軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第461話 特殊素材アダマント

念願叶ってネツァクの砂漠蟹殻処理依頼を引き受けることができたラウル。

ラウルが請け負った三件の依頼は、二件が宿屋、一件が高級レストランのようだ。

まずは冒険者ギルドネツァク支部から一番近い宿屋『ヤハウェ・ツァバオト』に向かうことにした。

クレノからもらった地図を頼りに歩いていくラウル。

冒険者ギルドから出て、歩いて十分ほどでヤハウェ・ツァバオトに辿り着いた。

そこそこ大きな通りに面したヤハウェ・ツァバオトは、七階建ての大きな建物だ。この近辺では最大級の大店である。

今回ラウルは宿泊客として用がある訳ではないので、正面玄関は避けて建物の横から裏口を探して入ることにする。

正面玄関から見て右側奥に裏口を見つけたラウル。早速中に入っていった。

「すまんが、誰かいるかー?」

建物の中に向かって、大きめの声で呼びかけるラウル。

しばらく待っていると、奥から従業員らしき中年女性が出てきた。

「はいはーい。どなたー?」

「冒険者ギルドに貼り出されていた、砂漠蟹の殻処理依頼を受けに来たんだが」

「あらまぁ!やっと引き取ってもらえるのね!ずっと待ってたのよ!」

「とりあえず殻が置いてある場所に案内してもらえるか?」

「ええ、ついてきてちょうだいな!」

ラウルが冒険者ギルドから持ってきた依頼書とギルドカードを提示すると、中年女性従業員は明るい笑顔で喜ぶ。

中年女性従業員の案内で、砂漠蟹の殻が保管されている場所に移動する。

保管場所は本館建物の裏側にある、簡易的な倉庫。その中に殻を山積みにして収納及び保管しているらしい。

本館から見える敷地内に野晒しでは景観が損なわれるため、宿泊客からは見えないよう配慮しているのだろう。

中に入ると三段の棚があり、一匹分の殻が一つの甲羅の中にまとめられていて多数並べられているのが見える。

殻はきちんと洗うなり洗浄魔法で処理してから置いてあるようで、悪臭は漂ってこない。さすがに宿泊施設の敷地内に生ゴミを放置する訳にもいかないようだ。

そんないい加減なことをしていたら、すぐに客が飛んでしまうだろう。誰だって生ゴミ臭い宿泊施設になど泊まりたくはない。

一番大きな甲羅を深皿に見立てて、他の部位の殻をその中に入れて詰め込むようにしている。これは省スペース化を図りながら処理を待つ殻の個数の管理も兼ねているようだ。

しかも一つ一つの甲羅に日付が書かれてあり、どれが古くてどれが新しいものかが一目で分かるようになっている。

この宿屋の管理能力が高いことが伺える。

だが、如何せんその数が多い。

倉庫の中にある殻の量は、少なく見積っても五十匹分以上はありそうだ。

「あー、この依頼書には『砂漠蟹の殻一匹分につき800G、個数無制限』とあるが、とりあえず今日は十匹分を引き取る。日付の古いものでも大きいものでもいいから、今日処理したい分十個をそっちで選んでくれ」

