軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第477話 適材適所

白と黒だけだったレオニスの視界に再び色が戻る。

といっても、もともといたそこはラグナ教エンデアン支部の教会堂地下室で、不気味な邪神像や廃都の魔城の四帝の彫像が立ち並ぶ異様な空間なのだが。

「レオニス卿!」

「ご無事ですか!?」

「……ああ、大丈夫だ……」

オラシオンとエンディがレオニスのもとに駆け寄る。

レオニスはそれまでの張り詰めた緊張の糸が切れたように、その場に座り込む。

戦闘で直接負った怪我こそないが、【愚帝】の操る鉤爪との戦闘で壮絶なまでに神経をすり減らしていた。

エンディが最上級回復魔法をかける傍ら、レオニスは空間魔法陣を開きアークエーテルを取り出して一気飲みする。

精神的疲労によるダメージは、HP回復のポーション類ではなくMP回復のエーテル類の方が効くのだ。

エンディの回復魔法とアークエーテルの服用により、人心地ついたレオニス。

己の足元に転がる武具を改めて手に取った。

「これは……三叉槍、トライデントってやつか」

「そうですね。トライデントは海神が持つ武具とされていますね」

「海に面した港湾都市エンデアンに相応しい武具とも言えますね。これが第四の聖遺物、ということでしょうか?」

「ああ、おそらくはこれが聖なる状態の聖遺物だと思う」

レオニスが拾い上げたのは、三叉槍と呼ばれる武具だ。

その字面の通り、三つの穂先を有する槍である。

その三叉槍は穂先から柄、石突まで全て黄金色の金属でできており、繊細な紋様がびっしりと刻まれている。

重さはこれまでの聖遺物二点よりは重量があるが、三叉槍という武具として見ればかなり軽量の方だ。

三本の穂先はどれも鋭く先端が矢印のようになっており、真ん中の穂が一番長く突き出ている。穂の根元には海の色を象徴するかのような大粒のサファイアが煌めく。

石突も穂先ほどではないが、鉛筆の先のような尖った形をしている。

こうした見事な細工が施された三叉槍に、オラシオンやエンディも思わず見入る。

「この三叉槍からは、確かに強力な聖なる気が感じられます。魔の状態から脱し、聖なる状態となっていることに間違いありません」

「こいつの魔の状態は鉤爪、【愚帝】の持つ武器だ」

「【愚帝】、ですか……ではレオニス卿は、先程までここで【愚帝】と戦っておられたのですね」

「ああ。ここにある【愚帝】の彫像の裏から一対の鉤爪が現れてな。そこから戦闘になった」

レオニスは亜空間で繰り広げた【愚帝】との戦闘を、オラシオンとエンディに語って聞かせた。

二つの鉤爪が空中を自由自在に動き回り襲ってきたこと、ロングジャケットの内ポケットに忍ばせておいたエクスポーションを飲んで無事体力回復できたこと、何故か【愚帝】から気に入られて一発勝負を持ちかけられたこと、その一発勝負に見事打ち勝ち【愚帝】は約束通り亜空間から退散したこと、などなど。

「確かに鉤爪は両手武器ですが……それがあらゆる方向から襲ってくるとは……今回もかなり厳しい戦いだったのですね」

「ああ、ありゃただの鉤爪じゃないからな。槍の達人二人に同時にかかってこられるようなもんだ、それを相手にするのは俺でもキツかったわ」

「無事帰還できて何よりです」

人類最強のレオニスですら、相手にするのはキツかったとまで言わしめる【愚帝】。その強さは並々ならぬものであることがオラシオン達にも伝わる。

一休みしたレオニスが立ち上がり、三人でいっしょに地下室内の彫像群をゆっくりと観察していく。

「やはりこの四つの彫像は、廃都の魔城の四帝を模したものなのですね……」

「ああ。これらが持つ武器はどれも四帝が持つ武器だ。そして見た目も俺が八年前に倒した時の四帝と一致している」

「亜空間では四帝は姿を現すのですか?」

「いや、亜空間では魔の状態の聖遺物だけで、奴等の姿は一切ない。声だけが聞こえてきて俺にも普通に話しかけてくるが、おそらく聖遺物が魔の状態の時には四帝が取り憑いているんだろう」

