軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第552話 人族の観察

北の塔に向かう道すがら、ミサキとアラエルは行き交う人々をひたすら観察している。

すれ違う通行人、露店の商人、幼い子供を連れた買い物中の親子等々、たくさんの人々を真剣に見入っている。

「話には聞いていましたが……本当に人族というのは、容貌も背格好も全て一人一人異なるのですねぇ」

「本当にすごいですよね。僕も人里に来て間もない頃は、いつも驚いてばかりでした」

「私の場合、どういった人をお手本にすればいいのかしら?」

「そうですね……母様の場合『子供がいる母親』になりますから、主に子連れの母親を中心に観察すると良いかと」

「分かったわ。人族の女性は、小柄で髪が長めな人が多いのよね?」

「そうですね。例えばほら、あの人とか……あっ、あちらにいるのも大人の女性ですね」

アラエルは今はマキシの左肩に乗って、息子から人族の特徴や人里に関する話などを聞いている。マキシの解説を熱心に聞き入る姿は、八咫烏の族長の妻に相応しい勤勉さである。

忙しなく首を左右に振り、キョロキョロとあちこちを見るアラエル。その姿は本当に文鳥のようにしか見えない。

一方ミサキはラウルの右肩に留まり、興奮した様子でラウルにあれこれ聞いている。

「何か美味しそうなニオイがするー。ラウルちゃん、これは何のニオイ?」

「これは串焼の匂いだな。あの屋台で焼いているやつだろうな」

「あッ、あの子供が手に持って食べている赤いのはなぁに?」

「あれはいちご飴だな。苺という果物に甘い飴をかけて固めたものだ。甘くて美味しいぞ」

「ラウルちゃんも作れる!?」

「もちろんだとも。今日の晩飯の後に作ってやろう」

「わーい!やったー!」

ミサキは主にというか、ほぼ食べ物関連の話をラウルとともに熱心に交わしている。母親とは全く違う方向だが、ミサキもまた人里のことを熱心に学ぼうとしている。

ちなみにラウルの肩に留まっているのは、ただただ料理の話をしたさに移ったものと思われる。

花より団子、色気より食い気のミサキである。

そして時折ミサキが興味を示した屋台に立ち寄っては、何かしらを購入していくラウル。

ラウルもまた色気より食い気だが、ミサキの願いもきちんと叶えてあげているあたり、相変わらず女子供相手にはとても優しい妖精である。

ラウルとマキシがミサキとアラエルの相手をしている間、ライトとレオニスは別の話をしていた。

「そういえばレオ兄ちゃん、明日はどこにお出かけするの?」

「ラギロア島に行くつもりだ」

「ラギロア島!? それってもしかして、海の女王様がいるという海底神殿のあるところ!?」

「そうそう。カイ姉達がラギロア島にバカンスに行ったって、マキシが言ってただろ? なら 俺達(・・) も黄金週間で休みのうちに行ってもいいかな、と思ってな」

ライトに向かってニカッ!と笑いかけるレオニス。

レオニスがわざわざ『俺達』という複数形で言うということは、他にも誰かを連れていくということを意味している。

そのことにすぐに気づいたライトの顔は、パァッ!と明るくなる。

「レオ兄ちゃん、それってもちろんぼくも連れて行ってくれるんだよね!?」

「そりゃもちろん。海の女王に会いに行くなら、ライトもいっしょに行って女王の無事を確認しなきゃな」

「やったー!」

こちらもまたミサキのように、飛び上がらんばかりに大喜びする。

新たな属性の女王のもとを訪ねるのは、春休み以来である。

黄金週間は春休み同様長期休暇であり、これを利用しない手はない!という訳だ。

「ラギロア島へは、どうやって行くの?」

「サイサクス大陸の最南端に、ウスワイヤという最寄りの港町がある。そこから一日一便だか二便の定期船が出ていて、普通はそれに乗ってラギロア島に渡るんだ」

「ラギロア島ってのは、サイサクス大陸から離れてるの?」

「いや、港から目視できるくらいだからそんなに陸地から離れてはいない。つーか、ぶっちゃけかなり近い方だ」

島というくらいだから、陸地からかなり離れた孤島かと思っていたが、それ程遠い島ではないようだ。

一日一便でも定期船が出ているなら、それなりに人の出入りのある島なのだろう。

「そしたら明日は泊まりになるの?」

「んー、行き帰りは冒険者ギルドの転移門を使う予定だし、朝イチで行って何事もなければ泊まらずに帰ってこれるとは思うがな」

火の女王の住まうエリトナ山には、一泊二日の泊まりがけで出かけた。

