軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第562話 七個目のスタンプとミサキ達の帰郷

冒険者ギルド総本部にて、マスターパレンとの熱い握手会―――もとい、六個目のスタンプをゲットしたライト達。

次に一行が向かうは、魔術師ギルドのラグナロッツァ総本部である。

「魔術師ギルドでも、ピィちゃんが握手会してんのかな?」

「いやー、それはないと思うぞ? ピースも俺達冒険者界隈や魔術師にとっちゃ超有名人だが、一般人にはそこまで馴染みはないしな」

「そっかぁ、やっぱパレンさんが特殊過ぎるってことなんだね」

「そゆこと。さすがにピースも黄金週間中まで書類に埋もれちゃいねぇだろうし、今頃どこかでのんびり休んでんじゃね?」

「だといいねー」

そんな話をしながら歩いていくと、魔術師ギルド総本部に向かって並ぶ行列が見えてきた。

早速列の最後尾に並びながら、周囲を観察するライト。先程の冒険者ギルド総本部に比べたら、異様な熱気もなく穏やかな感じである。

これなら普通にスタンプゲットできるな、と思いながら前に進んでいくライト達。

そうして見えてきた簡易テントの中で、スタンプを押していたのは他ならぬピースであった。

しかもスタンプを押すピースの表情は、何故か非常に生き生きとしている。

「レオ兄ちゃん、あれ……ピィちゃんだよね?」

「マジかよ……ギルドマスターには休日ってもんがないのか?」

ライトとレオニスは、驚愕の眼差しでピースを見ている。

一方ピースは鼻歌交じりの超ご機嫌モードで、スタンプ集めのために来た人々のカードにスタンプを押していた。

そうしてライト達の番になり、まずはレオニスからカードを差し出す。

「よう、ピース。魔術師ギルドマスター自らがスタンプ押し係とは、大変そうだな」

「あッ、レオちん!それにライっちも!やほーぃ♪」

「ピィちゃん、こんにちは!黄金週間中なのに、お仕事お疲れさまです」

「ありがとうねぇ。そんな労いの言葉をかけてくれるのなんて、レオちんやライっちくらいのもんだよぅ」

二人のカードにスタンプを押しながら、にこやかな笑顔で対応するピース。

言葉では嘆きつつも、いつもの書類の檻に囲まれた時のような悲愴さは全くない。

存外この仕事を楽しんでやっているようだ。

「でもねー、今日のこれは小生が自ら志願してやってんのよー」

「そうなのか? ピースにしちゃ珍しいな」

「レオちんてば失敬な。でもまぁね、小生レオちん大好きだから許しちゃう」

「ありがとよ」

ピースの話によると、黄金週間中にスタンプ押印係を五日以上務めれば、有給休暇を二日多く取らせてくれる、という交換条件のもと引き受けたのだという。

ラウルとマキシのスタンプに判を押しながら、仕事の理由を種明かしするピース。道理で終始ご機嫌な訳だ。

それに、ピースにとっては執務室で書類の峰々に囲まれるよりは、外でスタンプカードに判子を押す仕事の方がよほど気楽であろう。

有給休暇の増し増し条件がなくとも、きっと喜んで飛びついたに違いない。

「なら、もうすぐ有給休暇取れそうか?」

「そうね、もうちょい待っててね!」

「ああ、楽しみに待ってるぞ。俺の方もまた近いうちに、前に頼んだ浄化魔法の呪符を受け取りに行くからよろしくな」

「うぃうぃ、いつでも来てねー!」

四人全員とも七個目のスタンプを無事ゲットし、ピースと次の再会の約束を交わしつつ魔術師ギルド総本部を後にした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

