軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第728話 ツェリザークの夏

オーガの里にて、スパイキーの上着を無事調達できたライト達。

その日の夜は晩御飯を食べた後に皆で話をして、ライトとバッカニア達は早々に寝た。翌日から氷の洞窟に出かけるためである。

ちなみにレオニスとラウルだけは、ライト達が寝ついた後に少しだけ夜更かししていた。

レオニスは、付与魔法をバッカニア達に貸すために、新たなアクセサリーに魔法付与を施している。そしてレオニスの少し後ろで、ラウルがスパイキーがもらってきたお下がりの縫い直しをしていた。

ベスト状の上着に袖をつけたり、半ズボンの裾を絞ってニッカポッカ風にしたり、こちらも寒冷地仕様にお直ししているのだ。

そう、ラウルは料理や掃除洗濯だけでなく、裁縫技術にも秀でたスーパー万能執事なのである。

そうして迎えた翌日の朝。

朝の五時に食堂に集合し、皆で朝食を食べて五時半には屋敷を出立して冒険者ギルド総本部に向かった。

レオニスを真ん中にして、レオニスの右側にライト、左側にバッカニア。レオニスの後ろは向かって右側からラウル、スパイキー、ヨーキャが並んで歩く。

朝早く人気のない時間帯だからいいものの、レオニス達が固まって歩く図の圧が何しろ半端ない。

子供のライトとバッカニアの後ろで隠れて見えにくいヒョロいヨーキャはともかく、深紅のロングジャケット他ガッツリフル装備のレオニスに同じく黒革燕尾服フル装備のラウル、派手帽子に黒薔薇眼帯の筋肉質な海賊風バッカニア、そして極めつけはレオニス達より頭一つ以上大きい、山のようなモヒカン半裸の巨体スパイキー。

人通りの多い昼間だったら、絶対に人目を引く異質なオーラ満載の集団である。

しかしそれも、冒険者ギルドの建物の中に入れば日常の風景として溶け込む。ラグナロッツァのギルド職員や他の冒険者達は、レオニスやバッカニア達を見慣れているからだ。

特に朝は新しい依頼の閲覧&依頼受付で、ギルド内はとても賑わっている。

ライト達はその混雑を避けるように早々に奥の事務室に行き、転移門でツェリザークに向かった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

城塞都市ツェリザークに移動したライト達一行。

北側城壁門を潜り、さらに北に向かって歩いていく。

冬にはライトやラウルが雪を採るために散々通ったが、夏に来るのは二人とも初めてのことだ。

春先までずっと氷雪に埋め尽くされていたツェリザーク近郊。大地の土が見えて、木々にも緑の葉がついている。

このツェリザークという土地は、一年のうちの三分の二くらいはどんよりとした灰色の冬景色に染まる。

しかし、秋冬には極寒の地と化すツェリザークにも、夏は等しく訪れる。それはほんの僅かな間だけ、この地が色づく季節でもあった。

「ツェリザークって、やっぱ夏でもすっごく涼しいねー」

「ああ、ラグナロッツァなんかはまだ暑さはマシな方だが、それでもここツェリザークに比べたら暑いよなぁ」

「ツェリザーク支部も、冬に比べたらすっごく人多かったもんねぇ」

「冒険者ギルド内だけじゃないぞ、街の中も避暑に訪れた人々で賑わうからな」

そんな会話をしながら、しばらくのんびりと歩いていたライト達。

後ろを振り向いてもツェリザークの城壁が見えなくなった頃、レオニスが空間魔法陣を開いて数枚の呪符を取り出した。

それは、昨日のオーガの里への往復時にスパイキー達に渡した身体強化の呪符である。

「さて……普通にのんびり歩けば、この時期なら一時間程度で氷の洞窟に着くが。時間が惜しいし、ここからは走っていくぞ」

「おおッ、今日も身体強化の呪符をくれるのか!レオニスの旦那、ありがとう!」

「そう思うなら、お前の目のフィルターを替えとけよ?」

「おう!もう既に昨日からちゃんと入れ替えてるぜ!俺の中でのレオニスの旦那は『地獄からの使者』じゃなくて『愛くるしい天使』だ!」

「『愛くるしい』までは付けんでいいぞ……」

敏捷アップの呪符とスタミナアップの呪符を、三人分受け取ったバッカニアが大喜びしている。

昨日のオーガの里への行き来では、行きに痩せ我慢をして一人だけヘロヘロになったバッカニア。帰りは素直にレオニスに泣きついて、バッカニアもスパイキー達と同じく呪符を使わせてもらったのだ。

