軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第673話 絶望の闇と一条の光

海底神殿に向かうライト達一行。

その道すがら、ライトは水の女王に問うた。

「水の女王様、初めての海に来て体調はどうですか?」

『今のところ大丈夫、何ともないわ』

「そうですか、それなら良いけど……もし何かあったら、すぐに言ってくださいね?」

『もちろんよ!今日はライトに呼んでもらう前に、アクア様から魔力をたくさんいただいたし!それに、ライトとの約束だって決して忘れてなどいないわ』

元気に答える水の女王の様子を見るに、空元気という訳ではなさそうだ。

ライト達のその会話に、海の女王も心配そうに水の女王の顔を覗き込む。

『水の姉様、本当に大丈夫ですか? 海の水は姉様の住む湖の水とは全然違うでしょう?』

『そうねー。水自体が塩辛いけど、それくらいしか違わないし』

『姉様の湖の方が、ここよりもっと綺麗な水なのでは?』

『あー……目覚めの湖はしょっぱくないってだけで、海の水と大差ないわよ? クラーケンのイーちゃんを始めとしてたくさんの魚介類が生息してるし、水底には水草もたくさん生えてるし』

『そうなのですね。それを聞いて、何だかちょっと安心しました』

水の女王曰く、塩分濃度の違い以外は湖も海も大差ないという。

確かに目覚めの湖にはイードの他にも魚や貝類がたくさん住んでいる。そして水の女王が寝そべるベッド代わりの褥も、水草でできている。

数多の生物が住む場所の水は、思うほど清浄ではないのだ。

話をしながら海底神殿の中に入り、ソファのある場所に移動するライト達。

水の女王は神殿の中にあるソファやテーブル、ベッドなどの様々な家具を見ては、その目をキラキラと輝かせる。

『海の女王ちゃんのおうちには、珍しいものがたくさんあるのね!』

『これらは主に人族の沈没船から出てきた品々の中で、便利そうなものを学び模したものなので……もとはと言えば人族の文化ですね』

『そうなのね。私の住む目覚めの湖はカタポレンの森の中にあるから、ライト達以外の人族なんて滅多に来ないのよねぇ……それでも最近はライト達のおかげで、人族の作る美味しい食べ物なんかをご馳走になったりしてるけど』

海の女王が用いる人族の文化の結晶?である家具類を、羨ましそうに眺める水の女王。

確かに目覚めの湖には全くと言っていいほど人族は近寄らないので、海底神殿にあるような人族特有の文化は持ち込まれていない。

水の女王がいつもいるのは水草でできた褥だし、テーブルや椅子といった便利な家具類も皆無だ。

もっともそれは水の女王だけに限らず、他の属性の女王の住まいもほぼ似たようなものなのだが。

珍しい家具類を一通り眺めた後、一行は応接ソファに座った。

テーブルを挟んで向かい合うロングソファ二脚に、片方には水の女王と海の女王が隣同士に座り、もう一つのソファにライトとレオニスが横並びに座る。

ちなみにウィカとアクアは、祭壇前のベッドでダウンしている人魚達の見舞い?に行っている。

『そうなのですか……水の姉様も目覚めの湖で楽しく過ごしておられるのですね。日々平穏に暮らせるのは良いことです』

『まぁねー、変化が乏しくて退屈でもあるけれど』

『水の姉様、平穏な日々というのは素晴らしいことですよ? 私のところのように、沈没船がもたらす海洋汚染やら縄張り争いやら、果てはデッちゃんが起こす問題やらで波瀾万丈だらけというのも、気が休まりませんから……』

海の女王の住環境を羨む水の女王に、海の女王は己の苦労話を零す。

平穏と退屈は表裏一体だが、その平穏に恵まれない海の女王にとっては水の女王が零す退屈な日々こそが羨ましいのだ。

互いに隣の芝生は青く見えるものなのである。

『デッちゃんというのは、海の女王ちゃんのところの守護神様のこと?』

『はい。ディープシーサーペントという海蛇型の、強大な蛇龍神です。此度そこにいるレオニスに、人族から苦情が出ているということを聞きまして……先程デッちゃんにここに来るように、強く要請したところなんです』

『苦情って……一体どんなことをしたらそうなるの?』

水の女王は人族やそのコミュニティとほぼ関わりがないので、何をどうしたら苦情なんてものがレオニス経由で寄せらるのか、さっぱり分からない。

そんな水の女王の問いに、海の女王はこれまでの経緯を話して聞かせた。

『まぁ、それはいけないわね……私達にも私達の縄張りがあるように、人族にだって人族の縄張りがあるでしょうに……そこを頻繁に荒らすのはとても良くないことだし、デッちゃんにとっても危険なことだわ』

『そうなのです……だから私も、デッちゃんに何度も繰り返し注意はしてるんです。そのうち人族に痛い目に遭わされるわよ、って……でも、あの子はちっとも私の言うことを聞いてくれなくて……』

