軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第483話 親友の心遣い

ライトが待ちに待った三月末日。

今日からライトはレオニスとともに、火の女王がいるというエリトナ山に行く。いよいよライトの初めての冒険遠征の日である。

二泊三日の行程で、泊まりはどちらもシュマルリ山脈内で野営する予定だ。

いつもより少し早起きしたライト、大きな欠伸をしながら洗面所で顔を洗う。

このサイサクス世界に生まれて初めての泊まりがけの遠征に、あまりにもワクワクし過ぎてなかなか寝つけなかったライト。

我ながら子供みたいだな、とライト思いつつも、前世ではあり得なかった冒険世界に心躍るのも致し方ない。

そこに朝イチの森の警邏を済ませてきたレオニスが帰宅してきた。

「ただいまー」

「あっ、レオ兄ちゃん、おかえりー。朝の見回りお疲れさまー」

「おう、ライトも早起きだな。……つーか、昨夜はちゃんと寝れたか?」

「んー……今日が楽しみ過ぎてなかなか寝れなくて……でも、頑張って寝たよ!」

「何だそりゃwww 寝るのに頑張る必要なんてあんのか? でもまぁな、次の日が楽しみで仕方なくてなかなか寝れないってのはよくあることだがな」

ここで正直に『明日が楽しみ過ぎてよく寝れなかった』などと本当の言ったら、レオニスに『ちゃんと睡眠を取るのも冒険者の仕事のうちだぞ、そんなんじゃ冒険者失格だな!』と言われそうな気がしたライト。

頑張って寝た!というへんちくりんな返事で誤魔化したライト、それを聞いたレオニスがくつくつと笑う。

「朝飯食って支度したらラグナロッツァに移動するぞ。魔術師ギルドは朝の九時から開くから、朝イチで寄って発注した呪符を受け取らんとな」

「うん、分かったー」

顔をタオルで拭きながら返事するライト。

朝の冷たい水で顔を洗ってスッキリ目が覚めたようだ。

レオニスと二人で朝食を摂った後、自室でアイギス特製のマントを羽織りアイテムリュックを背負う。

「フォル、おいで」

居間に移動し、ソファでコロンと寛いでいたフォルを呼び肩に乗せるライト。

「ぼくとレオ兄ちゃんは三日ほどお出かけで家を留守にするから、フォルはラウルやマキシ君のいるラグナロッツァの家でお留守番しててね」

「フィィィィ」

三日くらいカタポレンの森の家を留守にするので、その間フォルはラウルに預けることになっている。

レオニスも支度が整い、転移門のあるライトの部屋に来た。

「じゃ、行くか」

「うん!」

二人はラグナロッツァの屋敷に移動した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「食い物は足りてるか?」

「うん、ラウルが作ってくれた美味しいものがたくさんあるから大丈夫だよー」

「回復剤は十分に持ってるか?」

「ぼくのアイテムリュックにも入ってるし、レオ兄ちゃんも空間魔法陣にたくさん持ってるはずだよー」

「こないだ買った寝袋は忘れずに入れたか?」

「買ったその日にアイテムリュックに入れたから大丈夫!」

「ラウル……お前、ライトのかーちゃんみてぇだな?」

初の泊まりがけの遠征を直前に、ラウルが心配してライトにあれこれと持ち物確認をしている。

それはまるで子供の遠足の支度を心配する 母親(オカン) そのものである。

そんな世話焼きオカンのような姿のラウルに、思わずレオニスがツッコミを入れている。

「じゃ、ラウル、マキシ君、ラグナロッツァの家とフォルのことよろしく頼むね!フォルも良い子でお留守番しててね!」

「ああ、任せとけ。ご主人様達も気をつけてな」

「ライト君もレオニスさんも、お気をつけていってらっしゃい!」

「キュゥーン」

「いってきまーす!」

まだ出勤前のマキシも、ラウルとともにライトとレオニスの出立を見送りに玄関まで出てきた。

フォルをラウルに預け、ライトとレオニスはラウル達に見送られながらラグナロッツァの屋敷を意気揚々と出立した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

朝の九時ちょうど、魔術師ギルド総本部に到着したライトとレオニス。

始業開始早々に中に入り、受付窓口にいる受付嬢に声をかける。

「おはよう。ピースに頼んだ呪符を受け取りに来た。品物はあるか?」

「おはようございます。レオニスさんがいらしたら呪符をお渡しするよう、マスターピースからお手紙とともにお預かりしております」

「ン? 手紙?」

レオニスが魔術師ギルドマスターであるピースに直々に発注した、穢れ対策の浄化魔法最上級呪符『究極』三十枚。

それとともに、ピースからの手紙も渡されたレオニス。

呪符三十枚を空間魔法陣に仕舞った後、レオニスは早速ピースの手紙を開封する。

封筒の中には手紙の他に、何枚かの呪符が同封されているようだ。

とりあえずここで手紙を開封し、先に読んでいくことにしたレオニス。

ピースの手紙には、以下のことが書かれてあった。

『親愛なるレオちんへ

朝イチで呪符受け取りとか、締切繰り上げで小生を思いっきりこき使う気満々だね!

でもねー、小生そんなレオちんが大好きよ!

