軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第775話 ムニンとトリスの帰郷

その後八咫烏三羽の首周りを図ったカイ達が、それぞれに金糸の飾緒で簡単な首飾りを作成した。

紐を鋏で適切な長さに切り、紐の両端に留具をつければ完成だ。

紐の長さは、本来の身体の大きさで首にゆったりとかけられるサイズにしてある。なので、そのままずっと首にかけておいてもいいが、いずれ人化の術を覚えれば首飾りの取り外しも容易に行えるようになるであろう。

そして、カイの「紐だけじゃ寂しいでしょうから」ということで、特別にペンダントトップもオマケとして一羽一個つけてもらえることになった。

裁断机の上にザラッと並べられた、宝石をメインとした色とりどりのペンダントトップ。それらを見つめるムニン達の目の輝きたるや、実にワクテカ感に満ち溢れている。

それぞれの好みで選んで良い、ということで、ムニンはルビー、トリスはピンクサファイア、マキシはイエローダイヤを選んだ。

どれも稀少性が高くて非常に高価な宝石類だが、ムニン達は純粋に好みの色や形で選んだので、欲で高そうなものを選んだ訳ではないことだけは確かだ。

仕上げてもらった首飾りは、ムニンが会得した空間魔法陣に仕舞う。

そう、かつてミサキが人里見学の際に空間魔法陣を習得したように、ムニンも昨晩レオニスとラウルからレクチャーを受けて空間魔法陣を会得したのだ。

さすがはムニン、魔力が高い八咫烏一族の中でも屈指の実力を誇るのは伊達ではないようだ。

一通り職場訪問を終えたので、そろそろ家に帰るか、となったライト達。各工房のさらに奥の裏口に向かっていった。

外に出る前に、再び文鳥サイズに変身したムニンとトリス。ライトの両肩に留まり、見送りに出たカイ達に改めて挨拶をする。

「カイ殿、セイ殿、メイ殿、この度は仕事場を見学させていただき、誠にありがとうございました」

「姉ともども、マキシの働く職場をこの目で見ることができて本当に嬉しゅうございました」

「どういたしまして。私達の方こそ、大したおもてなしもできなくてごめんなさいね」

始終礼儀正しい八咫烏姉妹に、カイが微笑みながら声をかける。

謙遜して謝るカイに、ムニンもトリスも慌てて首を横に振りながら答える。

「そんな!こちらこそ、こんな素敵なお土産までいただきましたもの!」

「そうです!家に帰って父様や母様、兄弟達が見たらきっと、ものすごーく羨ましがると思います!」

「ふふふ、そうだといいけれど」

家族が他所様からもらって持ち帰った土産を羨ましがるというのは、野に生きる者達の行動としてはかなり異質なものだ。

だがそこは光り物に目がない八咫烏のこと、きっと本当に壮絶に羨ましがるに違いない。それは、今までのムニン達の宝石類に対する眼差しからだけでも察せられる。

その光景が容易に想像できて、カイだけでなくライトや他の者達も思わず微笑む。

「またいつでも遊びに来てね」

「マキシ君の家族ですもの、心より歓迎するわ!」

「次もまたもふもふさせてね!」

アイギス三姉妹が、再び文鳥サイズに小さくなったムニン達の頭や羽をそっと撫でる。

特に最後のメイの言葉『もふもふさせてね!』は本当に真に迫る勢いだ。先程のムニン達の首周り計測の時のもふもふが、余程心地良かったのだろう。

カイ達は仕事の多忙さもあって、今のところペットを飼う予定は全くない。

今よりもっと歳を取って針仕事がキツくなったりして、店仕舞いして完全隠居したら可愛い犬か猫でも飼いたいわね!なんて話も時折してはいるが、それはまだまだ当分先のことである。

「じゃ、また来る。カイ姉達も今日は本当にありがとうな」

「どういたしまして。レオちゃんもいろいろと忙しそうだけど、体調にはくれぐれも気をつけてね」

「ああ、カイ姉達こそ体調には気をつけてくれよ。アイギスのドレスの作成受注が何年も先まで埋まっているってのは、俺でも聞く有名な話だからな?」

「ふふふ、心配してくれてありがとう。レオちゃんは本当に優しい子ね」

爪先立ちで背伸びしながら、ニコニコ笑顔でレオニスの頬を撫でるカイ。そんなカイに、レオニスも少し照れ臭そうに微笑む。

天下の金剛級冒険者を子供扱いできるのは、世界広しと言えど指折り数えるくらいしかいない。カイはその数少ない人物のうちの一人であり、シスターマイラと並ぶ貴重な存在である。

カイ達に見送られながら、ライト達はラグナロッツァの屋敷に向かって帰っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

