軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第735話 例のアレ、再び

その後ライト達は、じっくり時間をかけてアルとシーナのブラッシングをした。

アルはライトが担当し、シーナにはレオニスとラウル、バッカニア達三人の合計五人が代わる代わる交代で全身を隈なく梳かしていく。

『ンフゥ…………他人に毛を梳られるのは、本当に心地良いものですねぇ…………』

「わふぅん……」

親子揃ってとろけるような顔でうっとりとしている。

これはあれか、エステサロンで全身マッサージを施されたような天国気分なのだろうか。

もちろんブラシに溜まった抜け毛は、ライトが都度受け取って全て回収する。

今回は人手が多く、特に御礼も兼ねてのブラッシング奉仕なので抜け毛もたんまりと採れて、ライトはホクホク顔である。

最初バッカニア達は「抜け毛なんて集めてどうすんの?」と不思議そうな顔をしていたが、ブラッシング中の雑談がてらにライトからその用途を聞けば納得である。

貴重な銀碧狼の毛を毛糸にしておけば、これからもいろんな場面で贈り物として活躍するだろう。

シーナの背中の上まではさすがのスパイキーも手が届かなかったので、頂点の背筋は空を飛べるレオニスとラウルが担当する。

その光景を見ていたバッカニア達が「ラウルの兄ちゃんが妖精ってのは、ホントのことだったんか……」「まぁなぁ、レオさんとこの執事を務めるくらいだ、只者な訳ねぇよな」「ホント、妖精の冒険者とかビックリですヨ……ウヒー」と呟いている。

そうしてシーナ達へのご奉仕が一通り完了し、ツヤッツヤのもっふもふな毛並みに仕上がったアルとシーナ。

身体を動かす度に、アル達の毛先がふわりと揺れる。

その優美な姿に、バッカニア達はシーナのヨコで『俺達頑張った!やりきった!』という満足げな顔をしている。

『とても気持ちの良いブラッシングをありがとう。貴方方の感謝の気持ち、 確(しか) と受け取りました』

「どういたしまして。喜んでもらえたなら何よりだ」

『自分の手脚で掻いたり毛繕いするのも限界がありますからねぇ……特に背中などなかなか届かない部分もありますし。今回はそういうところも丁寧に梳ってもらって、とても助かりました』

「俺が実家で長年わんこの世話係をしてきたのは、今日この日のためだったんだな……!」

ブラッシングが余程心地良かったのか、シーナがいつにも増してご機嫌のようだ。

そしてシーナを満足させることができた喜びに、バッカニアもまたくゥーッ!と感激している。

弾む声で礼を言うシーナに、ライトが明るい声で話しかけた。

「シーナさん、ぼく達の家に遊びに来てくれればいつでもブラッシングしますからね!」

『フフフ、ありがとう、ライト。また必ず貴方方の家にも遊びに行きますからね』

「はい!アルもいつでも来てね、ぼく達あの家でずっと待ってるから!」

「アォン!」

ふわもふのアルの身体を抱きしめながら、再会を願うライト。

アルもまたニコニコ笑顔で嬉しそうに返事をする。

「さて、では俺達はツェリザークの街に戻るとするか。アル、シーナ、またな」

『ええ、また会いましょう』

名残惜しそうに何度も後ろを振り返っては、シーナ達に手を振り続けるバッカニア達。

アル親子はその場に留まり、去り行くレオニス達の背を眺めながらずっと見送っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

