軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第761話 おやつタイムと恨み節

レオニスがマイラとともに厨房に向かう途中、渡り廊下から中庭が見える。

そこではライト達が何やら楽しそうにしているのが見えた。

レオニス達は引き寄せられるようにライト達のもとに歩いていく。

「おーい、皆で何して遊んでんだー?」

「あッ、レオ兄ちゃん、もうシスターとのお話は終わったの?」

「おう、無事済んだから今シスターといっしょに厨房に行こうとしてたところだ」

「あー、多分そろそろおやつのお呼びがかかる頃だもんね!」

レオニスとマイラの姿を見た子供達が、ライトとともに一斉に駆け寄ってきた。

ムニンとトリスは、孤児院の子供達の頭の上にちょこんと留まっている。二羽とももうすっかり子供達と仲良しになったようだ。

「ライト達はムニンやトリスと遊んでたのか?」

「うん。嫌がらない程度に羽を撫でたり、飛んでる姿を眺めたりしてたー」

ライトとレオニスが話していると、マイラもムニン達の存在に気がついて子供達に話しかけている。

「まぁまぁ、とっても綺麗な羽根の可愛いカラス達だねぇ」

「うん!この子はムニンちゃんで、あっちはトリスちゃんって名前なんだよ!」

「あんた達も遊んでもらえて良かったねぇ」

「「「うん!」」」

喜色満面の笑みで喜んでいる子供達に、マイラの顔も自然と綻ぶ。

ムニン達が無言でおとなしくしているあたり、名前の間違いは起こっていないようだ。

ムニンとトリス、見た目も体格もそっくりでぱっと見では全く区別がつかない。なのに、子供達にはちゃんと二羽の区別がついているようだ。

子供達の観察眼の鋭さは、存外侮れないものである。

するとそこに、厨房組の一人の子が渡り廊下からライト達のいる方に声をかけた。

「おーーーい、皆ーーー、おやつの準備ができたよーーー!」

中庭に向かって、大きく手を振りながら皆を呼ぶ一人の男の子。

待ちに待ったおやつの呼び声に、子供達が一斉に振り向く。

「今日はラウル兄ちゃんのスペシャルおやつだ!」

「やったー!」

「皆早く行こうぜ!」

子供達が我先にとばかりに厨房に向かってダッシュする。

おやつ目がけて勢いよく駆け出す子供達。その頭に乗っかっているムニンとトリスは動じることなく、しっかりと頭に留まったまま子供達についていっている。

二羽ともどうしてなかなか健脚かつ豪胆である。

「おーおー、皆元気だな」

「ぼく達も早く行こう、皆が待ってるよ!」

「おう、そうだな、シスターも行こう」

「ええ。…………って、お前達!建物の中を走るんじゃないよ!今日こそ床が抜けちまう!」

それまで子供達とカラスの触れ合いを微笑ましく見つめていたマイラが、厨房に駆け出していった子供達に鬼の形相で怒鳴りつけた。

慈愛に満ちた観音様が、一瞬で般若に早変わりである。

きっとこのやり取りが、この孤児院での日常の風景なのだろう。

レオニスは苦笑いしながら、マイラの背中を優しく撫でる。

「まぁまぁ、シスター、怒ってばかりいると皺が増えるぞ?」

「今の私の皺のうち三本、いや、五本か十本くらいはレオ坊がせっせと彫ってくれたねぇ?」

「うぐッ……す、すまん……」

「フフッ、冗談だよ。それに、こうして怒鳴りつけていられるのも今のうちだけさ」

レディーに対して『皺が増えるぞ』などと言い放ったレオニスのデリカシーの無さに、マイラがチクリと反撃する。

マイラを宥めるつもりが、また墓穴を掘ることになってしまったレオニス。それは自業自得とも言えるのだが。

だがその後にマイラが言った通り、子供達にギャンギャンと怒鳴りつけるのもこのオンボロ孤児院にいる間だけ。そしてそれは、今年いっぱいに終わりを告げることを意味していた。

