軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第834話 激レアアイテムの取り扱い

自分だけの移動手段『マッピング』を手に入れ、自室で飛び跳ねて喜んだライト。

一頻り歓喜に浸った後は、次のアイテムチェックに移る。

『紫の写本』のお次は『幻のツルハシ・ニュースペシャルバージョン』の番だ。

この『幻のツルハシ・ニュースペシャルバージョン』については、ライトもその存在と大まかな概要を知っている。

それは、宝石や金属類が採り放題の『幻の鉱山』という特殊フィールドに一定時間行ける、というアイテムだ。

ちなみにライトがBCOで知っていたのは、ただの『幻のツルハシ』だった。だがこのサイサクス世界では、名前の後ろに『ニュースペシャルバージョン』という名称が追加されている。

その差は、一回限りの使い切り消費型アイテムか、繰り返し使えるリユース型アイテムかの違いである。

『ニュースペシャルバージョン』と名のつく方がリユース型なのは言うまでもない。

レオニスがその昔、とある遺跡で入手したというこの魔導具。

これを使えば鉱物類が採り放題の『幻の鉱山』に一定時間行けるというアイテムだ。

ライトは魔石の原料である水晶目当てに、レオニスとともに『幻の鉱山』に二回行ったことがある。

しかし『幻のツルハシ・ニュースペシャルバージョン』を所持しているのはレオニスであってライトではないので、それがどのようなアイテムであるか詳細はほとんど知らないのだ。

ライトは早速マイページのアイテム欄を開き、新たに出現した『幻のツルハシ・ニュースペシャルバージョン』をまずはタップしてみる。

そうして出てきた幻のツルハシの詳細解説文は、以下の通りである。

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様々な鉱物が採掘できる『幻の鉱山』に行けるアイテム。

『幻の鉱山』は次元が異なる亜空間に存在しており、切っ先鋭いツルハシで次元を斬り裂くことで、鉱山への道を切り拓くことができる。

そこにはありとあらゆる宝石や鉱石が無限にあり、採れない鉱物などないとまで言われている。

『幻の鉱山』への転移を実行するには、一回につきツルハシにMP100000を充填する必要がある。

MP100000未満では『幻の鉱山』へ移動することはできない。

ツルハシの柄の底面を触れることで、MP充填ゲージが閲覧可能となる。

『幻の鉱山』の滞在時間は、一回の転移につき一時間。また、このツルハシ以外での採掘は不可。

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「え、えむぴぃ、じゅうまん…………」

詳細解説文に書かれたMPの必要量を見たライト、その膨大な要求量に思わず絶句する。

しかし、レオニスのこれまでの使用例を考えると、実はそこまで理不尽な数値ではない。

レオニスの場合、一回幻の鉱山に行ったらその後半年はカタポレンの森の魔力を充填している、と言っていた。そしてライトが同行した二回目の幻の鉱山行きも、その前に行った時から半年以上の期間を空けてからであった。

今もライトが住むカタポレンの森は、濃い魔力に満ちた空気であることは 夙(つと) に有名だ。

そのカタポレンの森の中に放置するだけでいいとはいえ、満タンに充填するまで半年もの期間を要する―――これがどれ程大量の魔力を要するか、ライトにも容易に想像できた。

それに、何と言ってもその行き先である『幻の鉱山』はかなり特殊な場所だ。

詳細解説文にもある通り、ダイヤモンドやルビー、サファイア、エメラルド等の高級宝石はもちろんのこと、水晶やアメジスト、アクアマリン、ペリドットなどの半貴石と呼ばれる宝石類も豊富に採れる。

それだけでなく、金、銀、銅、鉄、アルミニウムなどの金属類も豊富だ。もちろんその中には、かつてライトが丁寧に拾ったおかげで得ることができたヒヒイロカネやアダマント、ミスリルといった貴重な金属もある。

