軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第773話 神の御技の如き光景

応接室を出たライト達一行。まずはセイの作業場に向かう。

セイはアイギスの中では、宝石研磨他アクセサリー製作及びドレス含むデザイン全般を担当している。

セイの仕事場にはアクセサリーを作る金具やデザイン画など、様々な道具に溢れていた。

「散らかっててごめんなさいねー、普段人を招き入れることなんてほぼないから」

「いや、大丈夫だ。むしろセイ姉達の仕事場を見せてもらえるだけでもありがたい」

「そうですよ!ぼくもセイさんのお仕事を直に見るのは初めてなので、すっごく楽しみです!」

「うふふ、レオもライト君も優しいこと言ってくれるのね、ありがとう」

仕事場がとっ散らかっていることを謝るセイに、レオニスもライトもフォローを入れる。

セイは女性ということもあってか、整理整頓ができていないことを恥じているが、職人の仕事場なんてとっ散らかっててナンボのものだ。

職人自身がどこに何があるかを把握できていればいいのだから。

むしろ、下手に他人が手を出して片付けようものなら『何してくれてんのよ!』と怒られかねない。

セイが宝石研磨の作業用机の方に歩いていく。

机の上には様々な宝石の原石が転がるようにして置かれている。

「宝石研磨には、目の保護のためにゴーグルを着けることにしてるの。皆も一応着けといてねー」

「「はーい」」

セイが机の引き出しからゴーグルを人数分取り出して、ライト達に個々に配っていく。

さすがに鳥用のゴーグルはないので、ムニンとトリスは机の上の奥の方に薄いガラス板を立てて、ガラス板越しに見学してもらうことにする。

机の左右、右側にライトとレオニス、左側にラウルとマキシが立ち机を見つめる。

椅子に座ったセイが、作業に入りながら解説をし始めた。

机の上に無造作に置いてあった、何本かの棒状のものをセイが手に持ちライト達に見せる。

「えーっとねぇ、私の場合宝石研磨はこの特製ヤスリを使って行うの」

「特製ヤスリ? 普通のヤスリとは違うのか?」

「それは企業秘密よ!……と言いたいところだけど。今日はマキシ君のお姉さん達もいらしてることだし、特別に教えてあげるわ」

「おお、そりゃありがたい」

「ただし。門外不出の情報なんだから、誰にも言っちゃダメよ?」

「もちろんだとも。アイギスの秘密は絶対に守るさ」

アイギスの企業秘密である道具類、セイはそれを特別に明かしてくれるという。

門外不出の企業秘密は誰にも喋らない!と誓うレオニスに、セイが頷きながら話を続ける。

「これはね、オリハルコンにヒヒイロカネを混ぜた合金で作ったヤスリなの。もとから強固なオリハルコンに魔力を増幅するヒヒイロカネを混ぜることで、より硬度を高くすることができるの。硬度が高いヤスリは、宝石を削る作業を大幅に軽減してくれるのよ」

「ほほう、それはすごいな!」

「ちなみに混ぜる比率とかはナイショね。ま、そんなの聞いたところでレオ達には何のメリットもないし」

「だな。俺達もそこまで聞き出そうとは思ってないから安心してくれ」

セイが使う特製ヤスリの秘訣、それはオリハルコンとヒヒイロカネの合金だという。

ヒヒイロカネは、以前マキシの穢れ祓いの際に使用したことがある。その魔力特性により、マキシのリハビリ用の足輪の素材として使われた稀少性の高い金属だ。

「前にレオがマキシ君に用いるための足輪作成の報酬として、残りのヒヒイロカネを全部譲ってくれたことがあったでしょ?」

「ああ、そういやそんなこともあったな」

「あの頃よりずっと前から、ヤスリ用の合金としてヒヒイロカネを使っていたんたけど。あの時レオがくれた報酬のおかげで、それまで三本しかなかった研磨用ヤスリを十本にまで増やすことができたのよ!」

「そうなのか、あれがセイ姉の役に立てたなら良かった」

「おかげさまで宝石研磨の時間短縮になったし、仕上がりもより美しいものになったのよ!本当にありがとうね、レオ!」

「どういたしまして。セイ姉に喜んでもらえたなら本望だ」

かつてレオニスが、アイギス三姉妹の報酬として譲ったヒヒイロカネ。それが特にセイにとってとても有用だったことを知り、レオニスも思わず微笑む。

レオニスに甘いカイと違って、セイがレオニスに対して素直に感謝の意を示すことは何気に珍しいことだ。

それだけレオニスがもたらした恩恵が大きかったのだろう。

今回セイが特製ヤスリの秘密をライト達に教えてくれたのも、その礼を言いたかったのかもしれない。

「じゃあ、今から皆に宝石を研磨してみせるわね。レオ、今日研磨する魔宝石をここに出して」

「了解」

セイの要請に、レオニスが早速空間魔法陣を開いて二十個の魔宝石の原石を取り出す。

ルビーにサファイア、エメラルド、アクアマリンにアメジスト等々、色とりどりの石。原石なのでまだくすんだ色をしているが、それでも通常の原石よりも濃い色合いなのがぱっと見でも分かる。