レオニスが今でもマイラに頭が上がらないのは、ディーノ村のオンボロ孤児院で育ててもらった恩と思い出があるからだ。

どんなにオンボロな孤児院であろうとも、そこで過ごした日々や思い出は今でもレオニスの中で色褪せることはない。

きっとここの子供達も、レオニスと同じくマイラとの思い出をこれからもたくさん積み重ねていくことだろう。

その数々の思い出の中には、マイラから飛んでくる怒号も間違いなく入るはずだ。

ならば今のうちに、皆で存分に思い出を作っておいてもらいたい―――レオニスはそう考えた。

新しく立て直した孤児院に引っ越しすれば、この騒がしい光景もきっと激減するだろうから。

レオニスは穏やかな笑みを浮かべながら、マイラに声をかける。

「……そうだな。そしたらシスターも今のうちに、好きなだけ子供達を怒鳴っておいてくれ。来年になれば、少なくとも雨漏りやら床が抜ける心配はしなくて済むようになるから」

「ふふふ、そうだねぇ、レオ坊の言う通りだ。ただし、きっと他のことでも叱り続けるだろうけどね」

「だろうな、俺も昔は毎日シスターに怒鳴られ続けたしな!」

マイラの返事に、レオニスがニカッ!と笑う。

するとここでライトがマイラに話しかけた。

「シスターさん、今日はレオ兄ちゃんの子供の頃の話が聞きたいです!」

「え? ちょ、待、ライト君?」

「ああ、いいとも。『酒の肴』ならぬ『おやつの肴』として話してあげようじゃないか」

「え? ちょ、待、シスター?」

ライトの思わぬおねだりに、マイラはニコニコ笑顔でライトの期待に快く応じる。

だが『おやつの肴』にされるレオニスにしてみれば、たまったものではない。

首を左右に振り、キョロキョロとライト達の顔を見るレオニスの顔がだんだん焦りの色に染まっていく。

「ホントですか!? ありがとうございます!すっごい楽しみー!」

「ぃゃぃゃ、待って待って、ライト君? そんな昔話聞いたところで面白くも何ともないよ?」

「レオ坊、何を遠慮してるんだい? レオ坊には数々の輝かしい武勇伝があるじゃないか」

「ぃゃぃゃぃゃぃゃ、待って待って、シスター? 後生だからホントに待って?」

これまでライトはレオニスの幼少期の話をあまり聞いたことがない。

アイギス三姉妹からは『レオはやんちゃ坊主だった』と聞いたことはあるものの、具体的な事件や経緯などの詳細までは語られていないのだ。

大好きなレオニスの子供時代、ライトが気にならない訳がない。そしてその昔話をライトに語って聞かせてくれるのは、マイラ以外にいなかった。

「さ、皆早く行こうよ!……あ、でも建物の中は走らないようにしないとね!」

「ああ、ライト君は本当にお利口さんだねぇ。うちの子達にも見習ってほしいもんだよ」

「た、頼む……二人とも、頼むから待ってくれぇ……」

スタスタと先を歩くライトとマイラに、レオニスが震える手を懸命に伸ばすも彼の願いは届かない。

ウッキウキのライトとニッコニコのマイラ、そして次第に顔が青褪めていくレオニス。

両陣営の明暗がくっきりと分かれた瞬間だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「「「ごちそうさまでしたー!!」」」