魔術師ギルド総本部の最寄りの公園に移動し、昼の休憩に入るライト達。

太陽もほぼ真上にあり、まさしくお昼時である。

規模的には小さな公園だが、それでもお祭り用の屋台が三つ四つ出ている。黄金週間中は、いつでもどこでもお祭りモード一色なのだ。

木陰は既に人々で賑わっているので、日当たりの良い芝生に腰を下ろす。

ラウルが空間魔法陣からバスケットを取り出し、ライトが飲み物類を出していく。

サンドイッチや唐揚げなどが入ったバスケットを皆で取り囲み、皆で昼食を食べる。

温かい春の日差しの下、大人数でわいわいと食べる昼食はそれだけで楽しさ倍増というものである。

「次は市場で買い物だね。ミサキちゃん達は、何か欲しいものとかある?」

「欲しいもの? そうだなぁ……美味しい食べ物はラウルちゃんが持たせてくれるって言ってるし、人里にどんなものがあるかもまだよく分かっていなくて……」

「あー、そうだね。そしたらお土産はラウルやマキシ君に任せて、ミサキちゃん達は人族の観察してるといいよ」

「うん、そうするね!」

唐揚げを啄みながら話すミサキの横で、アラエルもまたマキシが千切って置いてくれたサンドイッチを啄みながらマキシと話す。

「それにしても……人族の住む街というのは、本当に広大でたくさんの住民がいるのですねぇ」

「そうですね。特にここラグナロッツァは、アクシーディア公国の首都ですからね。他の街に比べて規模が段違いに大きいんですよ」

「この他にも、人族の街がたくさんあるのでしょう? 母様にはもう想像もつかないわ……」

カタポレンの森の片隅、八咫烏の里でひっそりと住むアラエルには、この三日間の出来事はもうカルチャーショックどころの話ではない。

見るもの聞くもの全てが新しく、もはや異次元に迷い込んだにも等しい感覚になる。

だが『百聞は一見に如かず』とはよく言ったもので、己の目で直に見たからこそ分かることも多々ある。

「でも……マキシが『もっともっと外の世界を見たい』と言った気持ちが、今なら良く分かる気がするわ。八咫烏の里にはないものが、ここにはたくさんあるものね」

「母様……」

「このラグナロッツァという街の外にも、まだ見ぬ景色が満ち溢れているんでしょうね」

アラエルは少し淋しげな顔をするも、マキシの気持ちを汲んで理解しようとしてくれている。

その姿に、マキシは嬉しさと申し訳なさを感じていた。

「マキシ……もう母様から言うことは何もないわ。貴方は貴方の思うように生きなさい。貴方は百年以上も頑張ってきたんだもの、それくらいの権利は十分にあるわ」

「ありがとうございます」

「私達のことは気にしなくていいからね。でも、時々は思い出してね?」

「もちろんです!また美味しいお土産を持って里帰りしますね!」

「うふふ、楽しみに待ってるわ」

マキシの膝の上にちょこんと乗りつつ、息子がその都度手に取り乗せるサンドイッチやプチトマトなどをパクパクと啄むアラエル。

親子の絆を改めて噛みしめる二羽だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

市場での買い物を終え、レオニス邸に戻ってきたライト達。

いろんな食べ物はもちろんのこと、可愛らしい小物やちょっとした綺麗なアクセサリーなどを買い込んでいった。

ちなみにその購入資金はマキシが立て替えていて、ミサキからは里で集めておいた八咫烏の羽根を代金代わりに預かっている。

前回マキシが里帰りした際に、八咫烏の羽根は人里では価値の高い品物として認められている、という話をミサキはマキシから聞いていたからだ。

父母や兄姉達の抜け毛ならぬ抜け羽根をこまめに拾い、モクヨーク池の水で綺麗に洗浄してある。

皆立派な体格で健康体そのものなので、自然と抜け落ちた羽根は色艶も綺麗でとても大きく見事なものばかりだ。

これならまたアイギスで高価買取してもらえるだろう。

そして何と驚いたことに、ミサキが空間魔法陣を習得していた。

いつの間にそんなものを会得したかというと、人里視察初日の夜と二日目の朝晩にラウルに頼み込んで教えてもらったらしい。

アラエルは『私は癒やしの魔法を使うだけで手一杯だから』という理由で習わなかったが、ミサキは三回のレクチャーで習得を成功させたという。

「ミサキちゃん、三回目で魔法を覚えられるなんてすごいね!」

「ホント? そう言われると嬉しいな!でも、兄様や姉様達ならきっと一回二回で覚えちゃうと思うわ」

「あー、そうだねー。特に魔法が得意なムニン姉様やケリオン兄様なら、一発で覚えちゃうかも」

「そ、そうなの……八咫烏族って、本当にすごいんだね……」

さすがは魔力の高さで知られる八咫烏。様々な魔法を駆使するだけでなく、その習得も早くて得意なようだ。