そして何より素晴らしいのが、宝石も金属も純度100%の状態で採掘できることだ。

これは、採掘後の加工の手間がほとんどないことを意味する。

母岩から生えた宝石の原石だけを切り離す手間もないし、金属は純度を高めるための精錬作業も必要ない。

宝石はさすがに研磨作業が必要だが、金属類はそのまますぐに加工に使うことができるのだ。

この世のありとあらゆる鉱物が一同に集う場所、『幻の鉱山』。それはまさに宝の山が具現化したようなもの。

そんな貴重な場所に行ける唯一の手段、それこそが『幻のツルハシ・ニュースペシャルバージョン』なのである。

もちろんライトもこれを活用しない手はない。むしろ活用する気満々である。

しかし、活用するには大きな問題点が一つあった。

それは『どうやってツルハシにMPを充填していくか問題』であった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「このツルハシ、どうやってMPを溜め込んでいけばいいんだ……?」

「レオ兄はこの家の倉庫に放りっぱなしでいいけど……俺はこの部屋に隠しておくことはできん、よなぁ……レオ兄も俺の部屋にある転移門を使ってラグナロッツァと往復するから、部屋に出しっぱなしにしてたらいつ見つかるか分からんし」

「となると、家から少し離れたどこかにこっそり埋めたり隠しておくか……うーーーん、それも不安だ……」

ライトは思いっきり顰めっ面しながら、再びうんうんと呻りだす。

できることなら、ライトも自分の手元に『幻のツルハシ・ニュースペシャルバージョン』を常に置いておきたい。だがそれは、絶対に不可能なことである。

何故なら、ライトが『幻のツルハシ・ニュースペシャルバージョン』を手に入れたことをレオニスに知られる訳にはいかないからだ。

もしレオニスにそれを知られたら、間違いなく「お前……それ、どこで手に入れたんだ?」と詰問されるだろう。

多少のものなら「フォルが拾ってきたんだ!」と誤魔化すこともできるのだが、さすがにツルハシはフォルが拾ってくるには無理があり過ぎる。

かと言って、ライト自身が森の中で拾ってきた!と言ってもレオニスに信じてもらえなさそうだし、ましてや本当のこと『ルティエンス商会で、課金通貨のCPで購入しました!』などとは口が裂けても言えない。

レオニスがすんなりと騙されてくれそうな言い訳が思いつかない時点で、ツルハシの存在は絶対に隠し通さねばならないのだ。

故に、このカタポレンの家の中で目のつくところに置くことはできない。

ならば家から離れた場所に隠しておけば良さそうなものだが、それはそれでライトの中で不安が募る。

カタポレンの森にはライトとレオニス以外に人族はいないので、隠したツルハシを他人に見つけられて持ち去られる心配は全くない。

だが、隠し場所を工夫する必要がある。それは、ライトが隠し場所を見分けたり忘れないようにするためだ。

森の中というのは、似たような木々が延々と続く単調な景色が広がる場所だ。

大きな岩がある、池や泉などの水場がある、あるいは神樹のような周囲の木々とは全く違う突出した個性的な木があるとか、そういった特徴的な印象がなければなかなか区別がつかない。