「なるほど……聖遺物に四帝の意識が入り込めば魔の状態になり、四帝の意識が抜ければ聖なる状態に戻る、ということなのでしょうね」

まずは廃都の魔城の四帝と思われる彫像を一つ一つ眺めていく。

右手に杖を持ち高く掲げる【賢帝】、両手で大鎌を持ち構える【女帝】、両手に鉤爪を着け胸の前で交差させている【愚帝】、そして大剣を片手で地に突き立てて立つ【武帝】。

どれも勇猛さとともに禍々しさを放っている。

「これで、残る聖遺物は一つ。ラグナロッツァのラグナ神殿にある【深淵の魂喰い】のみとなりましたが……」

「それについては、またラグナロッツァに戻ってから話し合うとして―――」

「問題は、この真ん中の像だよな……」

レオニスにオラシオン、エンディが真ん中の像を仰ぎ見る。

四帝の像は、一番背の低いオラシオンから最も高いレオニスと同等くらいなので、おそらくはほぼ等身大に近いサイズなのだと思われる。

だが、それら等身大の四帝の像に比べ、地下室中央にある像ははるかに大きい。

四帝の像を小指大としたら、真ん中の像はバスケットボール大はあろうかという巨大さだ。

「この像は一体何なんだろうな?」

「見た目だけで言うなら、邪神像と言っても差し支えなさそうですが……さっぱり分かりませんね」

「もしや、四帝よりも上の存在……ですかね?」

「「…………」」

レオニスはもちろん、オラシオンやエンディもさっぱり分からないようだ。

しかし、四帝を模した像が邪神像の四方を護るように配置されているのを見るに、エンディがおそるおそる口にした『四帝よりも上の存在』という線がかなり強そうだ。

レオニスもオラシオンも肯定することなく無言のままだが、客観的に見ても認めざるを得ない状況である。

廃都の魔城の四帝ですら、長い年月をかけても完全には倒せていないというのに。

さらにその上をいく存在、邪神が背後に控えているかもしれない―――そう考えただけでレオニス達は憂鬱な面持ちになる。

「はぁ……今はまだ何の手がかりもないことだし、一旦上に戻るか」

「そうですね。ここは再度厳重に封印するとして、まずは地上に戻りましょう」

「地下室の入口は破壊してしまったので、教会堂そのものを再度封印することにしましょう」

「うぐッ……す、すまんな。何なら後日俺が扉を直しに来るわ」

「いえいえ、地下室入口だろうと教会堂全部だろうとさほど大差はありませんので。どうぞお気になさらず」

初見の邪神像をずっと眺めていてもどうにもならないので、一行は地上に戻ることにした。

この地下室は新たな発見物があるので、今後も厳重に保管せねばならない。だが、地下室に入る時に入口の扉を物理的に破壊してしまったので、教会堂全部を再度封印することになった。

地下室入口を蹴破ったレオニス、バツが悪そうにエンディに謝る。

もっともエンディの方はそこまで気にしてはいないようだが。

三人は地上に戻るため、地下室を出ていく。

最後に地下室を出たレオニスが、階段に繋がる通路に入る前に一度だけ地下室に向かって振り返る。

入口正面には【賢帝】の彫像が建てられている。

レオニスにはその【賢帝】の像が、ニヤリ、と笑いながらレオニス達を眺めているように見えたような気がした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

教会堂の外に出て、再びその扉の前でエンディが封印魔法を施す。

その後レオニス達は、ホロ総主教と魔の者達と合流した。

「教会堂地下室調査、お疲れさまです」

「ああ。あんた達もこれから馬車でラグナロッツァに帰るのか?」

「はい、その予定でおります」

「魔の者達に少し聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「分かりました、少々お待ちください」

敷地内で仲良く草むしりをしていた魔の者達を、ホロが呼んできてレオニス達のもとに連れてきた。

「貴方方に何かお聞きになりたいことがあるそうですよ。素直にお答えして差し上げてくださいね」

「ンー? 何ナニ、あんちゃん達何か質問でもあんの?」

「俺らに分かることなら何でも答えるぜー」

「と言っても、アタシ達根っからの下っ端だから、知ってること少ないと思うけどねー」

「ンだなー、質問に答えられんくても許してな!」

「「「キャハハハハ!」」」

ホロの呼びかけに、きゃらきゃらと笑いながら気軽に応じる魔の者達。

相変わらず底抜けに明るく陽気な者達だ。

「さっきのあの地下室には、幹部以外は入ったことはないんだよな?」

「うん。そもそも教会堂には掃除以外で入ったことねぇし」

「掃除する曜日や時間帯も決まってるから、それ以外で教会堂に入ることは絶対に許されなかったわよねー」

ガイルやミライがレオニスの質問に答える。

やはり下っ端の魔の者達には、地下室に近づくことすら許されていなかったようだ。

「地下室に直接入る機会はなくても、地下室のことで何か覚えていることはないか? 幹部達の会話とか何でもいい、とにかく地下室に関する情報であればどんな些細なことでもいいから教えてくれ」

