軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第732話 閉ざした氷が解ける時

シーナとラウルのおかげで、無事氷の女王との謁見を果たすことができたライト達。

これで心置きなく次の目的に移れるというものだ。

再びレオニスが氷の女王に挨拶がてら話しかける。

「氷の女王、人嫌いだというのに俺達の都合で会ってもらってすまなかったな」

『……いや、其方が詫びることではない。もとはといえば、我が姉妹の願いを叶えるために動いてくれたのであろう』

「まぁな。おかげで炎の女王や他の女王達にも、氷の女王の無事を伝えることができる。きっと皆喜んでくれるだろう……あ、そういえば」

氷の女王の許しを得られたことに、レオニスが安堵している。……と思ったら、何か思い出したようだ。

「うちの近所に目覚めの湖という広大な湖があってな。そこに属性の女王の一柱である水の女王がいるんだが。水の女王も氷の女王に会いたがっていたぞ」

『え!? 水の姉様が!?』

レオニスの話に、氷の女王がとても驚いた顔をしている。

先程彼女が言っていたように、属性の女王達は基本的に己の神殿から遠く離れることはできない。

だが、短時間ならば他の場所に移動できることが分かっている。水の女王が天空島や海底神殿にでかけたり、火の女王や炎の女王が互いの居場所を行き来したり等、これまでライト達は何度も見てきた。

それは主に彼女達の持つ属性に合った場所だというのもあるだろうが、条件を整えてやれば姉妹達が会うことも可能なのだ。

「ただ、水と氷を何の対策も無しに合わせるのはさすがに無謀だから、互いの身体への影響を抑える何らかの方法を考えなきゃならんが……いつか水の女王の願いも叶えてやりたいとは思っている。だから、もう少し待っててくれ」

『其方達は……何故にそこまで我等のことを気にかけてくれるのだ?』

「何故ってそりゃ……まぁ、俺達も水の女王や炎の女王達には世話になってるし、恩義もあるし……」

『恩? それは何ぞ?』

ここで言うレオニスの恩義とは、彼女達からもらった強力な加護や乙女の雫のことを指す。

加護は水中やマグマの中でも自由に行動できて便利だし、乙女の雫を競売にかけて得た資金でラグナロッツァ孤児院の建て直しやプロステス孤児院への資金援助ができている。

「女王達には様々な加護をもらったし、乙女の雫で助けられた者達もたくさんいるんだ。俺は彼女達からもらった恩恵に報いたい。それに……」

『……それに?』

「俺達と女王達は、友達だからな!」

氷の女王の問いに、ニカッ!と爽やかな笑顔で答えるレオニス。

その笑顔には『友達なんだから、助け合って当然だろ?』という思いが込められていた。

これまで人族に対して、良い印象など全くなかった氷の女王。

屈託のないレオニスの笑顔を見て、氷の女王はしばし考える。

このレオニスという男は、今までの人族とは違う。

我が姉妹の願いを叶えるために、危険を承知で氷の洞窟の最奥まで来たことが何よりの証。

他の姉妹達が信を置き、我が想い人ラウルをこの地に連れてきてくれた人族。そして、我が唯一の人族の友フェネセンとも友達だというこの者達ならば―――我も少しだけ、信用してみてもいいかも……

太陽のように眩しく輝くレオニスの笑顔は、氷よりも固く冷たく閉ざしていた氷の女王の心をも少しづつ溶かしていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

属性の女王達=俺の友達!宣言を堂々と言い放つレオニス。

その後ろでバッカニア達が「女王達と友達って……レオニスの旦那、異種族の友達多過ぎんだろ……」「レオさんほどの人になると、属性の女王ですら友達になるんだなぁ」「もうレオニス君自身が人外さんだから、かな? カナ?」と呟いている。

