作品タイトル不明
第535話 ミーナの弟か妹
「使い魔の卵、ですねぇ……」
『ですねぇ……』
『卵、ですかー?』
持ち帰りアイテム入れの籠の隅にあった、うずらの卵よりも小さいそれをライトがそっと取り出す。
『ミーナ、貴女もね、これと全く同じような卵から生まれたんですよ』
『えッ!? そうなのですか!?』
『ええ。ライトさんがこれと同じ卵にたくさんのご飯を与えることで、卵が孵化しました。そこから出てきたのが貴女です。ミーナはライトさんからたくさんの愛情をもらうことによって、この世界に生を受けることができたのです』
『主様のたくさんの愛情……主様、私を産んでくださって本当にありがとうございます!』
「ンァ?……ぇー、ぁー、う、うん、卵を産んだのはぼくじゃないけどね?」
ミーアが感慨深げにミーナの誕生秘話を語り、それを聞いたミーナが潤んだ瞳でライトを見つめながら感謝の言葉を口にする。
だがしかし、ミーナの言葉のチョイスがどうにも微妙である。
確かに卵に餌を与えて孵化させたのはライトだが、ミーナの言葉だけを聞いていたらまるでライトが出産したかのようである。
『では、この卵が孵化したら、私の弟か妹になるのですか?』
「んー、まぁ立場的にはそうなる、のかな? ただし、天使以外の種族を孵化させた場合、どう呼んでいいものかは分かんないけど」
『種族なんて関係ありません!どんな子であろうとも、私の弟妹であることに変わりはありませんもの!』
ミーナがキラキラと目を輝かせながら、ライトの手のひらの上の卵をじっと見つめる。
自分と同じ卵から生まれて、なおかつ自分より後に生まれた者は絶対に自分の弟もしくは妹!と確信しているようだ。
確かにミーナの時と同じく、コズミックエーテル五十本を与えればまた力天使が生まれるだろう。
だが、使い魔はその種族の豊富さが魅力の一つでもある。せっかく何十種類もの使い魔が存在するのに、また同じものを孵化させるのはもったいない。どうせなら違う種族で孵化させたい、とライトは考えていた。
もっとも、先日のミーナの孵化でライトの手持ちのコズミックエーテルは全部使いきってしまっており、また力天使を孵化させたくてもすっからかんなのだが。
だがそれ以前に一つ、重大な問題があった。
「えーとですね。ミーナの孵化には卵に与える栄養として、コズミックエーテルを五十本使いました。次に使い魔の卵を孵化させるなら、今度はコズミックエーテルと同等のHP回復剤、グランドポーションで孵化させたいと考えてはいるんですが……」
『?? 何か問題があるのですか?』
「ええ……実はそのグランドポーションが、まだ五十本用意できてないんですよねぇ」
ライトがため息をつきながらミーナの問いに答える。
グランドポーションは、現時点でライトがレシピ生成で作れる回復剤の中ではマキシマスポーションに次ぐ高級品だ。
ランクこそ最上級ではないものの、その原材料は大量かつ多岐に渡り必要となる。
まずグランドポーションの生成に必要な原材料は『荒原鷹の斬爪5個』『イノセントポーション3個』『エネルギードリンク2滴』『闘水2個』『巨大蜈蚣の硬皮3個』、この五種類だ。
だがこれはあくまでグランドポーション作りに必要な原材料であり、そのうちの二つ、イノセントポーションと闘水もレシピ生成で別途作っておかなくてはならない。
イノセントポーションには『単眼蝙蝠の羽5個』『エクスポーション3個』『エネルギードリンク2滴』『目覚めの湖の水2個』『地虫の大顎3個』が、闘水には『赤棘花の蔓10個』『濃縮エクスポーション1個』『巌流滝の清水3個』『濃縮アークエーテル1個』『茶色のぬるぬる1個』が要る。
そしてグランドポーション一個を作るのに、イノセントポーションは三個、闘水は二個を必要とする。
つまり、グランドポーション五十本をレシピ生成しようと思ったら、イノセントポーションが百五十本、闘水が百個必要になるのだ。
