軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第550話 似た者神樹姉妹

翌日の朝。

ライト達は寝泊まりに使用したテントなどを片付け、早々に帰り支度をしていた。

思いがけずミサキとアラエルをラグナロッツァで受け入れることになったので、彼女達が少しでも長い時間人里に滞在できるように早く帰ろう、という配慮である。

一通り片付け終えたところで、最後の仕事『ユグドラシアの枝刈り』に取り掛かるレオニス。

当のユグドラシアからは『好きなように刈っていいですよ』と言われているので、ユグドラツィの時と同様になるべく地面から近い年月を経た古い枝を選んで刈り取る。

一番下の枝の根元でも、そこら辺の樹木の幹の数本分の太さだ。さすがは千五百年も生きる大神樹である。

そのはるか先端の方に行き、自分の胴体と同程度の太さの枝を十本切り取って空間魔法陣に収納していく。

そのうち三本は、ライト、ラウル、マキシに一本づつ分け合う予定だ。これもユグドラツィの時と同様である。

レオニスから巨大な枝を譲り受けたライト達。それぞれにアイテムリュックや空間魔法陣に仕舞い込むと、揃ってユグドラシアに礼を言う。

「シアちゃん、貴重な枝をありがとうございます!」

「次にアダマントの手斧を特注する時には、このシアちゃんの枝で柄を作らせてもらおう」

「僕はアイギスの休憩時間中に、少しづつ彫刻していきます!」

『ふふふ、枝の一本程度でそんなに喜んでもらえるなんて。皆頑張って創作活動に励んでくださいね』

喜ぶライト達を見て、ユグドラシアもまた喜ぶように枝葉がサワサワと揺れる。

「シアちゃん、ありがとう。次にここに来る時には、この枝で作ったアクセサリーをたくさん持ってくるからな」

『ええ、楽しみにしておりますよ』

レオニスもまた、ユグドラシアに礼を言いつつ次回会う時の約束を交わす。

皆がそれぞれに挨拶を交わし、別れを惜しむ。

「シアちゃん、また来ますね!」

『貴方方ならいつでも大歓迎ですよ』

「ツィちゃんに何か伝言はあるか?」

『ツィとお話できる日を楽しみにしている、とお伝えください』

「シアちゃん、これからも八咫烏の皆をお守りください」

『マキシ……貴方もまた私の愛し子の一羽ですよ。いつでも帰っていらっしゃい』

「シアちゃん……」

しばしの静寂の中、風に揺れる木の葉の葉擦れの音が静かに響く。

八咫烏の里を飛び出してなお、マキシのことを愛し子と言ってくれたユグドラシアを見つめるマキシ。

その瞳には、キラリと光るものが滲んでいた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ユグドラシアのもとを離れ、モクヨーク池に移動したライト達一行。

行きは巌流滝経由で来たが、この八咫烏の里にはモクヨーク池という立派な名有りの水場がある。このモクヨーク池をウィカに覚えてもらえば、次はダイレクトに八咫烏の里に来れるようになるのだ。

