軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第544話 特訓の目的

「マキシ兄ちゃーん、お待たせー!」

ミサキが父ウルス、母アラエルとともに下に降りてきた。

二羽とも大神樹の幹や枝葉の点検に出ていて、なかなか捕まえられなかったらしい。

マキシより一回りも二回りも大きい立派な体躯のウルスに、夫より若干小さいもののそれでもマキシやミサキよりもはるかに大きいアラエル。

マキシの実の両親である二羽が、揃ってマキシの前に舞い降りた。

「おかえり、マキシ」

「またマキシが家に帰ってきてくれて、とても嬉しいわ!」

「父様、母様……ただいま」

ウルスとアラエルが、息子の里帰りを心から喜びマキシの身体を抱きしめる。

その心温まる抱擁は、実に感動的な親子の再会シーンだ。

だがしかし。そんな感動的な空気を一切読まない者がここに一人。

「なぁ、マキシの父ちゃんと母ちゃん、前より身体が大きくなってねぇか?」

「あ、ラウルちゃん、分かるー? 前回マキシ兄ちゃんが里帰りした時に、皆あれこれいろんな衝撃があったらしくてね? あれ以来、父様や母様だけでなく兄様や姉様達まで『特訓だー!』とか言って身体を鍛え直してるんだよねー」

「……あれ以上デカくなってどうすんだ?」

ミサキの話によると、去年の暮れに里帰りしたマキシが八咫烏の里には戻らずに再びラグナロッツァに旅立ったその後、ミサキを除く族長一族全員が猛特訓に励んでいるという。

その目的は、異種族との交流を持つために里の外に出ても十分やっていけるようにとか、あるいは腑抜けた治安部隊を鍛え直すとともに防衛面の強化のためだったり、様々な理由があるようだ。

ちなみに八咫烏の体格は魔力の多寡に比例するので、鍛えて魔力が増えればその分体格も大きくなる。

そのため、ウルスもアラエルもラウルが前回マキシとともに八咫烏の里に来た時よりも体格が良くなっていたのだ。

「あれから皆、そりゃもう毎日猛特訓してるのよー。……あ、私も人化の術を使えるようになりたいから、毎日欠かさず練習してるよ!」

「そうなんだ。ミサキちゃんも頑張ってて偉いね!」

「エヘヘ……でも、どうにもいまいち感覚が掴めないというか、まだ会得できてなくて……マキシ兄ちゃんが帰ってきたら、コツを聞こうと思ってたの!」

人化の術をマスターするために頑張っていると聞き、ライトがミサキを褒める。

ライトに褒められたミサキは照れ臭そうに微笑むも、すぐにしょげてしまう。どうやら人化の術を会得するのに行き詰まっているようだ。

八咫烏の里には人型の生物などいないので、見本となるものがないのも上手く会得できない要因なのだろう。

「そしたら後でマキシ君に聞いてみるといいよ。マキシ君の人化の術は本当に自然で、ぱっと見ても人間じゃないなんて全く分からないもん」

「そうよね、マキシ兄ちゃんの人化の術は本当にすごいよね!だから後でマキシ兄ちゃんに習うんだ!」

そんな話をしていると、マキシとの再会の喜びを分かち合ったウルスとアラエルがマキシとともにライト達のもとに来た。

「ライト殿、ラウル殿、そしてレオニス殿。話はミサキから聞いた。八咫烏の里へようこそいらっしゃった。八咫烏一族を代表して、心より歓迎申し上げる」

「ウルスさん、こんにちは、お久しぶりです!」

「あんたが八咫烏一族の族長か。俺はレオニス、このカタポレンの森の番人として日々警邏に努めている」

「貴殿の勇名は我が里にも届いておる。森の番人にお会いできて光栄だ。そして我が息子マキシも大変お世話になっているようで、重ねて御礼申し上げる」

ウルスとアラエルが、レオニスに向かって深々と頭を下げる。

親として息子の恩人に礼を言う姿勢は、とても真摯と言えよう。

「今まであんた達の縄張りに入ったことは一度もなかったが、今回はマキシの里帰りに乗じてあんた達家族と大神樹ユグドラシアに会いに来た。こんな機会でもないと、なかなか八咫烏の里に入る口実がなくてな」

