軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第515話 対極に立つ者

目を大きく見開きながら、ミーナのステータス画面をじっと見つめてブツブツと呟き続けるライト。

傍から見たら、空を見つめて独り言を呟く危ない子供にしか見えない。

そんなライトの様子を、ミーアとミーナが心配そうに覗き込む。

『あのー……主様?』

『ライトさん……大丈夫ですか?』

「……ハッ!だ、大丈夫です!」

二人に声をかけられたことで、ようやく我に返ったライト。

慌てたようにミーア達に返事を返す。

ライトの『アナザーステータス』の閲覧はライトだけが見えるものなので、ミーア達にはその内容は見えないのだ。

「えーとですね、ミーナのレベルは1でステータスもとても弱いので、今のままでは転職神殿から一歩も外に出られないと思います」

『そうですかぁ、やっぱりそうですよね……』

『ミーナ、落ち込むことではないわ。だって貴女は一昨日生まれたばかりだもの。これからレベルアップして、少しづつ強くなっていけばいいのよ』

『ミーアお姉様……そうですよね!これから頑張ればいいのですよね!』

『ふふふ、その意気ですよ』

ミーナのステータスを見たライトが素直な所感を伝えると、ミーナはしょんぼりと俯いてしまった。

だが、そんなミーナをミーアが優しい言葉で励ます。そう、ミーアの言う通り、これからレベルアップしていけばいいのだ。

『主様、私がレベルアップするにはどうしたらいいのでしょう? 魔物を倒せば良いのですか?』

「ぼくが知る範囲では、使い魔のレベルアップは餌……もとい、『食べ物を与える』ことで成長していきました」

『食べ物、ですか……?』

「はい。使い魔に食べ物をモリモリ与えて食べさせることで、使い魔は経験値を得てレベルがどんどん上がっていくんです」

BCOにおける使い魔はアイテム収集係であり、直接戦闘に参加させたりパーティーに所属させたりすることはなかった。

いや、なかったというよりできなかった、という方が正しい。使い魔というコンテンツに、そうしたバトル要素は一切盛り込まれていなかったのだ。

そのせいか、使い魔のレベルアップは戦闘ではなく食事という形で行われていた。

戦闘を経ない分安全と言えば安全だが、使い魔のレベルが上がれば食べさせる量も多くを必要とする。そこら辺の魔物を倒すより、使い魔用の餌を得る方がはるかに苦労していた。

ちなみに使い魔に与える食事は、孵化の際に用いる『使い魔の餌(○○)』がBCOでのデフォルト仕様だ。

だが、使い魔の先輩であるフォルやウィカも野菜や木の実、魚介類などを普通に食べるし、アープのアクアも食事を摂ることでレベルアップすることが分かっている。

ならばミーナも、何かしら食事を摂ることでレベルが上がる可能性は高い。

そう考えたライトは、善は急げ!とばかりにとある提案をする。

「そしたら今から皆で、ここでちょっと早めのお昼ご飯にしましょう!」

『お昼ご飯、ですか?』

「はい!ミーアさんも食事は不要とのことですが、もし良ければぼく達といっしょに食べてみませんか?」

『ミーアお姉様、私、主様とミーアお姉様の三人でお食事会したいです!』

『そ、そうですか? お二人がそう仰るのでしたら……』

ライトとミーナの気迫に押され、ミーアも食事に付き合うことに同意した。

そうと決まれば話は早い、早速お昼ご飯の準備に取り掛かるライト。

アイテムリュックに大きな家具類は入れられないので、レオニスやラウルのように椅子やテーブルなどはライトには出せない。なので、神殿内の床に敷物を敷いてピクニック風にすることにした。

ライトはアイテムリュックから敷物やクッションを取り出し、テキパキと神殿の床に敷いていく。

敷物の中央にはラウル特製のサンドイッチや唐揚げの他に、アイテム欄から謎の食品系アイテムをいくつか取り出して綺麗に並べる。

アイテム欄に収納されている食品系は、フォルがお使いで持ち帰る品々である。

これらはBCOの期間限定イベントに出てくるアイテム類で、季節限定のものも多い。主にお菓子類が多く、春には桜餅や草餅、夏にはアイスキャンディ、秋にはハロウィン系のお菓子、冬にはシュトーレンなども出てくる。他にもワインやお屠蘇などのアルコール類もあり、本当に謎いシステムである。

