軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第766話 最高師範ハンザ

コルセアに案内されて、ヴァイキング道場本館に向かうライト達。

ライトはサイサクス世界の道場を訪問するのはこれが初めてのことなので、物珍しさでずっとキョロキョロと周囲を見回している。

本館は道場の向こう側にあるため、その脇を通っていくのだが。大きな道場からは、門下生達の気合いの入ったたくさんの掛け声が響いてくる。

その声は五人や十人程度のものではなく、少なくとも五十人以上はいそうな勢いだ。

その声を聞きながら、レオニスとコルセアがのんびりと会話している。

「相変わらずこの道場は繁盛してるなぁ。門下生は今何人くらいいるんだ?」

「おかげさまで、今いる門下生は他支部と合わせて五百人ほどおります」

「五百!? そりゃすげーな!……って、今サラッと『他支部』って言ったか?」

「はい。五百人ともなりますと、さすがにこの道場だけでは門下生の練習場が足りなくなりまして。二年ほど前に街の北側に第一支部、そして今年の春に街の南側に第二支部を新規開設したんです。再来年には他の都市に道場を作る計画も進んでいるんですよ」

「他の街にまで進出するんか……そりゃますますすげーな」

コルセアの話によると、門下生の増加により二ヶ所もの支部を新規開設したという。

レオニスが前回ホドを訪ねたのが三年以上前のことなので、レオニスが他支部の存在を知らなかったのは無理もない。

まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのヴァイキング道場の隆盛に、レオニスも心底感心しきりといった様子である。

そして本館に辿り着いたライト達一行。

本館は巨大な道場にくらべて、こぢんまりとした作りの建物だ。

だが本館というだけあって、質素な作りの中にも凛とした気品と風格が漂う。

瓦葺の屋根に漆喰の白い壁はまさしく伝統的な和の彩りに満ちていて、まるで武家屋敷を思わせる佇まいだ。

こういった道場などにありがちな話ではあるが、まさに『質実剛健』を体現しているかのような建物である。

「おおお……ラグナロッツァの宮殿や貴族街のお屋敷とはまた違う、素敵な建物だね!」

「ああ、俺もこういった建物は初めて見るな。なかなかに趣深くていいじゃないか」

ライトとラウルが、本館を見上げながら感嘆している。

ラウルが和の建物を知らないのは当然のことだ。ライトだって、このサイサクス世界に生まれついてから今日まで、和式の建築物など一度も見たことがない。

しかし、ここは現代日本企業サイサクスが創った世界。食べ物や度量衡、季節イベントなどと同じく、あらゆるところで和洋折衷のごちゃまぜちゃんぽん文化なのである。

本館に入ると、玄関口は靴を脱ぐ仕様になっている。

ライト達は靴を脱ぎ、綺麗に並べられているスリッパを履いて廊下を移動していく。

そして応接室と思われる間に通されたライト達。コルセアが襖を開けると、応接室の中にはモダンな和室空間が広がっていた。

床はさすがに畳ではなく木の板でできているが、床の間があって掛け軸と日本刀らしき刀が飾られているのがかなり和室っぽい。

襖の奥は洋室のような壁や窓ではなく障子と縁側があって、その縁側には外を眺めている人物がいる。

その人物はレオニス達が入ってきたことに気づき、両手を広げながら満面の笑みで客人を出迎えた。

「レオニス君!よく来てくれた!」

「よう、ハンザ、久しぶりだな。変わらず元気そうだな」

「そういうレオニス君こそ変わりないじゃないか!息災そうで何よりだ!」

豪快な声でレオニスにハグをするこの人物こそ、ヴァイキング流剣術の達人にして同道場の最高師範ハンザ・パイレーツである。

剣術を極めた達人だけあって、がっしりとした体躯をしている。背はレオニスと同じくらいで、コルセアと同じ本紫色の瞳に角刈りに近い赤毛の短髪。本紫色の目と赤毛がパイレーツ家の特徴らしい。

ハグしたその手でバンバン!とレオニスの背を叩くハンザ。

久方ぶりに会う友との再会を、本当に心から喜んでいるのが。

ただ、その叩く音が半端なく大きい。レオニスだからこそ涼しい顔で受け入れているが、常人ならばとてもじゃないが耐えられなさそうな大音響である。

一頻り再会のハグを堪能したハンザ。一旦身体を離し、改めてレオニスに話しかけた。

「どうだね、レオニス君。そろそろうちの道場の顧問になる気になったかね?」

「ないない、何度誘われてもない、俺は生涯冒険者だからな」

「そうか、それは残念だ!また次回改めて口説こうとしよう!」

「ぃゃぃゃ、そこは早いとこ諦めてくれよ……」

レオニスに対して道場の顧問にならないか、と勧誘するハンザ。その口ぶりから、どうやらかなり以前から幾度となく口説いているようだ。

だが、レオニスにその気は全くない。それはレオニス自身が言ったように『生涯冒険者を貫く』という意思があるからだ。

だが実は、それ以外にも理由がある。そもそもレオニスに指導者の資質があるとは、レオニス自身も全く思っていないからだ。

どれ程剣技が優れていようと、それを人に教えることまで優れているとは限らない。指導者とは、他者を導く卓越した才能がなければ務まらないのだ。

レオニスにできる指導といえば、八咫烏達に度々指導している扱き程度である。

しかし、ハンザが勧誘を諦める様子も全くない。何度玉砕しようとも、ダメ元で繰り返し口説く気満々である。

それは、ハンザがレオニスのことを超一流の剣士であることを認めている証でもあった。

「ささ、こんなところで立ち話も何だ、こっちに来て座ってゆっくり話をしようじゃないか。良かったらお連れの方々も紹介してくれ」

「ああ、そうさせてもらおう」

ライト達は応接室の中央にあるテーブルに移動し、椅子に腰掛ける。

すると、廊下の方からドタドタという廊下を駆けるけたたましい音が聞こえてきた。

どうやらコルセアが招集した師範代達が本館に到着したようだ。

「ハンザ先生、失礼いたします!師範代一同、集まりましてございます!」

「おお、入れ」

襖の向こうにいる師範代達にハンザが入室の許可を与えると、それまで閉まっていた襖がスーッ……と開いた。

そこには五人の師範代が姿勢を正して直立していた。