闘水作りに必要な赤棘花の蔓に至っては、千個分も要る計算になる。
他にもオーガの里襲撃事件の時に拾った単眼蝙蝠の羽の在庫ももうないし、荒原鷹の斬爪や巨大蜈蚣の硬皮なども新たに補充しなければならない。
いや、実を言えばレシピ作成以外の入手方法がない訳ではない。グランドポーションは薬師ギルドの売店でも売っているのだ。
だから、足りない分は薬師ギルドで買うという奥の手もあるにはある。
だが、薬師ギルドでのグランドポーションの販売価格は一本3000G。これを不足分の二十本買おうと思ったら、総額6万Gになる。
現役冒険者のレオニスやラウルが購入するならともかく、初等部に通う子供のライトがそんな大金を持って内密に大量購入するというのは、どう考えても非現実的で不可能だった。
『そのグランドポーションは、今何本お持ちなんですか?』
「今のところ三十本は用意できてます。でも、足りない原材料がいくつかあるので、それを集めてからでないと残り二十本分が作れないんです」
『やはりミーナの時と同様に、五十本要るのでしょうか?』
「実際にやってみなければ分かりませんが、おそらくはそうなると思います。ここの創造神は、そういった一定の法則とか規則性を持たせるのが好きな傾向にありましたし」
前世で散々BCOをやり尽くしたライトだからこそ、 創造神(うんえい) のやりそうなこと、考えそうなことはある程度読める。
例えば『使い魔の餌(高級な肉)』を百個与えたら、何らかのレアな使い魔が孵化するとしよう。そしたら他の違う餌『使い魔の餌(高級な魚)』や『使い魔の餌(高級な野菜)』でも、百個与えたら別のレアな使い魔が出てくる可能性が高いのだ。
ここら辺の行動パターンは、他のイベントなどで何度も経験しているのでユーザー側も先を読みやすかった。
『では、ライトさんがその材料を揃えるまで、この卵の孵化は延期ですか?』
「そうですね。下手にいろんな餌をまぜこぜに与えると、失敗する可能性が高いので……ちゃんと孵化させるなら、一気にやらないと」
『分かりました。ミーナもそれでいいわね?』
『もちろんです!……本当は、今すぐ弟妹に会えないのはちょっぴり残念ではありますが……主様のお考えに間違いはありませんし、準備不足で困るよりは準備万端整ってからの方がいいですよね!』
ライトの答えを受けて、ミーアがミーナに向かって確認するかのように問う。
ミーナも残念そうではあるが、使い魔が主の言うことに逆らうことなどまずあり得ない。それにミーナの言う通り、使い魔の孵化は準備万端整えてから一気呵成で挑むべきである。
「そしたら【神霊術師】の職業習熟度上げも兼ねて、黄金週間中に素材集めもしますね」
『では、それまでこの卵はライトさんの方で預かっていただけますか?』
「分かりました」
『主様……主様のアイテム欄に仕舞う前に、私に卵を持たせていただけませんか?』
「ン? いいよ、どうぞ」
ライトが手に持っていた使い魔の卵を、マイページのアイテム欄に収納しようとした、その時。
ミーナが使い魔の卵を持ちたいと言ってきた。
ライトはミーナの願いを聞き、使い魔の卵をミーナに渡す。
『うわぁ、ちっちゃいですねぇ……』
「うん、一番最初はこんなに小さいけど、美味しいご飯をたくさんあげるとどんどん大きくなっていくんだよ」
『この中に、私の弟か妹がいるんですね……早く会いたいなぁ』
ミーナは己の手のひらにある小さな卵を、愛おしそうに見つめている。この卵はミーナ自身が見つけてきただけに、思い入れも一入のようだ。
今日のところは餌不足により、すぐに孵化させることはできなかった。だが、ライトが素材を揃えればいつでも孵化させることができる。
卵を人差し指でそっと撫でながら、ずっとニコニコしているミーナ。一日も早く弟か妹に会いたいのだろう。
ミーナの期待に応えるためにも、黄金週間中に素材集め頑張らなくちゃ!とライトは内心で奮起するのだった。