そんな場所で、目印も無しに物を隠したらどうなるか。その答えは一つ。『隠した場所が分からなくなる!』である。

レオニスの目につかないよう森の中に隠したはいいが、後日取り出そうとしたらライト自身もどこに隠したか分からん!という事態になったら話にならない。

それに、例え特徴的な目印がある場所に隠してライトの目安にしたとしても、他の懸念がある。

それは『レオニスの野生の勘は侮れない!』である。

レオニスは妙なところで勘が鋭いというか、気づいてほしくないところに限って気づかれることも多い。

その勘の鋭さは天性のものなのか、あるいは冒険者として様々な経験を積んできた故に磨かれたものなのか。

どちらかは分からないが、ライトはレオニスと長年外ともに過ごしてきて、変なところで鋭いレオニスの勘というものを嫌というほど身に沁みて理解している。

いずれにしてもレオニスに勘づかれる可能性が極僅かでもあるならば、その方法は止めておいた方が無難だ。

「ンーーー……家の外に隠せないとなると……試しにエーテルでも飲ませてみるか?」

「……って、ツルハシは生き物じゃないんだから、液体をゴクゴク飲む訳ないよなぁ」

「そうなると、どうすりゃいいんだ?」

ブツブツと独り言を、呟きながら、ひとまずマイページからツルハシの実物を出してみることにするライト。

アイテム欄にある、武器や防具などの装備系アイテム。それらを具現化して実物として出す時には、アイテム名のところを長押しする。

ライトは『幻のツルハシ・ニュースペシャルバージョン』という名前を長押しすると、ライトの足元にツルハシが現れた。

「おおお……これが『幻のツルハシ・ニュースペシャルバージョン』か……見た目はレオ兄が使ってるのと全く同じ物っぽいな」

ライトはその場にしゃがみ込み、音もなく静かに現れたツルハシを手に持って繁繁と興味深そうに眺める。

ライト自身はレオニス所有のツルハシを実際に手に持ったことはないが、色や形、大きさなどの外見的特徴は二つとも同じ物に見える。

ツルハシの実物を出したついでに、ライトは勉強机の上に置いてあったハイエーテルをツルハシの切っ先にチョロチョロ……と垂らしてみる。

先程のライトの案『MP充填のために、エーテルを飲ませてみる』のダメ元検証である。

そしてこのダメ元検証、結果はやはりダメだった。

切っ先に垂らしたハイエーテルは床に零れ落ちたまま減った様子がないし、実際に柄の底に触れて出現したMP充填ゲージも全然増えなかったのだ。

くッそー、やっぱダメか……と呟きながら、同じく勉強机の上に偶然置いてあったタオルで零れたハイエーテルを拭き取る。

ちなみにMP充填ゲージは横棒方式で、横棒の下に『0/100000』という数値も併記されていて分かりやすかった。

基本どうでもいいような、些細なところで気が利く仕様なのはBCOならではの特性である。

「うーーーん……そしたらどうすりゃいいんだ……?」

ライトが途方に暮れていると、カタポレンの家の玄関から声が聞こえてきた。

それは、昨日のラウルの歓迎会で酔い潰れて午前中に森の警邏に出られなかったレオニスが、午後から夕方にかけて警邏しに出かけて帰ってきた帰還の挨拶だった。

「ただいまー」

「……あッ、レオ兄ちゃん!おかえりー!」

ライトはレオニスに返事をしながら、急いでマイページを開いて手に持っていたツルハシを慌てて放り込み仕舞う。

すぐにツルハシを隠したライトは、レオニスを出迎えるべく玄関に向かう。

「午後の警邏、お疲れさまー。レオ兄ちゃん、体調はどう? もう二日酔いは治った?」

「おう、今日は昼過ぎまで寝ちまったけど、もう大丈夫。ライトにまで心配かけてすまんな」

「ホントだよ、もー。レオ兄ちゃんはお酒弱いんだから、冒険者のお友達にカクテルとか勧められても飲んじゃダメだよ?」

「ハイ……」

ライトの軽いお叱りに、レオニスは項垂れながら素直に従う。

冒険者は酒豪が多いイメージだが、如何に屈強な冒険者でも体質的にアルコールを受けつけないのはどうしようもない。

「さ、そろそろ晩御飯にしよっか!レオ兄ちゃんはお風呂で汗を流してきていいよー、その間にぼくが晩御飯の支度をしとくから」

「すまんがそうさせてもらうわ。よろしくな」

「うん!」

まだ夏の名残りが残る中、午後の警邏で森の中を駆け巡ってきたレオニスの身体は汗だくだ。

ライトの気遣いに、レオニスも素直に甘えて一旦自室に戻ってからすぐに風呂に向かう。

レオニスが風呂に入っている間、ライトは自信の言葉通り晩御飯の支度を進める。

フライパンでパイア肉の生姜焼きを調理しながら、ライトは先程まで弄っていたツルハシのことを考えていた。

『あー、危ねぇ危ねぇ、マジ焦ったぁ……こりゃ家の中でもおちおちアイテムを出せんな……部屋の中でツルハシを出してる最中に、レオ兄が転移門から突然現れた!なんてことになる可能性だって普通にあり得るし。そもそもラグナロッツァとここの往復は、俺の部屋の中にある転移門で全部行ってるんだし』

『さて、そうなるとこれからどうしたもんか……今度転職神殿に行った時にでもまた考えよう。向こうでなら、ツルハシを出しても全く問題ないし』

晩御飯の支度をしながら、今後の対策を考えるライトだった。