軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第726話 信じられない光景

ライト達はカタポレンの森を順調に駆け抜け、無事オーガの里の近くに辿り着いた。

ライト達はもちろんのこと、二枚の呪符で身体強化したスパイキーもヨーキャもほとんど息が乱れることなく到着できた。そのことに、当人達自身がびっくりしている。

「レオさんがくれた呪符のおかげで、重たい俺でも軽やかに走れたぜ!」

「あんま体力ない僕でも、まるで風になったかのように走り続けられたヨ!ヒャッホー!」

「ハァ、ハァ……レ、レオニスの旦那ァ……か、帰りには、俺にも……身体強化の、呪符を、使わせてくれぇぇぇぇ……」

まだ呪符の効果が残っていて、元気たっぷりのスパイキーとヨーキャ。その後ろで、バッカニアだけがヘロヘロになっている。

やはり先程のカタポレンの家でのバッカニアの勢いは、多少誇張されていたようだ。

そして自分達と同じく大して疲れてもいなさそうなライトに、スパイキーが不思議そうに声をかける。

「ていうか、レオさんはともかく坊ちゃんは疲れてないのか? 俺達といっしょにずっと走ってたってのに」

「えーと、ぼく、今も毎朝カタポレンの森を走ってまして。将来冒険者になるための、基礎体力作りの修行中なんです」

「ほぇぇぇぇ……ライト君ってまだジョブを得ていないよね? それなのに、もう修行してるんだぁ……スゴッ!」

ライトの答えに、問いかけたスパイキーだけでなくヨーキャも驚いている。

九歳になったばかりの小さな子供が、魔の森の中で修行と称して毎日走っているというのだ。これを聞いて驚くなという方が無理である。

ずっと先頭を走ってきていたレオニスが、スパイキー達のいる方振り向いて話しかける。

「お前ら、休憩がてらここで待っててくれ。俺は先に中に入って、ラキから【加護の勾玉】を三人分借りてくる」

「いってらっしゃーい!」

「ラウル、バッカニアにこれ飲ませといてやってくれ」

「了解」

レオニスが空間魔法陣を開き、エクスポーションを二本取り出してラウルに手渡した。

ラウルが受け取った後、レオニスは奥の方に入っていく。

その後ライト達一行はその場で待機しつつ、ラウルはバッカニアにエクスポーションを飲ませたり、ライトはスパイキー達に解説したりしていた。

「うおおおお、エクスポ不味いぃぃぃ……でも元気出てきたぁぁぁぁ」

「バッカニアも、もうちょい体力つけた方がいいぞ」

「レオさんは、何をしに先に行ったんだ?」

「えーとですね、ここのオーガの里には防御用の結界が張られてまして。その結界を通るための魔導具を三人分、『天翔るビコルヌ』の皆さんのために借りに行ったんです」

「結界が張ってあんの?……全然そうは見えないんだけど、どこら辺???」

ライトの話を聞いたヨーキャが、キョロキョロと周囲を見渡す。

だが、見た目には何の変哲もないただの森にしか彼らの目に映らない。

結界に触れようとしているのか、右手を前に伸ばしたヨーキャにライトが慌てて注意する。

「あッ、ヨーキャさん!結界に触らない方がいいです!結界を作った人の話だと『結界に触れただけで大火傷と落雷を浴びて真っ黒焦げになる』らしいんで!」

「え"ッ、マジ!? 何ソレ怖ッ!!」

ライトの注意に、ヨーキャが大慌てで手を引っ込めた。

このオーガの里の結界を作ったのは、隣人である小人族ナヌスだ。

そのナヌスの結界は、ライトが初めてナヌスの里を訪れた時に衛士のエディが『結界に触れただけで(以下略)と語っていたのを、ライトはしっかり覚えていた。

製作者が同じなのだから、オーガの里の結界もナヌスの里と同じ仕様のはず。

