軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第610話 竜王樹との語らい

ユグドラツィの分体入りの腕輪を、レオニスから無事受け取ったユグドラグス。

万感胸に迫る思いのユグドラグスに、レオニスは忘れないうちに、とばかりにユグドラツィの言葉を伝える。

「ツィちゃんから預ってきた言伝も、今ここに伝える」

「『私達は、いつでも貴方のことを、思っている……皆どんなに遠く離れた地にいても、私達神樹は皆、大事な家族である』」

「ツィちゃんは本当に、友達思いで家族思いの優しい神樹なんだ」

『ユグドラツィ姉様……』

ユグドラグスの枝の揺れは収まることなく、ずっとさわさわと揺れ動き続けている。

それはあたかも、竜王樹の打ち震える胸の内を表しているかのようだ。

『レオニスさん、と言いましたか……私達神樹のために、遠路はるばるここまでお越しいただいて本当に、本当にありがとうございます』

「いや何、俺もツィちゃんにはいつも世話になってるしな。ツィちゃんが喜んでくれるなら、このくらいのことなど何てことないさ」

『でも……ここに来るまでに、白銀や他の竜達の圧を受けたのではないですか? 何しろここは、数多の竜が住まう地ですし……』

「ぁー……それはまぁ、結構いろいろあったけどな?」

心配そうに尋ねるユグドラグスに、レオニスも言葉を濁しつつ否定はしない。

実際にここに来るまでに、飛竜の巣に足を突っ込みかけたり、鋼鉄竜と対戦したり、白銀の君にとんでもない威圧をかけられたりもした。もっとも一番最初の飛竜の巣の件だけは、レオニスの方に非があるのだが。

「でもまぁ、特に怪我もせずに何とか無事ここまで来れたことだし。気にしてはいない」

『そうですか……もし彼らが、貴方の携えた使命を知らずに非礼を働いていたとしても、許していただけるとありがたいのですが……』

「許すも何も、シュマルリ山脈の中央から南半分は竜族の縄張りだ。俺の方が竜族の縄張りに侵入したも同然なんだから、竜王樹が謝ることはない。少々手荒めな歓迎と思えば問題はない」

『そう言っていただけると助かります』

ユグドラグスの根元の真横で、白銀の君が申し訳なさそうに縮こまっている。しゅん……と項垂れる様子は、大好きなご主人に叱られた小犬のようだ。

『我が君……申し訳ございません』

『白銀、君が謝るべきは僕ではないだろう?』

『!!……人の子よ、話もろくに聞かぬうちから疑ってかかってしまったこと、心よりお詫びします。私の方から先に、其方の来訪の目的を問うべきでした』

ユグドラグスに謝らせてしまったことを詫びる白銀の君。

だが、当のユグドラグスに謝る順番が間違っていることを指摘され、慌ててレオニスの方に向き直り深々と謝罪した。

謝られたレオニスは、その謝罪を快く受け入れる。

「何、気にすんな。あんたもまた己の縄張りと、何より竜王樹を守るために出てきたんだろう。大事なものを守るためだ、当然の権利さ」

『我が非礼を許すだけでなく、心から理解してくれているのですね……ありがとう』

「でもなー、さっきのあんたの威圧、あまりにも怖過ぎて気ィ失うかと思ったがな!」

『『……!!』』

「ありゃ人族の身にはちぃとキツかったわ!ハハハハ!」

あっけらかんとしながら笑い飛ばすレオニスに、白銀の君が目を大きく見開いている。

竜王樹には目に見える目鼻はないものの、彼にも顔と呼べるパーツがあったらきっと白銀の君と同じような驚きの顔をしていることだろう。

先程の一触即発の空気を笑い飛ばしながら許せるのは、きっとレオニスくらいのものだ。

そんな話をしていると、下から鋼鉄竜達中位ドラゴンが姿を現した。

ゼェハァ言いながら、よたよたフラフラしながら上がってくるドラゴン達。あれでも重たい身体を必死に動かして、急いで山頂に向かってきたのだろう。

「リュ、竜王樹ノ、旦那……」

「コ、ココニ……白銀ノ、君ガ……」

「ヒ、人族ヲ、ツ、連レテ……」

「キ、来テ、イマセン、カネ……?」

思いっきり息が上がりつつも、竜王樹に問いかけるドラゴン達。

もしかして、白銀の君に連れ去られたレオニスの心配をして駆けつけてきたのだろうか?

