軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第497話 近未来的な魔導具

翌日の朝。

この日はライトとレオニス、二人で暗黒の洞窟に探検に行く日だ。

早いもので、ライトの初めての春休みも残り数日。探検と呼べるようなお出かけは、春休み中はこれがラストとなるだろう。

次の連休は五月の黄金週間、それまでしばらくはこうした冒険はお預けとなる。

「よーし、今日は頑張るぞー!」

朝早くに起き、魔石回収兼走り込みなどの修行ルーティンをどんどんこなしていくライト。

家に戻り、風呂で汗を流した後レオニスとともに朝食を摂りつつ本日の打ち合わせをする。

「レオ兄ちゃんは、暗黒の洞窟は奥まで行ったことあるの?」

「一応あるぞ。最奥の暗黒神殿にはまだ入ったことはないがな」

「そうなんだ、何か結界とか張られて入れなかったとか?」

「いや、その時は結局暗黒神殿を見つけることができなかったんだ」

「???」

暗黒の洞窟の最奥にあるはずの暗黒神殿。洞窟の奥にまで行きながら神殿が見つけられなかったとは、一体どういうことであろう。

ライトが不思議そうな顔をしていると、レオニスがその理由を打ち明ける。

「これは後で知ったことなんだが、暗黒の神殿には『幻惑魔法』という闇の精霊が持つ固有魔法がかけられていてな。何の対策も無しに普通に近づいていっただけじゃ、基本的に魔力の少ない人族では絶対に辿り着けんらしい」

「えっ、そんなのがあるの!?」

「言ってみれば認識阻害魔法に近いようなものなんだろうな。侵入者を直接弾いて排除する結界ではないが、ある意味物理的な結界よりも厄介な結界だ。神殿そのものを認識させないんだからな」

「ぇぇぇぇ……それ、今からぼく達が行っても見つけられないやつじゃない?」

レオニスの解説に、ライトの顔がみるみるうちに曇る。

神殿と呼ばれる探索ポイントには、大抵が強力な結界なり何なりで護られているのが常だ。だが、レオニスの話を聞く限りでは暗黒の神殿のそれはかなり手強そうだ。

「レオ兄ちゃん、何か対策はあるの?」

「効くかどうかは分からんが……暗黒の洞窟の最奥、暗黒神殿の手前まで着いたら試してみたいことはある」

「どんなこと?」

「他の女王達からもらった勲章、あれをよく見えるように見せびらかしてみようかと」

「あー、なるほど」

レオニスの案にライトも納得する。

属性の女王達は、他の女王達の気配を感じ取ることができる。彼女達がライト達に授けてくれた勲章、これを所持しているだけで『他属性の女王が認めた者の証』になるのだ。

暗黒神殿の中にいる闇の女王も、この勲章を持つ者が近づけばその気配のもとが一体何なのか、気になって外に出てくるんじゃね? という算段である。

「そしたらまた勲章もすぐに出せるようにしとかないとねー」

「ああ。……っと、それも大事だが、ライトにこれも渡しておかなきゃな」

レオニスが空間魔法陣を開き、何やらゴソゴソと捜し物をしている。

……お、あったあった、というレオニスの独り言とともに出てきたそれは、ゴーグルのようなものだった。

「これは何? ゴーグル?」

「お、ゴーグルなんてよく知ってるな。ご名答、これは真っ暗闇の中でも視界を得られる魔導具、その名も『ハイパーゴーグル』だ」

「ハイパーゴーグル……何かすごい名前だね」

「実際の性能もすごいぞ? さすがに普通の真っ昼間のような見え方にはならんが、それでも明かりの欠片一つない真っ暗闇の中でもちゃんと物や壁、足元の地面なんかが見えるようになるからな」

そのゴーグルは、水泳や飛行機乗りが使うような眼鏡型ではなく幅広の鉢巻のような一本線状の形状をしている。

いわゆる『サイバーゴーグル』を彷彿とさせる形で、このサイサクス世界のものにしては珍しく近未来的なフォルムである。

「暗黒の洞窟の中で、火や光魔法の明かりを灯すのはご法度だからな。そんなことしたら、すーぐ魔物に囲まれちまう。だからこのハイパーゴーグルを使うんだ」

「まぁねぇ、暗闇の中に住んでいる魔物にしたら光なんて毒や敵にも等しいだろうしねぇ……って、今回は魔物除けの呪符は使わないの? それ使えば普通に明かりを灯して洞窟の中を進めるよね?」

ライトが疑問に感じたことを、そのまま素直にレオニスにぶつける。

確かにライトの疑問は尤もである。かつて炎の洞窟を調査する際にも、魔物除けの呪符を使うことで魔物の襲撃を抑えて調査をスムーズに進めていったことがあるからだ。

今回も魔物除けの呪符を使うのだとばかり思っていたライトには、レオニスが魔物に囲まれることを心配する意味が分からなかったのだ。

そんなライトの疑問に、レオニスは丁寧に答えていく。

「闇系の魔物に光はご法度って言ったろ? 奴ら、直接強い光を浴びると暴走状態に陥って制御不能になるんだ。そうなると魔物除けの呪符でも回避できん。それこそ死に物狂いで突進してくるからな」

「暴走……」

「だが、光を使いさえしなければ暗黒の洞窟の魔物は暴走しない。魔物除けの呪符もその効力を発揮できる。魔物除けの呪符を使うには、暗闇の中で明かりを灯さずに視界を確保するハイパーゴーグルが必要不可欠なんだ」

