軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第458話 一世一代の決戦日

桃の節句の雛祭りも過ぎ、世の中は新たなる季節イベントに染まってゆく。

雛祭りの次に来るイベントと言えば。そう、バレンタインデーのアンサーデーである『ホワイトデー』である。

ホワイトデーと言えば、言わずと知れた『バレンタインデーのお返しを贈る日』である。

今年ライトはバレンタインデーに、イヴリンとリリィからは一粒チョコレート、ハリエットからは可愛らしい缶入りのチョコレートをもらった。

ライトがサイサクス世界に転生してから初めてもらった、記念すべきバレンタインデーである。

そんな記念すべきチョコレートをもらったからには、その御礼としてライトからも彼女達に何か良い物を贈らねばならない。

ホワイトデーが近づいてくるにつれ、ライトは何を贈るべきか悩んでいた。

「うーーーん……お返しには何を贈ればいいんだろう」

「いつもなら、ラウルの美味しいスイーツに頼るところだけど……さすがに他人に作ってもらった手作りスイーツを我が物顔で渡すのはなぁ、ちょーっとないよねぇ」

「かといって、俺にはお菓子作りのスキルなんてないしなぁ……うーーーん」

ライトはカタポレンの森の家の自室でうんうんと唸り続けていた。

それかもういっそのこと、超人気スイーツ店【Love the Palen】のお菓子でもあげた方が早いんじゃないか?とも思うが、やはり市販のものを贈るのは味気ない気がする。

かといって、それに代わる良い案がなかなか思い浮かばないようだ。

「くッそー、イノセントポーションやセラフィックエーテルならいくらでも作れるんだが……そんなもん女の子達へのお返しになんてならないし……」

「な、何か……何か生産職用スキルでいい手はないか……」

考え倦ねた末に、ライトはマイページを開いて各種スキルを改めて見て回る。

「遠心分離……詳細鑑定……解体新書……金属錬成……どれも違う……」

「料理スキルとか欲しかった……こんなことならもっと早くにラウルに料理を教わっておくんだった……」

がっくりと項垂れるライト。

どれも日頃よく使っていて大変お世話になっているスキル類だが、今この時に使えそうなものではない。

マイページを開きついでに、アイテム欄もチェックしてみる。何か贈り物に使えるアイテムがあるかもしれないからだ。

アイテム欄の中には、草餅にチョコレートケーキ、羊羹、クッキー、マシュマロ等々、様々な和洋の菓子やスイーツが収納されている。

それらは全てBCO由来のアイテムであり、使い魔であるカーバンクルのフォルがお使いで拾ってきた回復アイテム類だ。

「んーーー……どれも回復アイテムだし、美味しいことは美味しいんだけど……さすがに出処不明のお菓子を他人様に渡す訳はいかん……」

「【水の乙女の雫】は……宝石以上に綺麗だし、間違いなく女の子受けするだろうけど……さすがに貴重かつ高価過ぎてホワイトデーのお返しには向かんよなぁ」

「魔物由来の素材は言わずもがな、こんなん喜ぶ女子なんている訳ねぇし」

「んーーー……やっぱりここはアレを作るしかないか」

アイテム欄にある数多の品々を見ても、どれもが『帯に短し襷に長し』でホワイトデーのお返しには向かないものばかり。

結局ライトが辿り着いた結果は『紐を編む』であった。

ライトは以前から、前世での知識と経験を活かして『ミサンガマスター』としての技術を駆使してきた。

前世で得ていたそれらの知識と技術は、実はミサンガ編みに留まらない。ミサンガ編みの延長線上として、組紐や飾り結びなどもよく作成していたのだ。

「飾り結びは何にしよう。……そうだ、イヴリンちゃんとリリィちゃんにはひまわりのモチーフを作ろう!二人お揃いならさらに喜んでくれそうだし」

「ハリエットさんにはツィちゃんの枝を使って何か作ってあげたいな……何がいいかな」

指輪……これも女の子が大好きなアイテムだけど、さすがに指輪は重たいかなー。

ウッドビーズの腕輪……どう見ても数珠にしかならんよな?

木彫りの熊……これは彫刻技術が要るだろうな、誰かに弟子入りでもして修行しなきゃ無理か。

ここで何となく浮かんだ『木彫りの熊』からふと考えたライト。

熊は無理でも小鳥くらいなら彫れるんじゃね? 要は鳩サブレっしょ? よーし、そしたら小鳥の置き物に決定!

