軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第805話 スライム博士と未来の冒険者

クエストイベントのエクストラクエストが発動した翌日の午前中。

ライトはスライム飼育場に出かけた。

まずは『荊棘の巻物【刃】』の入手を目指し、そのお題である『銀色のべたべた』の情報を集めるためだ。

そのアイテム名からして、もとになっているスライムは『シルバースライム』と思われる。

だが、ライトのBCOの記憶の中には銀色をしたスライムなど見たことがなかった。

これは将来BCOで実装予定で、まだ未発表エリアのモンスターもしくはイベントモンスターだったのかもしれない。そこら辺の真相は、もはや誰にも知る術もないが。

レオニスの書斎にある魔物図鑑を見ても、シルバースライムのことはあまり詳しく書かれていない。

該当項目を見ても『生息地:不詳』としか記されていなかったのだ。

もしかしたら、レオニスに直接聞けば何か教えてくれるかもしれない。いや、きっと何かしらの答えをくれるだろう。

だがその反面「シルバースライムのことなんて聞いてどうすんだ? まさか狩りに行きたい、とかじゃないよな?」とレオニスに詰問されても困る。故にライトとしては、それは極力避けたい。

なので、スライムのことならその道のプロであるスライム飼育場で調べるのが一番!ということで、ライトは早速訪ねたのだ。

まずは本館一階のロビー横にある売店に向かうライト。仲良しの売店のおばちゃんに話を聞くためである。

ちなみに売店内のぬるぬる、ねばねば、べたべた各ラインナップに銀色の品は存在しない。いや、もしかしたら本当はどこかにあるのかもしれないが、少なくともライトは今まで売店内で一度も見たことはない。

そこら辺の確認のためにも、おばちゃんから直接話を聞かねばならないのだ。

「おばちゃん、こんにちは!」

「あらー、ライト君、いらっしゃい!こないだはお兄さんといっしょにたくさん買っていってくれてありがとうね!」

「いえいえ、こちらこそいつもお世話になってます!」

「今日もお買い物?」

「いえ、今日はちょっと聞きたいことがありまして……」

売店のおばちゃんと軽く挨拶を交わした後、ライトは早速本題に入る。

「ぬるぬるやねばねば、べたべたに銀色のものってありますか?」

「銀色? あー、銀色ねぇ……あれは特殊な種類らしいから、このスライム飼育場でも飼ってないのよねぇ……」

「やっぱりそうなんですね……」

「あ、でも、ロルフさんに聞けば何か知ってるかもしれないわよ? あの人すっごく勉強熱心だから、スライムのこともかなり詳しいし」

「そうなんですか? じゃあロルフさんに聞いてみますね!」

ライトは売店のおばちゃんに「教えてくれてありがとうございます!」と礼を言いながら、ロビーの受付窓口に向かう。

そして窓口に座っている受付嬢に早速話しかけた。

「お姉さん、こんにちは!」

「あら、ライト君、こんにちは。今日もスライム見学に来てくれたのですか?」

「はい!できればロルフさんに案内してもらいたいんですが、ロルフさんはいらっしゃいますか?」

「外の牧場で餌やりをしているはずですので、呼んできますね。少々ここでお待ちください」

「はい!」

受付嬢が席を立ち、外の牧場に向かって建物の外に出ていった。

ちなみにライトは何度かスライム見学をしていたこともあり、この受付嬢ともそこそこ仲良しである。

ぬるぬるドリンクの素の買い出しで、毎回毎度世話になっている売店のおばちゃん程ではないが、買い物に来る度に受付嬢ともちょこちょこ話したりして親睦を深めていた。

しばらくロビーで待っていると、受付嬢とともにロルフが入ってきた。

二人の姿を見たライトは、早速ロルフ達のもとに駆け寄っていく。

「ロルフさん、こんにちは!」

「こんにちは、ライト。今日もスライム見学に来たんだって?」

「はい!今日はスライム博士のロルフさんに、是非とも聞きたいことがあって来ました!」

「「……スライム博士……」」

元気良く応えるライトに、ロルフ達はしばし固まる。

ロルフは微妙ーな表情になり、受付嬢のお姉さんは横を向きながらプクク……と笑いを堪えている。

微妙な顔つきのロルフ、コホン、と軽く咳払いをしながら、気を取り直したようにライトに話しかける。

「ぁー、あまり良い響きじゃない気がするが……まぁいい、博士と呼ばれる程詳しいってことだからな」

「はい!ぼく、ロルフさんのことをすっごく尊敬してます!」

「………………」

屈託のない眩しい笑顔でロルフを讃えるライト。

一方のロルフは、顔を赤くして言葉に詰まっている。

ロルフは竜人族のハーフで、己のことを『混ざり者』と呼んでいる。

そんなロルフのことだ、きっと面と向かって賞賛されることに慣れていないのだろう。

ロルフの横にいた受付嬢が、ニコニコとしながらロルフの背中をポン、と軽く叩く。

「ロルフ、スライム見学のお客様のご案内、よろしくね?」

「お、おう、任せとけ。スライムのことで聞きたいことがあるなら、何でも聞いてくれ。俺の分かる範囲で答えよう」

「ロルフさん、よろしくお願いします!」

「お気をつけて、いってらっしゃーい♪」

受付嬢が右手を軽く振りながら、ライトとロルフを見送る。

いつもはクールビューティーな受付嬢が、これ程までににこやかな笑顔になるのも珍しいことだ。

この受付嬢も、ロルフと同じく竜人族の血を引いている。

受付嬢の場合は竜人族3:人族1の、いわゆるクォーターでロルフよりも竜人族の血は濃い。

だが、純血ではない時点で彼女もロルフと同じ立場で、少なからず負い目があったりちょっとした迫害に遭ったりもした。

そんな彼女だからこそ、ロルフを尊敬しているというライトの言葉が我が事のように嬉しかったのだ。

受付嬢のお姉さんに見送られながら、ライトはロルフとともにスライム見学に出ていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