レオニスの答えは、なかなかに空恐ろしいものだった。

暴走状態になると、魔物除けの呪符すら撥ね退けて突進してくるらしい。

それはかつて炎の洞窟で、狂乱という状態異常に陥っていた魔物達をはるかに凌駕することを意味している。

何故ならば、狂乱状態であっても魔物除けの呪符は炎の洞窟の魔物達に効いたからだ。

狂乱状態でも効いた魔物除けの呪符が効かないとなると、暴走状態とは魔物達のステータス異常も狂乱状態をはるかに上回るということになる。

狂乱ですら能力値が通常時の十倍に跳ね上がったのだ、それを凌駕するとなると二十倍や三十倍、もしかしたらそれ以上に化けるかもしれない。

そうなってしまっては、さすがのレオニスも手に負えなくなる。故に暗黒の洞窟内で光を使用することは厳禁なのだ。

暗黒の洞窟探検に欠かせないという、ハイパーゴーグル。

如何にも近未来感漂うそのアイテムを、ライトは手に取りレオニスに問うた。

「これ、暗闇以外の場所でも着けていいの?」

「ああ、外で普通に着けても特に害はない。見え方が変わるのは暗闇の中だけで、日中ではただのサングラス程度にしかならん」

レオニスの答えを受けて、ライトはハイパーゴーグルを目に覆い被せるように装着してみた。

子供のライトには若干大きめで、そのままではずり落ちてしまう。

だが柄の後ろ、後頭部にあたるところにベルトが着けられており、サイズ調整ができるようになっている。

ライトはベルトを一旦外し、留める場所を穴の内側に二つ移動してから再び装着してみる。

うん、これなら大丈夫そうだ、と独りごちるライト。

「レオ兄ちゃん、ありがとう。このハイパーゴーグル、今日だけ貸してもらうね!」

「いや、今日と言わずそれはずっとお前が持ってていいぞ。俺も自分の分のゴーグルはあるしな」

「いいの!? やったぁ!」

ハイパーゴーグルは今日だけの借り物と思っていたライト。

今日だけでなくずっと持ってていい、と実質譲渡してもらえることにライトは大喜びする。

確かにレオニスはレオニスで自分の分のゴーグルは持っているだろう、でなきゃ今日の暗黒の洞窟の探検すら行けないことになる。

ライトも暗黒の洞窟に行ったことがない訳ではない。むしろ素材採取のために頻繁に通っている。

だがそれは入口付近限定で、奥まで入ったことはない。これがあれば、ライトでも暗黒の洞窟の奥に行けるようになるのだ。

ハイパーゴーグルを手にニヨニヨするライトに、レオニスが若干不審そうな顔つきで釘を刺す。

「……お前、それを着けて一人で暗黒の洞窟に潜ろうなんて考えてねぇよな?」

「えッ!? そそそそんなこと、かかか考えてなんていないよ!?」

「どうだかなー……お前のことだから、絶対に俺に内緒で要らんことしそうな気がする」

「え、何ソレしどい」

レオニスに思いっきり図星を指され、慌てふためくライト。

レオニスもそうだが、ライトも基本的に嘘をついたり誤魔化したりするのは得意な方ではない。嘘をつこうとしても、思いっきり顔に出てしまう方だ。

ただしライトの場合、絶対に隠し通さねばならないBCO関連だけは息をするようにスルスルと上手い言い訳で誤魔化すスキルは身についているが。

「レオ兄ちゃん……僕のこと信用してくれないの?」

「……湖底神殿」

「うぐッ」

「……水竜改め水神アープのアクア」

「うぐぐッ」

自分を信用してもらえないことの悲しさを訴えるライトに、それには騙されんぞ?とばかりにライトの過去の所業を次々と挙げていくレオニス。

実際にやらかした過去の所業を指摘されては、さすがのライトもぐうの音も出ない。

グサグサと容赦なく突き刺さるレオニスの言葉に、ライトは思いっきりダメージを受け仰け反る。

「ぅぅぅ……ごめんなさい……」

自業自得のしっぺ返し、そのあまりのダメージの大きさに涙目で謝るライト。

レオニスとしてもライトをいじめたい訳ではないので、ここでその追及の手を緩める。

「……まぁな。これからは隠し事は無しって、こないだも約束したしな」

「うん……」

「とにかくだな。暗黒の洞窟は目覚めの湖のような訳にはいかん。イードやウィカのような、ライトの友達がいる訳じゃないんだからな」

「うん、それは分かってる」

「だったら間違っても危険な真似はするなよ?」

「もちろん!ぼく一人で絶対に危ないことはしない!どこか危ない場所に行くのは、レオ兄ちゃんかラウルがいる時だけにする!」

「危ない場所に行かない、という選択肢はねぇのか……ま、冒険者志望じゃそれもしゃあないか」

レオニスの忠告に、非常に素直に頷くライト。

その答えはレオニスの言葉に従順なようでいて、その実『 一人の時に(・・・・・) 危険なことはしない』という緩いものである。

確かに保護者同伴なら、多少の危険も許されるだろう。そもそもライトの保護者はレオニスにラウル、いずれも屈強なボディーガードである。

そしてライトの言葉は言外に『ぼく一人じゃなくて、レオ兄ちゃんやラウルがいる時なら危険な場所に出かけてもいいよね!』という、ちゃっかりとした抜け道を用意している。

その抜け目のなさ、要領の良さにレオニスも苦笑いするしかない。

それに、将来冒険者になりたいライトが、そんなにおとなしくしていられる訳がないのだ。そこら辺はレオニス自身もかつて通ってきた道なので、ライトの気持ちもよく分かる。

だったら無理に抑えつけて行動を制限するよりも、レオニスやラウルが傍で見守りながら探検する方が目が行き届く分安心というものである。

「さ、じゃあそしたらぼちぼち行くか」

「うん!」

朝食を食べ終えた二人は、暗黒の洞窟の探検に向かうべく外に出ていった。