軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第79話 違う文面

脳内であれこれ考えながらおやつを食べていると、レオニスが部屋に入ってきた。

「お、何かいい匂いがすると思ったら、おやつ中か?それ、ラウルの作ったやつだろう?ライト、俺の分はないのか?」

少し口を尖らせながら、文句を言うレオニス。

何を大人気ないことを、とディスることなかれ。そのおやつはラウルのお持たせなのだ。ラウルの作ったおやつならば、万人を魅了して当然なのである。

ライトもその心情は分かるので、文句を返したりなどはしない。

快くおやつタイムを共有するのみである。

「もちろんレオ兄ちゃんの分もあるよー。飲み物だけ自分の好きなもの用意してくれるー?」

「おう、んじゃ珈琲淹れてくるわー」

いそいそと飲み物を用意しに部屋を出るレオニス。

しばらくして戻ってきたレオニスの手には、珈琲の入ったマグカップがあった。

ラウルの持たせてくれたバニラクッキーと、レオニスの淹れた珈琲の香りが部屋に満ちていく。

「んー、ラウルの作るおやつって、本ッ当ーに美味しいよねぇ」

「ああ、午後の休憩のひと時に最適だよなー」

バニラクッキーの美味しさに、文字通り骨抜きになる二人。

ゆっくり味わいつつも、クッキーを取る手が止まらない。

またラウルにリクエストして作ってもらおう!