「地下室の情報、ねぇ……」

「「「……うーーーん……」」」

レオニスの要請に、その場にいる魔の者全員が一生懸命に考え込む。

しばしの沈黙の後、キースがその手を挙げた。

「そういや大昔のことなんだけどよ。あっこの地下を掘って何かを作ることになった時に、えりぃと様達が『ヨンテイ様の像とショダイ様を作るには、アチラからタクミを迎えてどうのこうの』とか言ってたのは覚えてるぜー」

「キースはエンデアン支部の中でも一番の古株だもんねー。オレがここに拐われた頃には、あの地下室は半分くらいの出来とか何とか言ってたなー」

「まぁなー。あれを作り始めたのは……はて、何十年前からだっけな?」

「何、キース、大昔過ぎて忘れちゃった?」

「ンー、百年は経っちゃいねぇと思うが……八十年くらい前か?」

塔の番人を仕事としていたキースが証言する。

彼がエンデアン支部の下っ端連中の中で最も古株のようだ。

「アタシは完成直前にここに連れてこられた新参者だけど。それでも三十年くらい前には完成してたわよねー」

「時折向こうのタクミ?とかいうのが教会堂を出入りするのは、番をしていた塔の上からも見えたぜ。そいつらも一応は人に擬態してて、でもこの支部から出ることは絶対になかったけどな」

地下室の建造に、下っ端達が直接関わることは一切なかった。だがそれでも、日々ここで暮らす彼ら全員の目を忍んで地下室建造を行うにはやはり無理がある。

あれだけ大規模な地下室だ、完全に隠し通すことはできなかったようだ。

それにしても、一番気になるのはキースの証言だ。

「ショダイ? 初代、諸台、初題……一体何のことだ?」

「発音だけでははっきりとしたことは断言できませんが……普通に考えれば『初めての代』の『初代』、ですかね?」

「いずれにしても四帝の像とは別のもののようですし、そうするとあの真ん中にあったものを指しているのでしょう」

広大な地下室中央に祀られるようにして置かれていたそれは、『初代』と呼ばれる何者かの像のようだ。

名称だけではまだ一体何のことか分からないが、それでも何の手がかりもないよりはマシだ。

「初代とやらのことは頭の片隅に置いとこう。いつか何かの拍子にその言葉を耳にすることもあるかもしれんしな」

「そうですね。私もラグーン学園内の図書室で調べてみることにします」

「私もラグナ神殿の書物に何か初代なるものの手がかりがないか、帰ってから調べてみます」

「皆頼んだぞ。何か手がかりが見つかったら、俺にも教えてくれ」

「承知しました」

ラグナロッツァに戻り、各々出来る範囲で新発見『初代』なるものの調査を約束するオラシオンやエンディ。

特にオラシオンはラグーン学園理事長ということもあり、高等部の図書室にも自由に出入りできる立場にある。

いずれにしても彼らの調査に期待したいところだ。

「じゃ、ここで解散するか」

「レオニス卿、お疲れさまでした。今回も大した力になれず申し訳ございません」

「本当に、我等のことなのにレオニス卿に頼ってばかりで……大教皇とは名ばかりで、心苦しくも恥じ入るばかりです……」

悪魔が潜入していた各支部の再調査には、いつもオラシオンやエンディも来ているものの、肝心の四帝との対決などは全てレオニス任せなのが二人とも心苦しいらしい。

いつも冷静沈着な彼ら兄弟が、珍しくその顔に悔しさを滲ませつつレオニスに謝罪する。

そんな彼らの顔を見ながら、レオニスは小さく笑う。

「そんなことないさ。オラシオンの知識や推理はその都度新しい手がかりを発見して、俺達を導いてくれてるじゃないか」

「それに大教皇も、俺が亜空間から帰還する度に最上級回復魔法をかけてくれる。あれだって、すんげー助かってるんだぞ?」

「それに、亜空間にご招待されるのは俺一人で十分だ。他の人間じゃ、四帝が待ち構えているあの亜空間から生きて戻るのは難しいだろうからな」

レオニスの言葉に、俯きがちだったオラシオンもエンディもだんだんと顔を上げていく。

レオニスとしてもおためごかしやただの慰めで言った訳ではなく、本当にオラシオンやエンディに助けられている、と心から思っているのだ。

「ま、適材適所ってやつだ。俺達はそれぞれに持ち場があって、自分ができることをやればいいんだ」

「……そうですね。これからも私は私にしかできないことをやっていけばいいんですよね」

「レオニス卿、兄上、本当にありがとうございます。私も大教皇でいられるうちに、少しでもラグナ教を立て直すべく尽力いたします」

三人は気持ちも新たにしつつ、その場で解散しラグナ教エンデアン支部を後にした。