軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第572話 CPに対する認識の相違

ライトが出した濃茶のぬるぬるドリンクを手に取り、瓶の蓋を開けてくぴくぴと一口二口飲むヴァレリア。

その直後に「ライト君、ミルクとガムシロでカフェオレ風にできる?」「あ、はい、ありますよー。マグカップも出しますねー」という交渉がなされる。

濃茶のぬるぬるドリンク、それはいわゆるブラックコーヒーなのだが。ヴァレリアはマイルドで甘いカフェオレの方が好きなようだ。

カフェオレ風に生まれ変わった濃茶のぬるぬるドリンクを、再び一口二口啜ったヴァレリア。

とうとう本題に入る。

「さて。ライト君の質問、CPについてだけど。一体どこからどう話せばいいもんかな……」

質問が大雑把過ぎるせいか、はたまた広範囲過ぎるせいか。

どこからどう話し始めればいいものか、ヴァレリアも悩んでいるようだ。

口をへの字に結びつつ瞑目し、腕組みしながらうんうん唸っていたヴァレリア。ようやく切り口が決まったのか、パチッ!と目を開けたかと思うとライトに語り始めた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「そうだね、まずはこのサイサクス世界におけるCPがどういう存在かを教えようか。ライト君、君は今までの実生活において、CPを実際に見たことことがあるかい?」

