本当にありがとうね!」

「どういたしまして」

「そしたら、今からでもぼくに手伝えることはある?」

「そうだな……俺はそろそろ焼却炉の火の方を見てくるから、ライトはここにある小枝の山に風魔法をかけて乾燥させといてくれるか? あと、できれば土魔法で畑の土を増やしておいてもらえると助かる」

「うん、分かった!」

畑仕事の手伝いを申し出たライトに、ラウルもちゃっかりと二つもの仕事を頼む。

だが、ラウルがライトに依頼した手伝いは、風魔法や土魔法の練習にもなる。ライトにとっても、魔法の練習を兼ねて手伝いができて一石二鳥だ。

ライトは早速小枝の山に向けて風魔法をかけ始める。

風魔法の中に、雑巾を搾るように水分を奪い取るイメージを混ぜてより早く乾燥を促進させている。

その間にラウルは焼却炉の方に向かい、トングを使って焼いた殻を冷ますために外に掻き出す。

人族と妖精の仲睦まじい共同作業が、カタポレンの森の片隅でのんびりと行われていた。