『やぁ、鋼鉄、獄炎、氷牙、迅雷。ようこそいらっしゃい、久しぶりだね…………って、大丈夫?』

「ダ、大丈、夫、デスゥ……」

「ィャ、俺、モウ、無理……」

「俺モダ……」

「山登リ、苦チィ……」

ユグドラグスが挨拶も早々に心配するくらいに、ヘロヘロなドラゴン達。

日頃ろくに運動などしないせいか、その場で全員ノックダウンしてしまった。

全員仰向けで倒れ込んでいるところに、レオニスが近寄っていった。

「おぉおぉ、皆見事にへばっちまって……」

「ニ、人間……ブ、無事、ダッタカ……」

「おう、おかげさんで俺はこの通り、ピンピン生きてるぞー」

「ナ、ナラ、良カッタ……」

何事もなく姿を現したレオニスを見て、ドラゴン達が安堵している。やはりレオニスの身を案じて、急いで駆けつけてきたのだろう。

レオニスもそのことが分かるのか、鋼鉄竜に向かって声をかける。

「全く、竜王樹の前で何へばってんだ。皆運動不足じゃねぇか?」

「ほれ、これを飲め。そうすりゃちったぁ体力回復する」

レオニスはそう言うや否や、空間魔法陣から取り出したエクスポーションを手に取りニヤリと笑う。

そしてエクスポーションの蓋を開けたかと思うと、鋼鉄竜の口に突っ込んだ。

「ングッ」

「さぁ飲め、ほれ飲め、エクスポならいくらでもあんぞー」

目にも止まらぬ早業で次々とエクスポーションを取り出しては蓋を開け、容赦なくどんどん鋼鉄竜の口に突っ込んでいくレオニス。

鋼鉄竜の口に二十本のエクスポーションを突っ込んだ後、すぐに獄炎竜、氷牙竜、迅雷竜にも同じことを繰り返していく。

それはまるで、敏腕看護師が多数の急病人をテキパキと介護し救命活動を行っているかの如き、華麗なる早業にして神業だ。

もっともレオニスは『白衣の天使』などではなく、泣く子も黙る『角持たぬ鬼』なのであるが。

レオニスの手厚い?看護を受けて、ドラゴン達はゴキュゴキュとエクスポーションを飲み込んでいく。

全てのエクスポーションを飲み干した後は、皆その大きな口を開けて空き瓶をパリパリと貪る。

空き瓶まで食われるのはこれが初めてではないので、もうレオニスも注意はしない。もはや諦めの境地である。

「ンー…… 美(ウ) ン 味(マ) ァーイ……」

「特ニ、コノ、最後ノ、締メガ、パリット、シテテ、一番、美ン味ァーイ」

「チィトバカシ、歯ニ詰マルケドナ」

「「「ダガ、ソレガイイ」」」

「え、何、お前らエクスポより瓶の方が美味いっての?」

エクスポーション二十本を飲んで、体力回復した鋼鉄竜達が次々と起き上がる。

レオニスは体力回復のためにエクスポーションを与えたというのに、ドラゴン達は最後に食べる空き瓶の方が美味しいというのだから驚きだ。

わちゃわちゃと騒がしいレオニス達を見て、ユグドラグスがくつくつと笑う。

『フフフ……僕が回復させるまでもなく、皆元気になったようだね』

「アッ、ハイ!竜王樹ノ旦那ノ、御手ヲ、煩ワセルマデモ、アリマセン!」

「ソノ、オ気持チダケ、アリガタク、イタダキマス!」

「そうかい? でも一応念の為に、回復をかけておこうね」

竜王樹に対して、どこまでも従順なドラゴン達。

それは白銀の君に対する畏怖とはまた違って、とても気さくで心から慕っているのがよく分かる。

そんなドラゴン達に、ユグドラグスが回復魔法をかけた。

ふわりとした小さな光の粒が、鋼鉄竜達の身体を包んでいく。

