軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第485話 満天の星空

冒険者ギルドゲブラー支部を出たライト達は、早速エリトナ山に向かうことにした。

冒険者ギルドの建物を出て、初めて目にするゲブラーの街をキョロキョロと見回しながら歩くライト。

街の規模は中程度とあって、大きな店や建物などはほとんどない。見渡す中で最も大きいのは、間違いなく冒険者ギルドの建物である。

「レオ兄ちゃん、ゲブラーというのはどんな街なの?」

「ここゲブラーは鉄鋼の街だ。近くに良質の鉄が採れる鉄鉱床があってな。鉄鉱床で働く人達や、鉄鉱石を製錬する人達、そしてその家族達なんかが集まって自然とできたのがゲブラーだ」

「そうなんだー。確かに観光とか療養とかいう感じはあまりしないねー」

「まぁな。とはいえ鉄は武器防具だけでなく、生活において様々なところで使われているからな。アクシーディア公国内で使われる鉄製品の八割以上はゲブラー産の鉄らしい」

「八割!? すごいね!」

「ああ。だからこのゲブラーは、小さな街に見えて実は結構重要な街なんだよな」

ライトは鉄鉱床を始めとした鉱山産業のことはさっぱり分からないが、街一つが自然と出来上がるほどの規模となると相当大きい鉱床があるのだろう。

「クレナさんにお土産買う約束したけど、ゲブラー土産って何があるかなぁ?」

「んー、俺もそこまでゲブラーの街に詳しい訳じゃないからなぁ……エリトナ山から帰ってきたら、帰還の報告がてらクレンに聞いてみるか」

「そうだね、そうしようか!」

これまでの 城塞都市(ツェリザーク) や 商業都市(プロステス) 、 港湾都市(エンデアン) などは都市規模で、街には様々な特産品や土産物屋があった。だがここゲブラーは製鉄業の街ということなので、一般的な土産が手に入るかどうか分からない。

そんなライトのささやかな心配も、レオニスが一発で解決してくれる。

レオニスの的確なアドバイスに、ライトはにっこりと笑いながら頷くのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

街の出入口の門を潜り、ゲブラーの街の外に出たライト達。

街を囲む壁の外は、荒涼とした荒野が広がっている。

少し離れた場所にすり鉢状に窪んだ土地が見えるが、あれが鉄鉱石を産出する鉄鉱床だろうか。

「さ、ここから先の平地は全部走っていくぞ。ちんたら歩いててたら山に入る前に日が暮れちまうからな」

「うん、分かった!」

街の外に出てしまえば、人目を気にする必要など一切ない。

シュマルリ山脈の中でも高い峰を誇るエリトナ山は、ゲブラーの荒野からでもその頂が見える。

エリトナ山の見える方角に向かって、ライト達は走っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライト達がゲブラーから走ること約三時間。

シュマルリ山脈の麓近辺に到着したライトとレオニス。

二人は山に入る前に、休憩がてら昼食を取ることにした。

テーブルや敷物などを出すこともなく、そのまま地面にどっかりと座る二人。

ライトはアイテムリュックからラウル特製の昼食やおしぼりを取り出し、それらをレオニスに渡す。

それから自分の分も出して、おしぼりで手や顔を拭いてから昼食を食べ始める。

「ライトもだいぶ体力がついてきたなぁ。これだけ走ってもちゃんと俺についてこれるなんて、すげーじゃねぇか!」

「ぃゃー、そんなことないよ。レオ兄ちゃんだって全力で走ってた訳じゃないでしょ?」

「そりゃまぁな。でも平地とはいえ、三時間近くもずっと走り続けるなんてのは大人だってなかなかできることじゃないぞ」

「まぁね、カタポレンの森の中を走り回るよりはね、平地を走る方がよほど楽だよね」

レオニスに手放しで褒められて、ライトは照れ臭そうにしながらも嬉しそうにはにかむ。

走っている最中にハイポーションを少しづつ飲みながら、頑張ってレオニスの後をついていった甲斐があったというものだ。

「ここからエリトナ山に行くには、山を三つほど越える必要がある。空模様を見るに天気の方は大丈夫そうだが、日が暮れる前にはテントを張れる野営場所を決めなきゃならん」

「山は森と似たようなもんだが、傾斜がある分森を歩くよりはキツい。滑ったり蹴躓いたりしないように、足元には十分気をつけろよ。体力的にキツくなったらすぐに言え、我慢や無理は絶対に禁物だぞ」

昼食を食べ終えて、休憩がてら一通り山歩きの注意事項を述べるレオニス。

ライトも神妙な面持ちで、うん、うん、と頷きながらしっかりと聞いている。

「さ、じゃあそろそろ行くか」

「うん!」

二人は立ち上がり、マントについた土や砂を手で払う。

そうして木々が生い茂る山中に足を踏み入れていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライト達がシュマルリ山脈に入ってから、約三時間弱。

