軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第704話 門外不出の秘術

「おおお……土魔法を使うにしてもただ土を出すんじゃなくて、岩を出せばいいのか!」

「ああ、岩も土と同じ地属性の物質だからな」

「さすがはご主人様だ!やっぱり金剛級冒険者の肩書は伊達じゃねぇな!」

「ン? そ、そりゃまぁな?」

マキシが連れてきたレオニスに、黒い空間の潰し方のレクチャーを受けたラウル。レオニスが実践して見せた岩壁を作る土魔法を見て、心底感嘆の声を上げていた。

その画期的な手腕に、ラウルがレオニスに向けて惜しみない大絶賛を送る。

ライト相手ならともかく、ラウルがレオニスを手放しで褒めちぎることなど滅多にないことだ。

それ故か、褒めちぎられたレオニスの方もまんざらではなさそうだ。

フフン☆と照れているレオニスの横で、早速ラウルが岩壁をイメージしながら土魔法で岩壁を作り出す練習をしている。

レオニスほど瞬時に大きな壁が出せる訳ではないが、それでも岩を作り出すこと自体には成功していた。

「よし、これなら俺でも対処できそうだ」

「ならラウルはマキシと組んで、この蟲を送りつけてくる黒い穴を探して潰してくれ。俺も引き続き、黒い穴を見つけ次第岩で塞ぐ」

「分かった。俺達はライトに話をしてきてから再び森の探索に戻る」

「ライトにも頑張るように伝えといてくれ」

「了解」

レオニスは再び上空に飛び立ち、まだ潜む首狩り蟲の転移の元を一足先に探しに行く。

ラウルはマキシとともにライトのもとに戻り、事の次第をざっと話していった。

「そっか、やっぱりこの奥には蟲をこの場所に送りつける転移門みたいなものがあったんだね」

「ああ、俺達はそれを全部見つけ出して潰さなきゃならん。あの黒い穴が一体何個あるかは分からんが、俺達で片っ端から潰していけばいいだけのことだ」

「そうだね。塞いでいけばいずれはこの蟲も出てこなくなって、ツィちゃんを助け出すことができるようになるよね!」

「ええ、きっとユグドラツィ様をお助けすることができるわ!」

ライトが森の中で感じたあの嫌な感じは、やはり悪意の塊だったんだな―――ライトはラウルの話を聞きながら内心で思う。

そしてその対処法が見つかったということは、ライトにとっても朗報だ。ともに話を聞いていたアラエルも、ライトに同意しつつ喜んでいる。

「この鬱陶しい蟲どもを生み出し続ける元凶を完全に排除すれば、ツィちゃんの浄化作業に専念することができる。今が踏ん張りどころだ、皆で頑張るぞ!」

「うん!」「はい!」「ええ!」

ラウルが気合いを新たに入れ、ライトとマキシ、アラエルもラウルに負けないくらいに力強く答える。

そしてラウルとマキシはともに黒い空間探しに飛び立ち、ライトとアラエルもまた皆の回復所としての役割を果たすべく持ち場に戻っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうして一時間くらいが経過しただろうか。

あれほどしつこく涌き続けていた首狩り蟲がどんどん減っていき、ついには一匹も生きた首狩り蟲がいなくなった。

ようやく首狩り蟲の殲滅に成功したのだ。

ユグドラツィの周りや幹の上部には、首狩り蟲の残骸が死屍累々と積み重なっている。

それらの残骸の後始末もしなければならないが、今はユグドラツィの幹の内に宿る謎の繭のようなものを先にどうにかしなければならない。

蟲退治に奔走しなくてもよくなった八咫烏族長一族も含めて、回復所として待機していたアラエルのもとに全員が集まって今後の方針をどうするかを話し合うことにした。

「レオニス殿、これから一体どうするのだ?」

「ツィちゃんの幹の中に、何かとてつもなく悍ましいものがいることは間違いないんだが……それをどうすればいいのかが分からん。まさか幹をくり抜いて中を検める訳にもいかんし……」