そしてこうした食べ物系のアイテムには、どれもHP回復やMP回復効果がある。なのでこれらはイベント終了後も無駄にはならず、回復剤として使用できるスグレモノなのだ。

使い魔の卵の孵化に、MP回復剤であるコズミックエーテルを使用してミーアが生まれた。

回復剤が孵化用の餌として使えるならば、同じくHP及びMP回復効果を持つ謎の食品系アイテムでも通用する可能性はある。

その検証も兼ねて、ライトはこの場で昼ご飯を摂ることにしたのだ。

敷物の中央に並べられた、数多のご馳走。

ラウルのご馳走や飲み物であるぬるぬるドリンクの他に、おにぎり、焼きとうもろこし、大福、かぼちゃクッキー、さつまいもタルト、みたらし団子、チーズケーキなどが並ぶ。

それらは全て限定イベントアイテムであり、フォルがどこかから持ち帰ってきたものだ。

フォルがこうした食べ物系のアイテムを家に持ち帰る度に、それを受け取るライトはいつも不思議に思う。『カタポレンの森の中の、一体どこからこんなもん拾ってくるの?』と。

フォルの行き先は突き止めようもないが、もしかしてフォルは異次元にでもワープしてるのだろうか?

『うわぁ……どれも美味しそうですねぇ!』

『本当ですね。ミーナだけでなく、私もいただいてよろしいのですか?』

「もちろん!好きなだけ食べてください!おかわりもあるので、遠慮なく言ってくださいね。では、いっただっきまーす!」

『『いただきまーす♪』』

皆で食事の挨拶をした後は、それぞれが食べたいものを選んで皿に乗せていく。

ライトは主にラウル特製サンドイッチなどを食べる。ライトも大福やおにぎりを食べることはできるが、使い魔用の食事に使えるならその方が良いと考えたからだ。

『主様、これとっても美味しいですね!』

『私もこのような品は初めて食べますが、とても美味しいものなのですね』

「二人に喜んでもらえてよかった!」

ミーアとミーナはそれぞれに大福やかぼちゃクッキーなどを食べている。やはり女の子は甘い物が好きなのだろうか。

二人が美味しそうにスイーツを食べる傍ら、ライトは早速ミーナに問うた。

「ミーナ、食べて何か変化はありそう?」

『何か、力が漲ってくる感じがします!』

「そっか、そしたら好きなだけどんどん食べてね!」

ミーナの快活な答えに、ライトは手応えを得て喜ぶ。

ライトはミーナのステータス画面を開き、しばらくミーナの様子を観察していくことにした。

目をキラキラと輝かせながら、クッキーやケーキ、タルトを次々と頬張るミーナ。美味しいものを嬉しそうに食べているその姿は、実に愛らしいものだ。

「おおお……レベルがどんどん上がっていく……」

ミーナのステータス画面を眺めていたライトが驚く。

彼女がスイーツを食べる毎に、レベルが1、2、3……とどんどん上がっていくのがステータス画面に反映されているのだ。

もっとも、菓子の一つ二つでレベルが上がるのは、今がまだ低レベルだからであろうが。

ちなみにレベルの経験値量に関しては、ステータス画面を横にスライドすると別ページの詳細データが出てくる。

そこでは『次のレベルまであと○○』といった情報が書かれており、あとどれくらいで次のレベルにアップするかが分かる。

ライトは今そのページを熱心に見ていた。

目の前に広げたスイーツの中には、ラウル特製シュークリームやアップルパイ、ぬるぬるドリンク類なども置いてある。

美味しそうに食べるミーナに「ミーナ、これも美味しいよ」「こっちも食べてみてね」「飲み物もどうぞ」と言いつつ勧めるライト。

BCO由来の食品系アイテムとそうでないもの、それらの経験値量に違いがあるかを観察しているのだ。

その結果、ラウル特製スイーツやぬるぬるドリンクなどでもミーナは経験値を得ているのが分かった。

ただし、BCO由来の食品系アイテムに比べると経験値量は少ないっぽい。

大福を1としたら、ラウルのアップルパイはその半分、ぬるぬるドリンクは二割程度といったところか。

やはりミーナ自身が使い魔というBCO由来の種族だけに、その成長もBCO由来の食品系アイテムの方が相性が良いのだろうか。

これならラウルのご馳走よりも、フォルが拾ってくる謎の食品系アイテムを優先してミーナに与えた方が効率的に良さそうだ。

それに、ラウルのご馳走で経験値が得られるなら、おそらくは他の市販の食品類でも経験値は入るだろう。もっともラウルのご馳走と比べたら、その経験値量はさらに少ないだろうが。