だが、ミサキに言わせればそれでも兄姉の方が優秀らしい。マキシもそれに頷くあたり、本当にマキシやミサキの兄姉は優れているのだろう。

ミサキは覚えたての空間魔法陣に、市場で購入したものを早速仕舞い込んでいく。

ちなみにその購入した品々の中には、巌流滝の水汲み用として新品の木製バケツ三十個も含まれているようだ。

八咫烏達はこれらを使い、日々巌流滝の水汲みに精を出すのだろう。ユグドラシアへの供物としてだけでなく、衛兵達の鍛錬にもなる一石二鳥の重要な新政策なのだ。

ミサキ達が一通り帰り支度を済ませたところで、皆で食堂に向かう。

ミサキとアラエルが里に帰る前に、最後に皆でおやつを食べるためだ。

ラウルが先に食堂でおやつの準備をしていたので、席についてすぐに食べられる状態に整っている。

「「「いッただッきまーす!」」」

全員で合掌しながら、いただきますの挨拶をする。

ミサキもアラエルも、もう何も言わずとも食事前の合掌&挨拶をするようになった。

彼女達が人族の習慣をすんなりと受け入れてくれたことに、ライトは心の中で嬉しく思う。

「今日のおやつは、ミサキちゃんが大好きなプチドーナツだぞー」

「わーい!私、ラウルちゃんの作るおやつの中でこれが一番大好きー!」

「またラグナロッツァに遊びに来てくれたら、いつでも作るぞ」

「ホント!? ラウルちゃん、ありがとう!」

月見団子よろしくピラミッド状に積み重ねられた、一口大のプチドーナツ。

特にミサキが大喜びで、モリモリと食べている。

「次に遊びに来る時には、絶対に人化の術を覚えてくるわ!だからラウルちゃん、次はドーナツの作り方を教えてね!」

「おう、いいぞ。ミサキちゃんのような真面目で可愛らしい弟子なら大歓迎だ」

「里に帰ってからも、頑張って修行するからね!ラウルちゃんもマキシ兄ちゃんも、ライトちゃんもレオニスちゃんも待っててね!」

ラウルに弟子入り大歓迎と言われたミサキ、さらに明るい表情で決意を表す。

ミサキに『待っててね!』と言われたライト達も、口々にミサキを励ます。

「うん、ミサキちゃんならきっとできるよ!」

「僕だって人化の術が使えるんだから、ミサキだって絶対に使えるようになるよ」

「そしたら次回は、ミサキちゃんの作ったドーナツをおやつに食べられるんだな」

「俺は料理に関しては一切妥協しないからな? ミサキちゃん相手だってビシバシ扱くぞ?」

「望むところよ!」

ラグナロッツァの屋敷の食堂では、いつも以上に楽しい笑い声が響いていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

皆でおやつを食べた後、皆で風呂場に向かう。

ウィカの力を借りて、浴槽から八咫烏の里の内にあるモクヨーク池に移動するためだ。

また全員で移動しても仕方がないので、帰りはウィカの主であるライトと護衛代表兼ウィカへの御礼担当のラウルだけが付き添いで行くことになっている。

マキシとレオニスは屋敷で留守番なので、ミサキ達とはここでお別れだ。

まずは屋敷の主であるレオニスに、二羽が礼を言う。

「ミサキちゃん、アラエルさん、またな」

「レオニスちゃん、おうちにお泊まりさせてくれて本当にありがとう!」

「レオニス殿、三日間お世話になり本当にありがとうございました。またいつでも八咫烏の里にお越しください。シア様ともどもお待ちしております」

「ありがとう、お言葉に甘えてまたいつか立ち寄らせてもらうよ」

レオニスの首っ玉に抱きつきハグをするミサキに、その背をポンポン、と軽く撫でながらミサキを抱っこするレオニス。

今日のレオニスは女の子にモテモテである。唯一惜しむらくは、その可愛い女の子が人族ではないことか。

しばらくしてから、今度はマキシのところに飛び移るミサキ。

「マキシ兄ちゃん、また遊びに来るからね。元気でいてね」

「もちろん。ミサキも父様や母様、兄様や姉様、そしてシアちゃんのことをよろしく頼むね」

「八咫烏の里のことは任せて!」

双子の兄との別れに、いつも笑顔を絶やさぬミサキの目にうっすらと涙が滲む。

だが、これが今生の別れという訳ではない。お互い会おうと思えばいつでも会えるのだ。

ライトが浴槽に向かってウィカを呼び出し、浴槽の水面からウィカが音もなくスーッと現れる。

ライトとラウル、ミサキ、アラエルと順番に手を繋ぎ、後はウィカに水を通して瞬間移動してもらうばかりとなった。

「ウィカ、八咫烏の里のモクヨーク池までよろしくね」

「うなぁーん♪」

「マキシ兄ちゃん、レオニスちゃん、またね!」

「ミサキも頑張ってね!」

「父ちゃんや兄ちゃん姉ちゃん達にもよろしく伝えといてな」

こうしてミサキ達は、マキシとレオニスに見送られながらウィカに連れられて水の中に消えていった。