軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第697話 思いがけない援軍

そうしてどれくらいの時間が経っただろうか。

目覚めの湖の方向から、八咫烏モードのマキシが飛んで帰ってきた。

「ラウルーーー!!」

「……マキシ!」

大きな八咫烏姿のマキシがラウルのもとに辿り着いた。

その背には、八咫烏の里への往復で世話になったであろうウィカも乗っている。

「どうだ、あの黒いのについて何か分かったか!?」

「うん、やっぱりあれはかなり悪いものみたい……」

ラウルは虫退治の手を一旦止めて、マキシの話を聞き入ることにした。

マキシは八咫烏の里にいるユグドラシアに聞いたことを、早速ラウルに話していった。

…………

………………

……………………

「シアちゃん!」

『ああ、マキシ……よく来てくれました……』

「「「マキシ!!」」」

「父様、母様!?」

ウィカの力を借りて、目覚めの湖から八咫烏の里のモクヨーク池に移動したマキシ。一目散にユグドラシアのいる里の中央に向かう。

八咫烏達は夜になると各々の巣に戻り、寝る習性がある。

こんな夜中に突然押しかけるなど、安眠妨害の大迷惑以外の何物でもないのだが。何故かそこにはウルス他多数の八咫烏達が起きていて、皆ユグドラシアのもとにいた。

マキシの家族である族長一族以外の他の八咫烏達も、遠巻きながらもユグドラシアを心配そうに見つめている。

「こんな夜中に押しかけてすみません……というか、父様や母様に、兄様や姉様達まで起きているなんて……どうしたんですか?」

「それが……日が完全に落ちた頃から、シア様の様子がずっとおかしくてな」

「シア様がずっと怯えていらっしゃるのよ……ミサキが言うには『ユグちゃんの妹のツィちゃんが危ないって!』と……」

普段ならもうとっくに就寝しているはずの、ウルスやアラエル達が起きていることがマキシには驚きだった。だが、その理由を聞けば納得できた。

大神樹ユグドラシアに久しぶりに会うマキシの目にも、彼女が怯え震えているのが分かる。強い風が吹いている訳でもないのに、大神樹の枝葉が激しく揺れ動いていて、ザワザワと大きな音を立て続けているのだ。

激しく動揺しているユグドラシアの幹には、ミサキがぴったりとくっつくようにして抱きついている。怯え嘆くユグドラシアを、宥めながら勇気づけようとしているのだ。

ウルス達も、ユグドラシアの異変にとても寝るどころではなかったのだろう。

「僕もその件でここに来ました。今、シアちゃんの妹である五番目の神樹、ユグドラツィのツィちゃんが何者かに襲われています」

「何と……このカタポレンの森の中で、そのような大それたことが起きているとは……」

「ツィちゃんの幹や枝に無数の虫型魔物が群がり、樹体全てを黒い炎のようなものが覆い尽くしています。シアちゃんにも見えていますよね?」

『ええ……その光景が、分体を通して……今も鮮明に見えています……ああ、ツィが……ツィの生命が……闇に蝕まれて消えていく……!!』

マキシの問いに、ユグドラシアが悲痛な声を上げる。

その悲鳴にも等しい叫び声は、ウルス達の耳にも届き聞こえていた。

ユグドラシアの痛々しい姿に、ウルス達も苦痛に顔を歪める。

そんな中、マキシだけは毅然とした声でユグドラシアに問いかけた。

「シアちゃん、今ラウルがツィちゃんの傍にいて、懸命に虫型魔物を退治し続けています。ですが僕達には、あの黒い炎が一体何なのか分かりません。僕はあの黒い炎を何とかするために、ここに来ました。シアちゃんには、あれが何だか分かりますか?」

『…………あれが放つ気配に、覚えがあります』

「!! それは一体何ですか!?」

『あれは……かつてこの里を襲いし、数多の骸骨ども―――それらがまとっていた禍々しい気配と同じものです』

「「「「「!!!!!」」」」」

ユグドラシアの言葉に、マキシ達は激しい衝撃を受ける。

それは、百年以上も前に八咫烏の里で起きた悲劇。スケルトン軍団に拐われたマキシが、身体の奥深くに穢れを埋め込まれるきっかけとなった事件。

それはウルス達族長一族だけでなく、この八咫烏の里全体に暗い翳と深い不和の亀裂をもたらした元凶である。

「森の番人殿が言っていた、『廃都の魔城の四帝』なる者共か……其奴等が、再び神樹を襲っているのか……」

「我等八咫烏族がお守りするシア様のみならず、その妹御であらせられるツィ様にまで毒牙を伸ばすとは……」

「絶対に許せん!」

ウルスだけでなく、マキシの兄姉達までもが全員憤慨している。

かつてこの里が受けた多大な被害。その時の黒幕が、再びこのカタポレンの森の中で凶悪な 謀(はかりごと) を企み蠢いている。

それだけでも許し難いというのに、その標的が自分達が守るユグドラシアの縁者とあれば尚のこと、彼らにとっても見過ごすことはできなかった。

「シアちゃん、そしたらあの黒い炎はどうすればいいですか!?」

『虫型魔物は、スケルトン同様物質体なので一匹残らず倒すことで退けられましょう。ですが、あの黒い靄のようなものは……おそらく物理攻撃は一切効かず、魔法攻撃もほとんど通用しません。効くとしたら、破邪に有効な浄化魔法か神聖魔法くらいしかないでしょう』