だったらラウルのご馳走は自分や他の人達と食べるようにして、ミーナには主にBCO由来の食品類や市販の食べ物を与えた方が全員得をするというものである。

ライトがステータス画面を見ながら戦略を練っているうちに、敷物の上に出したご馳走がだいぶ減ってきた。

ミーアは上品にちまちまとアップルパイを頬張り、ミーナはニコニコ笑顔であれもこれもパクパクと食べ続ける。

ライトは急いでマイページを開き、あらん限りのアイテム欄の食品系アイテムを補充していく。

その食べっぷりの良さは、まさにフェネセンやレオニスを彷彿とさせる勢いだ。

だがミーナの場合、見た目こそ人型の天使だがその生まれはBCO由来の使い魔である。

その出自を考えると、人族のように胃や腸から栄養を吸収するという身体の構造ではないはずだ。

故にミーナには胃袋の限界など肉体的な制限は一切存在せず、経験値のもとがあればあるだけ摂取できるのだ。

ダイエットやら糖質制限やら、健康維持に翻弄される人族からしたら、ミーナの持つ生まれながらの体質?は何とも羨ましい限りである。

『ンーーー、主様のくださる食べ物はどれも美味しいですねぇ♪』

「ミーナがそんなに喜んでくれて、ぼくも嬉しいよ」

『私までご相伴に与り、ありがとうございます』

「いえいえ、ぼくもミーアさんにはいつもお世話になってばかりですし。これくらいのことはさせてください」

底なし沼のようにモリモリと食べていくミーナに、初めての食事への礼を言うミーア。

アイテム欄の食品系アイテムをあらかたミーナに食べさせた後、ライトは改めて『アナザーステータス』でミーナを鑑定した。

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【名前】ミーナ

【種族】力天使

【レベル】15

【属性】風

【状態】通常

【特記事項】従属型使役専属種族第三十七種乙類

【HP】300

【MP】1050

【力】45

【体力】60

【速度】120

【知力】105

【精神力】120

【運】60

【回避】120

【命中】75

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「おお、ミーナのレベル、結構上がってる!」

『主様主様、どれくらい上がったんですか? お外にも出かけられるくらいになりましたか?』

「そうだね、これくらいのステータスがあれば、転職神殿の周辺を散歩するくらいはできるんじゃないかな」

『わあッ、本当ですか!? やったぁ!』

ミーナのステータスを見たライトが喜び、その姿を見たミーナもまた飛び上がって喜ぶ。

レベル1というスタート地点からのレベル上げとはいえ、なかなかに良い結果を得られた方だ。

これまでずっと貯めてきたアイテム欄の食品系アイテムを、何十個も放出した甲斐があったというものだ。

「でも、しばらくは様子を見てね。あまり遠くに行っちゃいけないよ。まずは近場を少し散歩する程度に留めて、この世界のいろんなことに慣れていってね」

『はい!主様の許可が下りるまでは、絶対に神殿から遠くには行きません!』

『…………』

レベルが15になったことで、これなら転職神殿の周辺を散策してもいいだろう、とライトは判断した。

というのも、この転職神殿周辺には魔物がほとんど出ないのだ。

出たとしても植物系の雑魚魔物で、それ以外に強い魔物は生息していない。今のミーナのステータスなら十分に対処できるはずだ。

転職神殿周辺限定ではあるが、ライトから周囲の散策の許可が出たことに喜ぶミーナ。

その横で、何故かミーアが少しだけ寂しそうな顔をしている。

そのことに敏感に気づいたライトが、ミーアに話しかけた。

「ミーアさん、どうかしたんですか?」

『……あ、いいえ、何でもありません……』

「いや、何でもないって顔では……ぁ……」