スペシャルおやつをたらふく堪能した子供達、ニコニコ笑顔で手を合わせながら食事終わりの挨拶をする。

本日のおやつは、柔らかく練った餅にチョコレートを練り込んだ『チョコレート餅』である。

それは丸めたチョコレート餅を串に刺して串団子状態にした上で、さっと焼いてからぬるぬるドリンクチョコレート味にとろみをつけたチョコレート餡をたっぷりかけてある。

それはまるで『洋風みたらし団子』のようである。

ちなみにムニンとトリスには、串に刺さない状態の団子を皿に乗せて食べさせていた。

二羽ともご機嫌でパクパク食べていたので、両者ともチョコレート餅が気に入ったようだ。

「ラウル、お団子すっごく美味しかった!これ、ぬるぬるドリンクチョコレート味を使ってるんだよね?」

「ああ、バレンタインデーの時に散々買ったやつだ。とはいえ、あれは期間限定商品で購入制限があったから、言う程買い占めることはできなかったけどな」

「また来年のバレンタインデーの時にも、ぬるぬるドリンクチョコレート味をたくさん買っておこうね!」

「おう、来年は皆にも協力してもらおう」

美味しいおやつでご機嫌のライトとラウル。

一方レオニスはというと、一人テーブルの隅でしなしなと萎れている。

頭をテーブルの上に乗せ、口から魂が抜けかけたように呆けているレオニス。なかなかに珍しい図であるが、何やら甚大な心理的ダメージを負ったようだ。

「シスターさん、楽しいお話をたくさんしてくれてありがとうございます!」

「いやいや、あんなのまだまだほんの序の口だよ。他にもレオ坊にまつわる話はたくさんあるからね」

「ホントですか!? そしたらまた次に来た時に聞かせてもらえますか!?」

「もちろんいいとも。いつでも大歓迎だよ」

楽しげに話すライトとマイラを、頭を机に乗せたままジトーーーッ……と恨めしげな目で見つめるレオニス。

どうやら己の過去の所業を、マイラに存分に暴露されたらしい。

ライトとマイラにとっては楽しい昔話だが、レオニスにとっては黒歴史暴露大会に他ならない。

しかもマイラの話は全て事実で、レオニスにも身に覚えがあるため反論の余地は微塵もなかった。

「くッそー、あの話の半分くらい……いや、ほぼ全部グラン兄が主犯のいたずらなのに……何で俺だけこんな目に……」

「ぅぅぅ……グラン兄め、恨んでやるぅぅぅぅ……つか、あの世から今すぐ俺を助けに来てくれぇぇぇぇ」

「それがダメならレミ姉、俺の代わりにあの世でグラン兄にお尻ペンペンしといてくれぇぇぇぇ」

呻くように恨み節をダダ漏れにするレオニス。

いつもはグランのことを神か仏の如く崇めているのに、今日だけは怨敵となっているようだ。

あの世から助けに来い!だの、ダメならお尻ペンペンされろ!だの、あの世にいるグランやレミが聞いたらびっくり仰天する言い草である。

「さ、レオ兄ちゃん、そろそろ帰るよー。ムニンちゃんとトリスちゃんの市内観光の続きをしなくちゃね!」

「……ぉぅ、そうだったな……ぼちぼちお暇するとするか」

出立を促すライトに、レオニスがのそのそとした鈍い動きで重たい頭を上げる。

すると子供達が「えー、もう帰っちゃうのー?」「もっと遊んでってよー!」と口々に言うも、レオニスの「カラス達にラグナロッツァの街を見せてやりたいんだ」という説明に、「そっかぁ……じゃあ仕方ないねー」と素直に引っ込んだ。

普通に考えたらカラス相手に市内観光もへったくれもないと思うのだが、ムニン達のことを思って素直に受け入れるあたり、心根の優しい子供達だ。

「じゃ、シスター、またな」

「レオ坊も、いつもありがとうね。怪我をしないように、お仕事頑張るんだよ。ラウルさんも、いつも美味しいおやつをありがとうね。お餅もとても助かるよ」

「ああ、また来月も皆で来るからな」

「皆で楽しみにしているからね。ライト君ももうそろそろ学園の二学期が始まるだろうけど、勉強頑張ってね」

「はい!また次もレオ兄ちゃんのお話を聞かせてくださいね!」

三人がそれぞれマイラに別れの挨拶をする。

そして子供達も「ムニンちゃん、トリスちゃん、またいつか遊びに来てね!」「またねー!」と名残惜しそうに八咫烏姉妹達に声をかけている。

孤児院の面々に見送られながら、ライト達は次の目的地に向かっていった。