軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第807話 受付嬢マリサ

翌日の金曜日。

ライト達は、準備万端整えて朝からアドナイに向かった。

二人とも朝のルーティンワークを終えて、朝食を摂ってからラグナロッツァの屋敷に向かう。

移動手段はもちろん冒険者ギルドの転移門だ。

今日はカタポレンの家で殻の焼却処理を一日中する予定だ、というラウルに玄関まで見送られるライトとレオニス。屋敷を出てから真っ直ぐに冒険者ギルド総本部に向かった。

「レオ兄ちゃん、アドナイってどんな街なの?」

「アドナイは、マルクト地方で一番栄えているマルクトの次に大きな街だ。と言っても、プロステスやエンデアンなんかに比べたら小さな街なんだが」

「名産品とかはあるの?」

「あー、確かレモンとかオリーブなんかが有名だった気がする」

冒険者ギルド総本部に向かう道すがら、ライトはレオニスにアドナイという街のことを聞いている。

ライトはアドナイのことは全くノーマークだったので、基礎知識すらないのだ。

そしてライトが昨日から最も気になっていたことを、思い切ってレオニスにぶつけた。

「フェネぴょんは、どうしてそのアドナイって街でアイテムバッグを提出したのかな……?」

「…………」

ライトの質問に、レオニスもしばし黙り込む。

そして、ふぅ……という小さなため息をついた後、徐にその口を開いた。

「何であいつがアドナイであれを出したのかは、俺にも全く分からん」

「そうなの? もともとフェネぴょんと関わりの深い街だったとか、そういうことじゃないの?」

「あいつがアドナイの街によく出入りしてた、なんて話は聞いたことがないし、アドナイの街でしか入手できない貴重な品物なんてのも特にない」

「そうなんだ……」

ライトが最も気になっていたのは、何故フェネセンがアドナイでアイテムバッグを提出したか、ということ。

もしその理由が分かれば、フェネセンの思考や思惑をもとに他の行き先も推察できるかも?とライトは考えたのだ。

だが、フェネセンと親しい間柄のレオニスであっても、そこら辺の事情は全く分からないようだ。

レオニスは、晴れ渡る青空を見上げながら呟く。

「アドナイに立ち寄る用事があって、そのついでに提出したのかもしれんし、あるいはただ単にラグナロッツァから遠く離れた街で出そうとしただけなのかもしれん……俺でもそこら辺は全く分からないんだ」

「そっかぁ……アドナイで少しでもフェネぴょんの手がかりが見つかるといいね」

「そうだな」

ラグナロッツァを旅立つ前に、双方いつでも連絡が取れるように、と通信用魔導具を新たに開発してレオニスに渡していったフェネセン。

その魔導具でレオニスと一度はちゃんと会話したものの、その後すぐに連絡が取れなくなってしまった。

時期的に言えば、それはオーガの里襲撃事件があった直後のことなので、今から九ヶ月前のことだ。

それから九ヶ月経ってしまった今、新たな手がかりを見つけることは困難を極めるだろう。

だが、万に一つでもフェネセンの行方を知る手がかりが得られる可能性があるなら、その労力を惜しむことなどあり得ない。

そんな話をしているうちに、冒険者ギルド総本部に到着したライト達。

早速中に入り、奥の事務室にある転移門を使用してアドナイに移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ラグナロッツァからアドナイに移動したライト達。

事務室から出て、早速広間の方に向かう。

広間に出るとそこには結構な数の冒険者達がいて、そこそこ賑わっているのが分かる。

だが、レオニスが広間に入ってしばらくするとその喧騒は次第に消えていき、静まり返る。

そこに入ってきたのが誰なのか、その出で立ちを見れば嫌でも分かるからだ。

「……ぉぃ、あの赤いロングジャケットは、もしかして……」

「ああ、あれは……間違いない、あの人だ」

「何でこんな田舎町に……?」

レオニス自身は、その場の空気の変化に全く気にする様子はない。だが、横に並んで歩いているライトは『あー、こういう空気、久しぶりだなー』『普段滅多に行かない街に行くと、絶対に注目集めるレオ兄って、やっぱ有名人なんだなー』と密かに思う。