日頃の呪符ご愛顧と小生へのご指名の御礼に、小生から愛を込めてささやかなプレゼントをレオちんに差し上げちゃう。

これからもたくさんの呪符作成依頼待ってるからね!

小生の息抜きのためにもよろしくね!

追伸

小生、今年中には有給休暇取るからね!

炎の洞窟に遊びに行く約束、忘れないでね!

レオちんの大親友、ピースより』

走り書きなのか、あるいはもともと悪筆なのか分からないが、ミミズがのたくったような字とその手紙の内容に苦笑いするレオニス。

今はまだ三月末だというのに、有給休暇を取るのが今年中とはだいぶ先のことになりそうだ。

魔術師ギルド総本部マスターともなれば、有給休暇もそう簡単には取れないのだろう。本当に大変なことだ。

「レオ兄ちゃん、ピィちゃんからのお手紙には何て書いてあるのー?」

「ほれ、お前も読んでいいぞ」

レオニスの横からライトがヒョイ、と身を乗り出して聞いてきた。

レオニスはライトに手紙を渡し、同封されている呪符を取り出し中身を検め始める。

「ふーん、ピィちゃんと炎の洞窟に遊びに行く約束したんだね!……ていうか、ピィちゃんの有給休暇っていつ取れるんだろうね?」

「でも、そしたらその時にはぼくもいっしょに連れてってね!……ヒョエッ」

ピースの手紙を読み、自分もまた炎の洞窟に連れてってね!と笑顔で横にいるレオニスに話しかけたライトの顔が凍る。

何故ならば、横にいたレオニスが思いっきり口をへの字に結びつつ、今にも呪符を破りそうな勢いでわなわなと震えていたからだ。

レオニスがその手に持っている、ピースからのオマケの呪符。それは『夫婦円満』『子宝成就』『安産祈願』、どれも今のレオニスには当分必要なさそうな類いのものばかり。

レオニスの背後には『ドガガガズゴゴゴ……』という地の底から沸き上がるようなドス黒いオーラが陽炎のように揺らめき立ち上る。

「ピースのやつめ……こんなんより先に寄越すべきもんがあるだろうがッ!」

「全く……今度会ったらただじゃおかん、やつのほっぺたを限界まで伸ばしてくれるわッ」

プンスコと怒りつつ、呪符と手紙を封筒に入れて戻し空間魔法陣に仕舞うレオニス。

怒りに任せて呪符を破り捨てることなく、ちゃんと受け取るあたりがレオニスの心根の優しさを表している。

「……ふぅ。さ、次は冒険者ギルドに行くぞ」

「はーい!」

深呼吸し、呼吸を整えて落ち着きを取り戻すレオニス。

目当ての浄化魔法の呪符を無事受け取ったライトとレオニスは、魔術師ギルドを後にして冒険者ギルドに移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「クレナさん、おはようございます!」

「よう、クレナ。おはようさん」

「あら、ライト君にレオニスさん。おはようございますぅ、今日はお二人で朝早くからどこかにお出かけですか?」

レオニスは受付窓口にいるクレナに、挨拶がてら声をかける。

日帰りなら特にわざわざ声をかけることもないのだが、今回は泊まりがけの遠征だ。その間ラグナロッツァとカタポレンの森、どちらも不在になり数日留守をすることになる。

その間万が一にも何か大事件が起きた時に、レオニスと連絡が取れない!という事態にならないよう予め行き先を告げておく必要があった。

「今日からエリトナ山に登りに行くんだ。その間何日かはラグナロッツァもカタポレンの森も留守にするから、もし何か俺に連絡したいことがあったらゲブラーの街に連絡をくれ」

「エリトナ山ですか!? 春休み中のライト君とお泊まりのハイキングに行くにしては、また随分と厳しい行き先をお選びになりましたねぇ」

レオニスから行き先を告げられたクレナがびっくりしている。

クレナもエリトナ山のことは知っているようだ。

「まぁな、泊まりがけの遠征なんてライトが長い休みの間しか遠出できんからな。せっかくなら普段行けないようなところに行こうと思ってな」

「そうなんですかぁ。しばらくはゲブラーの街に行かれるんですね、承知しました。ラグナロッツァにお戻りになられた際には、私にも一声かけてくださいね?」

「もちろんだ」

ゲブラーの街とはエリトナ山から最も近い人里、いわゆる最寄りの街である。

レオニスはそこを連絡先として指定し、クレナもそれを承諾しつつ心配そうにライトに話しかける。

「ライト君も十分に気をつけてくださいね? まぁ、レオニスさんといっしょに行くなら大丈夫だとは思いますが……」

「心配してくれてありがとうございます!ゲブラーの街?に何か良いお土産があったら、クレナさんにも買ってきますね!」

「ふふふ、楽しみにしてますね」

クレナの心配を他所に、明るい笑顔で元気に答えるライト。

泊まりがけでのお出かけにワクテカしているのが、傍からでも丸見えである。

そんなライトの期待に満ちた顔に、クレナも和みつつ微笑む。

「じゃ、そういうことで頼んだ。転移門借りるぞー」

「分かりましたぁ。お二人とも、くれぐれもお気をつけていってらっしゃーい」

クレナに見送られながら、ライト達は転移門のある奥の事務所に入っていった。