小高い山をもう二つは越え、空が茜色に染まり始めた頃にレオニスが後ろにいるライトに声をかける。

「そろそろテントが張れそうな場所探しを始めるぞ」

「うん、分かった」

シュマルリ山脈の道なき道、生い茂る草や木々の小枝を払い除けつつひたすら山を登り続けたライトとレオニス。

そろそろ野営場所を決めなければならない。

上の方に登りつつ、テントが張れそうな場所を探す。

しばらく行くと三つ目の山の頂上付近に着いたのか、なだらかで見晴らしの良い場所が開けてきた。

「よし、ここにテントを張るか」

「はーい!」

レオニスが空間魔法陣からテントを取り出し、手早く設営していく。

ライトもアイテムリュックから退魔の聖水を取り出し、テントより外側に円を描くようにして聖水を撒いていく。

今使っているのは、魔術師ギルドの売店で購入したものだ。

「ねぇ、レオ兄ちゃん。この退魔の聖水って、何時間くらい効き目あるんだっけ?」

「約六時間だぞー」

「じゃあ寝る前にもう一度かけ直す必要があるね」

「寝る前に撒くのは見回りがてら俺がやるわ」

ライトは退魔の聖水を撒きながら、その効果の持続時間をレオニスに確認する。

ちなみに今使っている魔術師ギルド製の退魔の聖水は、水に数滴の墨汁を垂らしたかのような極薄の灰色っぽい色をしている。

そして臭いはあまりない。ただし、瓶に鼻を近づければ若干の刺激臭は感じる。

全く刺激臭のない無味無臭だとただの水と間違えてしまいそうなので、誤飲防止のためにもこの手の液剤には多少の刺激臭も必要である。

野外で焚火するスペースも確保するため、テント周囲を大きめに取り囲むようにして退魔の聖水を撒いていくライト。

一周させるのに退魔の聖水二本を使用した。

これでライト達が起きている間、魔物に襲われる心配はない。

ライトが退魔の聖水を撒いている間に、レオニスはテントの設営を完了し焚火を作り始める。

早速出来たばかりのテントに入り、アイテムリュックを下ろして寝袋などを取り出すライト。

テントマットも厚めでしっかりしたものが敷かれてあり、石や岩肌などのゴツゴツとした感触はない。これなら寝袋に包まればちゃんとした睡眠が取れそうだ。

テントの外に出ると空はもうかなり暗く、日が落ちる直前の暮色が迫る。

レオニスが灯した焚火の明かりが、ライトの目により美しく映える。

「ほれ、支度が済んだらライトもこっちに来な。夜になれば冷え込むからな」

「うん!」

今は三月の末。日中の陽気はだいぶ春めいてきたとはいえ、日が暮れて夜になればまだそれなりに冷え込む。

それにここは山の頂上、平地よりもさらに数度は気温が低くなる。二人ともアイギス特製の寒暖機能付きマントを羽織ってはいるが、万が一にも風邪など引かぬよう体調管理は万全にせねばならない。

「はぁ……あったかいねぇ……」

「そうだな、こうして野外で当たる火ってのもいいよな」

「うん……いつも使っている火とはまた違う、特別なものを感じるよねぇ」

地べたに直接座ってお尻や腰が冷えてもいけないので、小さな木の椅子に座りながら火を囲むライトとレオニス。

煌々ときらめく焚火に手を翳しながら、暖を取るライト。思った以上に冷え込みが早い山の空気に、パチパチと爆ぜる音を立てながら燃える焚火の温かさが身に染み入る。

「さ、じゃあ飯にするか」

レオニスが空間魔法陣から食べ物や飲み物を取り出し、ライトに渡していく。

ここで飯盒炊爨をしたり一から夕食を作れば、さらに本格的な野外キャンプとなるのだが。さすがに二人ともそこまで野営を楽しむ気はない。

そもそもここはサイサクス世界、野外で魔物に襲われたら大変なことになる。

それを防止するための退魔の聖水やら便利グッズもあるが、今回の遠征はあくまでも冒険者としての行動であり、決してお遊びの行楽ではないのだ。

木の皿に盛られた食事を食べつつ、ライトがレオニスに問うた。

「今日のところは異変らしきものはなかったよね?」

「ああ、ここに来るまでに特に異変は感じなかったな。ここら辺はまだエリトナ山じゃないから、何かあるとしたらエリトナ山に入ってからだと思うが」

「あっちの方に見えた高い山、あれがエリトナ山なんだよね?」

「ああ、木々が少なくて岩や砂利石で出来た一際高い山、それがエリトナ山だ」

ライトがテントの向こう側を指す。

その方向には、今ライト達がいる山の頂上よりもはるかに高く聳える山があった。

今はもう日もとっぷりと暮れて闇に包まれて全く見えないが、ここに到着した時点ではその雄大な姿が見えていた。

「あの山に、火の女王様が住んでいるんだね」

「火口まで行かないうちに、中腹で見つけられるといいんだがな」

「そうだね……さすがに火口を直接覗きたくはないかなー……」

レオニスがマグカップに注いでくれた、ぬるチョコホットドリンク。両手で包み込むようにカップを持ちながら、ライトはふぅ、ふぅと息を吹きかけながら少しづつ飲んでいく。

寒い野外で飲む温かい飲み物というものは、また格別な味わいだ。

「さ、飯も食い終わったことだしテントの中に入るか」

「そうだね、結構寒いから身体冷えそうだし」

「俺はたまに外を見回ったり、退魔の聖水をかけ直したりでテントの外に出るが。ライトは寝てていいからな」

「うん、分かった。見回りよろしくね」

テントに入るために椅子から立ち上がったライト、ふと空を見上げる。

夜空には漆黒の闇を払うかのように、満天の星が輝いている。

前世の現代日本に比べたら、首都であるラグナロッツァの空も十分に綺麗な方だしカタポレンの森から見る空はもっと綺麗だ。

だが、街や森から見る空とはまた違う星空に、ライトは一瞬で魅了される。

「うわぁ……レオ兄ちゃん、見て!星がとっても綺麗だよ!」

「……ああ、すごく綺麗な星空だな」

夜空に大輪の花を咲かせる打ち上げ花火に勝るとも劣らない美しい星空を、ライトとレオニスは肌寒さも忘れてしばし見入っていた。