軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第635話 ドライアドの里

モモに連れられて、天空島の森の中を歩いていくラウル。

しばらく進むと少し開けた場所に出た。

そこには小さな泉があり、天からの日差しが燦々と輝いている。

「ここが、ドライアドの里……なのか?」

『ええ、この泉がドライアドの里の中心なのよ』

よく見ると、泉の近くにはたくさんのドライアドがいてのんびりと寛いでいる。

ラウル達が近づいていくと、ドライアド達も誰かが来たことに気づいたようだ。

それまでわちゃわちゃとしていた動きをピタッ!と止めて、ラウル達を凝視するドライアド達。

そんなドライアド達に構うことなく、モモが元気良く仲間達に声をかける。

『たッだーいまー!』

『……モモ?』

『ン? 何か連れてるわね……』

『まぁ、獲物を捕まえたのね!でかしたわ、モモ!』

ドライアド達が一斉に色めき立つ。

どうやらモモの仲間達も、ラウルのことを『人族=獲物』と捉えたようだ。

それまでミニサイズだったドライアド達が、ボフンッ!と靄に包まれたかと思うと、ナイスバディな美女が一気に何人も現れた。

煌めくような美女達が、早速ラウルを一斉に取り囲む。

『ようこそ、ドライアドの里へ……♪』

『ここは貴方にとって楽園、天国よ……♪』

『さぁ……私達といっしょに永遠の楽園で過ごしましょう♪』

優美で豊満な美女達が、ラウルの前後左右どころか上下までびっしりと取り囲み、その艶めかしい肌をぴったりと寄せてラウルに迫る。

先程爆誕したばかりの、モモの黒歴史のような誘惑劇が繰り返されている図だ。

その黒歴史の先達であるモモは、今どうしてるかというと。美女化した仲間達に『邪魔邪魔!』とばかりに、ポイー、と横に押し退けられて蚊帳の外にいた。

普通なら、仲間に手柄を横取りされて鬼怒りするところなのだが。今ここにいるドライアドの中で、ラウルの正体を知っているのはモモだけ。

故にモモは放り投げられた恨みなど一切口にせず、スーン……とした半目で絶賛勘違い中の仲間達を内心で嘲笑いながら生温かく見守っている。

一方のラウルは、まるで石像と化したかのように全く動かない。

いや、それは美女に囲まれて緊張して固まっているのではなく、ただ単に美女達に四方八方からギュウギュウに押し迫られて、物理的に動けないだけなのだが。

しかし、このままではどうにも埒が明かない。

先程と同じく、ラウルが美女達に向かって非情な宣告を伝える。

「あー、すまん。俺、人間じゃなくて妖精だから、お前らの魅了は全く効かないんだ」

『『『……ぅえ?』』』

ラウルの宣告を聞いた美女達が、一斉にモモの方を見る。

仲間達に注視されたモモは、フフン☆とばかりにニヤニヤした顔で頷く。

そこでドライアド達ははたとした顔になり、あることに気づいた。

先程モモは本体の姿のままで、 獲物(ラウル) とともにこの泉に帰ってきた。

人間の男を誘惑して里に連れ込むことに成功したのなら、モモは絶世の美女モードのままで帰ってきているはずだ。なのに、本体のちんまりとした幼女モードで帰ってきたということは―――

