軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第810話 二つの格言

まずはレオニスが慎重な手つきで、マードンの額に貼ってある浄化魔法の呪符をそっと剥がす。

そして自然に目が覚めるまで、マードンの様子を窺いながら待つライト達。

呪符を貼ることで眠っているのだから、その呪符を取り除けば普通に目が覚めるはずだからである。

だがこの蝙蝠、寝こけている原因のはずの呪符を剝がしても、一向に目が覚める気配がない。

それどころか、その口から何やら絶え間なく寝言が漏れてきている。

『ンむぅー……ゾルディスしゃま、お休みもうちょッ……ち増やしてくらしゃァい……』

『ご飯……おかず……たまには肉食べたァーい……』

『昨日一昨日の、出張手当の割り増しをォー……え?ダメ?……ゾルディスしゃま、そそそそンな殺生なァァァ……』

壮絶なまでに寝言ダダ漏れなイモムシモードのマードン。

その寝言がまた何とも身につまされる内容である。相も変わらず社畜モード全開な夢でも見ているのだろうか。

そしてその微妙に切ない寝言を聞かされたライト達、三人揃って半目の呆れ顔だ。

「これが本当に、【愚帝】の配下の側近、なのか……?」

ラウルが地面に転がっているマードンを凝視しながら呟く。

まぁ、ラウルがそう疑うのもしょうがないよな……とライトは内心思う。

そしてそれはレオニスも同じ気持ちなのか、はぁ……とため息をつきつつラウルの疑念に答える。

「まぁな、この姿だけ見りゃお前がそう思うのもよーーーく分かる。俺だって実際そう思うもんな。だが……こいつがオーガの里を襲撃した実行犯なのは間違いない。事件が起きた当時、オーガの里でこいつがいたのを俺もライトもこの目で見たからな」

「そ、そうなのか……」

「ああ。普通の単眼蝙蝠は全て俺が倒したが、こいつだけは屍鬼将ゾルディスが回収して逃げられたんだ」

「ご主人様達がそう言うのなら、こいつは間違いなく四帝の手先ということなんだな」

レオニスの説明に、ラウルも次第に納得していく。

如何にマードンが見た目から何から胡散臭さ大爆発でも、ラウルにとってはレオニスへの信頼の方がはるかに上回る。

レオニスが確信を持って断言したことは、ラウルの中でも間違いない事実となるのである。

そんな雑談をのんびりと交わしていたのだが、未だにマードンが起きる気配がない。

呪符を剝がしてから一分、二分と過ぎ、とうとう三分が経った。

待ちくたびれてイラッとしたレオニス。ラウルに向かって指示を出した。

「ラウル、すまんがこの蔓をもっと伸ばしてくれるか。畑の横の木の枝にこいつを吊るして叩き起こす」

「了解」

レオニスの指示に従い、ラウルがスイカの蔓の根元に手を翳して植物魔法をかける。

すると、スイカの根元がさらにニョキニョキと伸びていく。

レオニスはチャーシュー巻き状態のマードンを持ち上げて、畑の横の木の枝にヒョイ、と引っかけた。

そして徐にマードンに右人差し指を向けたレオニス。

レオニスの右人差し指の先端から、水鉄砲のような一筋の水が噴射されてマードンの顔を直撃した。

『……ンギャガガッ!ななな何ぞコレッ!』

「ようやくお目覚めか? 魚籠の中でぐっすり寝て体調万全ってか?」

レオニスによる目覚めの水浴びで起きたマードン。

オーガの里での尋問時のように再び木に吊るされて、ミノムシマードンリターンズである。

『ンぬぬぬぬ……貴ッ様ァ……我の健やかァなる睡眠を邪魔しるとは、イイ度胸だナッ!』

「お前こそいい度胸してんじゃねぇか。ッたく、捕虜の分際で『健やかなる睡眠』とか、お前ホント何言ってんの?」

水をかけられて叩き起こされたマードン。

レオニスに向かって威勢よく吠えるも、木の枝に吊るされたミノムシ状態では全く威厳も説得力もない。

レオニスが呆れ返るのも当然というものである。

しかし、こんな喜劇じみた問答をしている場合ではない。

レオニスは気を取り直し、改めてマードンに向かって問うた。

「ところで、お前に聞きたいことがあるんだが」

『貴ッ様ァ!ゾルディス様を討ッた、ゾルディス様の 憎(にッく) き仇の貴様ッにィ!教えることなンぞ、何一つぬゎーいわッ!』

レオニスの言葉を聞き、プンスコと怒りまくるマードン。

確かにマードンの言う通り、レオニスはマードンの上司である屍鬼将ゾルディスを討ち取った張本人。

マードンにとってレオニスは、憎むべき怨敵なのだ。

そんなマードンの剣幕に怯むことなく、レオニスが空間魔法陣を開いて何かを取り出した。

「まぁまぁ、そう言わずに。お前もこれまでずーっと寝てて、腹減ったろ? ほれ、食え、肉だ」

『むぐッ!?モゴゴゴゴ!?……もくもくもく……』

レオニスが宥めるような口調で、マードンの口に容赦なく突っ込んだもの。それは、ラウル特製ミートボールだった。

ミートボールを口に突っ込まれたマードン、いきなりのことに目を白黒させている。

だが、びっくりしていたのは最初のうちだけで、それが超絶美味な肉団子であることに気づいてから無言で咀嚼していた。

そして、ゴッキュン!という音を立ててミートボールを飲み込んだマードン。

しばし無言だったが、口ごもるように何かモショモショと呟いている。

『……………ぉ……り』

「ン? 何か言ったか?」

『…………………おッかわりィィィィッ!』

小声でよく聞こえなかったレオニスに対し、突如大声で叫ぶマードン。

耳を劈くような大声に、思わずライト達はピクンッ!と飛び上がりかける。

そして、おかわりの要求をやっと伝えることができてスッキリしたのか、マードンは鳥の雛のように大きく口を開けた。

ミノムシ状態で手も足も出ないとはいえ、相変わらず図々しさ全開である。

『早く!おッかわりを、寄越すのダッ!』

「……おう、いいぞ。ミートボールはまだまだたくさんあるから、好きなだけ食え」

『うむッ!』

マードンの要求を快諾するレオニス。

己の要求が見事通り、マードンの顔は花咲くような笑顔になる。

そうしてレオニスは、マードンが満腹になって満足するまでラウル特製ミートボールを与えていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

