軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第789話 レオニスの懸念

ライト達が先輩冒険者に囲まれて、和やかに談笑している頃。

レオニスはギルドマスター執務室にいた。

執務室の扉を二回ノックし、入室するレオニス。

執務室の中には、書類仕事をバリバリとこなす誰かがいる。

その人物の顔は書類の山に隠れて直接見えないのだが、レオニスは『ああ、マスターパレンが仕事してんだな』と思う。

何故なら、書類の山の向こうがピカーッ☆と眩しく光り輝いているからである。

書類の山の向こうにいるであろうマスターパレンに、レオニスが声をかける。

「よう、マスターパレン。今日も忙しそうだな」

「おお、レオニス君ではないか、久しぶりだな!」

「ちぃと報告しておきたいことがあるんだが、少々時間をもらえるか?」

「もちろんだとも!ちょうどいい時間だから、小休憩がてら話を聞こうじゃないか。おーい、シーマ君、レオニス君にお茶とお茶菓子を持ってきてくれたまえ!」

書類にサインするスピードを落とすことなく、第一秘書にお茶を淹れるよう指示を出すパレン。

レオニスは応接ソファに座り、パレンが席に来るのを待つ。

その間に、シーマがお茶とお茶菓子が乗せられたワゴンをソファの横につけた。

レオニスとレオニスの向かい、それぞれ二ヶ所にお茶とお茶菓子を置いていくシーマ。

楚々とした慎ましやかな動きの一つ一つが洗練されており、さすがはギルドマスターの第一秘書を務めるだけのことはある。

そして二人分のお茶が用意できた頃、パレンが書類仕事を一区切り終えてソファの方に出てきた。

おお、今日のマスターパレンはスイムウェア姿か。しかもハイビスカス模様があしらわれたサーフボードまで背負っているとは、実に夏らしいコスプレだな!

しかし……このラグナロッツァは内陸部で、海などない訳だが……一番近場の水場ってーと、黄大河だよな?

確かにあの川はかなりデカい規模だが、さすがにサーフィンできる程の高波は起きねぇよな? そんなもん起きたら堤防決壊するわ……

でもまぁな、日々の労働の中にレジャー要素を積極的に取り込むとは、さすがだマスターパレン!

パレンが執務机からソファに移動する間に、レオニスは脳内でパレンのファッションレビューをしている。

今日のパレンの服装は、黄金色に眩しく輝く上下のスイムウェアに、その背に巨大なサーフボードを背負っている。

サーフボードは地色が見目鮮やかな緑色で、多数描かれたハイビスカスの花の絵が南国の夏を思わせる。

しかもそれは絵だけでなく、ハイビスカスのレイの実物まで巻きついていて飾りに用いられている。

本物の花か、あるいは偽物の造花かは分からないが、いずれにしても凝った 衣装(コスプレ) 小物である。

そんなパレンの素敵ファッションを眺めている間に、第一秘書のシーマがワゴンに乗せたお茶とお茶菓子を二人分、テキパキと置いていく。

ちなみに本日のお茶菓子は【Love the Palen】特製フルーツゼリーである。

メロンやパイナップル等、カラフルなフルーツとゼリーが実に華やかで夏らしい涼菓だ。

「レオニス君、だいぶ待たせてすまなかったね」

「いやいや、俺の方こそマスターパレンの仕事の邪魔をしてすまない」

「何の、世界一の冒険者が報告しておきたいことがあると言うんだ、それは絶対に何をさて置いても聞いておかねばならん。して、レオニス君が私に報告しておきたいこととは、一体何事が起きたのだね?」

「それがだな―――」

レオニスはパレンに、先日の神樹襲撃事件のことを話して聞かせていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「何と……カタポレンの森で、そのような事件が起きていたとは……」

「それは全てカタポレンの森の中で起きたことで、人的被害は一切なかったから報告がかなり遅れてしまったが……すまんな」

「いやいや、そこは気にしないでくれ。実際我らの与り知らぬ遠い地で起きたことだし、後日だろうが何だろうがこうして教えてくれるだけでも十分ありがたい。今後の対策をきちんと練ることもできるしな」

「そう言ってもらえると助かる」

レオニスが語った、神樹襲撃事件のあらましを聞いたパレン。非常に険しい顔で驚いている。

実際、神樹襲撃事件が起きたのは今から約三週間前のことだ。

今回はレオニス達の活躍により、その奸計は達成されることなく未遂に終わった。だが、もしレオニス達が事件に気づくことなく、そのまま神樹が悪漢の手に落ちていたら―――今頃カタポレンの森の大部分が、そのまま悪漢どもに占拠されていたに違いない。