レオニスの真摯な態度に心を動かされた氷の女王。

小さく微笑みながら、右の手のひらを前に差し出す。

『そうなのか……では我も其方らに加護と雫を授けよう』

「いいのか?」

『いつか水の姉様に会わせてもらうための前払い報酬、とでも思ってくれればよい』

「そうか……そういうことなら、ありがたくいただこう」

『まずは我の加護を其方らに全員に与える故、皆もっと近う寄れ」

氷の女王からの思わぬ申し出に、レオニスはありがたく承諾することにした。

彼女の言葉に従い、後ろに控えていたライトやバッカニア達も前に出て氷の女王の玉座の前に集まる。

バッカニア達が「え? 俺達まで加護なんてもらっちゃっていいの?」「ここまで俺達、何もしてない気がするが……」「でも今後のためにも、ここはありがたくもらっておこうヨ!ネ?ネ?」などと会話しあっている。

そうしてこの場にいる全員が氷の女王の前に集まった。

女王がライト達に向けて右の手のひらを翳す。

氷の女王ならではなのか、ひんやりとした空気がライト達を包む。

だがそれは、普通の冷気特有の刺々しい痛みなど全くなく、むしろ暑い中で冷房の効いた部屋の中に入った時のような心地良い高揚感さえ感じる。

そして氷の女王は、手のひらを上に向けて氷の勲章を作り出した。

一つ出来上がったところで、氷の女王がレオニスに確認する。

『勲章も全員分要るか?』

「えーと、属性の女王達のもとには俺とこの子、ライトと二人で回っているんだ。だから、とりあえず二人分もらえるとありがたい」

『承知した』

先に出来上がった氷の勲章をレオニスに渡し、次の勲章をすぐに作り上げる氷の女王。彼女の手のひらの上に、氷の勲章が作り上げられていく。

そうして出来上がった二個目の勲章を、ライトに手渡した。

ライトは氷の女王に「ありがとうございます!」と嬉しそうに礼を言う。

その後氷の女王は【氷の乙女の雫】を十個ほど作り出し、その全てをレオニスに手渡した。

レオニスの手のひらの中の【氷の乙女の雫】は、雪のような白さを湛えながらほんのりと輝いている。他の乙女の雫同様に、この世のものとは思えぬ美しさである。

【氷の乙女の雫】を作り終えた氷の女王、今度はラウルの前にスススー……と移動した。

彼女の顔は再び白さを増し、その瞳は潤んでいる。どうやらこれは人間で言うところの、顔を赤らめたり頬が上気している状態のようだ。

ラウルの頬を両手で包み、うっとりとした眼差しでラウルに語りかける。

『ラウル……我はいつでも其方を待っている』

「ああ、俺もこの先ずっとツェリザークの雪や氷の世話になると思う。冬になったらまた来るから、これからもよろしくな」

氷の女王の熱烈な囁きに、ラウルも嬉しそうに今後の挨拶としての言葉を交わす。

双方の温度差というか、言葉の意味や向かっている方向が全く違うのはおそらく気のせいではない。

だが、この程度のことでめげる氷の女王ではない。

妖艶な笑みを浮かべながら、さらなる魅惑の言葉でラウルを誘惑する。

『フフフ……冬まで待つなどと言わず、夏の間でもこの氷の洞窟に通うても良いのだぞ? 外は雪が解けて大地が剥き出しとなっていても、この氷の洞窟の中の氷は消えることなくあり続ける。氷の女王たる我がいる限り、洞窟の氷が絶えることなど絶対にないのだから』