クッキーを食べながら考えることは、二人して同じだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

美味しいおやつを食べ終え、二人は手を洗ったり食器を片付けてから、再びライトの部屋で寛ぐ。

レオニスは、二杯目の珈琲を淹れてきていた。

「ところでライト、午後は読書してたのか?」

「うん。前にスレイド書肆で買ってもらった本、まだ全部読んでなかったから、ちょうどいい機会だと思って読んでたのー」

「そっか、どの本読んでたんだ?」

「グライフもよく分かってなかった、表題のない本だよ」

「ああ、あれか。どんな内容の本だったんだ?」

レオニスも興味があるのか、本の内容を聞いてきた。

ライトは本を手に取り、パラパラと捲った。

「えーっとねぇ、やっぱり魔術師のスキル研究や開発過程なんかを書いた、手記とか覚書みたいなのだったよー」

「これ、かなり古い書物っぽいんだよね。日付がラグノ暦ってあるし。今はラグナ暦だよね?ラグノ暦とは違うよね?」

レオニスの、珈琲を飲む手がピタリと止まる。

ライトは本の方に目を落としているので、その微妙な仕草に気づくことなく話を続ける。

「あとはねぇ、魔法じゃなくてスキルを研究開発してたようだね。あ、著者はネフェントス・ディングって魔術師の人みたい」

「当時でもかなり高名な魔術師だったかもしれないね、何しろ『円卓の騎士』っていう国際組織に所属してたらしいから」

ここでレオニスは矢も楯もたまらず、ガタン!と椅子を倒す勢いで立ち上がった。

危うく珈琲が零れそうな勢いだったが、ギリギリのところで零れるのを免れたようだ。

ライトはレオニスの突然の行動に、驚きを隠せない。

レオニスの表情はとても険しく、血の気も若干失せている。

「……ライト、お前、今『円卓の騎士』って言ったか?」

「え?……うん、言ったよ?『円卓の騎士』、それがどうかしたの?」

突然のことに、戸惑いながらも普通に受け答えするライト。

だが、今目の前にいるレオニスの状態が尋常でないことだけは分かる。

普段は良くも悪くもおおらか大雑把で、大抵のことには動じないレオニスが目に見えて動揺している。

こんなレオニスを、ライトは今まで一度も見たことがない。

「ライト、その本ちょっと見せてみろ」

「あ、うん……はい、どうぞ」

ライトは言われるままに、おずおずと表題のない本をレオニスに差し出す。

レオニスは、ライトに渡された表題のない本をゆっくりと捲り目を通していく。

本を読むレオニスの表情は、ずっと険しいままだ。

やがて、急ぎ足ではあるがざっと目を通し終えたレオニスが、口を開いた。

「ライト、俺が今読んだところでは、この本の中には『円卓の騎士』と言う文字はどこにも書かれていなかったが」

「……え?」

「お前、本当にこの本から『円卓の騎士』を知ったのか?どこか他で聞いたとか誰かから教えられた、とかじゃないのか?」

ライトは「え?」「は?」としか言葉が出てこない。

レオニスが何を言っているのか、その真意がさっぱり分からない。

「え、何、レオ兄ちゃん、ぼくのこと疑ってるの?」

「いや、そうじゃない。だが、この本の中のどこにも『円卓の騎士』とは書かれていないじゃないか」

「ちょっと待って、レオ兄ちゃんこそ何言ってるの?」

ライトは慌ててレオニスから本を奪い取り、パラパラとページを捲り、そこを指差した。

「ほら、ここに『円卓の騎士』って言葉、あるよ?」

レオニスは、ライトが指差したページをじっと見入る。

しばらく本とにらめっこ状態が続いたが、ふぅ、とレオニスは小さくため息をついた。

「俺には、このページには汚水を浄化して飲用可能にする方法論が書かれているようにしか見えんのだが」

「ライト、まさかとは思うが……」

「もしかして、お前には俺とは違うものが見えているのか?」

何とも突拍子もないことを言い出したレオニス。

だが、今まさに起きている双方の話の食い違いは、そうでもなければ説明のつかない現象であった。

「いいか、俺の目に見えているこのページの文章を今から読み上げてみるぞ」

レオニスが読み上げた文章は、まさしくレオニスが言っていた通りの水魔法に関するものだった。

ライトにしてみたら、ますます意味が分からない事態である。

一通り読み終えたレオニスは、ライトに本を渡す。

「そしたら次は、お前の見えている文章を読み上げてくれ」

ライトは狼狽えながらも言われた通りに、そのページの記述を見たまま読み始める。

「ラグノ暦528年 10月 13日 人類と魔物。有史以来、己が生存を賭けて血で血を洗う闘争を繰り広げること早幾星霜」

から始まり、

「全身全霊をかけて、有益なスキルを開発していきたいと思っている」

までを、ゆっくりかつ丁寧に朗読していく。

その途中には、例の言葉『円卓の騎士』もしっかりと含まれている。

「……とりあえず、このページの文章はここまでだよ」

ライトは顔を上げて、レオニスに告げた。

それまでライトの読み上げる言葉を静かに聞いていたレオニスは、目を伏せながら大きなため息をつき、右手で己の頭をガシガシと掻いた。

「ライトが言っていることは、本当のようだな」

「まぁ、そもそもお前が嘘をつくような子だとは思ってないし、そんな必要もないもんな」

「少しでもお前の言うことを疑った俺が悪かった。ごめんな、ライト」

少し涙目になりながら、無言でこくこくと頷くライト。

レオニスは丁寧に頭を下げた後、ライトの頭を優しく撫でた。

「俺が思うに、この本には隠蔽魔法に似たような仕掛けが施されている」

「だが、魔力が全く感じ取れない時点で隠蔽魔法じゃないことは確かだ。もし俺の知る隠蔽魔法なら、何らかの形で魔力の残滓を読み取れるはずだから」

「これは隠蔽魔法なんて生易しいもんじゃない、それよりはるかに高度で得体の知れない『何か』だ」

そう言いながら、レオニスは更に驚くべきことを言い放つ。

「おそらくは、この本が読み手を選んでいる」

ライトは心底びっくりした。

そんな魔法やスキルがあるなんて、聞いたこともない。

だが、ライトの見える文面とレオニスが見える文面が全く異なっている時点で、この本がかなり異質なものであることは確かだった。

「その選び方が、特定の条件を満たす者のみに見える設定なのか、あるいは特定の条件を満たす者以外を排除する設定なのか」

「どちらの設定になっているかは分からんが」

「少なくともお前には見えて、俺には見えない、条件的にそういう振り分けがなされているんだろう」

ここまで話してから、レオニスは額に手を当てながら再び大きなため息をついた。

「はぁー……グライフの奴め、何でこれが禁書じゃないんだ……」

「『円卓の騎士』って言葉が出てくる時点で、問答無用で禁書だろうが……」

「だが……グライフにも俺と同じように、一見無害な文面が見えていたんだとしたら……分からなくても致し方ないか」

「そもそもあいつがこんなものを見逃す訳ないし」

小声でブツブツと呟くレオニス。

ライトはおそるおそる聞いてみた。

「グライフにこの本のこと、尋ねてみる?」

「……いや、聞いても無駄だろう。購入する前にあいつもこの本に目を通したが、あの時点で問題無しと判断したんだ。今更何かを聞いたところで、解決できるような答えが得られるとは思えん」

確かにそうだ。あの時、グライフもこの本に見覚えがないと言いつつ、パラパラと捲りながら中身を確認したはずだ。

あの時にグライフは、この本をライトに譲渡しても問題ないと判断したのだ。

ならば、グライフにもレオニスと同様の無害な文面が見えていたと考えて間違いない。

「ねぇ、レオ兄ちゃん……その、ぼく、よく分からないんだけど……『円卓の騎士』って、そんなにものすごくマズい言葉、なの?」

レオニスの様子が激変したのは『円卓の騎士』という言葉を聞いてからだ。

ライトはブレイブクライムオンラインでその言葉を知っていたから、何の疑問も違和感も持たずに受け入れていたが、レオニスの様子を見るにどうもこの世界でのそれは非常によろしくない言葉のように思える。

レオニスは若干の沈黙の後に、険しい顔つきのままでライトに言った。

「いいか、ライト。その言葉を既に知ってしまったからこそ、もう隠しだてもできないと諦めて明かすことにするが」

「その言葉は、間違っても自分から口にするな」

「特にこの家の外では、絶対に話しちゃ駄目だ。何処で誰が聞いてるか、分かったもんじゃないからな」

真剣な眼差しで、ライトに釘を刺すレオニス。

そして、ライトが思いもしなかった驚愕の事実がレオニスの口から語られる。

「廃都の魔城を生み出した元凶。それこそが『円卓の騎士』だ」