軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第755話 八咫烏の年齢換算

八咫烏の里のモクヨーク池から、ラグナロッツァの屋敷の浴槽に直接移動したライト達。

今日は朝早くから天空島に行ったり、八咫烏の里で特訓したりとなかなかに過密スケジュールだったので、帰りもラグナロッツァの屋敷に直行してもらったのだ。

「ウィカ殿、いつもお世話になりありがとうございます」

「ありがとうございます!」

『いやいや、気にしなくていーよ!僕はご主j……じゃなくてー、皆の役に立てたら嬉しいし!』

レオニスのロングジャケットのポケットに入ったまま、ムニンとトリスがウィカに礼を言う。

二羽からの礼の言葉に、ウィカが糸目笑顔で軽やかに答えた。

一瞬だけ『ご主人様』と言いかけたウィカにライトも内心焦るが、何とか途中で踏み留まったのでセーフ!である。

そしてレオニスがウィカに労いの言葉をかける。

「ウィカ、しばらくは八咫烏の里の往復で何度も呼び出すと思うがすまんな」

『いいよー、今度ご褒美よろしくねッ☆』

「ご褒美は何がいい?」

『美味しいお魚ッ!』

「よし、そしたら次にエンデアンに行った時に、ウィカのためにたくさん魚を買ってこよう。近々またエンデアンに行く予定あるしな」

「なら俺も、エンデアンに貝殻処理依頼を受けに行く時にウィカへの手土産を仕入れてこよう」

『二人ともよろしくねッ!』

ご褒美に美味しいお魚がいい、と言うウィカに、レオニスだけでなくラウルもエンデアンでたくさん買ってくる約束をした。

エンデアンは港湾都市と呼ばれる街で、その市場にはたくさんの魚介類が店先に並ぶ。

レオニスは海底神殿や海樹に会いに、レオニスはジャイアントホタテの殻を仕入れに、それぞれよくエンデアンに出かけるので海産物を買う機会は結構あるのだ。

「じゃあね、ウィカ。また三日後によろしくね!」

『うん、またねー!』

浴槽の水面から目覚めの湖に戻っていくウィカを見送ってから、ライト達は食堂に移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その後晩御飯を済ませ、各自入浴も済ませて広間に集う。