「もっと持っていってくれないのかい?」

「ここの他にも二件分、殻処理依頼を受けてるんだ。ここで全部引き取るのはさすがに厳しい」

「そうかい、そりゃ残念だ。でもまぁ他所もうちと同じく殻処理には苦労してるしね、うちだって十匹分減るだけでもありがたいと思わなくちゃね」

中年女性従業員は、日付の古いものやサイズが大きくて嵩張るものを中心に選んで指定していく。

ラウルは指定されたものを順次空間魔法陣に収納する。

こうして十匹分の砂漠蟹の殻を引き取ったラウル。後は依頼達成の証として、依頼主もしくはそれに相当する責任者のサインを記入してもらうだけだ。

ラウルは空間魔法陣から依頼書を取り出し、中年女性従業員に渡す。

「そしたらこの依頼書に、依頼達成のサインを書いてくれ。十匹分引き取りという詳細内容の追記も忘れずにな」

「本館のお偉いさんに書いてもらってくるから、さっきの裏口のところで待ってておくれ」

「承知した」

ラウルは中年女性従業員の言う通り、倉庫から出て裏口に向かう。

そこでしばらく待っていると、中年女性従業員が依頼書を持って戻ってきた。

「待たせたね、はい!」

「…………よし、これで依頼完了だな」

「それにしてもお兄さん、すごいねぇ。空間魔法陣なんて、私ゃ初めて見たよ」

「まぁな、これのおかげで殻処理依頼が楽になることは確かだ」

「そうだよねぇ、ノーヴェ砂漠に持っていくためにわざわざ細かく砕かなくてもいいってことだもんねぇ」

ラウルの空間魔法陣を見た中年女性従業員、感心することしきりのようだ。

ちなみに今日引き取った殻は、ノーヴェ砂漠には捨てずに全てそのままラグナロッツァに持ち帰るのだが。そこら辺は言わなくてもいいことなので、ラウルも黙っている。

「さっき依頼書にサインをもらいに行った時にさ、うちの会長が『これから是非ともこのラウルさんという方に指名依頼を出したい。何なら専属契約を結んでもいい』って言ってたよ?」

「それはできん相談だな。他の冒険者に殻処理の仕事が回らなくなるし、冒険者ギルドを介さない専属契約とか以ての外だ。そんなことをしたら、俺が冒険者ギルドからお咎めを食らう羽目になる」

「だよねぇ。ま、そこら辺は会長も分かってると思うけどね」

サインの主の会長の言として、中年女性従業員が指名依頼や専属契約話を持ちかけてくるも、そこははっきりと断るラウル。

完全フリーランスならともかく、冒険者ギルドに所属して依頼という形で仕事や報酬を得ている以上は自分勝手なことはできない。

例えばレオニスのような超一流冒険者ともなれば、指名依頼などもアリだろう。実際プロステスでも、炎の洞窟調査依頼を領主アレクセイから直接請け負ったことがある。

だが、ラウルはまだ冒険者になったばかりの駆け出し新人初心者。冒険者のイロハも全く分からぬうちから、特定の店や人物からの指名依頼だの専属契約だのはさすがに荷が重い。

それに、今回のラウルの空間魔法陣を用いた殻処理依頼、その噂が広まればラウルをアテにして他の殻処理依頼が殺到するだろう。

そんなことになったら他の冒険者へ仕事が回らなくなり、要らぬ妬み嫉みや恨みを買ってしまうことになりかねない。

レオニス邸での執事業務と同様に、冒険者稼業も自分のペースでのんびりやっていきたいラウルにとっては、必要以上に周囲の耳目を集めたり多忙になるのは不本意以外の何物でもないのだ。

「じゃ、俺はこれで失礼する」

「殻処理ありがとうねー、また来ておくれねー!」

砂漠蟹の殻を無事引き取ったラウルは、ヤハウェ・ツァバオトを後にして次の依頼場所に向かった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

