軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第747話 神鶏達への御礼

その他にも、レオニスは邪竜の島や討滅戦に関して様々な話を聞いた。

邪竜の群れは、大小合わせておよそ五百頭ほど棲息していること、指揮官などは特にいないようだが、最も体格の大きい者が群れのリーダーとして行動していること。

一方天空島側の戦力は、パラス率いる天使の兵士がおよそ百人。単純な数で見たら邪竜の二割ほどしかない。

だが、ここ天空島にはヴィゾーヴニルとグリンカムビという二体もの神殿守護神がいる。

これまでの襲撃では、ヴィゾーヴニルとグリンカムビが邪竜の群れを蹴散らして一掃していたのだという。神殿を守るという役割を十全に果たしているようだ。

もとがBCOのレイドボスだけあって、やはり神殿の守護神というのは壮絶なまでに強力な力を持っているのである。

「やっぱ神殿の守護神ってのは、すげー強いんだな……ヴィゾーヴニルは浄化の力が強いというのは俺も先日地上で見たが、グリンカムビも同じくらい強いのか?」

『ヴィーちゃんはその輝く身体で、世界中を 遍(あまね) く照らす役割を持っているわ。そしてグリンちゃんは夜明けを告げるその鳴き声で邪な者を打ち破る力があるの』

『そして、ヴィーちゃんとグリンちゃんは両方とも同じ力を持っているの。それは、この天空諸島内でほぼ同時期に生まれたからだと言われているわ』

『ヴィーちゃんとグリンちゃん、色は少し違うけど見た目はほぼ同じ鶏だし。言ってみれば、ヴィーちゃんとグリンちゃんは双子みたいなものね』

少し冷めた紅茶を飲みながら、神殿の外にいるヴィゾーヴニルやグリンカムビに目を遣る光の女王と雷の女王。

外には雄大な姿の天空樹ユグドラエルのいる島が見える。その天辺には、ヴィゾーヴニルとグリンカムビが並んで座っていた。

昼の間はいつも天空樹の天辺で、日向ぼっこよろしくのんびりと過ごしているらしい。

光の女王いわく『太陽の光を浴びることで、時を紡ぐ魔力を体内に貯め込んでいる』とのこと。まるでソーラーパネルのようである。

「そういやヴィゾーヴニルにも、先日世話になった礼をしたいんだが……ヴィゾーヴニルには、一体何をすれば喜んでもらえるかな?」

『うーーーん……ヴィーちゃん達こそ、私達以上に何も食べなくても生きていけるのよねぇ。それこそ太陽の光をただ浴びるだけでも、魔力は満ち足りるし』

『人族なら喜びそうな金銀財宝なんてものも、鶏のヴィーちゃんには無用の長物だしねぇ……』

『何なら身体や頭を撫でてあげるだけで喜ぶと思うわよ? あの子達、全然人見知りしないし』

「そんなことくらいしかしてやれないか……」

ヴィゾーヴニルを地上に遣わしてくれた二人の女王達には御礼を言えたし、美味しいスイーツをご馳走することもできた。

だが、最大の功労者であるヴィゾーヴニルにはまだ何の御礼もできてない。

そのことがレオニスには非常に気がかりだったのだが、さりとて鶏相手に何をどうすれば喜んでもらえるのかなんてさっぱり分からない。

これまでの例を見ると、暗黒神殿のノワール・メデューサのクロエや湖底神殿の水神アープのアクアは、ライト達の振る舞うご馳走を喜んで食べてくれた。

だが、鶏相手にそれが通じるかどうかは甚だ疑問だ。

するとここで、話を聞いていたライトがレオニスに話しかけた。

「レオ兄ちゃん、鶏ってトウモロコシとか野菜の葉っぱとか何でも食べるらしいよ?」

「そうなのか?」

「うん、学園の図書室で読んだ本にそう書いてあったよ。もっとも、守護神のヴィーちゃんやグリンちゃんが普通の鶏と同じかどうかは分かんないけど」

「まぁなぁ、神鶏と普通の鶏といっしょにしたら失礼かもしれんが…………」

ライトの話を聞いたレオニスは、少しだけ悩む。

レオニスの懸念は尤もで、神殿の守護神たるヴィゾーヴニルやグリンカムビをそこら辺にいる鶏といっしょくたにするのは、何だか申し訳ない気持ちになってくる。

ちなみにライトの話は、図書室で本を読んだ知識ではなく、前世での小学生時代の飼育係の時の経験談である。

今日もラグーン学園の図書室は、いつものようにライトのカムフラージュ工作の口実として役立っているようだ。

そしてここでレオニスが何やら思いついたようで、ピコーン☆とした顔になる。

「……そうだ、トウモロコシと言えばラウルの畑で作ったやつがあるよな? カタポレン産の野菜なんかを、試しにいくつか出してやってみてもいいかもしれんな」

「ああ、そうだね!うちの畑で採れた野菜は巨大で魔力もたっぷりだから、身体の大きなヴィーちゃんやグリンちゃんにも満足してもらえるかも!ラウル、ヴィーちゃん達のためにトウモロコシを出してもらえる?」