更なる時間短縮になる、という訳である。

マキシ達の兄姉は各自護衛の仕事に行き、ライト達の見送りは父ウルスのみ。

モクヨーク池の畔で、ライトは改めてお別れの挨拶をする。

「ウルスさん、お泊まりさせていただきありがとうございました!」

「何の何の、ろくなもてなしもできずに申し訳ない」

「父様、母様とミサキのことは心配しないでください。僕が必ず守りますから」

「くれぐれも頼んだぞ、マキシ」

マキシの両肩をガシッ!と掴むように翼を置くウルス。

あの病弱だった子が、こんなに立派になって……呪いが取り除かれて本当に良かった……

再び故郷を旅立つ我が子を前に、ウルスの胸中には様々な思いが巡る。

そしてウルスは改めてレオニスの方に向き直り、深々と頭を下げる。

「レオニス殿……息子と妻と娘をよろしく頼む」

「ああ、今日は俺もいっしょに帰るから街の案内くらいは付き合えるし、明日明後日はラウルとマキシが護衛するから大丈夫だ。な、ラウル?」

「おう、護衛も街の案内も万事俺に任せとけ」

レオニスに話を振られたラウル、万事俺に任せろ!という実に頼もしい言葉とともに諸々を引き受ける。

確かに四人の中でラグナロッツァに最も詳しいのは、長年ラグナロッツァの屋敷に住み続けて日々市場に買い物に行くラウルだろう。

「ラウルちゃん、お料理するところも見せてね♪」

「ン? じゃあ街の見学は外が明るいうちにして、夜は晩御飯の後に料理を作るところを見学させてやろう」

「わーい♪」

ミサキのおねだりにも快く応じるラウル。

さすがに夜の街までは見学させられないので、夜になったらラウルがラグナロッツァの屋敷の厨房で料理を作るところを見せてやれば時間的にも都合が良い。

特にミサキには、もとから『ラウルちゃんのように、美味しい料理を作れるようになりたい!』という願望がある。

三日間という限られた時間を最大限有効的に使うため、昼間は人化の術のモデル見学、夜はラウルの料理見学、ということになった。

「父様、兄様、姉様、いってきまーす!」

「貴方、すみませんが三日の間よろしくお願いします」

「ああ、里のことは何も心配せずとも良い。人里がどのようなものか、存分に見学して私達に教えておくれ」

「「はい!」」

ライト達一行は、ミサキとアラエルとともに八咫烏の里を後にした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ウィカの水中移動で、目覚めの湖に瞬間移動したライト達。

本当はラグナロッツァの屋敷の浴槽に瞬間移動しても良かったのだが、せっかくなら神樹ユグドラツィのところにも寄っていこう!という話になったのだ。

「ウィカちゃん、ありがとう!私、水中移動なんて初めて!水の中を泳ぐのって、すっごく楽しいのね!」

「うなにゃにゃーん」

「こんな小さな身体で全員を移動させられるなんて、ウィカちゃんって本当にすごい力を持ってるのね!」

「にゃうにゃうにゃー」

ウィカの水中移動に感激したミサキが、両翼でウィカを抱きしめつつ大絶賛とともに礼を言う。

ミサキに思いっきり頬ずりされるウィカ、その熱い抱擁になされるがままである。

しかし、ウィカも別に嫌がってはいないようだ。それはミサキが心から礼を言っているのがウィカにも分かるからだろう。

カラスが猫に抱きつくというのは、端から見れば実に奇異な図に映る。だが、もともと八咫烏の里には猫という存在がいないので、恐怖や敵対概念も一切ないのだ。

というか、ウィカも本当の猫ではないのだが。

ミサキに抱かれるウィカに、ライト達も礼を言う。

「ウィカ、二日間ありがとうね!」

「ラギロア島で何か土産買ってくるからな、楽しみにしててくれよな」

「俺もまたエンデアンの海産物を土産に買ってくるからな」

「ウィカちゃん、また明後日にも八咫烏の里への往復をお願いするけど、その時もよろしくね」

「うなにゃにゃなぁーん♪」

「さ、ミサキ、ウィカちゃんもおうちに帰るから下ろしてあげて」

「うん!ウィカちゃん、またね!」

ライト達四人から、熱烈な礼を受けてご機嫌のウィカ。

ミサキがウィカを解放し、地面にそっと下ろす。

目覚めの湖の湖面の上をトトト、と軽やかに歩くウィカ。振り返ってライト達の顔を見ながら「うにゃッ♪」と一声あげてからトプン、と湖に静かに消えていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