ラギロア島も場所的には結構遠い方なので、もしかしたら今回も泊まりになるかと思い尋ねたライトだったが、レオニスの見立てでは日帰りでもイケるらしい。

確かにエリトナ山の場合、もともと事情がかなり特殊だった。

エリトナ山はシュマルリ山脈の奥深い方にあり、山をいくつも越えなければならなかったため日数がかかったのだ。

それに比べてラギロア島は、離島とはいえ港から島が見えるくらいに近い場所にあるという。

地理的にはラグナロッツァからかなり離れた場所だが、転移門を使えれば日帰りも十分可能だろう。

「カイさん達はどこにいるのかな?」

「ラギロア島内にある、貸し切りの別荘のどれかを借りてるだろうな。カイ姉達の黄金週間バカンスは、いつもどこかの別荘を借りて三人でのんびり過ごすのが定番らしいからな」

「そっかぁ。カイさん達はいっつも目一杯仕事してるから、黄金週間くらいのんびりと過ごしてほしいよね」

「だな。俺もいっつもカイ姉達には心配ばかりかけるしな……」

そんな話をしていると、遠目からでもそれと分かる高い塔らしき建造物が見えてきた。

「あッ!レオ兄ちゃん、あれが北の塔?」

「お、そうだな。あれがラグナロッツァの守護結界を張る塔の一つ、『北の塔』だ」

「おおお、俺も初めて見るが結構高い塔なんだな」

「シアちゃんと同じくらいの高さがありますかね?」

街の中心部から離れた、文字通り街外れにある高い塔。

人の住む建物の密集度も若干薄れた場所だが、逆に塔に向かう人々はかなり多い。ライト達も含めて、今この近辺にいる人は全員『五月病御祓いスタンプラリー』のスタンプを集めに来た人達だろう。

塔の本体よりかなり手前の方に高い壁があり、そこから先は塔の関係者しか立ち入りできないようだ。首都の結界を担う最重要施設だけに、警備もかなり厳重そうだ。

門扉のある場所の横に、スタンプの押印場所が設置されている。ヨンマルシェ噴水広場や花の森公園と同様、簡易テントの中にスタンプを押す人が座っている。

テントよりはるか離れたところから、既に大行列ができている。大行列といっても、スタンプをポン、と押してもらうだけなので、然程待ち時間もかからない。

ライト達も列の最後尾に並び、各自スタンプカードを出して準備している。

そうして十分程度並び、四人とも無事四個目のスタンプをゲットした。

「これで四個目だね!」

「おお、塔の絵の背後に『N』の文字か。ここのスタンプもなかなか凝っているな」

「これも格好いいスタンプですね!」

「何かよく分からないけど、マキシ兄ちゃんが喜んでるならとても良いことなのね!」

「押印を集める祭り、ですか。なかなかに楽しげでいいですね。八咫烏の里でも取り入れようかしら?」

レオニス以外の三人はスタンプラリー初経験なので、何を見ても新鮮で心躍るようだ。祭りを心から楽しめるというのは、とても素晴らしいことである。

三人の喜ぶ様子にミサキもまた喜び、アラエルに至ってはスタンプラリーを八咫烏の里での新たな祭りとして取り入れることまで考えているようだ。

もし八咫烏の里でもスタンプラリーが開催されたら、是非ともライト達も参加したいところであろう。

もっとも、どんな報酬が出るのかは全く想像もつかないが。

北の塔のスタンプを無事ゲットした一行は、花の森公園に向かっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

花の森公園に到着したライト達一行。

公園の中にある大きな木の下の木陰で、一休みすることにした。

敷物を敷き、ここに来る途中の屋台で購入したお祭りフードを食べながらのんびり休憩する。

時間的にも三時のおやつにちょうど良いタイミングである。

ミサキとアラエルには、小皿に乗せたそれぞれ一つづつ与える。

嘴で突つきながら、飴の薄い膜や苺の果肉を美味しそうに食べる二羽。何とも微笑ましい光景である。

ライト達のいるところから少し離れた場所に、人々の大行列ができているのが見える。そこは花の森公園のスタンプ設置場所である。

ライト達は黄金週間の初日、鑑定祭りの観戦前に既にスタンプをゲットしたので今日はもう立ち寄る必要はない。

「スタンプラリーも賑わってるねー」

「回る順番は個人の都合で決められるからな。黄金週間期間中はいつもどこも大賑わいさ」

鑑定祭りが開催された場所は、既に舞台や装置が外されて元通りの広い芝生が広がっている。

数日前の賑わいが嘘のような、穏やかな日常に戻っていた。