レオニスの思いつきに、ライトも大賛成!といった顔でラウルの方に向き直る。

「もちろんだとも。どちらもツィちゃんの恩鶏だからな。俺が持っている野菜や料理、今ここで全部出したって惜しくはないぞ」

「ありがとう!光の女王様、雷の女王様、ヴィーちゃんとグリンちゃんをここに呼んでもらってもいいですか?」

『分かったわ。そしたら外に出ましょうか』

巨大野菜の栽培主及び持ち主であるラウルの了承を得られたライト。早速女王達にヴィゾーヴニル達を呼び寄せてもらうことにした。

神殿の外の広々とした庭に出たライト達一行。女王達が早速、ユグドラエルの上でのんびりしている神鶏達に声をかける。

『グリンちゃん、いらっしゃーい』

『ヴィーちゃんもいっしょにおいでー!』

声が届くように大声を出したわけでもないのに、離れたところにいる神鶏達はすぐに女王達の呼びかけに気がついてこちらに向かって飛んでくる。

二羽とも巨大なので、揃ってバッサバッサと飛んでくる姿は迫力満点だ。

『クエエェェ?』

『コケーッ!』

先日見た時のように、誰に言われるでもなく自ら普通の鶏サイズに縮小して女王達の胸に飛び込むヴィゾーヴニルとグリンカムビ。

神鶏達がこちらに飛んでくる間に、ラウルが空間魔法陣を開いてライトの背丈ほどもあるトウモロコシを二本取り出した。

『グリンちゃん、この人達が貴方達に何か美味しいもの?を食べさせてくれるんですって』

『貴方達にとって美味しいものかどうかは分からないけど……一口食べてみる?』

『クエ?』

『コケケ?』

それまで女王達の顔を見上げながら眺めていた神鶏達。

女王が指先で指した方向にあるトウモロコシを見て、彼らの目がキラーン☆と光る。

二羽とも女王の腕から飛び出し、通常サイズから本来の巨大サイズに戻ったヴィゾーヴニル達。その目はずっとトウモロコシに釘付けである。

このトウモロコシは今朝収穫したばかりなので、まだ皮やヒゲがついたまま。そのまま神鶏達に出す訳にはいかない。

地面にトウモロコシを置き、皮やヒゲを手早く毟り取っていくラウル。慣れた手付きでシュパパパパ!と剥いていくその素早さは、あまりにもスピードが速過ぎて目にも留まらぬほどである。

そうして瞬時に剥き上がったトウモロコシを、ラウルがヴィゾーヴニル達に恭しく差し出しながら礼を述べる。

「ヴィーちゃん、こないだはツィちゃんを助けるために駆けつけてきてくれてありがとう。ヴィーちゃんがいなければ……俺達だけではツィちゃんを助けることはできなかっただろう。本当に感謝している」

『コケケッ!』

「グリンちゃんも、本当はヴィーちゃんとともに来てくれる気でいたことは聞いている。グリンちゃんが留守番という大役を果たしてくれたおかげで、ヴィーちゃんは地上で心置きなく戦えたんだ。グリンちゃんもツィちゃんの立派な恩鶏だ、ありがとう」

