軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第555話 海の女王の遣い

ラギロア島の平民エリア側船着場に到着したライト達。

少し離れたところにある浜辺には、水着を着て海で泳いだりのんびりと寝そべっている人々の姿が見える。

プライベートビーチとまではいかないが、人の密度などとはほぼ無縁なくらいにはゆったりとした浜辺だ。

さすがは高級バカンス地、間違っても芋洗い海水浴場にはならないと見える。

ちなみに貴族エリアの船着場は、平民エリアとは裏側にあるらしい。

ラグナロッツァにも貴族街という貴族用に作られた居住エリアがあるように、ラギロア島でも身分によって住み分けているようだ。

平民側はともかく、特に貴族側で対面や面子などを気にする者も多い。狭い島でトラブルを起こす前に、最初から双方を離しておくのは理に適っているな、とライトは思う。

互いに目に入りさえしなければ、不幸な諍いも起こらないのである。

「ところでレオ兄ちゃん、海底神殿はどこにあるの?」

「ラギロア島のさらに南側の海底にある、らしい。海底神殿には俺もまだ一度も行ったことがないから、詳しいことまでは分からんのだが」

「とりあえず島の南側に行ってみる?」

「そうだな、そうするか」

船着場から居住区域に進むライトとレオニス。無用なトラブルを回避するために、そのまま平民エリアを歩いていく。

しかし平民エリアとはいえ、時折見える別荘のどれもがかなり大きな建物だ。主に裕福な豪商が利用する前提で建てられているのだろう。

ライト達はなるべく人目につかないよう、林の中を歩く。

この林は貴族エリアと平民エリアを分けるために植林されたものである。

言ってみれば中央分離帯のようなものか。

「ぼちぼち勲章類を内ポケットに入れとけよー」

「はーい」

林の中を移動しながら、海に潜る準備をするライト達。

属性の女王達から下賜された勲章類を、それぞれマントやロングジャケットの内ポケットに忍ばせる。

今回は海に潜るということで、特に水の女王からもらった水の勲章は欠かせない。これがあれば、水中で濡れることなく行動ができて呼吸もできるようになるのだ。

長らく続いた林が途切れ、海が見えてきた。

空よりも明るく澄み渡る青色の海。白い砂と相まって、より美しく映える。

周囲に人は誰もいない。ここは平民エリアと貴族エリアの境目ということもあり、もともと人が近寄り難い場所なのだろう。

何にせよ、海に潜るなら今がチャンスだ。

「よし、行くぞ」

「うん!」

ライト達は大海原に向かってザバザバと進んでいった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

海の中を泳がずに、まるで陸地を歩くかのように海底を歩いていくライト達。

空気抵抗よりも海水の抵抗の方が重いので、その歩みは陸地のそれよりもゆっくりとしていて遅い。

だが、全身を使って泳ぎながら周囲を観察するよりは、普通に二本足で歩きながら見回る方がはるかに楽ちんだ。

こんな芸当ができるのも、ひとえに水の勲章のおかげである。

海の中では、様々な魚が泳いでいる。

如何にも熱帯魚な縞模様の魚や、ライトの手のひらくらいの小さな魚の魚群。時折ふと影が横切り、何事かと思えば畳数枚分の大きなエイ?が悠々とライト達の上を泳いでいたり。

前世の水族館さながらの光景に、ライトの興味と興奮は尽きない。

ちなみに時折大口を開けて近寄ってくる、サメのような大きな魚もいる。そんな時は、レオニスが拳骨で魚の舌顎にアッパー&鼻先に蹴りを食らわせることで撃退している。

這々の体で逃げ出すサメもどき。海の強者も形無しである。

そうして歩いていくうちに、水深も少しづつ深くなっていく。海上からの明かりがどんどん薄れ暗くなり、見通しも悪くなってきた。

「レオ兄ちゃん、海底神殿はこっちの方向でいいの?」

「んー、多分こっちの方角でいいはず、なんだが…………ン?」

海の中でも呼吸ができて歩けるからまだいいが、視界が悪くなってくるとどうにも不安に駆られてくる。

すると、ライト達の前方から何かが近づいてくる気配がする。

レオニスが咄嗟に身構え、ライトを背後に回して庇うように立ち止まりしばらく様子を伺う。

そうして前方から現れたのは、数人の人魚だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『あらまぁ、本当にいたわ』