「ないです。いろんな買い物とか冒険者ギルドの依頼達成報酬とか、どれもGでのやり取りしか見たことないです」

「うんうん、そうだろうとも。流通貨幣はG、これが基本中の基本だからね」

「はい……だから、クエストイベントとかCP箱でCPを入手しても、一体どこで使えばいいのか全く分からなくて困ってるんです……」

ヴァレリアからの問いに、ライトは素直に答える。

ライトがクエストイベントにて、その報酬にCPがあることを知ったのが約二ヶ月前。それまでにも、フォルの持ち帰り品でCP箱を得たことは二度ほどあった。

もっとも、ライトはそのCP箱をまだ開けてもいない。あっちの世界で課金通貨だったCPが、このサイサクス世界で使える訳ないよね!と考えていたからだ。

だがその考えは、クエストイベント報酬での登場により覆された。報酬として50CPや100CPも出るなら、その使い道だってあって然るべきだからである。

だが、どこでどう使えるのかが未だに全く分からないのだ。

また、CP箱を入手して以降ライトも一応注意深く周囲を観察するようにはなったが、それでも未だに実生活の中でCPを見かけたことがない。

市場での買い物はもちろん、各地でのお土産や外食の代金、冒険者ギルドの依頼掲示板、どこを見てもお金として使われているのはGばかり。

ライトがサイサクス世界に生まれてこの方、マイページ以外に一度として『CP』という文字を見ることができずに今に至る。

「ま、そうだよねー。それが普通ってもんだよ。普通の生活をしていれば、まずCPなんてもんを目にすることすらない」

「はい……」

「だがしかし。CPはこの世界に実在する、立派な貨幣なんだ」

「えッ!?」

ヴァレリアの言葉に、ライトは吃驚する。

そんなライトを他所に、ヴァレリアは空間魔法陣を開いていくつかの小箱を取り出す。

それは、フォルが持ち帰るCP箱と一見して全く同じものだった。

CP箱を取り出したヴァレリアは、一つの箱の蓋を開けてその中身をライトに見せる。

箱の中には、キラキラに輝く虹色の貨幣のようなものが数枚入っていた。

ヴァレリアは箱をひっくり返して、手のひらの上に虹色の貨幣を乗せてライトに差し出して見せる。

「これがCPだよ」

「おおお……こ、これが、サイサクス世界のCP……」

「一番小さいのが1CP、それより少し大きいのが10CP。もっと大きいサイズの50CPや100CPも存在するよ」

「1、2、3……合計14CPですか」

「そうなるね。というか、相変わらずこのCP箱ってのはしょっぱい数値しか出てこないよね、チッ」

「そ、そうですね、アハハハハ……」

箱の中のCPの総額が14CPだったことに、実に不満げに舌打ちするヴァレリア。

ライトは誤魔化し笑いするしかない。

ここで、CP箱というアイテムについて解説しよう。

CP箱とはその字面通り、中にCPが入っている箱である。

CPの額は1CPから100CPまであり、蓋を開けるまで誰にもその数値は分からない。完全ランダム抽選制だ。

要はガラガラくじのようなもので、運が良ければ一箱で一気に100CPが得られ、逆に1CPぽっちの時もある。

そして中身の数値もガラガラくじを模したかのように、30以下の数値が出ることが多い。ライト自身、前世でイベント報酬などでCP箱を得ても中身が一桁だった……なんてこともザラにあった。

そりゃまぁね、課金通貨ってのは本来リアルマネーを注ぎ込んで購入するもんだし。イベント報酬とかでタダで配ってくれるだけでも良しとしなきゃね。……でも5CP以下だとさすがに悲しくなるけど。

ライトも前世で常々そう思っていただけに、先程のヴァレリアの愚痴も骨身に染みてよく理解していた。

そんな前世の記憶を沸々と思い出しながら、ヴァレリアの手のひらの上にあるCPを嘆息とともに眺めるライト。

「すっごく綺麗な虹色ですね……」

「私達はこれがCP、いわゆる課金通貨だと認識している。だが、BCOを知らない埒内の者は、別の物として認識している」

「別の、物……?」

「そう。埒内の者はこれを『虹貨』と呼んでいる。そしてその虹貨は一体何であるかというと、旧貨幣なんだ」

「旧貨幣……まさか……」

「アクシーディア王国時代の貨幣さ」

「!!!!!」

ここでまさかアクシーディア王国の名を聞くとは思わなかったライト。目を大きく見開きながら絶句する。

アクシーディア王国とは、今のアクシーディア公国が建国される前の時代の呼称だ。今から八百年以上も前に、廃都の魔城の爆誕により滅んだ前王朝である。

「アクシーディア王国は、この世界ではとっくの昔に滅んだ国だ。だがその貨幣が、遺跡や旧市街地などで極稀に発見されることがある。それがこの虹色の貨幣、CPだ」

「旧貨幣……道理で市場なんかで見かけない訳だ……」

「博物館や歴史資料館、あるいはラグナ宮殿の宝物庫なんかにも、これと同じものが保存されているはずだよ。もっとも、CP含めて前王朝の資料なんてほとんど残ってないけどね」

驚くべきことに、CPとは前王朝時代に使用されていた当時の流通貨幣だというではないか。

ライトが課金通貨だと思っていたCPは、埒内の者達にとっては旧貨幣―――全く想像もしていなかった答えだった。

「じゃあ、旧貨幣ってことは、普通の買い物なんかで使える代物じゃないってことですよね?」

「そりゃそうさ。もし旧貨幣がどこかで発掘されて表に出てきた場合、然るべきところに売りに出せば天井知らずの値がつくと言われるくらいだからね」

「天井知らず……ちなみにおいくら位の値がつくんですか……?」

ヴァレリアの言う『天井知らずの値』という言葉に、好奇心を駆り立てられたライト。思わず喉をゴクリ……と鳴らしながら、その値が如何程つくものなのかをヴァレリアに問うた。

「ンーーー、その時々にもよるけど……最低でも1CPで1000万Gは下らないよ。虹貨としての状態が良い物なら2000万Gとか3000万G、最高で5000万Gとかするんじゃないかな」