まずは外の牧場を見学するライト。

外にはイエロー、グリーン、オレンジなどの色とりどりのスライム達がそれぞれのエリアで寛いでいる。相変わらずのんびりとした、牧歌的な風景である。

ライト達がいる柵の一番手前で、でろーんと伸びきっているイエロースライムを眺めながらライトが呟く。

「ぼく、ここのぬるぬるの素、特に黄色にはすごーくお世話になってるんですよねぇ」

「黄色のぬるぬるの素か?」

「はい。黄色のぬるぬるドリンクは、お肌を気にするお姉さん方に特に大好評でして。今では手土産に欠かせない品なんですよー」

「ああ、そうか。そういやうちの売店でも、黄色のぬるぬるの素は常に売り上げ上位らしいな」

ライトの世間話に、ロルフも頷きながら同意する。

ロルフの話によると、スライム飼育場の売店でも黄色のぬるぬるの素は常に売り上げベストスリーに入っているらしい。

その売り上げの中で、ライトがどれ程貢献しているかは分からないが、その不動の地位はライトからの支持だけではないだろう。

種族を問わず、世の女性達を虜にする黄色のぬるぬるの素。恐るべし。

次に別棟の室内飼いスライム達を見に行くライト達。

区域毎に分けられた水場には、アクア、ブルー、クリア、モスグリーンがいる。

この室内飼いも環境が良いのか、ここでもスライム達はのんびりと寛いでいる。

そろそろ本日の目的、シルバースライムのことを聞き出すべく、ライトはガラス越しにスライム達を眺めながらロルフに切り出した。

「ところでロルフさん、ぼく、スライムについて聞きたいことがあるんですが」

「ン? 何だ?」

「ロルフさんは、シルバースライムって知ってますか?」

「シルバースライム、か? もちろんある程度のことは知っているが……」

ライトの突然の質問に、ロルフは少しびっくりしたような顔をしている。

そしてライトはライトで、ロルフがシルバースライムについて知識を持っていることに希望を見い出す。

ライトは右側にいたロルフの方に向き直り、顔を見上げながら勢いよく頼んだ。

「もし良かったら、シルバースライムのことを教えてくれませんか? ぼく、どうしても『銀色のべたべた』が欲しいんです!」

「『銀色のべたべた』、か? そりゃまた難しいもんを欲しがるもんだな……」

「やっぱり入手するのは難しいんですか? ここの売店に銀色の商品がない時点で、かなり稀少品なのは想像してましたが……」

「そりゃあな、シルバースライムというだけで稀少種だからな」

ロルフが言うには、シルバースライムとは銀鉱山を縄張りとするスライムのことだという。

もともと鉱物を食べるスライム自体があまり存在しないらしく、さらには銀鉱山を縄張りにするスライムそのものも個体数が少ないのだとか。

「うちでも一度、シルバースライムやゴールドスライムを飼育できるかどうか、試しに一匹捕まえて実験してみたことはあるんだ。結果としては『長期飼育は不可』という判断が下されて、ここでの飼育は断念したがな」

「……その理由を聞いてもいいですか?」

「あいつら、自分と同じ色の鉱物しか食わなくてな……餌代だけでとんでもない額になるんだ……」

「ぁー、それはまた……確かに長く飼育し続けていくには、かなり厳しいですねぇ……」

スライム飼育場で、シルバースライムを飼育しない理由。

それは『 餌代(コスト) が高過ぎる』であった。

シルバースライムは、その名の通り銀色のスライム。生息地は銀鉱山周辺に限られており、食べるものは銀のみとなれば、一日の餌代だけでかなり高くつくだろう。

それを長期飼育するとなると、年間の飼育代が天文学的な金額になることはライトでも想像に難くなかった。

シルバースライム飼育実験は失敗に終わり、中断となったという話を聞いたライト。

気になることを次々とロルフに尋ねていく。

「ちなみに、シルバースライムってどんな性質なんですか?」

「おとなしくてのんびりしたやつだったよ。俺が実際に見たことがあるのは、実験の時に飼育した一匹だけだがな」

「そのシルバースライムは、実験が終わった後どうしたんですか……?」

「俺がやつの生まれ故郷であるイェソドに連れていって、山に放してやったよ」

「そうですか……」

ライトの質問に、ロルフが懐かしそうな目をしながら静かに語る。

実験が失敗に終わったことで、シルバースライムは殺処分されてしまったのか?というライトの懸念は杞憂に終わったようだ。

ロルフの優しい眼差しにつられるように、ライトも目の前で寛ぐクリアスライム達を眺めながら呟く。

「ぼくもいつか、シルバースライムを見てみたいなぁ」

「ライトはいつか冒険者になるんだろう? そしたら銀鉱山や金鉱山の跡地なんかに行くといい。運が良ければきっと出会えるさ」

「……はい!ぼく、いつか必ず冒険者になれるように、頑張ります!」

「その意気だ」

ロルフの励ましに、ライトが破顔しながら答える。

花咲くような笑顔のライトに、ロルフは静かに微笑みながらライトの頭を優しく撫でていた。