『これ、何? 上は私達に似てるけど、お腹から下は全然違うわね?』

『私知ってる!これ、ニンゲンっていう陸の生き物よ!』

『私も姉様から聞いたことあるわ。ニンゲンっていうのは尾鰭がない代わりに、二本の棒のような足で陸の上を歩くんですって』

『へー、何だかとっても奇妙な生き物ねぇ』

五人の人魚に囲まれたライト達。

人魚は全員女性型で、三つ編みやポニーテールに結わえた銀色に輝く髪に、くっきりとした目鼻立ちの端正な顔。靭やかなボディラインに、青い鱗に覆われた下半身の先端にはひらひらと優雅に揺らめく大きな尾鰭。

童話の絵本に出てきそうな、典型的な人魚である。

そして女性型だからか、人間の女性と変わらぬおしゃべりさで口々に喋っている。

未知の生き物を見た物珍しさも手伝ってか、遠慮なくライトやレオニスをジロジロと見ている。

『これ、両方ともオスかしら?』

『じゃない? 小さい方はともかく大きい方、これ絶対にオスでしょ』

『大きい方は私好みの顔だわぁ。尾鰭がないのがすごーく残念だけど』

『小さい方も大きくなれば結構イケるんじゃない? 同じく尾鰭がないのがすごーく残念だけど』

『ホントホント、これで尾鰭があって生きてたら完璧なのにねぇ』

『『『ねぇー』』』

きゃらきゃらと笑いながら、ライトとレオニスの周りを泳ぎつつ品定めする人魚達。陸の上なら息がかかるほどにレオニスの顔に接近し、両手で頬を包んだり好き放題している。

それまでスーン、とした顔つきでずっと黙っていたレオニス、そろそろ限界がきたのか徐に口を開いた。

「……あー、俺達海の女王に会うために海底神殿に行きたいんだが。もし知っているなら、海底神殿のある方角を教えてくれないか?」

レオニスに話しかけられた人魚達、それまで煩いほどに喋っていた口がピタリと止まった。

ただでさえぱっちりとした目がまん丸&点になっているあたり、あまりに驚き過ぎて動きが止まってしまったようだ。

数瞬の静寂の後、一人の人魚がはたと我に返り喫驚の声を上げる。

『え、ナニ、このニンゲン生きてるの!?』

『ウソーン、水中で呼吸もできないくせに!?』

『……って、何で陸の生き物のニンゲンがずっと海中で生きていられるの?』

『そういやそうね……もしかしてコレ、土左衛門じゃないどころか実はニンゲンじゃないとか言う?』

『えー、ニンゲンじゃないなら一体何の生き物かしら?』

『『『ンーーー?????』』』

ここでもまた人外認定されてしまうライトとレオニス。どうやら人魚達は、ライト達のことを土左衛門=水死体だと思っていたようだ。

謎の生物を前に、一斉に小首を傾げる人魚達。その仕草は可愛らしいものの、言っていることはかなり不躾である。

見た目の淑やかさに反してかなりの言いたい放題だが、彼女達がそう言ってしまうのも無理はない。

普通の人間なら水中で長時間息もせずに生きていられる訳がないので、彼女達がライト達のことを『こいつら、ニンゲンじゃない?』と考えるのも当然のことだ。

そもそも陸上生物である人族が、海中で悠々と散歩していること自体がおかしいのである。

「いや、俺達は普通の人間だが……」

『えッ、やっぱりニンゲンなの!?』

『でも、そしたらどうして海の中でそんな普通にしていられるの!?』

「それは、こいつのおかげだ」

驚く人魚達に、レオニスがポケットの中から水の勲章を取り出して彼女達に見せる。

ライトもレオニス同様、ポケットから水の勲章を出して近くにいる人魚に見せた。

人魚達はライト達の手のひら10cmまで近寄り、至近距離からじーーーっと水の勲章を眺めている。

『これ……女王が作る勲章、よね?』

『そうね、海の女王ちゃんのものではないようだけど……間違いなく水属性の最高の力を感じるわね』