「シア様もレオニス殿にお会いできて、とても喜んでおられる様子。貴殿達の時間の許す限り、いくらでも里に滞在していただきたい」

「いや、心遣いはありがたいが、俺達はまた明日帰る予定だ。一泊だけさせてもらえるだけで十分だ」

「そうか……それは残念だが、レオニス殿達にも都合があろう。お帰りになるまでの間、ごゆるりとお過ごしくだされ」

「ああ、そうさせてもらう」

レオニス達が長居しないことを知ると、ウルス達は少し残念そうな顔をする。レオニス達の滞在期間は、そのままマキシの滞在期間に繋がるからだ。

こうして二度目の里帰りをしたマキシだが、新たに連れて来た仲間とともに再び人里に行ってしまうことをウルス達は理解していた。

そんな話をしていると、今度はマキシの兄姉達が集まってきた。

普段彼らは里の警備を担っている。

全力で駆けてくるその様子は、何やらとても慌てているようだ。

「父様!母様!里に侵入者が発生したようです!」

「皆、急いで避難を!…………って、あら? マキシ?」

「フギン兄様、ムニン姉様、お久しぶりです」

慌てた様子で一目散で駆けつけてきた、長兄フギンと長姉ムニン。

ユグドラシアの根元にいた父母のもとに飛んできたはいいが、そこに末弟の姿があるのを見てしばし『???』になる。

そうして数瞬の後、ようやく事態が飲み込めてきた二羽はワナワナと震える。

「侵入者というのは、マキシ達一行のことだったのか……あいつらめ、適当なことを 吐(ぬ) かしおって」

「全く……どうしてこうもちゃんとした連絡の一つすらできないのかしら」

「フギン兄様、ムニン姉様、いいんですよ。僕は気にしてませんから」

「貴方は良くても私達が良くないわ!」

「そうだぞ、マキシ。お前だって私の大事な弟なんだから」

「フギン兄様、ムニン姉様……」

プンスコと怒る兄姉達をマキシが宥めようとするも、さらに憤慨するフギンとムニン。

その後に続いた『私の大事な弟』という言葉に、マキシは思わず声が詰まる。

マキシの頭を撫でるフギンに、「おかえりなさい、マキシ」という言葉とともにマキシを抱きしめるムニン。

兄姉の愛に包まれたマキシも、とても嬉しそうだ。

そうしている間にも、他の兄姉が続々と集まってきた。

「父様、母様!南西側の結界に侵入者の反応があったようです!…………って、アレ?」

「既に衛兵が数羽やられてしま…………って、アレ?」

「あー、やっぱりねー。どうせこんなことだろうと思ったよ、アハハー。おかえり、マキシ」

警備を任されている次姉トリス、次兄ケリオンが慌てふためくその後ろで、三兄レイヴンだけがのんびりと構えている。

レイヴンだけは衛兵の与太話を見抜いていたようだ。

三羽の兄姉達をマキシが労いつつ迎える。

「トリス姉様、ケリオン兄様、レイヴン兄様、お久しぶりです。警備のお仕事、ご苦労さまです」

「あいつら……一体どこに目をつけてやがんのかしら!」

「あいつらには明日から十日間の特訓メニューを追加するとしますか」

「ねーねー、そんなことよりさー、マキシのおかえり歓迎会でもしようよー」

「……え、ええ、そうね。その方が余程いいわね。マキシ、おかえりなさい」

「またお前を迎えるのが遅くなってすまなかったね、マキシ。おかえり」

先程の長兄長姉同様ワナワナと震えるトリスとケリオンに対し、レイヴンがのほほんとした口調で前向きな提案をする。

その口調と提案に毒気を抜かれたのか、トリスもケリオンも我に返り穏やかな口調でマキシの里帰りを喜ぶ。

「兄様も姉様も、皆また一回り身体が大きくなりましたね」

「ああ。外の世界で頑張っているマキシに、我等も負けてはいられないからな」

「そうよ。私達もいずれは外の世界に出て羽ばたけるように、より研鑽を積んでいるところなのよ」

マキシの言葉に大きく頷きながら肯定するフギンとムニン。

「それに、外の世界だけでなく、八咫烏の里全体がもっともっと強くならなくちゃいけないわ」