それから一体、どれくらいのミートボールをマードンに与え続けたであろう。

少なくとも五十個以上は与えているはずだ。

コイツ、とんでもねー大食いだな……これじゃ俺の手持ちのミートボール全部食われちまうぞ……それでも満腹にならんなら、他のものも出さなきゃならんか?

レオニスがそう考えていた、その時。

マードンが『ゲフーッ!』という、見事なまでにオヤジ臭いゲップを放った。

『プッハーーーッ!食ッた、食ッたァー!……ゲプッ』

「やーっと腹が膨れたか……お前、食い過ぎじゃね?」

『ひッさびさの肉だッたァのダ、食えェる時に食ッておかねばナ!……ゲッフーッ』

「お前、ホンット図太ぇヤツだね……」

特大のゲップを連発しながら、実に満足そうなマードン。

ラウルが出したスイカの蔓でぐるぐる巻きの腹が、心なしかまん丸になっている気がするが、多分気のせいではない。

そして、ゲップが出なくなったと思ったら、その代わりに今度は大きな 欠伸(あくび) をしだしたマードン。

大きな口を開けて、ふゎぁぁぁぁ……と典型的な欠伸を漏らす。

『ぬッふゥーン……ひッさびさに腹が膨れたァわ……』

「そりゃ良かった。さて、じゃあ今度はこっちの話に付き合ってもらうぞ」

『ンにゃ。我は今から昼ゥ寝をしる。ンじゃ、またナー』

何ということだろう。

マードンは『昼寝する』と言って、とっとと目を閉じてしまったではないか。

そりゃ確かに人間だって、満腹になるまで食べたら眠たくなるものだが。間違っても敵に捕らわれた捕虜のする行動ではない。

マードンのあまりの図々しさに、ライト達三人は呆気にとられている。

ぁー、ここまで図々しいヤツは初めて見た……つーか、これでもし何も聞き出せなかったら、普通に食い逃げじゃね? レオ兄、どうすんの?と、ライトが思ったその瞬間。

ライトの右側から、ものすごい殺気が放たれた。

ゾワッ!とした悪寒とともに、全身の肌が瞬時に粟立ち背筋が凍ったライト。慌てて右側を見ると、レオニスが鬼の形相でとんでもない威圧を発しているではないか。

その強烈な威圧をまともに受けたマードン。閉じていた目が大きく見開かれ、「ピョエッ」という短くも小さな悲鳴を上げて飛び起きた。

「……なぁ、マードンよ。今のお前にピッタリな言葉を知ってるか?」

『ピェッ……』

「『寝言は寝て言え』って言う言葉なんだがな?」

『ピェェ……』

「ああ、あとな、もう一ついい言葉があるぞ?」

『ピェェェ……』

「それはな、『死人に口なし』って言うんだ」

『ピェェェェ……』

「巫山戯た寝言しか吐かん口は、元から断ち切った方が早いもんなぁ? なぁ、お前もそうは思わんか? 思うよな? 思うだろ? ンー?」

『………………』

寝呆けたことを吐かしたマードンに対し、あくま静かな口調で二つの格言を例に挙げて説くレオニス。表面的には静かな笑みを湛えているが、その目は全く笑っていない。

今にも 射殺(いころ) されそうな鋭い視線と『ドギャガガズギャゴゴゴ……』という地の底から沸き上がるようなドス黒いオーラが陽炎のように揺らめき立ち上る。

時間を追う毎に、レオニスから発せられる凄まじい圧がさらに強まっていき、蝙蝠の魔物は涙目で震え上がる。

『……しゃ、しゃァなァい……我とて、一飯の恩も返せなァい程、厚顔無ッ恥ではなァいわ……ちょーッちだけェなら、答えてやるぁ……』

「おお、そうか、そりゃ良かった!これでお前のその減らず口を縫わずに済む」

『ゥゥゥ……』

マードンの言葉に、レオニスの表情が一転して明るい笑顔になる。

その笑顔はパッと見はキラキラとしていて眩しいくらいだが、マードンにとっては恐怖の大魔王の顕現にしか見えない。

「とりあえず、聞いたことに対しては素直に答えろよ? でもって、最初に言っておくが……下手に隠し通そうなどと考えん方がいい。お前の下手クソな芝居や物言いが、俺達に通じると思うなよ?」

『……ぉ、ぉゥ……』

レオニスの忠告に、しおしおと萎れたマードンが力無く頷く。

レオニス達には嘘を看破するようなスキルはないが、それでもこの 魔物(マードン) にレオニス達を完璧に欺けるような演技力や度胸があるとは到底思えない。

マードンのこれまでの言動からして、知っていることを意図的伏せようとすれば、あからさまに動揺して必ずボロを出すだろう。

そんな下手クソな演技に騙されるほど、ライト達の目は節穴ではない。

やっとおとなしくなったマードンに対し、レオニスは聞きたいことを尋ねていった。