おかげでバッカニアも、身体強化の呪符の効果は身を以て実感済み。それを与えてくれたレオニスのことを『愛くるしい天使』とまで例えるほどご機嫌である。

ただし、レオニスにしてみればバッカニアから『愛くるしい天使』扱いされても困るのだが。

それでもまぁ『地獄からの使者』に比べたら若干マシか……とため息をつくしかない。

バッカニア達に呪符を渡した後、レオニスはライトに話しかけた。

「氷の洞窟に行く前に、アル達と合流しなきゃならんが。ライト、今アル達はどこら辺にいる?」

「えーとねぇ……あっちの方向にいるよ!」

「じゃ、早速そっちに向かうか」

ツェリザークの城壁門を出た後すぐに、アルの居場所が分かる魔導具のイヤーカフを右耳に着けていたライト。それは以前、フェネセンとともにアル親子を訪ねに行った時にフェネセンからプレゼントされた大事な魔導具だ。

レオニスの問いに、ライトは魔導具のホログラム地図を見ながらアルを示す点がある北東の方向を指す。

氷の女王に会うに際し、まずは銀碧狼のアル親子と会わなければならない。

アルの母シーナは氷の女王とは姉妹のような親交があるという。

そして氷の女王はかなりの人族嫌いらしく、ただ普通に会いに行っても門前払いを食らう可能性が高い。それは他の女王達の勲章を持っていても同様だ。

だが、前回ライトとラウルがアル親子に会った時に、シーナは氷の女王といっしょに会って執り成してやる、と約束してくれた。

氷の女王が姉のように慕うシーナが同行していれば、ライト達の話を聞くだけ聞いてくれるかもしれない、という訳である。

しかし、突如レオニスの口から出てきた『アル達と合流』という言葉の意味を、バッカニア達が理解できようはずもない。

その謎を解明すべく、バッカニアが率先してレオニスに尋ねる。

「レオニスの旦那、アルって誰だ?」

「縁あって俺達が仲良くしてる銀碧狼の子供だ」

「え"、銀碧狼の子供? 何でまたそんな珍しいもんと仲良くしてんの?」

「一年ほど前に、母親の方から俺達に子供を預かってくれ、と依頼されたことがあってな。それで一ヶ月ほど子供のアルを預かって、カタポレンの家でともに暮らしてたんだ。アルはまだ子供だから、今も母親とともに行動しているが。母親のシーナとも懇意にしてるから問題ない」

これまた突如出てきた銀碧狼という言葉に、バッカニアは戸惑いを隠せない。

バッカニア達も冒険者の端くれ、銀碧狼という種族のことは知っている。

だがその存在は極めて稀少なものであることも知られており、そこら辺の魔物のように簡単に遭遇できるものではないのだ。

「ぃゃぃゃ、それもはや問題のあるなしの範疇超えてんじゃね?」

「レオさん達の交友関係って、いつも想像のはるか先をいくよなぁ」

「銀碧狼なんてレアな種族、ボクら生まれてこの方一度も見たことないヨ……ウヒョー」

銀碧狼、それは常人ならば名前でしか聞いたことのない幻の種族。

その親子と合流するという、思わぬ事態にバッカニア達がぶつくさ呟きながら、レオニスから支給された呪符を二枚とも破いて発動させる。

「皆、準備はいいな? そしたらライト、先頭で走ってアルのいる場所に向かって走ってくれ」

「分かった!」

「バッカニア達も遅れずについてこいよ? カタポレンの森ならともかく、平地の走りで子供に負けてちゃ現役冒険者の面目が立たんぞ?」

「おう、任せとけ!スパイキー、ヨーキャ、お前らも気合い入れて走れよ!」

「「おう!!」」

バッカニア達の身体強化が完了した一行。

アルの居場所が分かるライトを先頭に、ツェリザークの大地を勢いよく駆け出していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうして十分くらい走り続けただろうか。

気配察知に長けたラウルが真っ先に気づいた。

「アル達もこっちに向かってるな」

「うん、多分ぼく達の気配に気づいたんだと思う」

「あと五分も走りゃ合流できるな」

ライト達の会話を聞きながら、バッカニアが「レオニスの旦那はともかく、ラウルの兄ちゃんもよく気配とか分かるな? お前ら、何か感じる?」「「全然ー」」などと呑気に話している。

だが、それから三十秒もしないうちに、バッカニア達にも強大な魔力を持つ何かが近づいてきていることが分かる。

「おい……あっちから何かすげー強いもんが近づいてくるぞ……」

「レオさん達が言ってた、銀碧狼の親子……か?」

「ナナナ何コレ、ママママジ大物な気配なんですけど……ヒョエェェ」

アル親子の強大な気配に、バッカニア達が驚愕しつつもライトやレオニスの後ろを走り続ける。今まで見たこともない途轍もない力の塊の急接近に、バッカニア達三人は内心ビビりまくりである。

だが、ここまで来て尻尾を巻いて引き返す訳にはいかない。

『レオニスの旦那がいりゃ、何とかなるだろう!』という他力本願な信念のもと、ひたすらレオニス達についていく。

そうして三分程走り続けたライト達。

向こう側からも、白くて大きな何かが近づいて来ているのが見えてきた。

「アル!久しぶり!!」

「ワォン!!」

出会い頭に熱い抱擁を交わすライトとアルであった。