「浄化魔法……ラウルは浄化魔法を使えるはずなので、今も虫型魔物を退治しながら魔法もかけているとは思いますが……」

『ええ……あの規模は、ラウル一人の浄化魔法では到底追いつきません……ああ、ツィ……ツィ……!!』

マキシの問いかけに、ユグドラシアが答えながらも続けて小さな悲鳴を上げる。

こうして問答をしている間も、ユグドラツィは謎の黒炎や虫型魔物に襲われ続けていて、ユグドラシアもまたそれを分体を通して見続けるしかないのだ。

ユグドラシアの悲痛な叫びに、ウルス達の顔はさらに苦痛に染まる。

しかし、ひとまずあの黒い炎の対処法は聞けた。

浄化魔法を会得してないマキシには、黒い炎の対処に当たれそうにない。だがそれでも、ラウルに加勢して虫型魔物を退治することならできるはずだ。

一刻も早くユグドラツィのもとに帰る決意をしたマキシ。

そんなマキシに、ウルスから思いがけない提案が飛び出してきた。

「……とりあえず僕は、ツィちゃんのもとに戻ります。僕には浄化魔法は使えませんが、虫型魔物を退治するくらいなら僕にも出来るはずですから」

「マキシ、我等も行くぞ」

「……父様が来てくれるのですか!?」

「私だけではない、母さんや他の子も行こう」

父親(ウルス) からの申し出に、マキシがびっくりした顔で問い返す。

マキシの出身であるこの八咫烏の里の者達は、里の外に出ることを良しとしない種族だ。何故ならば、彼らにとっての第一義は『大神樹ユグドラシアを守ること』であり、里から離れることはその第一義を放棄するに等しい行為だからである。

だが、ウルスの決めたことに反論する者は誰もいない。

それどころか、皆口を揃えて加勢に参加するという。

「ええ!回復魔法や浄化魔法なら私に任せて!八咫烏 一(いち) の聖女と呼ばれた母さんの十八番よ!」

「もちろん私も行くぞ。シア様のご家族の危機とあっては、黙って見ている訳にはいかん」

「そうよ!それにあの時の奴等が絡んでいるなら、それは私達にとっても討つべき敵よ!」

「今こそマキシの仇を取る時だわ!」

「シア様をお守りし、なおかつマキシの仇まで取れる機会だ!」

「まさに一石二鳥だよね!」

マキシの母アラエルやフギン、ムニン達兄姉までもが全員やる気満々で気炎を上げる。

家族達のあまりにも頼もしい姿に、マキシの目にうっすらと涙が浮かぶ。

「父様、母様、兄様、姉様、皆ありがとう……そしたらミサキだけはここに残って、シアちゃんの傍にいてあげて。シアちゃんも一人だけじゃ寂しくて心細いだろうから」

「うん!ユグちゃんのことは任せて!私が絶対に守ってみせるから!」

「頼んだよ、ミサキ」

「マキシ兄ちゃんも、父様母様兄様姉様も、皆頑張って……絶対にユグちゃんの家族を助けてね!」

「ああ、絶対に皆でツィちゃんを助けるから、ミサキもシアちゃんといっしょにここで待ってて」

「うん!!」

マキシがミサキと会話している間、ウルスはウィカと何かを話していたようで、マキシに声をかける。

「マキシ、ウィカ殿の話によると、さすがに我等八羽を一度に全員移動させるのは無理そうだから、二回に分けて移動してくださるそうだ」

「分かりました。そしたら僕と父様、フギン兄様、ケリオン兄様が先行しましょう。母様とムニン姉様、トリス姉様、レイヴン兄様はその次に来てください」

「分かったわ!」

マキシが第一陣と第二陣のメンバーを指名し、テキパキと分けていく。

その分け方にもきちんと理由があって、マキシはユグドラツィの居場所が分かっているからすぐに案内できる。一方第二陣に回された四羽は、気配察知や探索が得意な者達だ。

第一陣のマキシ達が向こうに到着した後、すぐにユグドラツィのもとに飛んでいっても第二陣のアラエル達はマキシやウルスのいる場所を察知して追ってこれる、という寸法である。