『貴方達……これを一体どこで手に入れたの?』

それまでのほほんとしていた人魚達の目が、瞬時にギラリと攻撃的なものに変わる。

それは、ライト達が『取るに足らない瑣末な存在』から一気に『警戒すべき対象』に変わった証左である。

だが、そんな物々しい空気に怯むレオニスではない。彼女達から発する威圧のようなものなど一切動じることなく、平然としたまま応える。

「これは目覚めの湖に住む水の女王から、友好の証としてもらったものだ」

『水の女王!? それなら確かに説明はつくわね……』

『そうね……海と湖、海水と淡水の違いはあっても同じ水属性ですものね』

『ああ、だから海の女王ちゃんもああ仰っていたのね!』

人魚達の警戒心が消えて、もとののほほんとした彼女達に戻る。どうやら彼女達は、海の女王の遣いでライト達の前に来たようだ。

ライトは自分の目の前にいる、数人の人魚に向かって声をかけた。

「あのー……さっきも言いましたけど、ぼく達海の女王様に会いにきたんです。人魚のお姉さん、もし良ければ海の女王様のところまで案内してもらえませんか?」

上目遣いで頼み込むライトの健気な姿と、幼い男の子から『お姉さん』と呼ばれた人魚達。その凄まじいばかりの衝撃に、思いっきり胸を射抜かれる人魚A、B、C。

仰け反る人魚A、B、Cの、くぅッ!くはッ!はぅッ!という三連続の小さな呻き声とともに、ズキューーーン!ズドーーーン!ドギャーーーン!という三連続の効果音がどこからともなく聞こえてきた、気がする。

ライトの必殺技『幼い弟属性』の威力が最大限に発揮された瞬間である。

三人の人魚が同時にバターン!と海底に倒れ込んだのを見て、ライトの必殺技を見ていなかった人魚D、Eが慌てて三人の傍に駆け寄る。

『え、ちょ、待、どうしたの!?』

『ハァ、ハァ、ハァ……何だか今、心臓が止まりかけた気がするわ……』

『ぇ、ぇぇ……何かしら、この心臓を鷲掴みにされたようなものすごい衝撃は……』

『私、一瞬で海に還りそうになったわ……』

『海に還る!?貴女達、本当に大丈夫!? とりあえず深呼吸して!』

五人とも何が起きたのか分かっていないようだが、実はライトとレオニスも何が起きたのかよく分かっていない。

レオニスは『威圧したり倒れたり、忙しいねーちゃん達だな』と思っているし、ライトはライトで『海に還るって、それヤバくね!?』と内心オロオロしている。

ちなみに人魚達の言う『海に還る』とは、ライトが内心で懸念していた通りの意味で、陸の生き物で言うところの『土に還る』と同義である。

ヒッヒッフー、ヒッヒッフー……と人魚流深呼吸?を数回繰り返し、だんだんと落ち着きを取り戻してきた人魚達。

仲間に介抱されていた身体をゆっくりと起こし、再び海の中を優雅に浮遊しながらライト達に話しかけてきた。

『私達、海の女王ちゃんに頼まれてここに来たの』

『『気になる存在が近づいて来てるから、敵意がないようであれば連れてきて』と言われてね、それで様子を見に来たって訳』

『とりあえず貴方達に敵意はなさそうだから、お望み通り海の女王ちゃんのもとに連れていってあげるわ』

「本当ですか!? ありがとうございます、よろしくお願いします!」

人魚達の言葉にライトの顔はパァッ!と明るくなり、ペコリと頭を下げてお辞儀をしながら人魚達に礼を言う。

人魚達は皆『キャー!可愛いー!』『ねぇねぇ、もう一回『お姉さん』って呼んで!』『お姉さん達が連れていってあげるわ!』と、ニッコニコの笑顔で嬉々としてはしゃいでいる。

五人の人魚達に囲まれ、両手を引かれながらゆっくりとした泳ぎでどこかに連れていかれるライト。海の中で美女達にモテモテである。

その後ろでレオニスは『ン、やっぱこの手の交渉はライトに任せるに限るな!』と思いながら、ライトと人魚達の後をついていくのだった。