アル親子と別れ、ツェリザークの街に戻ったライト達。

まずは冒険者ギルドツェリザーク支部に立ち寄り、窓口に赴く。

窓口にはいつものラベンダー色の愛らしい受付嬢が座っている。

「よう、クレハ。窓口仕事お疲れさん」

「まぁ、レオニスさんにバッカニアさん達も。おかえりなさい、氷の洞窟の探索は如何でしたか?」

「ただいま!クレハさん、聞いてくれよー、レオニスの旦那ったら酷いんだぜ?」

窓口に来たレオニス達を、笑顔で迎えるクレハ。

朝にも会って『氷の洞窟に探索に行ってくる』という話だけは軽く交わしていたのだ。

レオニスに対する様々な不満や愚痴を洩らすバッカニアの横で、レオニスがスルーしながらクレハと会話を続けている。

「ああ、それなりに順調にこなせたぜ。で、今から俺とバッカニア達が仕留めた魔物の買い取り査定を頼みたいんだが」

「承知いたしました。解体は必要ですか?」

「ああ、それなりの数があるんでな。ここで全部解体してもらってから、買い取ってもらいたい部位と数を指定したい」

「分かりました。では解体依頼を受け付けますので、奥の解体所にて査定に出したい品をお出しください」

「分かった。全部解体するのに結構時間がかかると思うから、その間に俺達は昼飯を食いに外に出てるわ」

「お気をつけていってらっしゃーい」

クレハのいる窓口でレオニスが解体依頼を出し、ひとまずその場を離れるライト達。

「じゃ、俺は解体所に行ってモノを預けてくるわ。バッカニア、お前も『天翔るビコルヌ』のリーダーとして解体所に付き合え。お前達のパーティーの冒険探索実績にも直結することだからな」