柔らかな光に包まれたドラゴン達は、見事に完全復活を遂げた。

「オオオッ!ヤッパ、竜王樹ノ旦那ノ、回復魔法ハ、スゲェナ!」

「俺、今ノデ、強サガ 二(フタ) ツカ 三(ミッ) ツ、上ガッタ気ガスル!」

「竜王樹ノ旦那、アリガトウゴザイマス!」

「「「アリガトウゴザイマス!!」」」

先程までのヘロヘロ姿から一転、しゃんとした姿勢で立ち上がったドラゴン達。ユグドラグスに向かって元気な声で礼を述べる。

回復魔法をかけるだけで、レベルが二つも三つも上がるはずなどないのだが。それに匹敵するくらいの回復パワーをもらった、ということなのだろう。

『元気になってくれて良かったよ。でも、皆ちょっと運動不足なんじゃないかい?』

「ウ"ッ……ソ、ソレハ……」

「コ、ココノ、山ハ、急ナ坂、ダカラ……」

「オ、俺達ノ、重タイ、身体デハ、登ルダケデモ、カナリ、キツクテ……」

『ン? 君達だって普通に飛べるよね?……って、そうか、ここでは白銀が空を飛ぶことを許してないんだったね』

ユグドラグスに運動不足を指摘されて、ドラゴン達が恥じ入るようにゴニョゴニョと言い訳をしている。

鋼鉄竜達だって皆それぞれに立派な翼を持っており、普通なら空を飛んでひとっ飛びでここまでこれそうなものだ。だがユグドラグスがふと後から気づいたように、実はこの山での飛行は許されていない。

この山の領域で空を飛ぶ者は、竜王樹に奇襲をかける者と白銀の君に見做されて、徹底的に排除されてしまうのだ。

空飛ぶ者は問答無用で迎撃するというのは、少々やり過ぎな気がしないでもない。

だが、中には数多の邪竜を率いて襲いかかってくる不逞の輩も存在するというのだから、それを思えばこの掟も致し方ないのかもしれない。

『まぁ、空を飛ばずに下からここまで登ってくるのは、すごく大変だろうけど……』

「ハ、ハイ……」

『運動不足解消の手段として、たまにはここに遊びに来てくれてもいいんだよ?』

「ソ、ソンナ……俺達ガ、遊ビニ、行クナンテ……イ、イインデスカ?」

『もちろんさ!たまにと言わずに、むしろいつでも遊びに来てくれていいんだよ? 君達に来てもらえたら僕も嬉しいし。賑やかになって、きっと楽しいよ。白銀もそう思わないかい?』

『えッ!? え、ええ、まぁ……そうですね』

突如話を振られた白銀の君、若干焦りながらもユグドラグスの言葉に同意する。

白銀の君が怖いドラゴン達も、ちらりと見遣りながらも竜王樹の誘いにニコニコとした笑顔で応える。

『さぁ、そしたら今日は滅多に来ない他所からのお客人に、いろんなお話を聞かせてもらいたいな』

「おう、いいぜ。聞きたいことがあったら何でも聞いてくれ。俺の分かる範囲なら何でも答えよう。そしたら竜王樹の根元に座らせてもらってもいいか?」

『もちろんです!まずはツィ姉様や、他の神樹のお話を聞かせてください!』

ユグドラグスが弾んだ声でレオニスとの会話をねだる。

竜王樹のお願いに、レオニスも快く応じてユグドラグスの根元に腰かける。

中位ドラゴン達が横で「ウヒョー……相変ワラズ、コノ人間ハ、図太ェナ……」「俺達ジャ、コンナ、大ソレタコト、絶対ニ、デキネェゼ……」と呟いている。

レオニスはそんな呟きなど一切気にすることなく、ユグドラグスと会話をし始めた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その後レオニスと竜王樹は、様々な話をした。