二件目、三件目の依頼も無事完了させたラウル。

どちらとも一件目のヤハウェ・ツァバオトとほぼ似たような感じで終了した。

食べ終えた砂漠蟹の殻を常時大量に抱えるようなところは、結局どこも似たりよったりな事情なのだろう。

三件の依頼を無事終えたラウルは、昼休みの休憩も兼ねて手頃な定食屋に入る。

本当は三件目の高級レストランで昼食を摂ってもよかったのだが、ランチに1000Gはさすがにラウルでもちと高過ぎて敷居が高い。

いや、以前のラウルならそれでも『高級店の味とはどんなものか知りたい』とか言いながら食べていただろう。

だが今は節約の時。家庭菜園用のガラス温室を買うために貯金せねばならない。無駄遣いや無闇矢鱈な贅沢は控えねばならないのだ。

定食屋で注文した『デザートスイーパーの砂肝唐揚げ定食』をモリモリ食べるラウル。

デザートスイーパーがどういったものかは全く知らないラウル。もともとカタポレンの森生まれの妖精なので、ノーヴェ砂漠の魔物の知識など一切ない。

魔物由来の食材なんだろうな、とは何となく推察しつつ、まぁ定食屋が出してるもんなんだから普通に食えるだろ、といつものキニシナイ!精神を発揮する。

今日もまたご当地グルメ?を堪能したラウルは、定食屋を出た後本日最後の目的地に向かうことにした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「邪魔するぞー」

ラウルが声をかけながら、入っていった建物。

そこは砂漠蟹職人として名を馳せる、ルド兄弟の自宅兼事務所。

来客の対応に出てきたのは、いつも通りリカルドである。

「はいはい、どちらさんー……って、おお、ラウルさんじゃねぇか!お久しぶり!」

「先日は世話になったな」

「いやいや、こちらこそ!砂漠蟹丸ごと一匹お買い上げだけでなく解体まで見せてもらって、俺もいろいろと勉強になったよ」

人懐っこい笑顔でにこやかに再会を喜ぶリカルド。

彼の人柄や人当たりの良さにラウルも心和む思いだ。

「で、今日は何の用だい? また砂漠蟹を買っていくのか?」

「いや、まだ前回購入した砂漠蟹があるんで当分はいい」

「だよなー。宿屋や定食屋ならともかく、あの量を普通の家庭で食いきるには数ヶ月はかかるだろうからなー。ま、ラウルさんは大きなお屋敷勤めらしいから、大人数の職場で食ってたら消費も早そうだけど」

ラウルは大きなお屋敷勤めではなく、むしろラウル一人に管理の全てを任されている究極の零細職場なのだが。

リカルドの中のラウルは既にいろいろと誤解されまくっているので、認識の齟齬はどうしようもない。

そしてラウルの方も、その程度の勘違いで特に害を被ることもないのでいちいち訂正したりしない。そう、ここでもラウルはキニシナイ!のである。

「今日はリカルドのところで使っている道具のことを知りたくてな」

「道具? 砂漠蟹を解体する時に使う刃物のことか?」

「ああ。あの後屋敷で砂漠蟹を食べるためにいろいろとしたんだが、下拵えに結構苦戦してな」

「そりゃそうだろうなぁ、うちの刃物はそれ専用の特注品だし」

リカルド曰く、やはりここで使用している刃物類は砂漠蟹を捌くためだけに作られた特別なものらしい。

「そうだろうとは思った。切れ味の良いミスリル製包丁なんかを使っても、ここでの解体の時のようにすんなりとは切れなかったしな」

「ミスリル製包丁かー、俺は使ったことないけど相当良い包丁なんだろうな」

「だから、ここの刃物が何で出来ているのか気になったんだ。あれは一体何製なんだ?」

ラウルの問いに、リカルドは情報を出し惜しみすることなく普通に答えていく。

「うちの刃物はアダマント製。俺達の三代前、 曾祖父(ひいじい) さんから受け継いでる品だ」

「アダマント製……それは普通に買えるもんなのか?」

「いいや、アダマントってのは普通は戦斧や大鎌なんかの大型の武器に使われるもんだ。うちで使うような小型の刃物に使うことはまずない」

「やはり特注品ってことなんだな」

「そゆこと」

アダマントは非常に硬く重たい金属として有名な特殊素材だ。

魔法特性はほとんどなく、その重量から斧や鎌、鎚などの重量系武器に用いられることがほとんどである。

とにかく重さが半端ないので、アダマント製の武器は取り回しがかなり難しいことでも知られている。多少の力持ち程度では持ち上げることすらできず、怪力レベルでないと使いこなせない。