「……ピィちゃんは、何か良い案はある?」

ウルスに話を振られるも、レオニスには良い案が浮かばないようだ。

そこでライトがピースに質問してみた。

魔術師ギルドのギルドマスターまで務めるピースならば、魔法もしくは魔術方面で何か良い策があるかも?と考えたためだ。

ライトに質問されたピースは、口元に手を当てながら思案顔でレオニスに向かって問いかける。

「ンーーー……あの上空に飛んでいるの、ヴィゾーヴニルだっけ? あの神鶏が発する光で瘴気が抑えられているなら、その謎の繭は浄化の力には弱いってことだよね?」

「多分な」

「なら、それより強い浄化の光を神樹に大量かつ長時間浴びせることができれば、瘴気もろとも謎の繭を消滅させることができる……んじゃないかな?」

「浄化の光を大量かつ長時間、か……今のヴィゾーヴニルが出してる光の何倍、何十倍もの浄化の力を出せってことだよな?」

「うん」

ピースの提案に、今度はレオニスが口元に手を当てて考え込む。

しばらく思案した後、ふと空を見上げてヴィゾーヴニルを見遣る。

「ヴィゾーヴニル、今でも結構頑張ってくれてるはずだが……あれ以上の出力を長時間出せるか……?」

「うーーーん……小生達はあの神鶏のことを殆ど知らないからねぇ……今どれくらいの力を出しながら飛んでいるか、それすらもさっぱり見当もつかないし」

レオニスの懸念に、ピースも頷きつつ同意する。

ヴィゾーヴニルは普段天空島にいて、地上の生き物との交流などほとんどない。レオニス達だって、ヴィゾーヴニルの姿を見るのは先日の天空島行きが初めてのことで、今日でまだ二回目。

神鶏の能力やその強さ、生態など全く知らないのだ。

「……とりあえず、今の話をパラスにして相談してみるか」

「あ、そしたら小生もレオちんについていっていい? 神鶏なんて規格外の存在にお目にかかれる機会なんて滅多にないし」

「おう、いいぞ。お前の魔術師としての意見も聞きながら話を進めたいしな」

同行者のパラスに話を通そうと言うレオニスに、ピースもいっしょに行きたいと言い出した。

それは、ただ単に魔術師としての興味本位から来るものなのかもしれないが、この場にいる者の中で最も魔術に長けているのはピースである。

浄化魔法などをヴィゾーヴニルとともに使うとしたら、ピースの助力も欠かせないものとなるだろう。

故にレオニスもピースの要望をすぐに快諾したのだ。

「じゃ、ちょっくら行ってくるわ」

「いってきまーす!」

「いってらっしゃーい、気をつけてねー!」

ライト達に見送られながら、レオニスと箒に乗ったピースがヴィゾーヴニルのもとに飛んでいく。

パラスは常にヴィゾーヴニルに付き添っているため、ライトやレオニス達が今地上で行っている今後の作戦会議には参加していない。

しかし、ユグドラツィの身にまとわりつく瘴気や身の内に潜む悍ましいものを排除するには、ヴィゾーヴニルの浄化の力が欠かせない。

故に、ヴィゾーヴニルのことをよく知るパラスへの相談が必須なのである。

早速レオニス達はヴィゾーヴニルのもとに飛び、近くにいるパラスに声をかけた。

「パラス、すまん、ちょっと相談したいことがあるんだが、いいか?」

「おお、レオニス!地上に涌いていた蟲どもの殲滅に成功したのだな!よくやった!」

パラスのいる位置からも地上の様子が見えるようで、レオニス達が首狩り蟲を殲滅したことを彼女も見て知っていた。

レオニス達の功績を讃えるパラスに、レオニスが改めてヴィゾーヴニル他天空島の面々に感謝する。

「おう、ありがとう。これもヴィゾーヴニルのおかげだ。それに、ヴィゾーヴニルという強力な援軍を連れてきてくれたパラス、そして派遣を許可してくれた雷の女王のおかげだ」