そうなれば、いずれは人の住む地域にも多大な影響や被害を及ぼしていたであろう。

パレンが深刻な顔になるのも無理はなかった。

「やはり廃都の魔城の四帝は、我々の知らぬところで様々な謀略を張り巡らせているのだな」

「ああ。今俺達は属性の女王達の安否を確認して回っているところだが、奴等の魔の手はほとんどの属性の女王に伸びていた。今のところ奴等が手を出せていないのは海の女王くらいのもので、水の女王や火の女王、闇の女王、天空島にいる光の女王や雷の女王にまでちょっかいを出していたようだ」

「何と……海以外の陸地や天空に至るまで、全てが奴等の攻撃範囲となっているのか……炎の女王だけでは飽き足らず、全ての女王を陥落せしめようとは、何たる強欲さか。全く以て許せぬ輩共よ!」

レオニスの話を聞き、パレンが憤慨している。

プロステスの異常気象に関連して、その原因が炎の洞窟にあること、そしてその原因は炎の女王が何者かによって害されていたためであったことなどは、パレンもレオニスからの報告で聞き及んではいた。

だが、その後のレオニス達の調査により、ほぼ全ての女王達が廃都の魔城の四帝に付け狙われていることが明らかになった。

これはおそらく炎の女王だけの問題ではないだろう、とはパレンも想定していたが、如何に想定内のこととはいえ奴等の悪逆無道さに改めて憤りを感じていた。

「属性の女王だけじゃない、神樹もまた奴等の標的となっている」

「そのようだな。神樹もまた、属性の女王と並ぶ強大な存在。奴等の恰好の的になるだろうことは想像に難くない」

「全くな……今も俺達の知らないところで、奴等の餌食になっている存在があるかもしれない。これじゃ、いくら廃都の魔城の表側を殲滅したところで殲滅しきれん訳だ」

レオニスが苦々しい顔で呟く。

これまでどれ程人類が尽力しようとも、奴等はそれを嘲笑うかのように悉く復活しては様々な悪事を働いてきた。

数百年にも及ぶ人類と廃都の魔城の四帝の攻防、そして果たされることなく散っていった先達達の無念を思うと、レオニスやパレンの胸中にも悲憤慷慨の念が広がっていく。

「何度奴等を滅ぼそうとも、都度必ず復活するその理由は―――他者から魔力を奪い続けているから、なのだな」

「ああ。そのからくりが分かった以上、俺達がすべきことは一つ。奴等の魔力の簒奪手段を一つ一つ潰していくことだ。そして奴等にこれ以上力を奪われないために、守りが薄い神樹に関しては新たに結界を作る手筈を整えている最中だ」

「それは良い案だ。我等冒険者ギルドも、力になれることあらば何でも言ってくれたまえ!」

「ありがとう。マスターパレンの力が必要になったら、すぐにでも相談させてもらうよ」

パレンの助力を惜しまぬ言葉に、レオニスも笑顔で頷く。

そしてここでレオニスがもう一つ、懸念していたことをパレンに尋ねる。

「そういやラグナ神殿の件だが……あれ以来、何か進展はあったか?」

「いや、神殿側からは特に私のところに報告などは来ていない。そもそも悪魔どもの痕跡を追うのが非常に難しいというのもあるが……年内には新しい大教皇と総主教の交代もせねばならないので、その選出や引き継ぎなどにも手間がかかっているのだろう」

「そうか……」

レオニスの懸念とは、ラグナ教の悪魔潜入事件のことであった。

この件にも、その背後に廃都の魔城の四帝がいることは明白である。

ラグナ教本部であるラグナ神殿以外に、悪魔が潜伏していた三つの支部、プロステス支部、ファング支部、エンデアン支部の各調査にはレオニスも調査に同行して協力していた。

その後の調査にはレオニスは関与していないので、どうなっていたかレオニスも気になってはいたのだ。

だが、その後の調査は思うように進んでいないらしい。

司教などに扮して潜伏していた悪魔は、全て自害させられて完璧に口封じされてしまった。その上残された痕跡もほとんどなく、あっても未知の聖遺物や謎の巨大な邪神像など、人類側からは推察すらしようのないものばかり。

正直なところ、調査は手詰まり状態と言っても過言ではなかった。

「新しい大教皇や総主教になっても、事件の調査は継続していくのか?」

「事件の根本的な解決に至るまでは、おそらくそうなるだろうな」

「そうか……しかし、新しい大教皇や総主教が調査に積極的に取り組むかどうかまでは、まだ分からんよな?」

「ああ。新しい大教皇や総主教は、ラグナ教の中でも清廉潔白なことで知られている方々が内定しておられる、とは聞いているが……」

「そこら辺はまだ非公開なのか?」

「正式に発表されるのは、十二月に入ってからだそうだ。現大教皇と現総主教は今年いっぱいで退任なされる予定だからな」

ラグナ教トップが誰に引き継がれるかなどは、パレンでもまだ分からないらしい。

そこら辺はラグナ教にとってもトップシークレットだし、外部に伝えるにはまだ時期尚早ということか。

「そうか……いずれにしても、エンディ達が大教皇でいるうちに【深淵の魂喰い】と決着をつけねばな」

「【深淵の魂喰い】……水晶の壇の背後にある、あの魔剣か」

「あれは表舞台に出ている唯一の聖遺物だからな。聖遺物として一般にも広く公開されている以上、他の支部の調査の時のように俺が直接乗り込んで秘密裡のうちに対峙する訳にもいかん」

