軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第730話 氷の女王

アル親子とも無事合流し、六人と二頭は氷の洞窟の入口真ん前まで到着した。

ここでレオニスが空間魔法陣を開き、バッカニア達三人に防寒着等の装備を渡す。

今は夏真っ盛り。如何に涼しいツェリザークであっても、防寒着を着ながら走るのはさすがにすぐ暑くなる。

なので、バッカニア達は氷の洞窟入口で着替えるという手筈だった。

ちなみにライト、レオニス、ラウルの装備には、各種付与魔法がついていて温度調節もバッチリなので、最初からフル装備のままである。

「レオニスの旦那達はポーター要らずでいいよなぁ、ホンット羨ましいわ」

「俺達も早いとこ、アイテムバッグとやらを手に入れられればいいんだがなぁ……あれ、いくらするんだっけ?」

「こないだ見た号外の記事には、数年後に500万Gで売るとか何とか書いてあったヨ? ボクらが現役のうちに買うのは……ムリポ?」

上着やズボンなどの防寒着に着替えているバッカニア達が、レオニスの空間魔法陣を見てため息をつきつつ話している。

レオニスもラウルも空間魔法陣を使い、ライトも内緒ではあるがアイテムリュックを持っているので、荷物持ちという役割は不要だ。

だが、そのどちらも持っていない一般的な冒険者達は、探索や移動時に必要なものは全部自分達で担いで持ち運びしなければならないのだ。

かくいうバッカニア達も、基本的に荷物持ちは巨体&力持ちのスパイキーが担当している。

バッカニア達が防寒着に着替えている間に、シーナも人化の術で変身する。シーナの本来の姿は巨大過ぎて、そのままでは洞窟に入れないからだ。

スルスル……と銀碧狼の巨体がみるみるうちに縮んだかと思うと、あっという間に美しい妙齢の女性になったシーナ。

銀碧色に輝くハイネックのロングドレスに、腰まである銀碧色の艶やかな長い髪がまた壮絶な色香を漂わせている。

突如目の前に現れた絶世の美女に、着替え中だったバッカニア達の動きが完全に止まった。

バッカニアなど、ズボンを穿くために片足を上げた格好で止まってしまっている。

「あ、あれ……銀碧狼のシーナさん、か?」

「銀碧狼の成体ともなれば、人化の術まで使えるんだな……」

「すんげー綺麗なおかーちゃんだねぇ……ウヒョー」

人化したシーナをガン見しつつ、思わず感嘆のため息を洩らすバッカニア達。

そんなバッカニア達に、レオニスが声をかける。

「コラ、皆してそんなポーズのまま止まってんじゃねぇ。ちゃちゃっと着るもの着て、とっとと洞窟に入るぞ」

「ぉ、ぉぅ、レオニスの旦那達を待たせちまってすまんな」

レオニスに着替えを促されたバッカニア達、止まった身体を慌てた動かし始める。

そうしてようやくバッカニア達の準備も整った。

改めて洞窟の入口に立ったバッカニアが、洞窟の奥を見据えながら緊張したように呟く。

「いよいよ、氷の洞窟入りか…………」

「俺達がこうして冒険探索するのも、久しぶりだなぁ……」

「だヨねー、結構緊張するぅー……プルプル」

するとここで、バッカニアが己の頬をパン、パン!と強めに叩いて気合いを入れる。

「よし!レオニスの旦那、待たせたな!さあ、行こう!」

「おう、皆、行くぞ!」

「「「おう!」」」

レオニスの掛け声を合図に、全員で氷の洞窟に入っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

シーナが先頭を歩き、レオニスが殿を務め、真ん中にはライトとアル。その前後にバッカニア、スパイキー、ヨーキャがついて洞窟の中を進んでいく。

洞窟の中の壁は全て氷でできていて、夏でもひんやり涼しいどころかそれなりに寒い。

「うおおおおッ、結構 寒(さみ) ぃぃぃぃ……」

「俺、オーガの服を譲ってもらって本当に良かった……」

「普段のスパイキー君なら、夏でも凍死間違いナッシングだヨね……ウヒー!」

白い息を吐きながら、バッカニア達が氷の洞窟の寒さに驚いている。

冬はもちろんのこと、夏でも絶対に洞窟の中の氷が溶けて消えることはない。この洞窟の最奥には、氷の女王がいるのだから。

氷の洞窟の中を進みながら、バッカニア達がキョロキョロと周囲を見回している。

「しかし……魔物が一匹も出てこないのは何でだ?」

「確かに。俺達、氷蟹を狩りに来たってのに……氷蟹どころか他の魔物一つ出てきやしない」

「魔物除けの呪符は使ってないのに……何で、ナンデ、ナンデ???」

確かにバッカニア達の言う通りで、氷の洞窟に入ってかれこれ五分は歩いているというのに、未だに一度も魔物が出てこない。

本来ならとっくに襲われてもいい頃合いなのにも拘らず、である。

その謎は、殿で一番後ろを歩いていたレオニスが明かす。

「そりゃあな、銀碧狼のシーナがいるし。ここの魔物達が束になってかかったところで、シーナに返り討ちにされることがオチだってのが本能で分かるんだろ」

「「「…………あ"」」」

レオニスの答えに、バッカニア達が呆気にとられつつ納得する。

シーナがライト達のもとに近づいてきた時に、バッカニア達でさえもその強大な力を遠くからでも感じ取ることができた。

これ程の力を、ただそこにいるだけで放ち続けるシーナ。その強大な力を前にした魔物達が、本能的に恐れて近寄らないのも当然の摂理である。

だがここで、バッカニアには一つの疑問が浮かぶ。

「え、じゃあ何、氷蟹はどうすんの? 向こうから出てきてくれんことには、狩りたくても狩れないんじゃねぇの?」

「そこは問題ない。氷の女王との謁見が済んだ後、皆で一度氷の洞窟の外に出てから俺達だけで洞窟に入ればいいことだ」

「……ああ、そういうことか。坊っちゃんと銀碧狼親子には洞窟の外で留守番してもらって、俺達だけで中に戻るのか」

「そゆこと」

バッカニアの疑問に、レオニスが的確に答えていく。

言ってみれば、シーナ自身が既に魔物除けの呪符と化したようなもの。ならば魔物除け効果つきのかーちゃんは一旦洞窟の外に出てもらって、ライトとアルの傍についていてもらう。

