軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第643話 竜族の誼

ユグドラエルのもとを去り、森の中にあるドライアドの里の泉に到着したライト達。

空から移動していた白銀の君も泉の畔に降り立つ。

「おお、これがドライアドの泉の泉か。ライト達から聞いていた通り、結構な大きさがあるな」

『ええ、これなら間違いなく私の身体よりも大きいですね』

「しかし……それを抜きにしても、綺麗な泉だな」

『本当に……エルちゃん様の御座す島に相応しい美しさですね……』

泉を初めて見るレオニスと白銀の君は、泉の澄んだ清らかさに感嘆する。

自分達の大事な泉を褒められて、レオニスの周りにいるドライアド達も『フッフーン、でしょでしょ?』『私達が守る泉ですもの!』と、それはそれは鼻高々である。

「さて、そうするとどう移動すりゃいいんだ?」

「そうだねー、今回は白銀さんもいるから……まずウィカ以外の全員を白銀さんの背中に乗せてもらって、その白銀さんをウィカが触ればいいんじゃないかな?」

「そうだな、それが一番簡単で確実か」

ライトとレオニスが移動方向を検討している。

今回は白銀の君という初めての大物ゲスト?がいるので、普段の移動とは少々勝手が違うのである。

「白銀の君、俺達を背中に乗せてもらっていいか?」

『いいですよ。どうぞ乗りなさい』

「ありがとうございます!」

白銀の君の許可を得たライト達。

白銀の君はライト達が乗りやすいように、地に伏してその背に迎え入れる。

ウィカ以外の全員が「お邪魔しまーす」『ありがとう、よろしくね!』などと白銀の君に言葉をかけつつ乗り込んだ。

出立の準備が完了したので、今度はドライアド達に別れの挨拶をする。

「ドライアドの皆も、今日はありがとうな」

『どういたしまして。私達も今日はとっても楽しかったわ!』

「ぼくも皆に会えて、すっごく楽しかったです!」

『またいつでも遊びに来てね!』

「美味しいものをたくさん作って持ってくるからな」

『楽しみにまってるわ!』

ライト達の周りにいたドライアド達に、皆それぞれ礼を言う。

ドライアドの里の泉があるおかげで、地上から天空島への移動が容易にできるようになる―――これはライト達にとって、かなり大きな前進であり成果だった。

ドライアド達への挨拶を済ませたライトは、泉の水面で待機していたウィカに声をかけて合図を送る。

「ウィカー、目覚めの湖までよろしくね!」

「うなーん!」

糸目笑顔のウィカが、ライトの合図に元気よく応える。

ウィカの周りにもたくさんのドライアド達がいて、皆それぞれに『ウィカちゃん、また来てね!』『またふわふわの身体に触らせてね!』『ウィカちゃん、大好き!』等々、撫でたり頬ずりしたりしながら名残惜しそうに声をかけている。

白銀の君がその首を伸ばし、ウィカの前に頭を下げる。

ウィカも白銀の君の鼻先に手を伸ばし、ぷにぷにの肉球でチョイ、と白銀の君の鼻に触れた。

すると、ウィカとともに白銀の君の巨体がするりと泉に吸い込まれていく。

こうしてライト達は、天空島を後にして目覚めの湖に移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

数瞬の水中遊覧?の後、目覚めの湖に到着したライト達一行。

ザッパーン!と白銀の君が水面から顔を出して、空中に飛び上がる。

『ぷはーーーッ!』

白銀の君が勢いよく息を吸い込む。水中移動中、ずっと息を止めていたためである。

そしてすぐ近くにあった陸地、湖の中の小島に上陸した。この小島は、ライト達がいつもピクニックの昼食時などに使っている小島だ。

何百年と生きる竜の女王であっても、水中移動は生まれて初めてのことだ。さぞや緊張と驚きに満ちていたに違いない。

ハァ、ハァ、と息が上がっている白銀の君、ライト達が労いの声をかけつつその背から降りていく。

「白銀の君もご苦労さん」

「白銀さん、お疲れさまでした!」

「お邪魔しましたー」

『ありがとう!』

ライト達が白銀の君に礼を言いながら、小島に降り立った。

背中の乗員を無事全員降ろした白銀の君は、ンーーーッ……という声を洩らしながら、首や背、翼など全身を伸ばして緊張した身体を解していく。

一頻り身体を伸ばした後、白銀の君は小島の周辺に広がる目覚めの湖を見渡して感嘆した。

『初めて水中移動なるものを体験しましたが……水の中というのは、何とも神秘的な光景でした。しかもこの湖……目覚めの湖、と言いましたか? 何と素晴らしく雄大な湖でしょう。これ程大きくて美しい湖は、我が生涯の中でも一度も見たことがありません』