水の女王の言葉に頷きながら、しょんぼりとする海の女王。

彼女の日頃の苦労が忍ばれるというものである。

『そうね、決して人族の力を侮ってはいけないわ……レオニスだって、アクア様と目覚めの湖で二回水中で追いかけっこして、その二回とも勝っているのよ』

『ええッ!? そうなんですか!?』

水の女王の話に、それまでしょんぼりしていた海の女王がガビーン!顔になる。

それまで水の女王と向かい合っていた海の女王は、その首をギュルン!とレオニスのいる方に向けて、思いっきりレオニスの顔を凝視している。

水神と水中で追いかけっこして勝つ人族って、一体何?意味分かんない!という彼女の心の叫び声が聞こえてきそうな表情だ。

「ン? 俺の顔に何かついてるか?」

『い、いえ……アクア様と水中で追いかけっこなんて、とんでもない人族もいたものだと思って……』

「あー、追いかけっこなんてのはお遊びの一つだが、たとえ遊びであっても勝負は勝負に違いないからな。ならば俺だって、例え相手が水神であろうと全力でぶつからんとな!」

『ぇー、そういう問題ではないと思うのだけど……』

アクアとの追いかけっこの話に、レオニスがニカッ!と爽やかな笑顔で応える。

水神相手に全力でぶつかったところで、大抵の人族は勝ち負け以前に一瞬で瞬殺されて惨敗を喫するのがオチなのだが。

海の女王は、レオニスのことを何か信じられないようなものを見る目つきで見つめるも、レオニスにそれが通じる気配は一切ない。

だがしかし、水の女王の話を聞いた海の女王は、ますます不安が募る。

海の女王とて決して人族を侮っていた訳ではないが、まさか水神相手に水中で勝負をして勝つ人間がいるとは思ってもいなかった。

もしそんな規格外の実力者がレオニス以外にもゴロゴロいて、それらが束になってディープシーサーペントの討伐に乗り出したら―――如何にディープシーサーペントといえども、太刀打ちできずに命を奪われるのは必至だ。

『姉様、どうしたらいいんでしょう……このままでは、本当にデッちゃんが人族に殺されてしまうかも……』

『人族をそこまで追い詰めてしまう前に、何とかデッちゃんに行動を改めてもらわないといけないわ』

『でも、本当にどうしたらいいのか……先程念話でデッちゃんを呼び出したので、もうすぐここに来るはずですが……もし今日も私の話に耳を傾けてくれなかったら……私にはもう、成す術がありません……』

海の女王がどんどん悲壮な顔になっていく。

このままでは、本当にレオニスが言った未来が現実のものとなってしまう。

大怪我程度で済めばまだいいが、もし万が一ディープシーサーペントが人族の手によって討伐されてしまったら―――そう考えただけで、海の女王は身体の震えが止まらない。

次第に海の女王の目が座りだす。眉間に皺を寄せ、眦にはうっすらと涙を浮かべながら『もしデッちゃんを殺したら……絶対に許さない……』『私の存在全てを賭けて、大陸全てを飲み込んで海の底に沈めてやる……』などと、壮絶に物騒なことを呟き始めているではないか。

これはマズい、非常にマズい、何とかしなくちゃ……とライトが考えあぐねていた時。

ふとライトの視線の先にいた、アクアの姿が目に留まる。

アクアを見たライトの頭の中に、ピコーン☆と一つの案が浮かんできた。

「……海の女王様、アクアからもデッちゃんに話をしてもらったらどうでしょう?」

『……アクア様、に?』

「ええ。アクアも目覚めの湖にある湖底神殿の守護神ですし。同じ守護神で水に住む者同士、話が通じることもあるんじゃないですか?」

『…………』

ライトの提案に、それまで目が座っていた海の女王の半目が次第に大きく開かれていく。

確かにディープシーサーペントとアクアは似たような立場だ。属性の女王が住まう神殿の守護神として、女王を守る役目がある。

もっともディープシーサーペントの方は、海の女王や海底神殿から離れて世界中の海をあちこちフラフラと遊び回っているようだが。

「おお、そりゃ良い案だな!アクアも水神だし、神としての格も蛇龍神に劣ることはないだろう」

『そうね!アクア様は水属性の最上位の御方、デッちゃんもアクア様の話ならきっと聞いてくれるわ!』

レオニスも水の女王も、ライトの案に大賛成する。

同じ守護神同士、話をしてみるだけでも大いに価値はある。

例えディープシーサーペントが普段から海の女王の話をあまり聞かなくても、水神アクアの話なら少しは耳を貸すかもしれないのだから。

『……いと尊き御方に、そのようなことをお願いしてもよろしいのでしょうか……?』

『もちろんよ!私だって、海の女王ちゃんが大事にしている守護神にもしものことがあったら、すっごく悲しいもの!』

「そうですよ!デッちゃんと人族、皆のを守るためにこの際使える手は何でも使わないと!」

「だな。このままじゃ本当に、人族と海の女王達の全面戦争に突入しかねん。それだけは何としても避けなきゃな、俺達だって皆とはこれからも仲良くしていきたいし」

躊躇いがちに尋ねる海の女王に、水の女王もライトもレオニスも肯定的な言葉をかける。

ライト達に背中を押された海の女王の顔が、だんだん晴れやかになっていく。それは絶望の闇の中に射し込んだ、一条の光を見い出したかのような眼差しだった。

『姉様、ライト、レオニス……ありがとう』

「とんでもない!そしたら早速アクアを呼んで、デッちゃんが来る前に話をしておきましょう!」

「そうだな、じゃあ俺がアクアを呼んでこよう」

「ぼくも行く!女王様達はここで待っててくださいね!」

『ありがとう、よろしくね!』

礼を言う海の女王に、ライト達は当然のことをしたまで、とばかりに話を進めていく。

祭壇前のベッドのところにいるアクアのもとに、ライトとレオニスが泳ぎ寄っていく。

二人の人族の背中を、海の女王はただただ感謝の眼差しで見つめていた。