そうすれば、レオニスとラウル、そしてバッカニア達の三人が洞窟の中に入って魔物狩りができるようになる、という寸法である。

シーナのおかげで、魔物に襲われることなくスイスイと奥に進むライト達。

だが、奥に進むにつれてどんどん寒さが増していく。それは真冬の吹雪にも等しいような凍てつく寒さだ。

これは人族嫌いで有名な氷の女王の、ライト達人族に対する拒否反応なのだろうか。

そうして三十分も歩いた頃。最奥の間と思われる広い空間に着いた。

その大広間こそが、ライト達が目指した最終地点。そのことを殿で一番後ろにいたレオニスも瞬時に察し、すぐに一番前に出てシーナの横に並ぶ。

一番後ろにいたままでは、ライトやバッカニア達を守ることができないからだ。

最奥の大広間は、どこからか光が降り注ぎ氷雪の輝きが反射していてキラキラと輝いている。洞窟という閉ざされた空間にも拘らず、何とも不思議な世界だった。

目の前に広がる、真冬の如き煌めきに満ちた白銀の世界。その圧倒的な美しさに、ライト達は思わず息を呑んだまま見惚れている。

そんなライト達を、牽制するかのような声が大広間中に響いた。

『よう来たの。命知らずの人族どもよ』

その声の主は、言わずもがな。

氷の洞窟の主、氷の女王だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

氷の女王が声を発した瞬間、ライト達のいる大広間の入口に向かって猛吹雪が吹き荒ぶ。

ビュービューと叩きつけてくるような、ものすごく強い雪混じりの風。そのあまりにも強烈な冷気に、ライトもレオニスも思わず両腕を前に構えて頭や顔を庇う。

いつものライトなら、ここで『おおお、氷の女王様だ!』と感激するところなのだが。今回ばかりは、そんな余裕は微塵も与えられない。

するとここで、シーナがライト達を背にして庇うようにして前に進み出た。

『鎮まりなさい、氷の女王』

『……シーナ姉様。何故に人族とともにいらしたのです?』

『この者達は縁あって我等親子と知り合い、我が子アルが親友と慕う者達です。そしてアルだけでなく私もまた、この者達は決して善良な他者に害をなすことのない善き者であることを知っています』

『…………』

氷の女王の厳しい口調に、シーナは怯むことなく堂々と語りかける。

シーナのことを『シーナ姉様』と呼ぶあたり、氷の女王が彼女を姉のように慕っているというのは本当のことのようだ。

だが、氷の女王の表情は硬い。

目鼻立ちは、これまでライト達が会ってきた属性の女王達と同じ作りだ。ぱっちりとした二重の大きな瞳、整った鼻筋にふっくらとした艶やかな唇、それら全てが他の女王達と共通している。

しかしその眉間には深く皺が寄り、潤んだ瞳は釣り上がっていて、刺すような視線がライト達に向けてずっと放たれている。

氷の女王から漂ってくるオーラは、実に刺々しいものだった。

人族への敵意を一切隠すことなく、剥き出しにする氷の女王。

そんな彼女に、シーナが穏やかな口調で問いかける。

『……シーナ姉様達にはそうであっても、我にとってそうとは限りません。人族とは、いつでもどこでも傍若無人に振る舞う野蛮な種族であり、我の敵です』

『でも、そんな貴女にも友と呼べる人族がいるのでしょう?』

『…………』

シーナの問いかけに、氷の女王の眉間の皺がさらに深まる。

怪訝そうな顔の氷の女王が、シーナに問い質した。

『……何故、シーナ姉様がそのことを知っているのです?』

『その者は、名をフェネセンと言いましたか。私も一度だけ、フェネセンと会ったことがあるのです』

『そうなのですか!?』

『ええ。そしてここにいるレオニスとライトは、フェネセンとも親交があるのです』

『本当に!?!?』

シーナの意外な答えに、氷の女王がとても驚愕している。

人族嫌いで有名な氷の女王が、人族の中で唯一友人として認めているのがフェネセン。

そのフェネセンとシーナが実際に会ったことがあるというだけでも驚きなのに、その後ろにいる人族はフェネセンと親しい交流があるというのだ。氷の女王が驚くのも無理はなかった。

『貴女が唯一信頼する者、フェネセン。その者が認めし友人ならば、貴女も一度だけこの者達の話を聞いてみてもいいのでは?』

『……………………』

シーナの提案に、氷の女王がしばし黙り込む。

その美麗な顔の眉間には相変わらず皺が寄せられているが、その深さはだいぶ薄れている。

そうして、どれくらいの時間が経ったか。

大広間に横たわる沈黙を破ったのは、氷の女王だった。

『…………いいでしょう。シーナ姉様の顔に免じて、聞くだけは聞いてやりましょう』

『人族よ、何用でここに来たのです?』

シーナの尽力のおかげで、ライト達の活路が開かれた瞬間だった。