モモが連れてきたこの 男(ラウル) は、ドライアドの魅了が通じない、もしくは 特殊(ロリ) 系しか通用しない、ということに他ならなかった。

しかし今のラウルの状態を見ると、普通に正気を保っているように見える。 特殊(ロリ) 系の魅了?にやられて喜んでホイホイついてきた訳ではなさそうだ。

美女でもダメ、幼女でもダメ。ということは、ラウル自身が言う『ドライアドの魅了は全く通用しない』は真実である。

そのことを、ドライアド達も否が応でも認めなければならなかった。

『『『………………』』』

美女達は互いに顔を見合わせると、再びボフンッ!と靄に包まれて本来のちんまりとしたサイズに一斉に戻った。

わらわらとした緑の幼女集団が、今度は仲間のモモを取り囲み始めた。

『なぁんだー、化けて損したー!』

『モモ、アナタね、そういうことは早く言いなさいよ!』

『何よ!私のせいにしないでよね!私が何か言う前に、アナタ達の方から私を放り投げて除け者にしたんじゃない!』

『ンもー、久々の獲物だと思ったのにー』

『フッフーン☆ 皆も私と同じ赤っ恥をかいて、ざまあみろだわ!』

仲間達に文句を言われたモモ、十倍返しの如くキーキーと言い返す。

自分と全く同じ黒歴史を綴った仲間達に、ヲーホホホ!とばかりに嘲笑うモモ。実に楽しげな高笑いである。

だがしかし、皆等しくそれぞれの黒歴史に新たなる1ページを綴るにしても、単体でやるのと集団でやるのとでは一人あたりの 歴史の重み(・・・・・) がかなり違ってきそうだが。

客人であるラウルをそっちのけで、わらわらわちゃわちゃとしているドライアド達。

傍から見ている分には微笑ましいのだが、ラウルもあまりゆっくりと遊んでいく時間はない。

ラウルはふぅ……と小さくため息をついた後、パン、パン!と両手を二回叩いた。

手を叩く大きな音にびっくりしたドライアド達が、一斉にラウルの方に注目する。

「あー、喧嘩や話し合いは俺が帰った後にしてくれないか。とりあえず今は、皆で仲直りのおやつにでもしようじゃないか」

『……おやつ?』

『あの男、手ぶらで何も持ってないくせに、何言ってんの?』

『おやつ!いいわね!』

モモ以外のドライアドは、訝しげな目でラウルを見る。

だが、モモだけは嬉々とした顔でラウルの提案を喜ぶ。そう、モモは既にラウルの極上スイーツの味を知っているのだ。

泉の畔にラウルは敷物を敷き、胡座をかいて座り空間魔法陣を開いてスイーツを取り出す。

ラウルが取り出したスイーツは、先程と同じくマカロン。モモに出したのは苺のマカロンだったが、今回は人数が多いので他の味も出す。

苺の他に、レモン、キャラメル、オレンジ、メロン、ミルク、ブドウ、マロン、珈琲、チョコレート、抹茶……ありとあらゆる色とりどりの可愛らしいマカロンが、敷物の上に横一列に並べられていく。