「ッ!!」

ヴァレリアによると、GとCPでは何と1000万~5000万倍の格差があるという。

ということは、今ヴァレリアの手のひらの上には最低でも1億4000万Gが乗っかっていることになる。

そのあまりの金額差に、ライトはただただ驚くばかりだ。

「私達が知るCPが、この世界では旧貨幣と呼ばれるものであることは理解できたかい?」

「はい、分かりました。今度博物館や歴史資料館に行って見学してきます!」

「うんうん、勉強熱心なのはいいことだね!そしたら次は、このCPをどこで使うかについて教えよう」

「お願いします!」

前世と今世では、CPの本質が全く違うことを理解したライト。

いよいよその使い方について、ヴァレリアの解説が始まった。

「CPは旧貨幣として扱われるので、一般的な売買で使われるものではないことは分かったね?」

「はい」

「だがライト君。君はそもそも一般人ではない」

「うぐッ」

「一般人ではない君には、君だけが使える特別なシステムがある。そう、マイページというBCOシステムがね!」

ヴァレリアに思いっきり非一般人扱いされて、思わず言葉に詰まるライト。

だがヴァレリアは、絶句するライトに構うことなく己の両腕を大きく左右に広げ、声も高らかにマイページの存在を示唆した。

そんなヴァレリアを、ライトは胡乱げな目で見つめながら反論する。

「ぇー……でもぼくのマイページには、CPを使えるようなページなんて出てきてないんですけど……」

「……え、マジ??」

「マジです」

「ウソーン、ちょっとマイページ開いて見せてくれる?」

半目で反論するライトに、今度はヴァレリアがびっくりしたような顔になる。

慌ててライトにマイページを開くように示唆し、ライトもそれに従いすぐにマイページを開く。

ライトの真横に来たヴァレリアは、開かれたマイページを見てちょいちょいと操作しながら全体をチェックしていく。

「ぁー、ンー……なるほどね……うん、分かったよ。君、まだ1CPも所持していないから、CPショップがページ内に出てきてないんだ」

「えッ!? そうなんですか!?」

「うん、0CPのままじゃCPショップが出てこない仕様なんだよ」

「そ、そうだったんですか……」

ヴァレリアが指摘した意外な落とし穴に、ライトが愕然とする。

0CPのままだとショップが開かないなんて、そんなの聞いてなーい!無一文は相手にしませんってかコノヤロー!と怒りたいところだが、今はそれどころではない。

その後ヴァレリアがライトのマイページ内をくまなくチェックし、ライトの方に向き直り問いかけた。

「というか、ライト君。君、クエストイベントのCP報酬まだ受け取ってないの? 三個あるCP箱も一個も開けてないみただし」

「うぐッ……そ、それは……まだ他のクエストも残ってるし、ページ内のクエスト全部クリアしてからまとめて受け取ろうと思ってて……」

「ったく、しょうがないなぁ。そしたらついでだし、今ここにあるCPをライト君にあげよう。この虹貨がCPであることの証明にもなるしね」

ため息をつきながら呆れ顔をするヴァレリアに、ライトはただただ縮こまる。

新しいスキル書や生産職系道具ならともかく、CPなんていつ使えるかも分からんし後でまとめて受け取ればいいや!と思って放置していたのが仇となってしまったようだ。

ヴァレリアの厚意と提案により、ヴァレリアは手のひらの上に乗せていた虹色の貨幣をマイページに向けて収納させていった。

ブツブツとお小言を呟きながらも、手のひらの14CPをそのままライトに譲渡してくれたヴァレリア。何気に優しいところもあるのかもしれない。

その後ヴァレリアはすぐにマイページを操作し、ショップ欄を開く。

するとそこには何と、Gしか使えないショップの他に【CPショップ】という欄が新たに出現しているではないか!

早速CPショップをタップして開くヴァレリア。

新たに出てきたウィンドウの右上に【14CP】という項目が見える。これは先程入れたヴァレリアの虹貨と同数であり、現在のライトのCP所持額を表している。

そしてウィンドウの中には、前世でも散々見慣れた課金アイテムの数々がずらりと並んでいた。

「はい、これで君もいつでもCPを使えるようになったよ」

「ありがとうございます!」

「何をいくらで交換できるかは、私なんかよりもライト君の方がよほど熟知してると思うけど。後でラインナップをチェックしてみてね」

「はい!!」

キラッキラの笑顔でヴァレリアに礼を言うライトに、ヴァレリアも実に満足げな表情を浮かべるのだった。