軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第737話 初めての友の声

氷の洞窟での様々な用事を終えた翌日。

ライトとレオニスは、竜王樹ユグドラグスのもとに出向いていた。

これは最初からライトの夏休み中のお出かけ先として予定されていた一つだ。

ちなみにラウルは、その翌日に開かれるオーガの里の宴の仕込みのために、一日中オーガの里に出張している。今頃はきっと、オーガの奥様方とともに一生懸命食材の仕込みに勤しんでいるに違いない。

ライトとレオニスは目覚めの湖に向かい、桟橋でライトがウィカの名を呼ぶ。

「おーい、ウィカー、いるー? ぼくだよー、ライトだよー」

『呼んだー?』

湖面からヒョイ、とウィカが現れた。

それまでは「うなぁーん♪」などの猫の鳴き声だったウィカの声が、今ではちゃんとした言語で聞こえる。

これは、ラギロア島の海底神殿でライト達が飲み込んだ水神の鱗の副産物である。

もともとは、ディープシーサーペントのデッちゃんの話す言葉を通訳なしで直接聞くための措置であった。

しかし、水神の力を身の内に取り込んだことによって、水の精霊であるウィカの声までも聞き取れるようになった。思いもよらぬ嬉しいオマケ効果である。

そして、ウィカとともに水の女王にアクア、イードも現れた。

目覚めの湖の愉快な仲間達の登場である。

『ライト、レオニス、こんにちは!』

『ライト君、レオニス君、こんにちは』

『ライト君、レオニス君、やっほー♪』

「「!?!?!?」」

皆がそれぞれにライト達に挨拶をしている中、ライトとレオニスが目をまん丸&点にしてびっくりしている。

それは、水の女王やアクアの挨拶に続き、イードの声も言語として聞こえてきたからだ。

「レ、レオ兄ちゃん……今の、聞こえた?」

「あ、ああ……ありゃイードの声、か?」

『ン? どしたのー?』

「やっぱりイードの声だッ!!」

その声はとても優しい響きで、明らかに女性のものだ。

今までイードの性別など気にしたこともなかったが、どうやらイードはメスらしい。

これもライト達を大いに驚愕させた。

「イード……イードの話してる声が聞こえるよ!」

『あら、そなの? いつの間にそんなことができるようになったのん?』

「こないだ水の女王様に教えてもらったんだ!アクアからもらった水神の鱗を一欠片飲めば、ディープシーサーペントのデッちゃんの声が聞こえるようになるって!」

『そうなんだー。そしたらワタシの声も聞こえるようになったんだねぇー』

「うん!!」

興奮したように弾む声のライトに、ニコニコと嬉しそうな笑顔で微笑むイード。

イードはライトにとって、このカタポレンの森で初めてできた友達だ。

人族とクラーケンでは言葉が通じなくて当然だ―――今までそう思っていたのに、こうしてイードの言葉が理解できて直接意思疎通を図れるようになったことに感激を隠せない。

水面からチョロッと脚を出したイードに、思わずライトが抱きつく。

「ぼく、イードとお話できるようになって嬉しい!」

『ワタシもよ。ワタシね、ライト君にずっとお礼を言いたかったの』

「お礼? ぼく、イードにお礼を言われるようなこと、何かしたっけ?」

イードからの思わぬ言葉に、ライトの顔が『???』になる。

ライトにしてみれば、今までイードに礼を言われるようなことをした覚えが全くなかったからだ。

全く心当たりのないライトが不思議そうな顔をしていると、イードがニコニコ笑顔でその答えを教える。

『だって、ワタシに『イード』という名前をつけてくれたのは、ライト君でしょ?』

「……あ、そういえばそうだったね」

『名前のなかったワタシに、素敵な名前をつけてくれてありがとう』

「そっか……そうだね……イードに喜んでもらえたなら、ぼくも嬉しい!」

イードがライトに感謝していたのは、名前をつけてくれたことだった。

それまでは目覚めの湖の名も無き主だったイード。それが、ライトと友達になったことで新たな名前を得たのだ。

自分だけの名を得ることは、例えば銀碧狼や神樹のような余程の高位の存在でなければ難しい。

目覚めの湖という閉ざされた世界の中で、ただの巨大クラーケンだったイードが己の名を得たことは奇跡にも等しかった。

「イードと話せるようになって、本当に良かったなぁ、ライト」

「うん!イード、これからもよろしくね!」

『こちらこそ♪』

イードが二本の触腕を用いてライトの身体をそっと包み込み、高く上に掲げる。

キャハハハハ!と哄笑するライトと、にこやかな笑顔のイード。

二者の心温まる交流を、レオニスや水の女王、アクアにウィカも皆笑顔になりながら見守っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その後ライト達は、ウィカとともにシュマルリ山脈南方に移動した。