カラフルでまん丸な謎の物体?に、ドライアド達は訝しがりつつも興味津々で近づいていく。

『あッ、さっき私が食べたのは、これね!』

「ああ。さっきモモに出したのは、苺のマカロンだったな」

『皆、これとっても美味しいのよ!さっきこれと同じものを食べた私が保証するわ!』

ラウルが出したマカロンに、太鼓判を押すモモ。

エッヘン☆とふんぞり返りながらドヤ顔でドヤるモモを、他のドライアド達が信じられないものを見るかのような目つきで眺めている。

『え、アナタ、知らない人からもらった食べ物を食べたの?』

『それ、いくら何でも迂闊過ぎない?』

『うぐッ……そ、それは……』

『アナタって、本当に食いしん坊ねぇ』

『い、いいじゃない!話の流れで受け取っちゃったんだもの、仕方ないじゃない!』

『にしたって、ねぇ?』

『そ、それに!毒がないってことを、このラウルが半分こしたものを先に食べて毒味までしてくれたんだもの!』

ドライアドの仲間達が言うことは尤も至極であり、反論の余地など一切ない。

知らない人から食べ物をもらっちゃいけません!というのは、 精霊(ドライアド) にも通じる常識なのである。

だが、既に食べてしまったものは仕方がない。結果オーライということで、懸命に言い募るモモ。

そんな懸命なモモの姿を見て、仲間達も少しづつ心が動かされたのか、一人のドライアドがオレンジ色のマカロンにそっと手を伸ばした。

『あの、これ……私には少しというか、かなり大きいんだけど……』

「おお、気が利かなくてすまんな。さっきは俺が手で割ったんだが、今度は数が多いからナイフで綺麗に切り分けようか」

マカロンを持ったドライアドの言葉に、ラウルが空間魔法陣から一本のナイフを取り出す。

そのナイフはサイズ的には果物ナイフなのだが、ラウルが持つ小型刃物類の中で最も切れ味抜群の逸品だ。

ラウルはマカロンを手のひらの上に乗せて、ナイフで手際良く半分に切り分けていく。

そうして改めて半分づつに切り分けられたマカロンが、ドライアド達の前に次々と置かれ並べられていく。

ここまで懇切丁寧に準備してもらったら、もはや食べずに断るという選択肢はない。

一番最初にオレンジ色のマカロンを手に取ったドライアドが、半分に分けられたマカロンを再び手に持った。

『モモがそれ程言うなら……仕方ないわよね』

『そうよ、私が大丈夫と言っているんだから、絶対に大丈夫よ!』

『……えぇい、ままよッ!』

モモに励まされたドライアドが、意を決したようにパクッ!とマカロンに食いついた。

ギュッ!と目を閉じながら、ガブリ!と勢いよくマカロンにかぶりついたドライアド。口に含んでしばらくもくもくと咀嚼していくうちに、閉じていた目が大きく開かれていく。

パァッ!と明るくなったドライアドが、驚きの声を上げる。

『……何コレ!すっごく美味しい!』

『え、ウソ、マジ?』

『ホントホント!モモの言った通り、とっても甘くて美味しいわ!』

『……じゃあ、私もどれか一つ、食べてみようかしら……』

『……私も……』

一人のドライアドがをきっかけに、他のドライアドも次々とマカロンを手にしていく。

マカロンを持ってもらえさえすれば、あとはこっちのものだ。

皆最初こそおそるおそる口をつけるが、一度ラウルのスイーツの美味しさを知ればたちまち虜になるのである。

『何コレ、ホントに美味しい!』

『甘いだけじゃなくて、果実の芳しい香りが口いっぱいに広がるわ!』

『こっちのは、ちょっとほろ苦さがあって……でもこのほろ苦さが、甘味と絶妙に相まってたまらない!』

『『『イヤーン、美味しいぃぃぃぃ!』』』

皆一様に己のほっぺたを押さえながら、ラウル特製マカロンを大絶賛する。

先程までのおっかなびっくりな空気はどこへやら、ラウルのスイーツにすっかり魅了されたドライアド達。一瞬にしてわちゃわちゃとした賑やかな空気に再び戻る。

そう、ラウル特製スイーツは、ドライアドが使う魅了なんかよりもはるかに強力な威力を持っているのだ。

『ねぇ、そこの貴方!他のいろんな味も食べてみたいから、もっと小さく切ってくれるかしら!?』

「おう、お安い御用だ」

『ありがとう!』

『あッ、アナタ達だけずるーい!私もマカロン食べるー!』

「そんなに慌てなくても、マカロンならまだたくさんある。安心してゆっくり味わって食べな」

『『『わーーーい♪』』』

仲間達が様々な味のマカロンを食べる様子を見て、モモも再びマカロンを食べるために参戦する。

我先にと仲間達の中に飛び込むモモに、ラウルが苦笑いしながら言葉をかける。

ラウルの言葉に両手を挙げて万歳するドライアド達。全員が花咲くような笑顔で、見ていて微笑ましい。

その後もドライアド達は、満面の笑みとともにラウルが出したマカロンを交換し合いながら仲良く食べている。

女子供特有の、きゃいきゃいとした騒がしくも賑やかな仲直りのおやつタイム。どうやら皆無事に仲直りできたようだ。

笑顔溢れるドライアド達の楽しげな様子に、ラウルもまた和みつつ彼女達を見守っていた。