軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第517話 ラウルの焼窯作り

翌日曜日。

午前中は春休み中に捌ききれなかった魔物の解体を行う。

ストック分全部捌くことこそできなかったが、それでも大量に解体し続けたため【解体新書】のスキルレベルはMAXに到達していた。

クエストイベントで得た、魔物の解体を素早く行える特殊スキル【解体新書】。

最初の頃は、暗黒茸を一体解体するのに一分、昆虫類イモムシ系のグラスセンティピードは三分、鳥類鷹系のメドウウィングで四分かかっていた。

スキルレベルMAXに至った今では、暗黒茸十秒、グラスセンティピード三十秒、メドウウィング四十秒で解体できるようになった。最も構造的に複雑なマンティコアでも一分で楽々解体完了だ。【解体新書】スキル様々である。

ちなみに昨日柴刈りしまくった咆哮樹の枝も、この【解体新書】スキルを用いれば適度な大きさで切り分けてくれることが分かっている。

小さめの枝でも木片五個前後、大きな枝になると二十個三十個取れたりする。

目分量ではなくスキルで自動処理するので、システマチックで無駄なく効率良く素材分けできるのが素晴らしいところだ。

そういえば、咆哮樹って木片以外に素材になるんだろうか? 葉っぱとか根っことか樹皮とか、如何にも素材になりそうだけど、どうなんだろ?

そのうち木片以外の素材指定も出てくるかもしれないな。その時には潔くキッチリと仕留めよう。

それまでは枝の切り取りだけに留めて、サイサクス世界と樹木に優しい再生エコに努めなくちゃね!

ライトはそんなことを考えつつ、目にも止まらぬ早業でスパパパパ!と咆哮樹の枝を切り分けていく。

樹木系魔物相手に、再生エコもへったくれもないと思うのだが。

鼻歌交じりでサクサクと解体を進めていくライト、今日の修行も絶好調である。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ストックしていた魔物のだいたいを解体し終えたところで、自室に戻ろうとしたライト。

そこに、ラグナロッツァの屋敷からラウルが移動してきた。

「おわッ、ラウル!? どしたの!?」

「お、ライトか、驚かせてしまってすまん。昨日話した殻処理用の焼窯な、ご主人様の許可が出たんで早速作りに来たんだ」

「そうなの? それは良かったね!」

昨日ライトがラウルに伝授した、ラウルの殻処理問題の解決策の一つ『殻を焼くための窯をカタポレンの森の家の庭に作る』を早速実行しにきたようだ。

「向こうの屋敷の大ホールを使う許可も取れたの?」

「いや、大ホールの方は許可は取れなんだが、代わりに二階の一室を俺の作業用として使っていいということになった」

「そっかぁ、さすがに客人を招くための大ホールは無理だったかぁ」

「まぁな、大ホールはシャンデリアや絵画とか備え付けの調度品も多いしな。その点二階の部屋なら、箪笥やベッドを退かして窓もカーテンをすればいいだろうって」

一階の大ホールを殻割りの作業場にすることは、さすがにレオニスも頷けなかったらしい。

確かに大ホールには『客人を招いてもてなす場』という役割があり、そのための豪華な調度品がそこかしこに備わっている。

ちなみにそれらの調度品はレオニスが用意したものではなく、国から屋敷を下賜された時からついてきていたものだ。

豪華なシャンデリアやソファがいくらするものなのかは知らないが、結構なお値段がするに違いない。

それらを砂漠蟹の硬い殻で破壊されては、如何にレオニスでもたまったものではないだろう。

だが、大ホールを貸せない代わりに二階の使っていない部屋の一室をラウルに与えるあたり、やはりレオニスはラウルに甘いようである。

「じゃあ、今から外に焼窯を作るの? ぼくも見てていい?」

「おう、もちろんいいぞ」

「やったぁ!」

二人は早速カタポレンの家の外に出た。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「どこら辺に設置するのがいいかなぁ?」

「玄関のド真ん前はさすがにアレか」

「そうだねー。できれば家の中、部屋の窓からも様子が伺える方がいいかも」

「そうすると南側か」

ライトとラウルは家の南側に回る。

カタポレンの家の周りには花壇やら何やらは一切なく、実にこざっぱりとしたものだ。

「ラウルはどんな焼窯を作りたいの?」

「前に冒険者ギルドの依頼掲示板を見て、ラグナロッツァの孤児院の建物修繕の仕事をしたことがあるんだが。その時にいっしょに仕事をしたスパイキーというやつが、新しい屋根瓦を作るために半円状の焼窯を作っていたのは見たことがある」

「それを真似て作ってみたいってこと?」

「ああ、作り方も然程難しくなさそうだったしな。こんな感じの窯だったな」

ライトの質問に、ラウルは以前ラグナロッツァ孤児院の修繕依頼の時に見た光景を語りながら、その時に使っていたという焼窯を地面に描いてライトに見せる。

雨漏りが酷い箇所の修繕を最優先とし、バッカニア達『天翔けるビコルヌ』の三人は新しい屋根瓦をその場で作り出していた。

スパイキーが土魔法で焼窯と瓦を作り、バッカニアが焼窯の中の瓦を火魔法で焼成し、ヨーキャが風魔法で焼き上がった瓦の熱を取る。三人の流れるような連携プレーは実に見事で、それを見ていたラウルは心底感心したことを覚えている。