ラグスの泉に水中移動したライト達。ユグドラグスのいる山に向かってのんびりと歩いていると、しばらくして背後からドスドスドスドス……という地響きが地面の揺れとともに近づいてくる。

普通ならば、すわ地震か!?とビビるところなのだが。ライト達はこの地響きのもとを知っているので、慌てることはない。

そして地響きのもとが、歩くライト達に向かって叫んでいる。

「「「「ウィーーーカチャーーーン!!」」」」

そう、この地響きのもととは、鋼鉄竜、獄炎竜、氷牙竜、迅雷竜、四体の中位ドラゴン達。別名『ウィカちゃんファンクラブ』の面々である。

ライト達は、四体の中位ドラゴン達にあっという間に囲まれた。

「ウィカチャン、久シブリ!」

「相変ワラズ、可愛イナァ!」

「シバラク会ッテナカッタカラ、寂シカッタゼ!」

「今日モ俺達ト、遊ンデクヨネ?」

ライト達そっちのけで、ウィカに夢中の中位ドラゴン達。

というか、この四体の中位ドラゴン達は一体どうやってウィカの気配を察知するのだろうか。

ウィカがラグスの泉から現れる度に、即時すっ飛んでくるようだが。彼ら独自の『ウィカチャンセンサー』でもついているのだろうか?

そんな彼らに、ウィカが糸目笑顔で答える。

『皆、こんにちは!』

「「「「コンニチハ!」」」

『今日は僕、ライト君とレオニス君のためにここに来たんだ。皆と遊ぶのは、ライト君達の御用が済んでからね!』

「「「「ハーイ!」」」」

ウィカの言うことに、素直に従う中位ドラゴン達。

どういう訳か、ウィカに対してだけはかなり従順である。

そして、ウィカに挨拶を終えた中位ドラゴン達が、ようやくライト達に声をかける。

「レオニス、今日ノ用事トハ、何ダ?」

「今日は竜王樹に会いに来たんだ」

「アア、竜王樹ノ旦那ニ、会ウタメカ……」

「マァ、今ナラ大丈夫ダロ」

「ソウダナ……竜王樹ノ旦那モ、最近ハ大分、元気ニナッテキタコトダシナ」

「トリアエズ、我等モトモニ、竜王樹ノ旦那ノモトニ向カオウ」

中位ドラゴン達とともに、竜王樹のもとに行くことになったライト達。

道中で聞いたところによると、少し前まで竜王樹がとても落ち込んでいて、会話もろくにできなかったらしい。

最近では何とか元気が回復してきたようだが、時期的に考えてユグドラツィ襲撃事件にまつわることだろう。

ふよん、ふよん、と地面スレスレを飛ぶ鋼鉄竜達四頭と、山の上についたライト達。

そこには変わらぬ雄姿のユグドラグスがいた。

レオニスが一歩前に出て、ユグドラグスに挨拶をする。

「よう、ラグス。久しぶりだな」

『こんにちは、レオニスさん……獄炎達も、ようこそ来てくれたね』

「竜王樹ノ旦那……」

どことなく覇気のないユグドラグスの声に、中位ドラゴン達が心配そうに竜王樹を見上げる。

『白銀は今、周囲の警戒に回っています。もうそろそろ帰ってくる頃だと思いますが……』

「何だ何だ、ラグス。元気がないな?」

『いえ、そんなことは……あ、それよりもですね。僕はレオニスさんにお礼を言わねばなりません』

それまで元気がなかったユグドラグス。

何かを思い出したのか、その声に少しだけ張りが戻る。

『レオニスさん。先日は、我が姉ユグドラツィを救ってくださり、本当にありがとうございました』

「何、礼を言われるほどのことでもない。もとよりうちの近所で起きた事件だし、ツィちゃんは俺達の大事な友達だからな」

『そう言っていただけると、僕も救われます。ツィ姉様は、本当に善き友に恵まれました。ですが……』

少しだけ浮上したユグドラグスの声が、再び沈み込む。

ユグドラグスが塞ぎ込む理由は、ライト達にも容易に想像がついた。

『僕は、僕の無力さが本当に憎い……ツィ姉様の生命の危機に、何もできませんでした……』

「そりゃ仕方ないだろう。ここからカタポレンの森までは、一日二日で辿り着ける距離じゃないし」

『それでも、です。現にシア姉様やエル姉様は、ツィ姉様の危機に際してすぐに救いの手を差し伸べておられました。それに比べて、僕は……僕は本当に、ツィ姉様のために役立つことが何一つできなかった……』