しかし、そう思うのはほんの一瞬だけ。今のライトには、そんなことよりもはるかに重大かつ気になることがあった。

それは『クレア十二姉妹以外の冒険者ギルド受付嬢に会うのは、これが初めて問題』である。

これまでライトが出かけたことのある、アクシーディア公国内で主だった都市や街。それらにある冒険者ギルドには、必ずと言っていい程クレア十二姉妹の誰かが受付嬢をしていた。

だが、今到着したばかりのアドナイには、クレア姉妹はいないという。ならば、クレア姉妹以外の誰かが受付窓口を担当している、ということだ。

そりゃそうだよねー……よくよく考えたら、冒険者ギルドが本部支部合わせて、たったの十二ヶ所な訳ないよね。

特に冒険者ギルドは、魔物対策だけでなく災害時にも派遣されたりするから、アクシーディア公国全土を網羅する大規模組織だし。

首都や大都市だけでなく、あんな小さなディーノ村にだって支部を残しておくくらいなんだから、クレア十二姉妹がいない支部だって当たり前にあるよね!

ライトはそんなことを考えながら、アドナイ支部内の廊下を歩いていく。

つーか、やっぱりここにもクレア姉妹並みの美人受付嬢がいるのかな? それとも、普通の男性職員がいるだけだったりして?

まぁ、男の人でも女の人でも、仕事のできる人ならどっちでもいいけど。でもやっぱり気になるー!

ライトはそわそわしながら、受付窓口に向かうレオニスについていく。

そしてレオニスは、一人の受付嬢がいる窓口の前に立ち、声をかけた。

「よう、マリサ。久しぶりだな」

「……あらまぁ!レオニスさんじゃないですかぁ!お久しぶりですぅー!」

レオニスに声をかけられた受付嬢が、レオニスの姿を見て驚いた表情をしながら明るい声で歓迎の声を返している。

白藍色の髪を右側に緩く縛り、横に流している。年の頃はレオニスより少し上くらいか。

レオニスがマリサと呼んだその女性を、ライトは高鳴る胸を抑えつつカウンター越しに眺めてじっくりと観察する。

瞳は深い青藍色で、何もかもを見透かしてしまいそうな知性と教養を感じさせる眼差しだ。軽くかけている縁なし眼鏡が、更にその知的オーラを倍増させている気がする。

クレア姉妹に負けないくらいに、姿勢良く背筋をピンと伸ばした佇まい。受付嬢に相応しい資質があることを、ひしひしと感じさせる。

瞳の色と同じインディゴブルーのベストに、タイトなスカートと同色のタイツ、そして同色のベレー帽に薄い楕円の縁なし眼鏡。

その出で立ちの7割くらいは、インディゴブルーに染まるマリサ。

すっきりとした印象のインディゴブルーのせいか、見た目は『綺麗なお姉さん』という感じで、とても整った目鼻立ちをしている。

そして、マリサの顔立ちがどことなくクレアに似ているように思えてきたライト。ベレー帽と眼鏡がクレアと同じスタイルだからだろうか?

いや、それだけでは説明できないそっくりさがマリサから漂ってくる。

クレア姉妹ほどのコピペレベルではないのだが、世間一般で言うところの『よく似た姉妹』のような印象が、ライトの中でどうしても拭えないのだ。

しかも、クレア要素以外にも何かが混ざっている気がしてならないライト。どこかで見覚えのある顔つきなのだが、その何かがどうにも思い出せない。

うーーーん……クレアさんに何かを足したような感じがするんだけど……何だろ?