ここでライトはとあることを思い出す。

ミーアは転職神殿専属巫女であり、この地からは絶対に離れることのできないBCOのNPCである、ということを。

以前ライトがいる時に、ミーアが神殿の外に出られるかどうかを試してみたことがあった。

ライトとしては『ミーアさんも散歩くらいできたらいいな』程度の考えだったのだが、その試みは尽く失敗に終わった。

神殿を囲む木々より向こう側に、どうしてもミーアは進めなかったのだ。

ライトは難なく外に出られるのだが、ミーアにだけは見えない壁がバリアのように立ち塞がる。

傍から見たら何もない空間なのだが、神殿と森林の境目でミーアはガラスの扉に手を押しつけるような状態になる。

試しにライトが境目の外側からミーアの手を引いてみたが、それでも変わらずミーアが森林の中に入れることはなかった。

ミーアにだけ効くその壁は、足を踏み出すどころか指一本さえも範囲外から出ることを許さない。

それはまるでカプセルの中にミーアを閉じ込めるかのような、堅牢にして絶対に破ることのできない壁。

それほどにミーアをこの地に縛りつける強制力は凄まじく、今までライトが見てきた結界類の比ではない。

ともすれば監獄の檻としか思えないような非道な仕様だった。

だが、使い魔であるミーナは違う。

天使の翼を持ち、強ささえ伴えばどこにでも行ける自由さがある。

その眩しい姿を見たミーアの心境は如何ばかりか。

少し考えればライトにもすぐ分かることだった。

ライトはそのことに思い至り、ミーアに何と声をかけていいのか分からない。

いつものライトなら、抜け道や裏技、システムの穴をつくような妙案がないかを必死に考えるところだが、今回ばかりはそうもいかない。

転職神殿が担う役割を考えれば、転職を案内するナビゲーターが不在などということは絶対にあり得ない事態だ。

ゲームシステムの根幹部分だけに、ユーザー側であるライトにはどうすることもできなかった。

ライトとミーアの間に沈黙が漂う。

そんな空気をどう思ったか、ミーナがミーアに向けて穏やかな口調で語りかける。

『ミーアお姉様。私、絶対に遠くに行きません。もしお出かけするとしても、その日のうちに必ず帰ってきます』

『そして転職神殿の外で見たもの、聞いたもの、全てミーアお姉様にお話しします』

『それだけじゃありません、色とりどりのお花や木の実、綺麗な鳥の羽根なんかもお土産にたくさん持って帰ってきます!だから……』

ミーナはそれに続く言葉、『私が外に出かけるのを許してください』が言えずにいた。

ミーナは使い魔であり、その本質は『あらゆるところに出かけて様々なアイテムを拾ってくる』という役割を持っている。

ミーアが転職神殿の専属巫女であるのと同じく、ミーナの『外に出かけたい』というのもまた本能レベルの資質だった。

俯いて黙り込んでしまったミーナ。

するとミーアがミーナの傍に寄り、そっとミーナの肩を抱き寄せた。

『外に出られない私の代わりに、ミーナが外の世界を見てきてくれるのね。こんな姉思いの妹を持てて、私は何て幸せ者なんでしょう』

『ミーアお姉様……』

『お花や木の実、鳥の羽根……私はここで、ミーナの帰りとお土産を楽しみに待っているわ』

『……はいっ!私の帰る場所は、ミーアお姉様と主様のいる場所だけです!』

『ああ、でもお出かけする時は気をつけてね? 洞穴とか崖の下とか、危なそうなところには近寄っては駄目よ?』

『もちろんです!ミーアお姉様の言いつけは絶対に守ります!』

一つの地に縛られて絶対に動けない 者(ミーア) と、外を飛び回ることを前提として生み出された 者(ミーナ) 。

対極にいる者同士が姉妹とは、何とも皮肉なことだ。

だが、彼女達の間にはそうした壁など一切ない。

互いが互いの身を案じ、思い遣る。

とても仲の良い姉妹の姿がそこにはあった。