だいたいの方針が決まったところで、ユグドラシアがマキシに話しかけてきた。

『マキシ……ツィを……ツィを助けてやってください……』

「……もちろんです!ツィちゃんも僕の大事な友達です!絶対にツィちゃんを助けてみせます!」

『……ああ……どうか、どうかお願いします……』

「マキシ兄ちゃん、頑張って!」

「ああ、ミサキもシアちゃんのことをよろしくね」

「うん!!」

最後には消え入りそうな声で、マキシに嘆願するユグドラシア。

例えユグドラシアの頼みがなくても、マキシはユグドラツィを救う気だ。そのために、ウィカにも協力してもらってこの八咫烏の里に来たのだから。

ユグドラシアの願いをミサキの激励を受けたマキシは、ウルス達に向かって改めて声をかける。

「ではまずモクヨーク池に行きましょう。ウィカちゃん、何度も働かせて申し訳ないけど、よろしくね」

「うにゃーん!」

こうしてマキシ達は、神樹ユグドラツィの危機を救うべくモクヨーク池から目覚めの湖に移動していった。

……………………

………………

…………

「そうか、やはり浄化魔法か神聖魔法でないとあの黒い炎は消せんのか……」

「シアちゃんはそう言ってた」

マキシから掻い摘んだ話を聞いているうちに、第一陣のウルスやフギンがマキシのもとに着いた。

本来の魔力を取り戻したマキシの全速力の飛行スピードに、ウルス達も全力でついていったが追いつききれなかったのだ。

「マキシ!シア様の妹御のツィ様がここにおられるのだな!?」

「はい!」

「これは……何という禍々しき氣か……」

「確かにこれはシア様の仰る通り、あの骸骨どもと同じ気配がしますね……」

マキシのもとに馳せ参じたウルス達が、ユグドラツィを取り巻く想像以上に酷い惨状を目の当たりにして絶句する。

ユグドラシアからユグドラツィの危機だと聞いてはいたが、その映像を見られたのはユグドラシアのみで、ウルス達にはどれほどのものか分かりようがなかったのだ。

だが、現状を見て彼らは心から理解する。常に冷静沈着なユグドラシアが、あれ程までに動揺し痛ましい叫び声を上げていたのは、この光景をずっと見ていたからなのだ―――と。

その胸中や如何ばかりか。それを思うと、ウルス達もまた胸が張り裂けそうな思いに駆られる。

そしてラウルの方は、マキシといっしょに八咫烏の族長一族が現れたことにびっくりしている。

ラウルもまたマキシを通して八咫烏の習性にはかなり詳しい。それ故、八咫烏達が己の里の外に出ることがどれ程異例なのかをラウルも承知していた。

「あんた達……マキシといっしょに加勢しに来てくれたのか?」

「ああ、マキシから話は聞いた。シア様の妹御の危機とあらば、放っておく訳にはいかん」

「シア様の守護が我等の使命だが、シア様のご家族を守ることもまたシア様をお守りすることに繋がるからな」

「シア様のご家族が失われてしまったら、シア様の御心まで深く傷を負ってしまう。それは我等にとっても耐え難きことであり、絶対に阻止せねばならん」

「…………ありがとう」

ウルス達の言葉に、ラウルが小さな声で礼を言いながら頭を下げる。

そうこうしている間に、今度は第二陣のアラエル達がラウル達のもとに現れた。八咫烏族の援軍が勢揃いである。

八咫烏が全員揃ったところで、ウルスが先頭に立ち八咫烏達に指示を与えていく。

「さぁ、のんびりしている暇はないぞ。私達男衆は虫退治、女衆は浄化魔法に手分けして事に当たろう。アラエル、この黒い炎は触れるだけで何かしら障りがありそうだ。皆にとびきりの浄化魔法をかけてやってくれ」

「分かりました!」

「皆も定期的に母さんのところに戻って、浄化魔法をかけ直してもらえ。これだけの大量の悪しき氣だ、一回かけただけで終わらせられるとは到底思えんからな」

「「「はいッ!!」」」

「アラエルはここで待機しながら、神樹の樹体に向けて浄化魔法をかけてくれ。子供達の浄化魔法かけ直しもあるから、無理のない範囲で頼む」

「はい!!」

ウルスの指示を受けて、アラエルが我が子達に最上級の浄化魔法を順番にかけていく。キラキラとした温かい粒子が八咫烏の身体を包み、ゆっくりと浸透していく。

母親(アラエル) に浄化魔法をかけてもらったマキシの兄姉達は、己の持ち場に向かうべく次々と飛び立っていく。

テキパキと指示を終えたウルスは、改めてラウルに向かって話しかけた。

「この悪しき罠は、かつて我が里を襲いし骸骨どもと同じものらしいな。シア様がそう仰っておられたが、それに相違ないか?」

「あ、ああ、うちのご主人様、レオニスもそう言っていた。この黒い炎は廃都の魔城の空気と同じ気配だ、と」

「そうか。ならばこの戦、我等にとっても全力で戦うに値する。我が息子マキシを襲い、長年搾取し虐げ続けてきた輩共―――絶対に許さぬ」

「ああ、そうだな……このカタポレンの森で奴等の好きにはさせん。完膚なきまでに叩きのめしてやる!!」

今起きている事態の黒幕、廃都の魔城の四帝。

マキシやユグドラシアのみならず、ユグドラツィにまで害を及ぼし魔の手を伸ばす者共。

世界に生きる全ての者に等しく仇なす仇讐への殲滅を、心に堅く誓うラウルとウルス。

二者は無言のまま頷き合い、それぞれ虫型魔物の退治に向かっていった。