ライトはそこまで考えて、はたととあることを思い出す。

それは『クレアはBCOのNPCである』ということだった。

『……あ!このマリサさんって、もしかしたらBCOのクレア嬢の没デザイン案なのかも!』

『同じ絵師が描いた没案とか、ユーザーの知らないところでたくさんありそうだし!』

『きっとそうに違いない!それならクレア嬢によく似た、他人の空似の女性キャラがサイサクス世界に存在していても当然だもんな!』

己の推察に納得したライト。

思わず横にいたレオニスに向かって話しかけた。

「ねぇ、レオ兄ちゃん。ここの受付嬢のお姉さんって、何だかクレアさんによく似て見えるね」

「そりゃそうだ。マリサはクレアの従姉妹だからな」

「え"ッ!? クレアさんの従姉妹なの!?」

レオニスの答えに、目を大きく見開きながら驚くライト。

確かにマリサからクレアによく似たオーラが出ていたが、他人の空似ではなく本当にクレアの親戚だとは夢にも思わなかった。

そしてレオニスからの衝撃的な答えは、これだけでは終わらなかった。

心底驚いているライトに、レオニスが更なる追撃を放つ。

「しかもな、このマリサはグライフの従姉妹でもあるんだ」

「え"ッ!? グライフの従姉妹!? クレアさんの従姉妹ってだけじゃなくて!?」

「ああ。もっと言うとな? マリサもクレアと同じ十二人姉妹で、マリサは六番目の六女なんだ」

「十二姉妹ってとこまでクレアさんといっしょなの!?」

「そう。クレアの場合は、長女のクレアの名を冠して『クレア姉妹』と呼ぶだろう? マリサの場合もそれと同じで、長女がマリアだから十二人全部をまとめて『マリア姉妹』と呼ばれているんだ」

ニッコリと笑いながら、衝撃の事実を次々と容赦なく披露していくレオニス。

何とこのマリサは、クレアと同じく十二人の姉妹なのだというではないか。そしてその呼称も『マリア姉妹』、こんなところまでクレア姉妹とまそっくりである。

そもそもクレアが十二姉妹だったということにも驚きだったのに、その従姉妹まで十二姉妹とは。このサイサクス世界の子沢山ぶりは、実に驚異的である。

衝撃の事実の連打のおかげで、ライトの顎が外れるどころか目玉まですっ飛んで地面を転がりそうだ。

そんなライトに、マリサがにこやかな笑顔で話しかける。

「初めまして、こんにちは。私は冒険者ギルドアドナイ支部で受付嬢を務めております、マリサと申します」

「……ぁ、は、初めまして!ぼ、ぼくは、ライトと言います!」

「まぁ、君が噂のライト君なのですね。クレア姉さんやグライフから、ライト君の話を常々伺っておりますぅ。クレア姉さん達は私の母方の従姉妹で、グライフは父方の従兄弟なんですよ」

「そうだったんですね!道理でクレアさんに似てると思いました!」

マリサからの自己紹介に、ライトが得心している。

マリサの顔立ちや全体的な印象はクレア姉妹にそっくりだが、言われて見れば髪と瞳の色がグライフと全く同じであることにライトもようやく気づく。

髪の結い方もグライフと同じで、流す方向が左右逆なだけ。

ライトがさっきから感じていた『クレア要素以外の何か』とは、グライフのことだったのだ。

クレア要素以外の何かの正体がようやく分かったライト。

喉に刺さった魚の小骨が取れたかのように、非常にスッキリとした気分である。

スッキリしたついでに、ライトはマリサが各方面から聞いたという自分のうわさや評判のことについて聞いてみた。

「あの……クレアさんやグライフは、ぼくのことを何て言ってましたか?」

「とても利発で賢くて、細やかな気遣いができて思い遣りの溢れる、本当に素晴らしい子だ、と。皆口を揃えてそう言ってましたよ」

「ぇー……さすがにそれは、褒め過ぎですよぅ……」

マリサのふんわりとした、少し間延びした話し方もまたクレアによく似ている。

そんなマリサの穏やかで優しい口調に、先程まで半ばパニックに陥りかけていたライトの気持ちも次第に落ち着いていく。

そしてマリサから語られるライトの噂、そのあまりの持ち上げ方にライトが照れ臭そうにはにかむ。

照れ臭そうに笑うライトを、レオニスやマリサもまた微笑ましく見つめていた。