翌日の朝。

ムニン達の三泊四日の人里逗留の最終日の朝である。

この日もマキシはアイギスに出勤するので、二羽の姉達と採る最後の朝食をともに食べる。

「ムニン姉様、トリス姉様。この人里、ラグナロッツァは如何でしたか?」

「私が思っていた以上に、とても大きくてたくさんの人や物に溢れる里だったわ!」

「八咫烏の里とは比べ物にならないけど、それでも人里の良いところはたくさん取り入れていきたいと思うわ!」

姉達の快活な答えに、マキシも嬉しそうにコクコクと頷きながら聞き入るマキシ。

そして、最も肝心なことに踏み入った。

「……で、人族の観察の方はどうでしたか?」

「市場の人々や孤児院の子供達、道場の猛者、そしてマキシ……貴方のお勤め先であるアイギス三姉妹……とても素敵な人達ばかりだったわ」

「人族は、男と女が全く違うのはもちろんのこと、子供や大人、老人まで事細かに特徴が違うという貴方の話、本当だったのね!この目で見るまでは、今一つピンとこなかったけど……実際に人里をじっくりと眺めることで、それがよく分かったわ!」

「姉様方の認識が深まったなら、それはとても良かったです!」

今回ムニンとトリスがラグナロッツァに泊まりがけで来たのは、ひとえに人化の術の会得のためだった。

市場を始めとして、いろんな場所でたくさんの人間を観察したことで、ムニン達の中にもいろんな人間像がインプットされたことだろう。

「次に僕が里帰りした時には、是非ともムニン姉様達の今回の成果を見せてくださいね!」

「もちろん!ミサキに負けてはいられないわ!」

「私はメイ殿のお顔が気に入ったので、彼女の顔立ちを参考にして人化の術の練習を頑張るわ!……って、ムニン姉様は誰を参考にするの?」

「そうねぇ……私はセイ殿のお顔を参考にしようかしら」

人化の術の練習のサンプルに、ムニンはセイを、トリスはメイを参考にするという。

セイもメイも快活で、ハキハキとした物言いがとても気持ちの良い美女達だ。

そして、ムニンやトリスが彼女達の顔を真似るといっても然程問題にはならないだろう。全く同じ顔になる訳ではないし、何よりセイ達は薄紫色の髪。

ムニン達はマキシと同じく艶やかな黒髪になるだろうから、どこぞの某十二姉妹のようにコピペレベルのそっくりさんになる心配もない。

「では、僕はそろそろお店に行きます。ムニン姉様も、トリス姉様も、どうぞお元気で。気をつけてお帰りくださいね」

「ありがとう、マキシ。貴方もこれから人里で頑張ってね」

「昨日約束した、貴方の手作りの装飾品。楽しみに待ってるからね!」

「ふふふ、気長に待っててくださいね」

二羽の姉達と別れの挨拶を交わしたマキシ。

食堂から出ていく際に振り返り、改めて皆に声をかけた。

「では、いってきまーす!」

「「「いってらっしゃーい!」」」

「「いってらー」」

二羽の姉と二人の人族、そして一人の妖精に見送られながら、マキシはいつものように出勤していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その後ライト達は、ムニンとトリスを八咫烏の里に送るために出かける支度をする。

身支度を整えたら、浴室に全員集合だ。何故浴室かって? それはもちろん、ウィカを呼び出すためである。

全員揃ったところで、ライトが浴槽の水面に向かって声をかける。

「ウィカー、聞こえるー? ぼくだよー、ライトだよー」

『……おはよーぅ!』

ライトの呼びかけに応じて、ウィカが水の中からひょっこりと現れて水面にちょこんと座る。

ウィカの爽やかな糸目笑顔は、今日も眩しい愛らしさを放っている。

『あー、今日はムニンちゃん達が帰る日だっけ?』

「うん、そうだよ。だからウィカに、モクヨーク池までの移動をお願いしたいんだ」

「ウィカ殿、おはようございます」

「今日もお願いいたします!」

『おおぅ、用意がいいねぇ♪』

レオニスの深紅のジャケットのポケットから、ひょこっと顔を出したムニンとトリスがウィカに挨拶をする。

八咫烏の里からラグナロッツァに移動した際に、水中移動ではぐれないようにレオニスのジャケットのポケットに入っていたムニン達。

今回も誰に言われるでもなく、二羽は文鳥サイズでレオニスのポケットにもぞもぞと潜り込んでいた。

『じゃ、モクヨーク池に出発進行ーぅ♪』

「ウィカ、今日もよろしくね!」

『任せてー♪』

ライトがレオニスと手を繋ぎ、レオニスはラウルとも手を繋ぐ。

ライトのもう一つの手でウィカと手を繋ぎ、ウィカの水中移動によりトプン、と水面の中に消えていった。