「そうだな……もしレオニス君と直接対峙するにしても、最も事情をよく知る現大教皇が現役のうちに手筈を整えてもらうのが最善だな」

「そういうこと」

レオニスがラグナ教上層部の交代を気にかけていたのは、ラグナ神殿に祀られている【深淵の魂喰い】の件があるからだ。

この【深淵の魂喰い】は、廃都の魔城の四帝の本体のもとに行くための重要な鍵。おそらくは四帝の一角【武帝】と繋がる聖遺物である。

他の三つの聖遺物は、既にレオニスの手元にある。残すところはあと一つ、ラグナ神殿にあるあの【深淵の魂喰い】のみとなっていた。

だが、この最後の一つが最も対処が難しい。

古くからラグナ教が管理する聖遺物として、ラグナ神殿に長年祀り続けられている上に、ジョブ適性判断を行う場として誰でも出入りすることが可能な水晶の壇の背後に飾られているのだ。

万が一にも一般人の前で【武帝】と戦う訳にはいかない。そんなことになったら大事に発展するのは、火を見るよりも明らかである。

故に、他者に知られず内密のうちにレオニスと【深淵の魂喰い】を引き合わせなければならない。

そのためには、エンディが現役大教皇でいるうちに手配してもらわなければならないのだ。

「年内までまた日数はあるが、時間の猶予があるうちに事を進めたい。近いうちにエンディ達と話す機会を設けてもらえるよう、マスターパレンの方からラグナ教側に働きかけてもらえるか?」

「もちろん。それくらい、お安い御用だ」

「ありがとう。日取りは俺の方から合わせるからいつでもいい、会える日が決まったらまた教えてくれ」

「承知した」

だいたいの話を伝え終えたところで、レオニスが席を立つ。

「俺の話はそんなところだ。仕事中に邪魔してすまなかったな」

「いやいや何の、レオニス君からの報告はいつも重大な話ばかりだからな。それを聞かずに他の仕事をしていては、それこそギルドマスターとして職務怠慢を問われてもおかしくはない」

「そうか? まぁな、いっつも事後報告になっちまうのが申し訳ないが……ま、あんたほど頼れるギルドマスターはいないことは間違いない。これからもよろしく頼むぜ」

レオニスが席を立つのと同じく、パレンもまた席を立ちレオニスと向き合う。

そしてレオニスの方から差し出した手に、パレンも手を伸ばして固い握手を交わす。

だが、パレンは正義感溢れる漢の中の漢。

レオニスの信頼を表す言葉に大いに感激し、固い握手だけでは足りずにテーブル越しからグイッ!とレオニスの手を引き寄せて熱い抱擁でレオニスの身体を包んだ。

「もちろんだ!これからも君が活躍できるよう、私も尽力を惜しまぬぞ!ンッフォゥ!」

「おごッ!ちょ、待、ぐああぁぁッ!」

「レオニス君、君は人類の希望の星だ!廃都の魔城の四帝との長きに渡る死闘も、我等の代で必ずや決着がつくであろう!」

「ちょ、待、ホント待っ……」

「我等の手で真の平和を勝ち取り、我等の目で新たなる時代の幕開けを見ようではないか!」

「………………」

マスターパレンが、その涼しげな糸目に涙を浮かべながら渾身の力でレオニスを抱きしめる。

筋骨隆々の逞しい身体が発する一心不乱の熱い抱擁に、レオニスは抗う術なく次第にぐったりとしていく。

それは慌てて駆けつけたシーマの「マスターパレン!それではレオニスさんが死んでしまいます!」という言葉で止められるまで続き、マスターパレンが我に返った時にはレオニスは完全にノックアウトしていた。

パレンが慌ててレオニスを抱きかかえ、執務室の隅にあるロングソファに寝かしつける。

そのロングソファは、パレンがいつも仮眠用に使っているソファなので、体格の良いレオニスでも余裕で寝かせられる代物だ。

「お、おお、すまん、レオニス君!私としたことが、何たる失態!シーマ君、気つけのエクスポーションを持ってきてくれたまえ!」

「は、はい!」

「うぐぐぐぐ……」

パレンの出した的確な指示に、シーマがパタパタと可愛らしい足音を立てて動き回る。

その一方で、レオニスは目を回しながら仰向けで寝込んでいる。

冒険者ギルド総本部、そのギルドマスター執務室は慌ただしくも平和なひと時に満ちていた。