目覚めの湖から、次は神樹ユグドラツィのもとに向かうライト達。

里の外に出るのが生まれて初めてのミサキは、ずっとキョロキョロと周りを見回している。

「ミサキ、里の外は珍しいかい?」

「うん!同じカタポレンの森だけど、生えている草木は八咫烏の里と微妙に違うのね!」

「母様は里の外に出たことはあるんですか?」

「若い頃に三度ほど出たことがあるくらいで、それも全てカタポレンの森の中だし。もうずっと長いこと、里の外には出てなかったわねぇ」

「そうでしたか。人里はカタポレンの森と全然違いますからね、驚かないでくださいね?」

「うふふ、楽しみにしてるわ」

マキシ達が親子で仲睦まじい会話をしていると、目当てである神樹ユグドラツィの姿が遠目からでも見えてきた。

「あ、見えてきましたよ。あれがシアちゃんの弟妹、神樹ユグドラツィです!」

『……ツィちゃん』

「えッ!? ここからでもうダメ出し飛んでくるの!?」

早速ライトがユグドラツィの紹介をするも、これまた速攻でタイピン経由でユグドラツィに呼称のダメ出しを食らうライト。

ユグドラツィもまた、何が何でも『ツィちゃん』と呼ばれたいようだ。

やはり同じ神樹族だけあって、ユグドラシアと本当によく似た神樹姉妹である。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ユグドラツィの前まで来たミサキとアラエル。

早速ユグドラツィの前に跪き、恭しく挨拶をする。

「シア様の御座します八咫烏の里から参りました、八咫烏族族長ウルスが妻アラエルと申します。此度は大神樹シア様の弟妹であらせられるツィ様に、拝謁の栄に浴する機会を得ましたこと誠に恐悦至極に存じます」

「ツィちゃん、初めまして、こんにちは!私はウルス父様とアラエル母様の三番目の娘で、ミサキといいます。ユグちゃんと同じ神樹のツィちゃんにお会いできて、とても嬉しいです!」

アラエルがものすごく畏まった挨拶をした後で、ミサキが元気良く挨拶をする。

一見のほほんとしたアラエルだが、ちゃんとその場に合わせて弁えた言動ができるあたり、さすがは族長の妻である。

二羽の挨拶を受けたユグドラツィ、サワサワとした葉擦れの音とともに二羽の訪問を歓迎し声をかける。

『我が敬愛するシア姉様の愛し子達よ、ようこそいらっしゃいました。我が名はユグドラツィ、私のことは気軽に『ツィちゃん』と呼んでいいですよ』

「はい!」

「そ、そこは、シア様とお揃いの『ツィ様』で何とかご寛恕いただきたく……」

『ふむ……シア姉様とお揃い、ですか。それもまた良いですね。ではアラエル、貴女からの呼び名は『ツィ様』でも構いませんよ』

「ツィ様のご配慮、ありがたき幸せに存じます」

ミサキは最初から遠慮なく『ツィちゃん』と呼んでいるが、アラエルの方はさすがに畏れ多くてどうにも難しいようだ。

『シア様とお揃い』というアラエルの言葉にすっかり乗せられたユグドラツィ、ツィ様でもOK!とする。

ユグドラツィを上手く言い包めるとは、アラエルもどうしてなかなか策士である。

「ツィちゃん、ぼく達の着けた分体からシアちゃんの姿は見えましたか?」

『ええ、見えましたとも。直接触れ合えた訳ではありませんが、分体を通してシア姉様の御姿を拝見できたこと……本当に嬉しかったです』

「それは良かった!」

「ああ、俺達全員でマキシの里帰りについていった甲斐があったな」

ユグドラツィが分体を通してユグドラシアの姿を無事見ることができたことを知り、ライト達も喜んでいる。

遠く離れた地に根を下ろす神樹同士、どれほど同族に会いたいと願っても本当に会うことなど到底不可能だ。

だが、その不可能をライト達は可能にしてくれた。そのことがユグドラシアはとても嬉しかったようだ。

『かつて貴方達は私に、広い世界を見せてくれると約束してくれましたね』

『その約束通り、貴方達人族の日々の営み、各地に住まう属性の女王達を訪ねて向かう旅、小人族や鬼人族との触れ合い……いつも心躍る素晴らしい光景を見せてくれました。ですが……』