今日はムニンとトリスという客人?客鳥?がいるので、今後の三日間の話し合いを最初にしておかなければならないのだ。

「さて、明日明後日はどんなルートで回ろうか。まずは市場でたくさんの人を観察するのが一番か?」

「そうだな、老若男女様々な人間をタダで観察できるしな」

ムニン達の一番の目的である『人族見学』には、数多の人が行き交うヨンマルシェ市場がうってつけだ。

特に何を買わなくとも、ただブラブラと散策するだけでもいい。兎にも角にもまずはたくさんの人を見て観察するのが大事なのだ。

するとここで、ライトがムニンとトリスに質問をした。

「えーと、女性に年齢を聞くのは大変失礼ですが……ムニンさんとトリスさんは今おいくつなんですか?」

「私は232歳よ」

「私は195歳」

「そうですか。そしたらムニンさんは人間の女性に例えると二十代前半で、トリスさんは二十代手前ってところですね」

ライトがムニン達に聞きたかったのは、彼女達の年齢だ。

マキシが今120歳で、ラグーン学園中等部の生徒くらいに見えることを考えると、人間年齢に換算するにら彼らの年齢の十分の一が適正っぽい。

実際ムニンは23歳でトリスは19歳とすると、彼女達の言動にもかなり合っている。

「ねぇ、レオ兄ちゃん。ムニンさんやトリスさんには、なるべく若いお姉さんをたくさん見せた方がいいと思うんだけど」

「そうだなぁ……二羽ともマキシの姉ちゃんだしな。さてそうなると、若い姉ちゃんがたくさんいるところって……花街以外にあるか?」

ライトの意見にレオニスも同意するが、その後がよろしくない。

もっとも、このサイサクス世界には若い女性がこぞって集まるところなどあまりない。強いて言うなら貴族が集まる舞踏会やティーパーティーなどだろうか。

だが残念なことに、レオニスやライト達にはそうした上流階級との交流はほとんどない。あってもウォーベック侯爵家や分家のウォーベック伯爵家くらいしかない。

故に、レオニスが『若い姉ちゃん=花街!』と真っ先に思い浮かべてしまうのも無理からぬことだった。

とはいえ、ムニンやトリスを花街に連れていく訳にもいかない。

ライトは速攻で代案を出した。

「さすがに花街はダメでしょ……アイギスなんかどう?」

「えッ!? アイギスに姉様達が来るんですか!?」

「おお、そりゃいいな。マキシの職場見学にもなるし」

「そそそそんな……」

ライトの代案に、マキシが豆鉄砲を食らったような顔になる。

しかし、ライトの案は案外悪くないどころか最善策だ。

アイギスを運営する三姉妹、カイ、セイ、メイは、年齢こそ明かされていないが美女揃いである。

カイはおっとりとした優しいお姉さん系、セイはハキハキとした快活なお姉さん、メイはちょっと小悪魔系のお姉さん。それぞれに美しさ、愛らしさの系統が異なるのだ。

だがしかし、マキシにとっては想定外のことだ。

自分の働く職場に実姉二羽が訪問してくるなど、まるで授業参観のようなものである。マキシが恥ずかしがるのも無理はない。

そして実姉二羽は、思わぬ話に顔を綻ばせながら喜んでいる。

「まぁ、マキシがお勤めしているというお店?に連れていっていただけるのですか!?」

「それはとても楽しみね!」

「ぅぅぅ……姉様達が僕の働く店に来るなんて……何だか緊張するというか、恥ずかしい……」

手を合わせるかのように両翼の先端を合わせ、喜色満面の笑みで喜ぶムニンとトリス。

末弟が人里に出てからの暮らしぶりを全く知らない二羽にしてみれば、職場訪問はマキシの生活を知る上で絶好の機会である。

恥ずかしがるマキシに、ムニンが真っ直ぐに目を見つめながら問いかける。

「恥ずかしがることなんてないわ。貴方だって、人里に出て一生懸命頑張っているのでしょう?」

「それはもちろんそうですが……」

「ならば胸を張っていつも通りに過ごしなさい。それとも何? 姉さん達には見せられないような酷いところだというの?」

「そ、そんなことは絶対にありません!アイギスの皆さんはとても素晴らしい人達です!僕の正体を知っている数少ない人達で、未熟な僕に対してもとても良くしてくれています!むしろ僕が皆さんの足を引っ張っていないか、いつも悩んでいるくらいなんですから!」

ムニンの問いに、マキシが慌てて否定する。

アイギスがブラック職場で、他者には絶対に見せられない!なんてことがあるはずがない。

むしろ八咫烏であるマキシを温かく迎えてくれた、恩人達なのだ。

「ならばなおのこと、私達が見に行っても問題はないでしょう?」

「……はい……」

「むしろ、その方達を私達にも紹介してちょうだい。末弟がいつもお世話になっているんですもの、私達だってご挨拶くらいしたいわ」

「そうですね……分かりました。でしたら、お店に来るのは滞在二日目の明後日にしてもらえますか?」

ムニンの説得にマキシも観念し、今度はマキシの方から来訪日を指定してきた。

ムニン達がラグナロッツァの街中を見て回れるのは、明日と明後日の二日間。その後半の二日目を指定したのは何か理由があるのだろうか。

「二日目ね、分かったわ。でも、明日行ってはダメなの?」

「えーとですね、アイギスの店内には高級なドレスやアクセサリーがたくさんあるので、基本的にペット同伴での入店は不可なんです。なので明日カイさん達に事情を話して、姉様達の入店の許可を事前に得ないと……」

「「「……ぁーーー……」」」

「「?????」」

マキシがおずおずと語った『アイギスはペット不可』という理由に、ライト、レオニス、ラウルは納得し、『ペット』という単語が何を指すかよく分かっていないムニン達は小首を傾げている。