「承知した」

「すぐに戻るから、ライト達は売店でも見ててくれ」

「はーい」

レオニス達と一旦別れ、ライト達はぞろぞろと売店に向かう。

「ねぇ、ラウル、今日もアレ買う?」

「もちろんだ」

「相変わらず一人一本かな?」

「どうだろうなぁ。まぁでも今日は六人いるからな、最低でも六本は買えるし」

「そうだねー」

ライト達の会話に、スパイキーとヨーキャが「え? 一人一本って、何のことだ?」「分かんなーい。ツェリザークにそんな良いもんあったっけ? ハテ?」と呟いている。

しかし、売店に到着したスパイキー達も、売店入口すぐの壁に堂々と貼られているポスターを見てようやく理解したようだ。

「何ッだ、コレ……あのぬるシャリドリンクが、ツェリザーク一番の大人気商品、だとぅ?」

「あれ、罰ゲーム用アイテムじゃなかったっけ……? エエェェ」

ババーン!と貼られているドデカいポスターの前で、スパイキーとヨーキャがあんぐりと口を開けながらポスターを見上げている。

そう、冒険者ギルドツェリザーク支部内の売店といえば、今や『ぬるシャリドリンクの聖地』として有名である。

だが、バッカニア達『天翔るビコルヌ』はここツェリザークにはほとんど来たことがない。故に、ぬるシャリドリンクの現状を全く知らなかったのだ。

ちなみにそのポスターには、相変わらず一番下のところに『生産が追いつかないほどの大好評につき、ご購入はお一人様一本までとさせていただきます』と書かれてある。

ラウルが火をつけたぬるシャリドリンクの人気は、未だに衰えることがないようだ。

「さ、スパイキーもヨーキャもぬるシャリドリンクを一本づつ買ってきてくれ。金は全部俺が出すからよろしくな」

「「ぉ、ぉぅ……」」

ラウルがスパイキー達に手早くぬるシャリドリンクの瓶を持たせて、代金の25Gを手に握らせる。

訳も分からぬうちに、売店の会計の列に並ばされるスパイキー達。結局ラウルの言うがままに購入していた。

「スパイキー、ヨーキャ、ありがとうな!」

「ぉ、ぉぅ……ラウルの兄ちゃんが喜んでくれるなら幸いだ」

「ていうか、何をどうしたらあのぬるシャリドリンクがこんなことになるの……? ナゾいー」

会計を済ませたスパイキー達から、早速ぬるシャリドリンクを二本受け取るラウル。実にご機嫌である。

そう、このぬるシャリドリンクはとても優秀な万能旨味調味料であり、ラウルとしても常備しておきたい逸品だ。

だが、さすがにこのぬるシャリドリンクを一本二本買うためだけにツェリザークに出かけるというのも憚られる。

つまり今日のような氷の洞窟探索や、ツェリザーク近郊の氷雪の採取のついでに買い足すのがベストなのである。

そんなやり取りをしていると、レオニスとバッカニアが売店にやってきた。

「皆、待たせたな」

「レオ兄ちゃん、バッカニアさん、おかえりなさい!」

「おう、ご主人様、おかえり。早速だが二人もぬるシャリドリンクを購入してきてくれ」

「はいよー」

レオニスももうぬるシャリドリンクの『お一人様一本限り』はラウルから聞いて知っているので、ラウルの購入依頼をサクッと引き受ける。

だが、バッカニアにしてみれば何のことだかさっぱり分からない。

「え? え? ぬるシャリドリンクなんて買って、どうすんの? ……まさか、俺に対する罰ゲームとかに使うんじゃなかろうな!?」

「そんなんじゃねぇって。とっとと買って、とっとと昼飯食いに行くぞー」

「え、ちょ、待……」

疑り深いバッカニアを引きずりながら、売店の会計に向かうレオニス。

レオニス達はサクッと買い物を済ませ、サクッとライト達のもとに戻ってきた。

「はいよ、ぬるシャリドリンク二本買ってきたぜ」

「ありがとう!もうそろそろ俺の手持ちが切れるところだったんだ、今日ここで六本も買えて良かったぜ!」

「お前、ホンットにぬるシャリドリンク大好きだよね……」

「おう!これでオーガの宴の料理にもたっぷり使えるぜ!」

レオニスからぬるシャリドリンク二本を受け取ったラウル、ますますご機嫌でテンションアゲアゲである。

一方で、バッカニア達は「ぬるシャリドリンク、何かすげーことになってんなぁ……何で?」「俺にもさっぱり分からん」「ボクらの知らないところで、いろんな変化が起きているってことだヨねぇ……フゥー」と呟いている。

「さ、じゃあ少し遅めの昼飯に行くぞー」

「はーい!」

「ご主人様よ、今日は何を食いに行くんだ?」

「そうだなぁ……せっかく氷蟹の本場のツェリザークに来たんだから、氷蟹のフルコース料理でも食いに行くか」

昼食をどこで食べるかを相談していたレオニス達。

その会話の中に含まれていた『氷蟹のフルコース料理』という言葉を聞いたバッカニアが、ビクンッ!と飛び跳ねる。

「こ、氷蟹のフルコース料理だとッ!? まさかその代金は全部俺持ちってんじゃねぇだろうな!?」

「ンな訳ねぇだろう……安心しろ、今日は俺の奢りだ」

「レオニスの旦那、ホントか!? 嘘じゃねぇだろうな!?」

「バッカニア、お前も疑り深いね……こんなことで嘘をつくほど俺はチンケな男じゃねぇぞ?」

思いっきり焦りながら支払い元の確認をするバッカニア。

バッカニアはこれまでレオニスに散々『氷蟹のフルコース料理○○人前奢れ』と言われ続けてきたのだ、疑心暗鬼になるのも分からんでもない。

しかし、レオニスとてこんなことで嘘をついてバッカニアを騙したり困らせたりするような狭量な男ではない。『俺の奢りだ』と宣言したからには絶対に完遂するし、男に二言はないのだ。

疑り深いバッカニアに、レオニスが呆れた顔をしながらも嘘じゃないことを強調する。

そうと分かれば、バッカニアの顔がみるみるうちに明るく輝いていく。

「そうか!今日はレオニスの旦那の奢りなんだな!なら俺も安心して十人前くらい食えるぜ!」

「バッカニアの兄貴、そりゃさすがに食い過ぎじゃね?」

「そうだヨ、バッカ兄!そこはボクら三人で十人前くらいに抑えるべきだヨ!フンス!」

「ヨーキャ……それ、全然フォローになってねぇからな?」

バッカニア達の賑やかな会話に、レオニスが早々にツッコミを入れる。

この賑やかさと仲睦まじさが『天翔るビコルヌ』の何よりの長所である。

レオニスにもそれが分かっているからこそ、ヨーキャへのツッコミも軽いものに留まっているのだ。

「ま、いいや。腹減ったから昼飯食いに行こうぜ」

「レオ兄ちゃん、クレハさんに氷蟹料理のオススメの店を聞きに行こうよ!」

「お、そうだな。こういうのは地元の人間に聞くのが一番だもんな」

ライトの案に、レオニスが賛同する。

そして一行は再び窓口でクレハにオススメ店を聞いてから、ツェリザークの街に繰り出した。