『私以外の神樹の姿まで見ることができるなどとは、露ほども思っていませんでした』

『シア姉様のお元気そうな姿を、この目で見ることができるなんて……夢のようです。本当に……本当にありがとう……』

歓喜に打ち震えるユグドラシア、感極まって言葉が詰まる。

そんなユグドラツィを慰めるように、ライト達がユグドラツィの根をそっと撫でる。

もし生まれ変わることができるなら、鳥になって他の神樹達に会いに行きたい―――かつてラウルに与えられた『クレーム・ド・カシスのシャーベット』で酔っ払った際に、ユグドラシアが漏らした本音。

今世を終えてからの来世に賭けるまでもなく、今世のうちに兄姉の姿を見ることができたユグドラツィ。どれほど嬉しかっただろう。

「ツィちゃん、今朝八咫烏の里を出る前にシアちゃんの枝を分けてもらいました。これでまたアクセサリーを作って、今度はシアちゃんの分体を入れてもらう予定なんですよ」

『シア姉様の分体ができたら……今よりもっとシア姉様と会話ができるようになるでしょうか?』

「実際にやってみなければ分かりませんが、会話できる可能性はそれなりに高そうですよね」

『あまり期待ばかりしてはいけないと思うのですが……そうなることを願って止みません』

ユグドラツィに続き、ユグドラシアの分体作成計画も動き出していることをユグドラツィに伝える。

ユグドラツィの分体は出力が控えめで、緊急時などに声が伝わる程度だが、ユグドラツィより長寿で大神樹のユグドラシアならもっと積極的に会話ができるかもしれない。

こればかりは実際にその場になってみないと分からないが、ユグドラツィが期待してしまうのも無理はない。

「シアちゃんの枝をいろんなアクセサリーに加工するのに、また少し時間がかかると思うが。気長に待っててくれるとありがたい」

『もちろんですとも。百年でも千年でも、いくらでも待ちましょう』

「ぃゃ、百年後には俺もライトもさすがにこの世にいないと思うが……」

『…………あ"』

「「「…………」」」

思わずユグドラツィにツッコミを入れるレオニス。

ユグドラツィにとっては百年も千年もほんの数瞬かもしれないが、人族であるレオニスやライトはそうはいかない。

百年後には間違いなく二人ともこの世にいないだろう。

そしてユグドラツィの方は、本当に失念していたようだ。

『そ、そうでした……すみません、人の子の寿命を考えていませんでした……』

「ハハハ、ツィちゃんでもボケることあるんだな!」

『そんな揶揄わないでください……恥ずかしいぃぃぃ』

「今日もツィちゃんは可愛いなぁ!なぁ、ライト!」

「うん!そんな百年も待たなくても、一ヶ月くらいでできると思いますよ!」

『……ぅぅぅ……』

レオニスやライトの言葉に、あからさまに恥ずかしがるユグドラツィ。

会う毎にどんどん可愛らしくなっていく神樹である。

「まぁもし万が一ツィちゃんを百年以上待たせるようなら、そん時ゃラウル、お前に後を任せるわ」

「おう、任せとけ。ツィちゃんの面倒は俺が見るから安心しな」

「ぃゃ、その前に俺達の老後の面倒を先に見てもらう方が先か」

「おう、そっちも任せとけ」

レオニスの巫山戯た振りに、大真面目に応えるラウル。

プーリア族の平均寿命が何年かは知らないが、間違いなく人族よりは何倍も生きるだろう。

ユグドラシアだけでなく、レオニスやライトの老後の面倒まで見る宣言をするラウルの何と頼もしきことよ。

生きる時の流れが全く違う者同士だが、同じ時を生きて笑い合える今この瞬間が何よりも尊く得難い宝物のようなひと時だった。