「え、いいのか? そしたら今日、洞窟の氷を少しもらっていってもいいか?」

『もちろんいいとも。少しでもたくさんでも、其方がほしいだけ持っていくがよい』

「ありがとう!」

氷の女王の言葉に、ラウルが花咲くような笑顔で喜んでいる。

昨冬ライト達とともにあれだけ採りまくった、ツェリザークの氷雪。神樹襲撃事件で傷ついたユグドラツィに全て与えてしまって、ラウルの手元には一粒も残っていない。

なのでこの夏が過ぎた後、十月になってツェリザークの地に雪が降ったら補充しようと思っていた。

だが、十月を待たずに氷だけでも再び入手できるなら、ラウルにとってこれ程嬉しいことはない。

あまりの嬉しさに、ラウルは氷の女王の両手を思いっきり握りしめながら上下に大きくブンブンブブブン!と振っている。

普段クールなラウルからは、想像もつかないくらいの喜びようである。

『こ、これ、ラウル……我の手をそんなに長く握ってると、凍傷になってしまうぞ?』

「そんなことにはならんさ。氷の女王からさっき加護ももらったしな!」

『そ、そうか……?』

照れ臭そうにラウルの身体を気遣う氷の女王に、ラウルはまたも眩しい笑顔で答える。

そう、氷の女王の加護を得たラウル達は、凍傷や凍死といった害を被ることは今後一切なくなったのだ。

実際氷の女王の手を握ったラウルが、寒がったり冷たそうにしている様子は全くない。

氷の女王の身体は氷でできているだけに、温かいということはさすがにないものの、加護を受けた者なら水に触れた程度の温度に感じるだけである。

氷の女王としては、ラウルを軽く誘惑したつもりだった。

だがその魅了は全く通じないどころか、ラウルの輝く笑顔と優しい返しにより、ますます氷の女王がラウルに魅了されてしまった。

さすがはラウル、そのキング・オブ・朴念仁パワーの頑強なバリアの前には属性の女王も敵わないのである。

ラウルと氷の女王の戯れを、微笑みながら見ていたレオニスが二人に声をかける。

「じゃ、そろそろ行くか。ラウルも氷の採取をしたいだろうし、俺達も氷蟹を狩らなきゃならんからな」

「ああ。今日は俺もここに連れてきてもらって、本当に良かった。ありがとう、氷の女王。冬になる前にまたここに会いに来る」

『心より待っておるぞ。……シーナ姉様も、ありがとう。姉様のおかげで、我は大事なものを得られた』

レオニス達の別れの挨拶を受けた氷の女王が、ずっと傍にいたシーナに礼を言う。

シーナの同行と説得がなければ、氷の女王はレオニス達の言葉に一切耳を貸すことはなかっただろう。今日のこの出会いの立役者は、間違いなくシーナだった。

氷の女王の礼に対し、シーナはフフッ……と微笑みながら答える。

『礼には及びませんよ。可愛い貴女と可愛い我が子の友のためですもの。良き出会いの架け橋になれたなら幸いです』

『やはりシーナ姉様は、素敵で偉大な御方です……これからも、アルとともにもっと遊びに来てくださいね?』

『ええ、私達親子で良ければいつでもお邪魔しますよ』

「ワォン!」

姉と慕うシーナの懐の深さに感激しつつ再訪をねだる氷の女王。

シーナとともに元気に返事をするアル、そのニコニコ笑顔が実に可愛らしい。

そしてライトもまた氷の女王に挨拶をする。

「氷の女王様、今日は会ってくれてありがとうございました!ぼくもまたラウルといっしょにここに来てもいいですか?」

『もちろんだとも。ラウルが認めし者ならば、それは間違いなく善き者。我が拒む理由などない』

「ありがとうございます!」

属性の女王に初めて会う際は、ライトが前面に立つことが多いのだが。今日は人嫌いで有名な氷の女王ということもあって、交渉は全てレオニス任せでライトの出番はほとんどなかった。

しかし、ライトは生粋の女王ファン。特に氷の女王はBCOでも随一の美麗キャラとして、それはもう絶大な人気を博していた。

そんな憧れの女王様相手に、一言も言葉を交わさずにすごすごと帰るなどあり得ない!のである。

「じゃ、またな」

『氷の女王、またお会いしましょう』

『ええ。皆も元気でね。また会える日を楽しみにしているわ』

大広間の入口に向かって歩いていくライト達。

ライトは何度も振り返りながら大きく手を振り、別れを惜しむ。

こうしてライト達の目的の一つである氷の女王との謁見を無事終えて、氷の女王のいる大広間を後にした。