「うむ!天空島に御座す女王様方の御厚情、ひいてはそのことに思い至り感謝の心を示せるとは、お前もなかなかに見所のある善き人間なのだな!」

ユグドラツィの危機に駆けつけたヴィゾーヴニルだけでなく、同行してきたパラスや派遣を許可した雷の女王への感謝を欠かさないレオニス。

そんなレオニスの謙虚な態度に、パラスも満足げにうんうん!と頷きながら嬉しそうにレオニスを褒め讃える。

「でな、早速なんだが。蟲退治が完了した今、今度はツィちゃんの中に巣食う邪悪な存在を殲滅させなきゃならん。それにはまだまだヴィゾーヴニルの力が必要なんだ」

レオニスは今地上で話し合ったことを、余すことなくパラスに伝えた。

邪悪な存在を祓うにはヴィゾーヴニルの力が必要だが、今どれくらいの余力があるのか。今以上に浄化の力を発揮できるのか。それらが今レオニスの最も気になるところだ。

パラスはしばらく考え込んだ後、レオニスに己の意見を告げる。

「ふむ……ヴィー様は夜明けを告げる守護神であることは、お前達人族も知っているか?」

「あ、ああ、夜明けとともにその鳴き声で時を紡ぐ鶏、だよな? 人族に伝わる伝説の中で、そう聞いたことはある」

「そう。ヴィー様はその役割上、夜明けの時に一番力を発揮なさるのだ。払暁の空を背にしたヴィー様の鳴き声は、万の邪竜をも瞬時に落とす程の強さを秘めておられる」

「そうなのか!? 万の邪竜を瞬殺とは、そりゃすげぇな……」

パラスの語る話に、レオニスの顔は驚愕に染まる。

守護神である鶏の鳴き声ならば、さぞかし強い浄化の力を持っているだろう。万の邪竜とはまた大袈裟な喩えだが、もしかしたら実際に何百何千の邪竜を夜明けの盛大な一声で落としたことがあるのかもしれない。

「幸いにも今は夏。夜明けの時は他のどの季節よりも早い」

「そうだな……そしたら、夜明けになったらヴィゾーヴニルの鳴き声で一気に畳みかけるのがいいか?」

「ああ。それまでヴィー様には力を温存していただくため、夜明けに至るまでの間、お前達にはあの瘴気を抑えていてほしい」

「夜明けが来るまで、俺達が浄化魔法を使って時間稼ぎをすりゃいいんだな?」

「そういうことだ」

ここでふとレオニスが空を見上げる。

辺りはまだ漆黒の夜の闇に包まれていて、まだ夜明けになるまで時間がかかりそうだ。

時間にして三時間か四時間は堪え続けなければならないだろう。

それまでの間、レオニス達はできるだけあの黒い瘴気を抑え祓い続けなければならない。

ユグドラツィが謎の敵に攻撃を受けてから、もう何時間も経過している。

これ以上ユグドラツィの身に深刻なダメージが蓄積されていけば、夜が明ける前にその生命が失われてしまうかもしれない。

それだけは、何としても避けなければならなかった。

するとここで、それまで黙って話を聞いていたピースが初めて口を開いた。

「……そしたら、小生が門外不出の秘術を出そう」

「秘術? お前にそんなもんがあるとは初耳だが……一体どんなもんなんだ?」

「えーっとねぇ、これ、誰にもナイショね? レオちんは、身体能力を何倍にも強化する呪符を知ってるよね?」

「あ、ああ。十分間とか二十分間とかの短時間だが、攻撃力や魔法の威力なんかを高める呪符が何種類かあるよな?」

「そうそう、それそれ。それらは基本的に呪符として描くものであって、魔法陣展開するもんじゃないんだけど。小生は呪符として描けるものは全て魔法陣展開できるのよ」

「…………マジか?」

「マジマジ」

ピースが言わんとしているところを、早々に理解したレオニス。

その目は大きく見開き、信じられないことを聞いたかのような顔つきになっている。

このサイサクス世界における呪符とは、破ることで発動する短時間型と置いたり貼ったりして呪符そのままで使う長期間型の二種類がある。

物理攻撃力や魔法攻撃力のアップ、いわゆるドーピングアイテムの類いは前者の短時間型消耗品で、使う本人が破ることで効力を発揮する。

しかし、鶏であるヴィゾーヴニルに、レオニス達人族が使う呪符を自ら破ることができるかどうかは微妙なところだ。嘴で突つくことで破けるかもしれないが、間違って口の中に入ったらそのまま食べてしまいそうである。

そして、こればかりはパラスが代理で破っても意味がない。それではパラスの方に呪符の効果が発動してしまうだけである。

だが、紙と墨で作る呪符ではなく、空中に能力強化の魔法陣を展開できるのであれば、そうした懸念は一切なくなる。

これは、ヴィゾーヴニルの鳴き声に完全浄化を賭けるしかないレオニスにとってもかなり魅力的な提案だった。

「……よし、そしたらピースはこのままパラスと打ち合わせしててくれるか。ヴィゾーヴニルの能力強化とか、俺にはさっぱり分からんだろうからな。その間俺は下に戻って、ラウルや八咫烏達に夜が明けるまでの時間稼ぎのことを話してくる」

「分かった、そしたらレオちんはそのまま時間稼ぎの方についてて!呪符の魔法陣をどう使うかとか、この天使ちゃんと話し合って決めておくから。方針が決まったら、また教えるよ!」

「おう、よろしくな!」

ヴィゾーヴニルの能力強化はピースに任せることにして、レオニスは再びライトやラウル達と合流すべく急いで下に向かっていった。