『クエエェェッ!』

「これはほんの気持ちの品だ。口に合えばいいんだが……もし良ければ食べてくれ。おかわりもたくさんあるから、遠慮なく言ってくれ」

ラウルの心からの賛辞に、ヴィゾーヴニルもグリンカムビも誇らしげに胸を張る。

そして、ラウルが両手に持ち高々と掲げたトウモロコシを早速嘴で摘み、もっしゃもっしゃと食べ始めた。

ライトの背丈ほどもある巨大なトウモロコシも、ヴィゾーヴニルやグリンカムビが嘴に咥えると普通のサイズに見える。

普通、鶏の飼料として与えるトウモロコシは粒を切り取って与えるものなのだが、ヴィゾーヴニル達は構うことなく芯ごと頬張っている。

食べ始めて早々にゴッキュン!と飲み込み、二羽とも『クエエェェ♪』と鳴く。どうやらカタポレン産トウモロコシの味がお気に召したようだ。

大きな翼をバッサバッサと羽ばたかせて鳴く姿は『もっともっと!』とおかわりを催促しているように見える。

それを見た光の女王と雷の女王が、とても驚いたような顔でそれぞれの守護神に問いかける。

『あらまぁ、グリンちゃん、そんなにそのトウモロコシが美味しいの?』

『クエッ、クエェッ♪』

『ヴィーちゃんもおかわり希望なの?』

『コケケッコッコー♪』

女王達と神鶏達の会話からするに、やはりトウモロコシのおかわりを希望しているようだ。

そうと分かれば、ここからまたラウルの腕の見せ所にして独壇場だ。

空間魔法陣から朝採りトウモロコシをドサドサと山のように出し、どんどん皮やヒゲを剥き取っていく。

「ご主人様達よ、剥き終えたトウモロコシをヴィーちゃん達のところにどんどん持っていってくれ。マキシは剥いた皮やヒゲを、俺の空間魔法陣に放り込んでくれ。ここにゴミを置いていく訳にはいかんからな」

「うん!」「了解ー」「任せて!」

巨大なトウモロコシ相手に、二秒か三秒で余分な皮やヒゲを取り去るラウル。

そして剥きたてのトウモロコシを、ライトやレオニスが一本づつ肩に担いでどんどんヴィゾーヴニルとグリンカムビのもとに届けに行く。

マキシもラウルに頼まれた通り、トウモロコシの皮やヒゲをラウルの背後に常時展開した空間魔法陣に片っ端から放り込んでいく。

非常に忙しないながらも、流れるような動きでテキパキと己の役割を果たす四人の姿に、二人の女王達やドライアド達が心底感嘆しながら呟く。

『まぁぁぁぁ……すごく息の合った連携作業ね』

『ヴィーちゃんもグリンちゃんも、すっごく美味しそうに食べてるわ……』

『というか、あんな小さな子が自分より大きなトウモロコシ?を、よくも軽々と運べるわね……』

『人族って、皆あんな力持ちなのかしらん?』

光の女王はライト達の連携プレーに感嘆し、雷の女王はトウモロコシを喜んで食べる神鶏達を微笑ましく眺め、ドライアド達は平気な顔で巨大トウモロコシを運ぶライトの怪力ぶりに驚いている。

そう、身体は小さな子供であるライトが巨大なトウモロコシを軽々と運ぶこと自体、相当おかしいのだが。それに気づいているのは、ここではドライアド達だけである。

ありったけのトウモロコシの他にも、採れたてのニンジンを水魔法で洗ってから出したり、枝豆を莢から取り出して豆のまま出したりしているラウル。

神鶏達は、どの野菜も全て美味しそうに食べている。

そうしているうちに、神鶏達を微笑ましく眺めていた光の女王があることに気づいた。

『ね、ねぇ……何だかグリンちゃんの羽根の艶が、増しているような気がするのだけど……気のせいかしら?』

『え?……そ、そうね……うちのヴィーちゃんも、羽根の艶だけじゃなくて身体も大きくなっている気がするわ……』

『え??……あらヤダ、グリンちゃんの身体も大きくなっているわ……』

『あの二羽の身体が、今以上に大きくなるだなんて……何百年ぶりのことかしら……』

カタポレン産の野菜をモリモリ食べているうちに、神鶏達の身体の輝きがどんどん増している。

それだけではない。身体の大きさまで一回りくらい大きくなっていっているのだ。

二人の女王の記憶では、神鶏達の巨体は数百年前には出来上がっていて、それ以降大きくなることはなかった。

なので、てっきり神鶏の身体の成長はもう止まったものだと思い込んでいたのだが、そうではなかったらしい。

カタポレンの森の魔力が豊富に含まれた、巨大野菜の効能?の現れであろうか。

『私達も随分長い時を生きてきたと思ってたけど……まだまだ知らないことや驚くこともあるものなのね』

『ええ……天空島の外の世界には、私達の知らない不思議なことがたくさんあるようね』

光の女王と雷の女王が、驚嘆しながら呟く。

彼女達の目の前で繰り広げられている、神殿守護神と人族、妖精族、霊鳥族の微笑ましくも和やかな交流。

その光景の中に、精霊の長ですら計り知れない無限の可能性を見い出していた。