つまり、防御が余程高い人外もしくは入ることを許された者でなければ、不用意に結界を触っただけで黒焦げ大火傷必至コースまっしぐらなのである。

そうして待っているうちに、奥からレオニスが戻ってきた。

レオニスの横には、高身長のレオニスの三倍はあろうかという大男がついてきている。

「お前ら、お待たせー。こっちにいるのはオーガ族の族長のラキだ。【加護の勾玉】貸してくれって言ったら、自分が渡すと言うんで連れてきた」

「あッ、ラキさん!こんにちは!」

「おお、ライトにラウル先生もいたのか。ようこそいらっしゃった」

「ラキさん、久しぶり」

レオニスについてきたラキが、結界の外にいるライトとラウルの姿を見て笑顔で挨拶をする。

ラキの歓迎を受けて、ライトとラウルも嬉しそうに挨拶を返す。

一方バッカニア達は、レオニスとともに現れたラキの圧倒的な巨躯にただただ呆気にとられている。

ラキはバッカニア達三人を一瞥しつつ、横にいるレオニスに問うた。

「【加護の勾玉】を貸してほしいというのは、そちらにいる人族三人だな?」

「ああ。俺と同じ冒険者で、昔馴染みの仲間達だ。今日はこいつらのためにオーガの里を訪れたんだ。【加護の勾玉】を貸してもらえるか?」

「もちろんだとも。お前が昔馴染みの仲間達と言うならば、信頼に足る者なのだろう?」

「ああ、こいつらは俺が信頼する仲間達だ」

「ならば我に否やはない。我が里の大恩人が認めし仲間達よ、我が里にようこそ。心から歓迎する」

ラキは自ら結界の外に進み出て、バッカニア達の前で前屈みになりながら手を差し伸べた。

それまでずっと地べたに座り込んでいたバッカニア。

初めて間近で見るオーガの巨躯に、スパイキー達とともにぽけーッ……とラキを見上げていたが、ラキからの友好的な挨拶を受けてハッ!と我に返る。

慌てて立ち上がり、ラキと握手をする。

「は、初めまして。俺の名はバッカニア、『天翔るビコルヌ』という冒険者パーティーのリーダーを務めている。そっちにいるデカいのはスパイキー、細いのはヨーキャ、どちらも俺の仲間で『天翔るビコルヌ』の一員だ。オーガの族長にお会いできて光栄だ、今日はよろしく頼む」

「こちらこそよろしく頼む。……レオニスの仲間にしては、なかなかに折り目正しい者達ではないか」

「ラキ、お前も大概酷ぇよね……」

シャキッとした姿勢で、ハキハキと自己紹介やパーティーメンバーの紹介をするバッカニア。

バッカニアの横にいたスパイキーとヨーキャも、それぞれ無言のままラキにペコリと頭を下げる。

三人の礼儀正しさに、ラキはとても感心しているようだ。

「では、三人に【加護の勾玉】をお貸ししよう。帰りにまたここで返してくれれば良い」

「承知した。里の大事な品を貸してくれてありがとう、心より感謝する」

ラキが手に持っていた三つの【加護の勾玉】を、リーダーであるバッカニアにまとめて手渡す。

ラキから人数分の【加護の勾玉】を受け取ったバッカニアは、スパイキーとヨーキャに一つづつ渡して自らも首にかけてぶら下げた。

それはオーガ達の手首に装着するための腕輪なのだが、人族にとってはネックレスのように首にぶら下げる方がちょうど良いのだ。

「では、里の中を案内しよう。我についてきてくれ」

「承知した」

バッカニア達の準備が整ったので、早速一行はラキとともにオーガの里に入っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

里の中に入ると、会う人会う人全てがライトやレオニス、ラウルに話しかけてきた。

「ラウル先生、いらっしゃい!」「ライト君、後でいっしょに遊ぼー!」「レオニス、宴でまた腕相撲しようぜ!今度こそ負けんからな、覚悟しとけよ!」等々、皆ライト達を好意的に受け入れている。