「百二十年前の悲劇のような事態を、二度と引き起こさないためにも……私達は強くあらねばならない」

フギンとムニンの言葉を肯定するように、トリスとケリオンも続く。

二羽の言葉は、かつてマキシがスケルトン軍団に拐われてしまったことを指している。

あんな悲劇を二度と繰り返さないために、もっともっと強くならなければ―――トリスとケリオンは、強い決意に満ちていた。

「……でもさ。皆あんなこと言ってるけど、鍛錬を重ねるのは他にも目的があるんだぜ?もちろんさっき言ってたことも全部本当のことだけどさ」

「ン? レイヴン兄様、他の目的って一体何ですか?」

頭の後ろに両翼を当てながら、ニシシ、と笑みを浮かべるレイヴン。

何のことかさっぱり分からないマキシは、レイヴンに向かって問いかけた。

「それはねー、ミサキと同じでいつか人里に出向くために人化の術を会得―――」

「わーーーッ!ななな何を言い出すんだレイヴン!!」

皆の鍛錬の真の理由をバラされかけた他の兄姉達が、慌ててレイヴンの口を塞ぎにかかる。

上四羽の兄姉達が一斉にレイヴンに飛びかかったため、全羽がレイヴンの身体の上にのしかかる。

自分より体格の良い四羽の兄姉達に、折り重なるようにしてのしかかられたレイヴン。「キュゥ」という言葉の後に目を回して気絶してしまった。

「え、ちょ、待、レイヴン兄様!しっかりしてください!」

「ウキュゥ」

「皆何してんですか、レイヴン兄様潰れちゃうじゃないですか!」

「ぇ、ぁ、ぃゃ、それはだな……」

「そ、そうよ!レイヴンが余計なことを言おうとするからいけないのよ!」

「全くもう、口の軽い男は嫌われるってものよね!」

「そうですとも。後でレイヴンには、軽い男はモテないゾ!ということをしっかりと教えてやらないといけませんね」

レイヴンを押し潰しかけた兄姉達をマキシが咎めるも、四羽の兄姉達は慌ててゴニョゴニョと言い繕いつつ誤魔化そうとする。

だが、マキシの横にいたニコニコ顔のミサキによって、兄姉達の必死の努力は水泡と帰す。

「兄様も姉様も、皆マキシ兄ちゃんのところに遊びに行きたいんだよねー♪」

「「「「……ッ!!!!!」」」」

「でも私も負けてらんないもんね!一日も早く人化の術を覚えて、兄様や姉様達といっしょにマキシ兄ちゃんのところに遊びに行ったり、ユグちゃんの親戚の神樹のツィちゃんに会いに行くんだ!」

「「「「………………」」」」

せっかく三男の口を塞いだというのに、末妹のミサキに完全に暴露されてしまった四羽の兄姉達。

もちろんミサキに悪気など微塵もない。揶揄うような口調だったレイヴンと違って、敬愛する兄姉とともに里の外に行くことを夢見る純粋な少女である。天然最強。

そんなキラッキラの笑顔のミサキに対し、さすがにレイヴンのように口を塞ぎに飛びかかる訳にはいかない兄姉達。がっくりと肩を落とし、雁首揃えて項垂れる四羽。

それはマキシが今までに一度も見たことのない、兄姉達の情けない姿だった。

八咫烏の里を家出同然で飛び出す前までは、マキシにとって兄姉は畏怖の対象でしかなかった。

他者にも厳しいが己にはもっと厳しく、強く凛々しい兄姉達。

魔力のないマキシには眩し過ぎるくらいに偉大で、どこか遠い存在のようでもあった。

そんな兄姉達にも、こんな可愛らしい一面があったとは。マキシは驚くと同時に、急速に親近感が湧いてきた。

「兄様、姉様、私といっしょにマキシ兄ちゃんとこに遊びに行こうねッ♪」

「「ぁ、ぁぁ……」」

「「ぇ、ぇぇ……」」

「という訳で。マキシ兄ちゃん、今日は皆に人化の術のコツを徹底的に教えてね!」

「ふふふ、後で皆でいっしょに頑張ろうね。兄様も姉様も、皆で特訓しましょう!」

「ああ、皆で練習しよう」

マキシの明るい言葉に、項垂れていた兄姉も顔を上げて互いの顔を見合わせながら微笑む。

ニパッ!と明るく笑うミサキと、無邪気に笑う双子の妹の頭をそっと撫でるマキシ。

そして、相変わらず仲の良い双子の兄と妹を取り囲む兄姉達。

仲睦まじい兄弟姉妹の姿がそこにはあった。