だがその分破壊力は抜群で『力こそ全て!』な脳筋系と非常に相性が良いとされている。

「そうなると、ここのような刃物類を俺が手に入れようと思ったら、ファングで特注するしかないのか?」

「まぁそういうことになるが……何、ラウルさん、ファングまで行ってアダマント製の手斧でも注文すんの?」

「ああ。今はオリハルコン包丁の作成依頼を出しているところだから、それが出来上がったらその次にアダマント製の鉈を注文するつもりだが……そうだな、手斧もいいかもな」

「オリハルコン包丁……都会のお屋敷に勤める執事ってのは、そんなもんまで用意しなきゃならんのか、大変だなぁ」

本当ならアダマント製の小型武器が買えれば一番いいのだが、やはり市販の品では大型武器しかないらしい。

そうなると、リカルドが使っているような刃物を入手するにはやはり職人の街ファングで特注するしかないようだ。

砂漠蟹を簡単に捌く方法として、オリハルコン包丁さえ入手すればスパスパと斬れるに違いない。

だがそれでも、ラウルは砂漠蟹専用の調理器具としてアダマント製の刃物を手に入れたいようだ。そこら辺は料理人の魂が騒ぐのか、はたまた調理器具コレクターとしての気質が疼くのか。

いずれにしても、もはやラウルはアダマント製の鉈もしくは手斧を特注する気満々のようである。

「そうか、教えてくれてありがとう。情報料代わりと言っては何だが、良ければ受け取ってくれ」

「え、何ナニ、何かくれんの?」

リカルドにアダマントのことを教えてもらったラウルは、空間魔法陣からいくつかの皿を取り出した。

砂漠蟹のクリームコロッケに砂漠蟹の和え物、蟹クリームコロッケバーガーに砂漠蟹のパスタ等々、ラウル特製砂漠蟹料理のフルコースである。

「おおお、すんげー美味そうな料理だな!」

「ここで買った砂漠蟹を使った料理だ。昼飯時はとっくに過ぎたが、良ければ晩飯に食ってくれ」

「いや、俺達いつも昼飯は遅い方で兄貴が一度帰って来てからいっしょに食うんだ。今日はまだ昼飯食ってねぇし、兄貴もそろそろ帰って来る頃だから昼飯としていただくことにするよ」

ラウルが御礼代わりに出した数々のご馳走を見て、リカルドの目がキラキラと輝く。

時刻は午後二時の少し手前だが、幸いリカルドはまだ昼食を食べていないという。

そんな会話をしていたところ、ドドドドド……という地響きが起きる。リカルドが言っていた通り、どうやら兄のヘラルドが狩りから帰ってきたようだ。

噂をすれば何とやら、まさに神がかったタイミングでの帰還である。

「お、ちょうどいい時に兄貴も帰ってきたな」

「そしたらもう一人前出そう」

「いいのか!? ありがとう、俺達毎日飽きもせず砂漠蟹を狩ったり捌いたりしてはいるが、実際に料理として食うことはあまりないんだよな!」

「そうなのか? いつでも好きなだけ食えそうなのに」

「売り物と自分達の食う飯は別物さ。おーい、兄貴ー!今日はご馳走があるぜー!」

リカルドが窓を開けて、狩りから帰還したヘラルドに向かって大きな声で話しかける。

窓の外からは「ただいまー、ご馳走って何だー?」というヘラルドの小さな声が聞こえる。まだ家から少し遠い生け簀のところにいるのだろう。

ラウルの今日のネツァクでの用事は、このルド兄弟訪問が最後だ。

念願の砂漠蟹殻処理を三件分こなし、後は冒険者ギルドネツァク支部に戻って依頼達成の認定と報酬受取の手続きをするのみ。

その後はそのままネツァク支部からラグナロッツァに帰るだけなので、特に時間を気にせずのんびりと過ごすこともできる。

ここはルド兄弟二人から砂漠蟹のあれこれを聞くのもいいな、と思いながら、ラウルは二人分の食事をテーブルの上に出して準備していた。