それに対してライト達も「おう、久しぶり」「うん!」「フフン、次に勝つのも俺だ!」等々、明るく応えている。

その光景に、バッカニア達はただただ驚くばかりである。

「おおお……レオニスの旦那達がオーガと友達ってのは、ホントのことだったんだな……」

「というか、今度こそ腕相撲負けんからな!って……レオさん、やっぱ腕相撲でオーガを負かしてたんか」

「ラウル君って、オーガ族の先生なの? 一体何の先生してんの? ナゾいー」

バッカニア達が感心する一方で、レオニスがラキに今日の来訪目的を話している。

「今日ここに来たのは、オーガ族の服を譲ってもらおうと思ってな」

「我らの服を、か?」

「ああ。さっき里の外で紹介した俺の仲間達。その中で、一番身長が高いスパイキーな。人族の中ではかなりの巨体で、着る服にも困る有り様なんだ」

「ああ……確かに。お前よりも頭一つ以上は背が高いようだな」

レオニスの話に、ラキも納得している。

「あのくらいの背丈なら、オーガで言うところの大きな子供の服くらいが適切だと思うが……子供服でも良いのか? あのスパイキーという男、人族としては大人なのだろう?」

「サイズさえ合えば問題ない。そもそもお前らオーガの服って、違いがあるのは大きさだけでほとんど男女の区分もない作りだし」

「そうか。ならば里で子育て中の者達に、お下がりできる服があるか聞いてみよう」

道すがら相談しつつゾロゾロと歩き、行き着いた先はラキの家。

「中でリーネが料理を作っているところだから、リーネに頼もう。皆もひとまず我の家に入ってくれ」

「「「お邪魔しまーす」」」

「狭い家だが、寛いでくれ」

「ぃゃぃゃ、人族にしたらオーガの家は巨大だって」

「それもそうか。ハッハッハッハ!」

ラキのオーガ流ジョークに、レオニスが速攻でツッコミを入れる。

ライト達はもう見慣れたものだが、オーガの家を初めて見るバッカニア達はその大きさにずっとキョロキョロ見回している。

家はもちろんのこと、扉一つとっても巨大でかなり物珍しいようだ。

「俺、オーガの家なんて初めて見た……すんげーデカいなぁ」

「ここなら俺ですらチビッコ扱いだぜ!」

「何だか自分が小人になった気分だヨ……ウヒョヒョ」

ラキの後をおとなしくついていくライト達。

一同が通されたのは、ラキ家の客間。するとそこに、台所にいたリーネが客間に入ってきた。

旦那が早い時間に帰宅した気配を察知して、様子を見に来たのだ。

ラキの言う通り台所で料理中だったようで、珍しくエプロンを着けている。

「あなた、お客さん? ……って、レオニス君達だったのね!ようこそいらっしゃい!」

「よう、リーネ」

「リーネさん、こんにちは!」

「リーネさん、久しぶり」

ラキが連れてきた客人がレオニス達と知り、リーネの顔も綻ぶ。

しかし、それ以外の者がいるのも目敏く見つけたリーネ。早速レオニスに問いかけた。

「……あら? そちらの人族は……どなた?」

「こいつらは俺の冒険者仲間で、派手帽子がバッカニア、デカいのがスパイキー、ヒョロいのがヨーキャだ。よろしくな」

「まぁ、レオニス君のお友達なのね!なら大歓迎よ!」

胸の前で両手を合わせてパン!と叩きながら、花咲くような笑顔で新顔の来客達を歓迎するリーネ。

エプロン姿と相まって、何とも愛らしい美人若奥さんである。

そんなリーネの横で、ラキが今日のレオニス達の来訪理由を伝える。

斯々然々(かくかくしかじか) これこれこうで、とリーネに説明するラキ。

精悍で凛々しい顔立ちのラキと、スーパーモデル並みに整った目鼻立ちのリーネ。美男美女の族長夫婦が向かい合って会話する様子は、実に麗しい。まさに眼福である。

「子供達のお古やお下がりでいいの?」

「ああ、レオニスはそれでいいと言っているが」

「でも、あんまり擦り切れたようなボロいのはさすがに失礼よね」

「そこら辺はリーネに任せる。子供のいる家に声をかけてきてくれ」

「分かったわ。ラウル先生もいらっしゃってることだし、ママ友達を集めてくるわね!」

レオニス達の事情を聞いたリーネ、ラキの要請を快諾する。

「レオニス君、今からママ友達に話して子供服を持ってきてもらうから、少し待っててくれる?」

「おう、いくらでも待ってるからよろしくな」

「あ、あと、ラウル先生。子供服の件が無事に済んだら、その後に宴の料理のお話をしたいんですが……よろしいですか?」

「もちろん。俺もそのつもりで今日ここに来たんだ。また後で話そう」

「はい!じゃ、あなた、行ってくるわね」

「頼んだぞ」

リーネはエプロン姿のまま、客間を出て家の外に出かけていった。

ママ友達に子供服を持たせて集めるということなので、子供のいる家全部に声をかけてくるのだろう。

そうすると、三十分くらい待つことになるかもしれない。

「ねぇ、レオ兄ちゃん。そしたら僕、ルゥちゃん達と遊んできていい?」

「おう、里の外に出ない程度に遊んできな」

「うん!いってきまーす!」

先程ライトに声をかけてくれた子供達との約束を果たすために、ライトは早速外に遊びに出かける。

そもそもライトには、スパイキーの服集めに終始付き添い続けなければならない理由も必要もないのだ。子供は子供同士で遊ぶのが一番である。

元気よく駆け出していったライトを見送ったレオニスとラウル。

今度はラキに向かって話しかけた。

「そしたらラキ、今度の宴の話を聞かせてくれるか? 日取りはもう決まったのか?」

「ああ、それはだな―――」

「ラキさんよ、宴の参加人数はどれくらいなんだ? それに合わせて食材の用意をしたおきたいんだが」

「里の者全員が参加するので、およそ二百人くらいかと思うが―――」

レオニスとラウルは、ラキとともに近々催される宴の打ち合わせに入る。

その姿をおとなしく見ているバッカニア達。

俄には信じられない光景に、戸惑いを隠せない。

「レオニスの旦那達って、本当にオーガと仲良しなんだな……」

「異種族とこんなにも懇意にできるのも、レオさんだからこそ成せるんだろうな」

「というか、ライト君もラウル君も普通にオーガさん達と会話してるし……もしかして、ボク達よりもライト君達の方がずっと冒険者っぽい……?ウヒーン」

このサイサクス世界には、人族以外の種族も多数いる。

だが人族は人族として固まっていることが多く、異種族と交流を持つ場はあまりない。良くて獣人族や竜人族が人族の街の中で住んでいるくらいだ。

そしてバッカニア達も例に漏れず、冒険者仲間で獣人族や竜人族の流れを汲む者くらいしか異種族と接したことがない。

だが、目の前に広がる異種族間交流の光景は、バッカニア達が知る範疇をはるかに凌駕していた。

そのことに、バッカニア達はただただ感嘆するばかりであった。