カタポレンの森にいる神樹ユグドラツィのこと、同じくカタポレンの森の八咫烏の里にある大神樹ユグドラシアのこと、どういう経緯で二本の神樹と友達になったか、などなど。

『では、貴方の養い子であるライトという人の子を通して、ツィ姉様と友達になったのですね』

「ああ。ツィちゃんと友達になったのは、ライトの方が先でな。ライトがツィちゃんに俺を紹介してくれて、俺にも祝福をくれて友達になったんだ」

『そのライトという子に、私もいつかお会いしたいですねぇ』

「そんなこと言うと、本当に連れてくるぞ?」

『もちろん大歓迎しますよ。姉様の友達なら、是非とも私も友達になりたいです!』

レオニスがユグドラツィと仲良くなった経緯を聞いて、ユグドラグスが自分もライトと友達になりたいと言う。

ライトが聞いたら絶対に狂喜乱舞しそうだ。

『そしてシア姉様は、八咫烏族のマキシという子の故郷におられるのですか。シア姉様もきっと、日々賑やかに過ごしておられるのでしょうね』

「廃都の魔城の四帝に付け狙われたり、そのせいで八咫烏の里に不和が起きたり、何かと大変そうだがな」

『えっ!? シア姉様を狙う悪い奴がいるんですか!?』

今度はユグドラシアの話になり、廃都の魔城の四帝に付け狙われていることをレオニスから聞いたユグドラグス。

吃驚するとともに、彼の枝葉がざわっと揺れる。

「さっき、白銀の君から聞いたんだが。邪竜を率いてここに襲ってくる奴等がいるんだってな?」

『は、はい。僕が神樹となってから、何度か邪竜の群れがここに来たことがありますが……』

「おそらくは、そいつらと同じ組織の手によるものだと思う」

『それは、先程言っておられた『廃都の魔城の四帝』という輩なのですか?』

「ああ…………ッ!?!?」

廃都の魔城の話題の途中で、突如ゾワッ!とした強烈な悪寒がレオニスの背中に走る。

何事かと思いレオニスが周囲を見回すと、白銀の君からとんでもない圧が発しているではないか。

双眸からギラリと光る鋭い眼光に、ゆらりと立ち上る憤怒のオーラ。先程レオニスが浴びた威圧をはるかに超える凄まじさである。

『時折来る邪竜の群れは、その『廃都の魔城の四帝』なる輩が寄越してくるのですか……』

「あ、ああ、奴等は世界中から魔力を簒奪するために、穢れという一種の呪いを植え付けているんだ。先程話に出た八咫烏のマキシも、シアちゃんの代わりに百年以上ずっと魔力を奪われ続けてきた。他にも、炎の女王がその餌食になりかけたりもした」

『僕達神樹も高い魔力を持つから、そいつらの格好の的、という訳ですね……』

レオニスの穢れの解説に、ユグドラグスも納得している。

そのユグドラグスの横にいる白銀の君は、先程よりもさらに強い憤りに包まれている。

その近くにいた中位ドラゴン達は、その怒りのオーラのあまりの凄まじさに、四頭で身を寄せ合いながら「ヒィィィィ……」と小さな悲鳴を漏らしつつプルプルと震え怯えている。

『我が君の魔力を簒奪しようとするなど、絶対に許しません……鋼鉄、獄炎、氷牙、迅雷、次に邪竜の群れが来た時には、其方達も討滅に加わりなさい。二度とこの地を飛ぼうなどと思わぬよう、徹底的に蹂躙し尽くして完膚なきまでに殲滅せねばなりません』

「「「「ハ、ハイィィィィッ!!」」」」

白銀の君の通達に、否やを言えようはずもない中位ドラゴン達。身体はプルプルと震えたまま、敬礼するかのようにビシッ!と一列に並ぶ。

それはまるで、軍隊の中で鬼教官に従う新人の兵士のようだ。

『白銀、僕を守ろうとしてくれるその気持ちは嬉しいけど、あまり無理はしないでね』

『もちろんです!この白銀、我が君を守るためなら身命を賭す所存です!』

『うん、僕の話を聞いてくれていないね……』

竜王樹を慕うあまり、白銀の君にはその身を案ずるユグドラグスの言葉がほとんど届いていないようだ。

白銀の君はレオニスの方に向き直り、ズンズンとレオニスに近づいてくる。

『レオニス、その『廃都の魔城の四帝』なる者達の話をもっとよく聞かせてください。今後の襲撃に備えて、私達も敵のことをよく知っておかねばなりません』

「お、おう……」

レオニスの眼前にまで迫る白銀の君。

あまりのド迫力に、レオニスが数歩後退る。

ここシュマルリ山脈南方は、地理的に廃都の魔城からかなり遠い。そのためユグドラグスや白銀の君は、廃都の魔城の四帝の存在自体を全く知らなかった。

敵のことを知らなければ、次の襲来に備えることができない。敵を知るレオニスから、有用な情報を得ようと白銀の君が考えるのも当然である。

白銀の君に教えを請われたレオニスは、廃都の魔城の四帝のことを少しづつ話していった。