その時にスパイキーが作ったのは、雪で作るのかまくらのような半円状の丸窯だった。

煉瓦などで作ったものではなく、土で作ったドーム型のミニかまくら、といった感じの本当にシンプルな構造の窯。これは瓦を作り終えた後はすぐに壊す前提で、その場の一回使えればOKだったので最低限の造りでしかなかった。

ラウルは焼窯と言えばそれくらいしか前例を知らないので、とりあえずそれに倣って焼窯を作ってみたいようだ。

だが、ラウルが地面に描いた半円状の焼窯を見たライト、顎に手を当てながら渋い顔で「うーーーん……」と小さく唸っている。

かまくら型の焼窯は、土魔法を用いれば簡単お手軽に作れるだろう。しかし、耐久性が乏しいであろうことは、ライトのような素人にも一目で分かる。

地面の絵を睨んでいたライトは、顔を上げてラウルに己の意見を述べた。

「この簡単な窯もいいけど、ぼくとしてはまず煉瓦を作るべきだと思うな」

「煉瓦、か?」

「そう、煉瓦。まず焼窯の本体は、土のままで作るよりも煉瓦を積んでちゃんとした本格的なものを作った方がいいよ。その方が絶対に頑丈で長持ちするよー」

「そうなのか?」

「うん。だって煉瓦は家の壁や道路にも使われるくらいだしね。それに、焼窯を作るなら窯の熱で森側の木が変質したりしないように、窯の後ろと左右に煉瓦で囲いを作った方がいいと思うんだ」

「囲いか、確かに火災防止策は必要だな」

「とりあえず今日は、煉瓦作りからやってみない? 長持ちする焼窯と火災防止のために、まずは煉瓦を作ることから始めるへまきだとぼくは思う」

「そうだな、スパイキーが作った焼窯は使い終わったらすぐに壊していたからな……せっかく作るなら、長く使えるものを作りたいな」

焼窯の本来の目的である貝殻の肥料作りは、この先何度も行われるだろう。何故ならば、肥料作りはラウルの『家庭菜園 in ラグナロッツァ』という壮大な計画の一部にして、絶対に欠かせない工程の一つなのだから。

それを考えると、二度三度使った程度で壊れてしまうような脆い作りの焼窯ではよろしくない。

できることなら、もっと耐久性の高いものを作るべきだ、とライトは考えたのだ。

「じゃあ今日は煉瓦作りをしよう。……って、煉瓦ってどうやって作るんだ?」

「えーとねぇ、ぼくも詳しいことは分からないけど、確か粘土質の土に石や砂を混ぜて練り込んで作る、とかだった、はず」

「その比率は分かるか?」

「うーん、そこまでは分かんないや……ラグーン学園の図書室で調べれば分かるかもだけど」

「そうか……土や砂の正確な比率が分からんことには作りようがないな……」

煉瓦の作り方を尋ねたラウルに、ライトも前世のうろ覚えの知識で答える。

だが、うろ覚えの知識だけでは一から煉瓦を作ることは難しい。

なのでライトは、煉瓦の手作り以外に別の手段があることをラウルに提示する。

「どうしよう、明日図書室で調べてこようか? それか、市場で煉瓦を売っているお店があれば、そこで買った方が早いと思うけど……」

「んー、確かに買った方が早いは早いだろうが……焼窯とその囲いを全部煉瓦で作るとなると、結構な数が要るだろう?」

「そうだねぇ、窯の大きさにもよるだろうけど、多分百個とかじゃ足りないだろうねぇ。最低でも二百個とか要る、かな?」

「ガラス温室の値段が50万Gだから、節約できるところはなるべく節約したい……」

「あー、うん、そりゃそうだね……」

思わず零すようなラウルの言葉に、ライトも同意する。

このサイサクス世界に前世のホームセンターのような店があるかどうかは分からないが、探せば煉瓦を売ってくれる店だってあるはずだ。

ならば出来上がった既製品の煉瓦を買う方が早いし、その方がラウルも楽できるだろうと思って提案したのだが。ガラス温室で50万Gという大金が吹っ飛ぶ、ということをライトは失念していた。

節約できるところは節約したい、とラウルが答えるのも納得というものだ。

「じゃあ、そしたらぼく、明日ラグーン学園の図書室で煉瓦の作り方を調べてくるよ!ついでに煉瓦作りに向いた粘土質の土や砂がどこで採れるかとか、図書室の本でいろいろと探してくるね!」

「おお、そうしてもらえるとありがたい。手間を取らせてすまんが、よろしく頼む」

「手間なんてことないよ!ラウルの夢を叶えるお手伝いだもの、図書室での調べ物くらいいくらでもするよ!」

ライトの新たな申し出にラウルが礼を言うと、ライトは明るい笑顔をラウルに向ける。

こんな小さな子供が、自分の夢を全力で支援してくれる―――ラウルにとって、これ程嬉しいことはなかった。

「小さなご主人様には、本当にいつも世話になってばかりだな」

「えー、そんなことないよ? ぼくだって、ラウルの美味しい料理にはいっつもお世話になってるしね!」

「そうか? そしたら今日もいろんなアドバイスをしてくれたお礼に、ラグナロッツァの屋敷でとびっきり美味しい新作のスイーツをおやつに出そう」

「えッ、ラウルの新作スイーツ!? うわーい!」

ラウルが今日のお礼に新作スイーツを出すと聞いたライト、思わず飛び上がるほど喜んだ。

こういうところは年相応だな、とラウルは小さく微笑みながら飛び跳ねるライトを見つめていた。