これらは全てカタポレンの森の魔力を四週間、約一ヶ月充填した宝石の原石である。

その中の一つ、エメラルドの原石を左手に取ったセイ。

右手に持った特製ヤスリで、石を削り始めた。

それはまるで、鋭い包丁で野菜を切るかのようにスイスイと削れていく。

セイが特製ヤスリに力を込めて動かしている様子はない。ヤスリを二回か三回、手元で軽く往復させただけでもうその部分の表面が平らになったではないか。

その後セイは原石の向きをくるくると動かしつつ、どんどん大まかに削っていく。

セイが原石を手に取ってから、一分もしないうちにエメラルドカットに仕上がった。

「「「……おおおおお……」」」

セイの作業のあまりの素早さに、ライト達は感嘆の声を洩らす。

その間にもセイは時折原石を水に浸け、より目の細かい特製ヤスリに持ち替えては研磨を進めていった。

最初のうちはくすんでいたエメラルドの原石が、どんどん透明度を増して美しい深緑色になっていく。

セイの手で輝きを増していく魔宝石を、ムニンとトリスが目を大きく見開きながらガン見していた。

「……こんなところかな」

一通りの研磨作業を終えたセイが、軽く一息つきながら作業の完了を宣言する。

セイが研磨を開始してから、僅か三分弱。本当にあっという間に、魔宝石の原石が見事なまでに美しい魔宝石に変身していた。

「セイ姉の宝石研磨作業を初めて見たが……本当にすげーな」

「うん、まさに職人!って感じだね!」

「職人の仕事とは、こうあるべきだな」

ライト達が口々にセイの仕事を褒め称える中、マキシとムニンとトリスは無言のままだ。

彼らはただ単にセイが生み出した美しい魔宝石の魅力に魅せられただけではない。セイの仕事の完璧さにも驚嘆し、感動のあまり絶句していたのだ。

それはまるで神の御技の如き、神々しい光景であった。

しばらくして、ムニンとトリスがぽつり、ぽつりと呟く。

「…………これは、マキシが弟子入りを志願したというのも頷けるというもの」

「全くです…………マキシのお土産で、人族が作る装飾品の美しさは十分に知っていたつもりでしたが…………」

「私達が想像していた以上の素晴らしさです」

姉達の感嘆に、マキシも微笑みながら頷く。

「僕もいつかセイさんのように、宝石の美しさを最大限に引き出せるようになりたいです」

「マキシ、貴方ならきっとやれるわ」

「はい!姉様達にもいつか、僕が手ずから宝石を研磨してアクセサリーにしたものを差し上げますね!」

「ええ、その日をとても楽しみにしているわ!」

「いつになるかは分かりませんが……気長に待っててくださいね!」

ムニンとトリスの励ましに、満面の笑みで応えるマキシ。

そこには、かつて八咫烏の里で日々隠れるように息を潜めていた姿はない。

明るく前を向く弟に、姉達も自然と笑みが溢れていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうして三つほど宝石研磨の実践をして見せたところで、セイがその手を止めた。

「とりあえず、宝石研磨のお手本はこれくらいでもう十分かしら?」

「はい!セイさん、素晴らしい技術を見せていただき、ありがとうございました!」

「ふふふ、マキシ君ってば本当に真面目ねぇ」

即座に頭を深々と下げて礼を言うマキシに、セイが微笑んでいる。

そしてセイがレオニスの方に向き、話しかけた。

「レオ、今日預かった原石は明日には仕上がるから、明後日以降ならいつでも取りに来てくれていいわよ」

「分かった。そしたら追加報酬は何がいい?」

「今回は二十個だから、追加報酬は二つよね? そしたらねぇ……」

レオニスの問いかけに、セイが机の前の壁に貼ってある紙をじっと見つめる。

その紙は、以前レオニスが宝石研磨担当のセイへの追加報酬として提示した『ラウル特製スイーツラインナップ表』である。

「……よし!今回は『いちじくのソルベ』と『メロンのムース』にするわ!」

「了解。ラウル、セイ姉のリクエストのスイーツ作成、よろしくな」

「おう、任せとけ」

「ラウルさん、ありがとう!私、貴方の作るスイーツが世界一好きよ!」

「お褒めに与り光栄だ」

セイが選んだのは、いちじくのソルベとメロンのムース。

どちらも夏に相応しいメニューである。

ラウルの作るスイーツは世界一ィィィィ!と大絶賛して止まないセイ、ラウルに対しても輝かんばかりの笑顔で微笑みかける。

「さ、そしたら次はカイ姉さんの作業場に行きましょうか!」

「そうね、次は私の番ね。……って、私のところもかなり散らかってるけど……皆、許してね」

「それは仕方ないわ、今のカイ姉さんの主な仕事はドレスの縫製ですもの!」

「そうよそうよ!アイギスの主力製品はドレスですもの、糸やらレースやら紐がたくさんあるのは当然のことよ!」

カイの作業場も散らかっていることに、カイが少し恥ずかしそうにしながら前もってライト達に断りを入れている。

ドレスを作るためには、様々な資材が必要だ。メイがフォローしたように、何種類もの布地に糸にレースに飾り紐などが要る。

しかもそれらは一色だけではない。赤青黄、白に黒に緑に紫、橙、桃等々、数多の色があるのだ。

「じゃ、皆私についてきてね」

「はーい!」

カイを先頭に、ライト達は次の職場訪問の作業場に移動していった。