『でしょでしょ!? 水の綺麗さはドライアドの泉に敵わないけれど、この目覚めの湖も広くて静かで、とても良いところなのよ!』

『ええ。あまりの素晴らしさに、息を止めつつ見惚れてしまいました。ウィカ、私まで移動させてもらってありがとう』

「にゃうにゃう♪」

初めての水中移動、その光景、そして目の前に広がる大きな目覚めの湖を心から絶賛する白銀の君。

目覚めの湖を褒められた水の女王は嬉しそうに応え、ウィカもまた白銀の君から礼を言われて糸目笑顔で返事をする。

すると、小島から遠く離れた湖面が波打つ音が聞こえてくる。

ズドドドド……という爆音とともに、イードとアクアが飛び出してきた。

どうやら水の女王とウィカの帰還を察知して、急いで出迎えに出てきたようだ。

「キシュルリュ!」

「キュィキュァ!」

一目散に水の女王のもとに泳ぎ、駆け寄ってくるイードとアクア。

目覚めの湖にいるべき水の女王が、突如ウィカとともに消えてしまったのだ。イードもアクアもさぞかし心配していたに違いない。

『アクア様、イーちゃん、ただいま!』

「シュルシュル!」

「クルルマキュモキュ!」

『心配かけてごめんなさい……』

イードは触腕を伸ばし、アクアは長い首を寄せ、それぞれ涙目になりながら水の女王の無事を確認するように彼女の身体をあちこち触れる。

そんな水の女王達の様子を見ながら、白銀の君がレオニスに小声でそっと尋ねる。

『レオニス……あれらは一体何者ですか?』

「ン? ああ、白いイカはクラーケンのイード、青い水竜っぽいのは水神アクア。イードは目覚めの湖の主で、アクアは湖の底にある湖底神殿生まれの守護神だ」

『水神……守護神……道理で……』

レオニスから回答を得た白銀の君が、納得したように頷く。

クラーケンのイードはともかく、アクアは水神アープ。しかもその実態は強大な力を持つレイドボスである。

まだ生まれて日も浅い故、レベルが低く体躯もぱっと見では白銀の君の方がはるかに大きい。

だが、その秘めたる強大な力は見た目の比ではないことを、白銀の君は瞬時に察知していた。

しかもアクアの見た目は水竜、白銀の君と同じ竜族の姿をしている。

同じ竜族の、しかも神であるアクア。格で言えば、白銀の君よりもアクアの方が間違いなく上である。

白銀の君は早速水の女王のもとに寄り、アクアに声をかけた。

『ご歓談中のところを失礼いたします。アクア様にご挨拶いたしたく存じますが、よろしいでしょうか?』

「クルァ?」

『ありがとうございます。私はシュマルリの山に住まう竜の女王、白銀の君と申します。同じ竜族の神であるアクア様に、思いがけず御目文字叶いましたこと、恐悦至極に存じます』

「マキュモキュ、キュルルゥ!」

初対面の白銀の君からの突然の挨拶に、アクアはきょとんとした顔をしている。

だが、白銀の君に特に他意はなく、同じ竜族の誼として挨拶しに来たことがアクアにも分かったのだろう。アクアの顔にも次第に笑みが浮かび、にこやかな笑顔で白銀の君の挨拶を受け入れていた。

『アクア様は由緒正しい水神だけど、見た目は貴女と同じ竜の姿をしていらっしゃるものね!』

『ええ。私などアクア様の足元にも及びませんが、竜族の女王としてご挨拶できて光栄の極みです』

『アクア様、竜のお友達ができてようございましたわね!』

「キュルキュイ、モキュキュ!」

水の女王が嬉しそうにアクアに声をかけ、殊の外喜んでいる。アクア自身も『竜の友達ができた!』ということで喜んでいるようだ。

水神アクアと竜の女王白銀の君。

水の女王の突発的なお出かけ?によってもたらされた、新たな出会い。

強大な二者の新たなる出会いに、水の女王だけでなくそれを見守っていた周囲の者達もまた祝福するかのように微笑んでいた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