アイギスのショーウィンドウには絢爛なドレスが何着もあり、店内にも高価な宝石を用いたアクセサリーも多数展示されている。

そこに、物の道理が分からぬ動物を入れて店内で暴れられたら非常に困るのだ。

もしそんなことになったら、カイ達はペットを連れてきた客に壊されたドレスやアクセサリーの賠償金を請求しなければならなくなる。

そしてその金額もとんでもない額になるであろうことは、ライト達にも容易に想像がついた。

「まぁ、カイ姉達に事前に許可を得なきゃならんのは当然のことだな」

「そうだねー。マキシ君は明日からまたアイギスで働くんだよね?」

「はい、僕のお休みは今日だけですので……ムニン姉様、トリス姉様、本当なら僕も姉様達を人里案内したいんですが……仕事があるので……案内できず申し訳ありません」

「いいのよ、マキシ。気にしないで」

「そうよ、私達が今日から人里に来ることは、急に決まったことだし」

マキシがムニン達を率先して案内できないことに、申し訳なさそうに謝るマキシ。

そんなマキシを気遣う二羽の姉達。今回の人里見学は本当に急遽決まったことなので、マキシを責めるつもりなど毛頭ないのだ。

「そしたら明日は、ぼくとレオ兄ちゃんとラウルの三人でヨンマルシェ市場を適当に歩き回る?」

「それがいいな。ムニン達もそれでいいか?」

明日は人出が多いヨンマルシェ市場を歩くのはどうか、という案に、レオニスが同意しつつムニンに確認を取る。

「私達には人里のことは全く分からぬので、全てレオニス殿やライト殿、ラウル殿にお任せいたします」

「じゃ、明日は皆でヨンマルシェ市場に繰り出すか」

「賛成ー!ラウルも市場で買い物したりする?」

「そうだな、そろそろ果物屋に行きたいし、調味料も買い足しておきたいかな」

明日の予定がだいたい決まったところで、マキシがライト達に改めて頭を下げる。

「レオニスさん、ライト君、ラウル、皆さんに任せてばかりですみませんが、どうか姉様達をよろしくお願いします」

「もちろんだよ!ムニンさんやトリスさんに楽しんでもらえるよう、頑張って案内するからね!」

「おう、俺も久しぶりにヨンマルシェ市場を回るのは楽しみだからな。それよりマキシ、カイ姉達の許可を得られるように頑張れよ」

「はい!姉様達にもアイギスの素晴らしい品々を、是非とも見てもらいたいです!」

レオニスからの激励に、マキシもフンス!とばかりに張り切って答える。

ムニンとトリスのアイギス訪問は、カイ、セイ、メイの美人三姉妹を間近で見て人化の術の参考にする、というのが第一の目的だ。

だが、それ以外にもマキシの働く姿を見ることができるし、マキシにとってもアイギスが生み出す芸術的な品々をムニン達に見せてあげたい、という思いがあった。

「さ、そしたら今日はそろそろ寝るか。明日も明後日も一日中動き回るだろうしな」

「だね!ムニンさん達も、レオ兄ちゃんの稽古受けて疲れただろうしね」

「ラウル、ムニン達を二階の部屋に案内してやってくれ。マキシの部屋に泊まってもらってもいいし、別の部屋が良ければどの部屋を使っても構わん」

「了解。マキシ、どうする?」

レオニスがラウルに執事としての仕事を振ると、ラウルも了承しつつマキシの確認を取る。

レオニス邸には二階にもいくつもあるが、実弟の部屋に泊まってもらって家族同士の会話を交わすのもアリだ。

しかし、客室をわざわざ使わせるのは忍びないと思ったのか、マキシが即座に答えた。

「僕の部屋に泊まってもらいます。使わせてもらってるベッドは大きいから、ムニン姉様やトリス姉様がいても十分寝られますし」

「そうか。じゃあマキシが姉ちゃん達を連れていってやってくれ」

「分かった。さぁ、姉様、上の部屋に行って寝ましょうか」

「分かったわ……」

「……マキシぃ~……お部屋に……連れてってぇ~……」

ライト達がふとムニン達を見ると、彼女達の頭がうつらうつらと揺れている。どうやらもうかなり眠いようだ。

それもそのはず、八咫烏達は日が落ちるとそれぞれの巣に入り早々に寝てしまう。

今の時刻は夜の九時半を過ぎた頃。いつものムニン達なら、もうとっくに寝ている時間なのだ。

「もう、姉様達ったら……ラウル、申し訳ないんだけどムニン姉様を抱っこして連れてきてくれる? 僕はトリス姉様を連れていくから」

「了解ー」

ゆらゆらと船を漕ぐムニンとトリス。

ムニンをラウルに任せ、マキシはトリスを抱っこする。二羽とも体格が良いので、一人で二羽をいっぺんに抱っこして二階に連れていくのは不可能なのである。

マキシが抱っこする頃には、トリスはスヤスヤと寝息を立ててすっかり寝てしまっている。

一方のムニンは、ラウルに抱っこされながらも何とか眠気を堪えつつライト達に声をかける。

「レオニス殿……ライト殿……ラウル、殿……明日から、二日間……よろしく……お願い……いたし、ますぅ…………」

改めて挨拶をするムニン、責任感の強さは長女ならではの特性か。

何とか挨拶をし終えたところで安堵したのか、力尽きたようにラウルの腕の中でスヤァ……と眠ってしまった。

むっちりむちむちまん丸な八咫烏の長女次女姉妹が、スヤスヤと寝入る姿は何とも愛らしい。

二羽の可愛らしい姿を眺めながら、思わず微笑むライト達だった。