悔しそうに歯噛みするユグドラグスに、中位ドラゴン達も何も言えずにいる。

中位ドラゴン達は、ユグドラツィ襲撃事件のことは何も知らない。ユグドラグスも白銀の君も、彼らにそこまで詳しい話をしていないからだ。

だが、中位ドラゴン達が以下に普段のほほんとしていても、ユグドラグスに何か異変が起きたことだけは分かる。

理由が分からないながらも、彼らは彼らなりにユグドラグスのことを心配していた。

そんなユグドラグスに、レオニスが大きな声で発破をかける。

「ラグス、過ぎたことはもう気にするな。ツィちゃんが無事回復したことも、もう分かっているんだろ?」

『はい……それは、僕の分体入りの置物を通して知っています。ツィ姉様の意識が戻って、本当に……本当に良かった……』

「ならばそれを喜べ。お前がいつまでもくよくよしてたら、またツィちゃんが心配するぞ?」

『!! そ、それは……』

レオニスの檄に、ユグドラグスはハッ!とする。

確かにユグドラツィの性格を考えれば、ユグドラグスの落ち込んだ気持ちを察したらとても心配するだろう。

そしてその心配のもととなったのが自分にあることに、責任を感じるはずだ。

落ち込む弟を憂い、その元凶である自分を責めるに違いないことは、レオニスのみならずユグドラグスにも容易に想像がついた。

「ツィちゃんは、とても優しくて兄弟姉妹思いだからな。弟のお前にも心配をかけたことで、絶対に自分を責めるだろう。ラグスよ、お前はツィちゃんにそんな思いをさせたいのか?」

『そ、そんなことは絶対にありません!』

「だったら今は、ツィちゃんが生き延びたことだけを喜べ。お前にもいろいろと思うことはあるだろうが、それは追々考えていけばいいことだ」

『……はい……そうですね……』

レオニスの言わんとしていることを、ユグドラグスもすぐに理解した。

レオニスは、己の無力さに目を背けろとは言っていない。その無力さや後悔は後に活かすことにして、今はユグドラツィの生還を純粋に喜ぼう、と言っているのだ。

でないと、ユグドラツィに心理的負担をかけてしまうことになる。

それはユグドラグスとしても本意ではなかった。

『レオニスさん、ありがとうございます……ツィ姉様だけでなく、僕もまた貴方に救われました』

「気にすんな。俺達、友達だろ?」

『……!! ……はい!!』

レオニスの言葉に、ユグドラグスが嬉しそうに返事をする。

するとそこに、警邏に出ていた白銀の君が空から降り立った。

ユグドラグスの根元に降り立った白銀の君が、ライトとレオニスの姿をちろりと見遣った後に、まずはユグドラグスに向けて声をかける。

『我が君、警邏から戻りましてございます』

『白銀、ご苦労だったね』

『労いのお言葉、ありがとうございます。……レオニスにライト、ウィカ、ようこそいらっしゃいました』

「よう、白銀。久しぶり」

「白銀さん、こんにちは!」

「こにちはー♪」

『獄炎に鋼鉄、氷牙に迅雷も、よく来ました。其方達、我が君のもとに来るのは久しぶりですね』

「「「「コココ、コンニチハ!!」」」」

それまで沈みがちだった空気が、白銀の君の帰還で瞬時に払拭された。

ライトやレオニスだけでなく、中位ドラゴン達にも労いの言葉をかける白銀の君。

それまで心配そうにユグドラグスを見上げていた中位ドラゴン達が、白銀の君から言葉をかけられて瞬時にシャキッ!と姿勢を正し直立不動になる。

相変わらず彼らの明確な力関係が分かろうというものだ。

『では、久しぶりに皆でここでお茶会でもしましょうか。レオニス、ライト、お茶会の支度をお願いできますか?』

「もちろんです!」

「おう、任せとけ。あんた達ドラゴンにはエクスポ二十本づつでいいか?」

「「「「エクスポー♪」」」」

お茶会を開こう、という白銀の君の提案に、ライト達も喜んで賛成する。

その提案の裏には、沈み込んだユグドラグスを励まして元気づけたい、という白銀の君の意図や願いがあった。

早速お茶会の準備をするライトとレオニス。

ここでふとレオニスが、ユグドラグスに向けて話しかける。

「ああ、そういえば。今回はユグドラグスにあげられるツェリザークの雪はないんだが。その代わりに、一昨日氷の洞窟に出かけて氷をたくさんいただいてきたから、それをおやつに出せるぞ」

『まぁ、それは素敵ですね!我が君もとてもお喜びになることでしょう!』

『レオニスさん、お気遣いいただきありがとうございます』

「「「「エックースポ♪エックースポ♪」」」」

レオニスの言葉に、白銀の君が真っ先に反応して嬉しそうな声を上げる。

そしてユグドラグスもまた、レオニスの気遣いに感謝の言葉を述べる。

中位ドラゴン達はエクスポコールに湧いている。彼らの大好物のエクスポーションがおやつに出ることが、余程嬉しいようだ。

こうしてユグドラグスの根元でのお茶会が始まっていった。