アクアと白銀の君の思わぬ邂逅を喜んだところで、レオニスが次の行動に移るために話を切り出した。

「さて、天空島から無事目覚めの湖に移動できたところで。次の目的地に行くか」

『次の目的地、ですか?』

「そう。さっきも言ったが、この目覚めの湖の近くにも神樹がいるんだ」

『何ですって!? エルちゃん様以外の、我が君の兄弟姉妹がここにもおられるのですか!?』

レオニスの言葉に、白銀の君が驚愕している。

彼女にとって、神樹とは特別な存在だ。

彼女が我が君と慕う竜王樹ユグドラグスは神樹の末弟であり、そのユグドラグスと同じ神樹は兄弟姉妹にあたるからである。

今日は神樹族の長姉である天空樹ユグドラエルに会うために、シュマルリ山脈を出てライト達とともに行動してきた。

その帰りの道中で、まさかユグドラエル以外の神樹とも会えるとは、白銀の君も夢にも思っていなかったのである。

「名前はユグドラツィ、俺達は『ツィちゃん』と呼んでいる。六本の神樹の中の五番目で、もうすぐ千歳になるんだそうだ」

『五番目……ということは、我が君のすぐ上の姉君にあたる御方なのですね』

「せっかくだから、ツィちゃんにも少し会っていこうじゃないか」

『寄り道とは、そういうことでしたか!ならば是非!あまりゆっくりとはお話できないでしょうが、我が君の姉君がこの近くにおられるならば、一言だけでもご挨拶していきたいです!』

ユグドラツィにも会っていこう、というレオニスの提案に、白銀の君も食いつくように賛同する。

我が君の姉君である神樹が近くにいると知った以上、そのまま素通りして帰ることなどできようはずもない。

ゆっくりと話はできずとも、挨拶だけでもしていきたい。そうすれば、ユグドラグスへの嬉しい土産話もまた一つ増える。

白銀の君がそう思うのも当然のことだった。

「じゃ、俺達はちょっとだけツィちゃんのところに出かけてくる。水の女王も疲れただろう、先に褥に帰ってゆっくり休んでくれ」

『気遣ってくれてありがとう、レオニス』

「水の女王様、体調はどうですか? 具合悪くなってないですか?」

『ライトも心配してくれてありがとう。気分悪くなったりしてないから大丈夫よ!』

水の女王の体調を気遣うライト達に、水の女王は元気そうな声で返事をする。

確かにその顔色や声音は元気そのもので大丈夫そうだ。

ライト達のそんな会話を見ていたラウルが、誰に言うでもなく独り言のように呟いた。

「じゃあ俺は、ご主人様達がここに戻ってくるまで、水の女王やウィカ達におやつを振る舞うことにしよう」

『え、ホント? ラウルのおやつを食べさせてもらえるの?』

「ああ、それいいね!ラウルの美味しいおやつを食べれば、水の女王様もウィカも元気回復するよね!」

「そうしてもらえりゃ一番ありがたいが……ラウルはツィちゃんに会いに行かなくていいのか?」

ラウルの提案にライトは喜んで賛成し、水の女王も嬉しそうな笑顔になる。だがレオニスだけは、少しだけ心配そうな顔でラウルに確認するように問うた。

ユグドラツィと最も仲が良いラウルが、ここで留守番をすると言い出すなどとは完全に予想外のことだったからだ。

そんなレオニスの心配を他所に、ラウルは事も無げに答える。

「ああ、俺はまたいつでもツィちゃんに会いに行けるからな」

「そっか……じゃあ、ここで皆といっしょに留守番よろしく頼むな」

「おう、任せとけ。ツィちゃん、今からライトとレオニスが竜の女王といっしょにそっちに行くから、お相手よろしくな!」

留守番を引き受けたラウルが、己の右手首にあるバングルに向かって声をかける。

このバングルはユグドラツィの分体が入っている。きっと今もユグドラツィは、ラウルのバングルやライトのタイピン、レオニスのカフスボタンを通してこの光景を見ていることだろう。

ユグドラツィのもとに向かうべく、ライトとレオニスが再び白銀の君の背に乗る。

二人を乗せた白銀の君が、ゆっくりと上空に浮遊していく。

「じゃ、行ってくる!」

「いってきまーす!」

「気をつけていってこいよー」

『いってらっしゃーい!』

「うなにゃーん!」

目覚めの湖の中の小島から、空を見上げつつライト達に声をかけるラウル達。

それぞれにお出かけの挨拶を交わし、ラウル達に見送られつつライト達は白銀の君とともに飛び去っていった。