思い立ったが吉日、早速ライトはユグドラツィの枝を取り出し、小さなナイフで削り始めた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そして、とうとうやってきた3月14日。

このサイサクス世界で初めてホワイトデーを迎えるライトにとって、まさに一世一代の決戦日である。

ラグーン学園の教室には、バレンタインデーの時と同様に皆いつもより早くに登校していた。

男の子も女の子も、どことなくそわそわしている。

ライトも例に漏れず、いつもより十分も早く登校してしまった。

「「ライト君、おっはよーぅ!」」

ライトと仲の良いイヴリンとリリィが、二人してライトのもとに朝の挨拶に来た。

朝の挨拶はいつも交わしていることだから、別段気にすることでもないのだが。何しろ今日はホワイトデー当日、普段とは訳が違う。

「イヴリンちゃん、リリィちゃん、おはよう。早速だけどこれ、バレンタインデーのお返しね!」

「おお、さすがライト君、分かってるぅー!」

「ねぇねぇ、今ここで中身こっそり見てもいい?」

「どうぞー。でも、ここで出されて皆に見られちゃうのは恥ずかしいから、箱から出さずに見てね?」

「うん、分かったー!」

ライトからのお返しの中身がよほど気になるのか、早速確認したいと言うイヴリンとリリィ。

ライトが条件付きで許可を出すと、二人とも嬉しそうな顔になった。

ライトから受け取ったのは、まるで宝石を入れるような美しい青色のベルベットの小さな小箱。手のひらサイズの薄い箱だ。

こんな綺麗な小箱をもらっては、イヴリンもリリィも中身が気になってそわそわしても致し方ない。

イヴリンもリリィも、ライトに言われたように青い小箱をそっと開き、自分だけに見えるよう覗き込む。

そうして見えた中身を確認した二人は、目を大きく見開きながら息を呑む。

「うわぁー、とっても可愛いお花!」

「すっごい可愛いー!これ、どこで買ったの!?」

「お店で買ったんじゃなくて、ぼくが編んで作ったんだ」

「え、ウソ!ライト君、こんな素敵なモノ作れるの!?」

「すごーい!ていうか、この入れ物もすっごい綺麗ね!私、こんな素敵な箱見たことないわ!」

「私も私も!」

きゃいきゃいとはしゃぐイヴリンとリリィ。

青い小箱に入っていたのは、ライトが飾り結びで編んだひまわりのブローチだった。

ひまわりモチーフの裏にはピンがついていて、帽子や服に着けたりバッグチャームなどにも使えるようになっている。

ちなみにそのピンや青い小箱は、アイギスで融通してもらったものだ。もちろんライトが自分の小遣いからお金を出して購入したものである。

当然のことながら箱には一切ブランド名は入っていないが、まるで小さな宝石箱かのような美しさは本職用アイテムだけあって実に本格的。

今までそんな高級な小箱を見たことがないイヴリンやリリィ。中身だけでなく、その箱にまであっという間に虜になってしまった。

梱包にまで拘ったライト、大勝利である。

だがここで、イヴリンが少しだけおずおずとしながらライトに問うてきた。

「ねぇ、ライト君……私達はライト君にチョコレート一粒しかあげてないのに、こんなに素敵なお返しをもらってもいいの?」

「もちろんだよ。イヴリンちゃんもリリィちゃんも、いつもぼくのこと気にかけてくれてるのが分かってるし。バレンタインデーだけじゃなくて、いつもお世話になってる御礼だよ」

「「ライト君、ありがとう!」」

ライトの言葉を聞いたイヴリンは、花が咲いたかのような明るい笑顔になる。

ちなみにリリィの方はというと、終始キラキラとした瞳だった。イヴリンのように物怖じせずに、素敵なプレゼントをもらえた喜びのみに満ち溢れる。

そのままもらえるものと信じて疑わない、さすがはリリィである。

「ライト君も私達のズッ友だからね!」

「また下校の時にはいっしょに帰ろうね!」

「「じゃ、また後でねー!」」

ライトに礼を言うと、早速他の友達のところにピューッ!と移動していったイヴリンとリリィ。

ライト以外の友達に配った友チョコの返礼回収に向かったのだろう。友達の多いリア充女子は何とも忙しく大変なことだ。

すると、イヴリン達の移動を見計らったかのようにハリエットがスススー、とライトの横に来た。

「ライトさん、おはようございます」

「ハリエットさん、おはよう!ハリエットさんにもちゃんとお返しを用意してあるよ。はい、どうぞ!」

「……ッ!!」

最初から、心なしか顔がほんのりと赤かったハリエット。

早速ライトからバレンタインデーのお返しを差し出され、さらに顔が赤くなる。

ライトがハリエットに差し出したのは、イヴリン達に渡したのと同じ、青色のベルベットの小箱。

だが、イヴリン達のものと少し違って高さがあり、正方形に近い形の箱だった。

「あの……頂いたものをその場で開けるなんて、貴族令嬢にあるまじきはしたない行為だと分かってはいるのですが……私もここで、こっそり中を見てもよろしいでしょうか?」

「もちろんいいよ。でも、こっそり、ね?」

ライトも中身を見られるのが本当に恥ずかしいのか、ちょっと照れ臭そうな顔でハリエットの願いを聞き入れる。

ライトの承諾を得たハリエットは、両手で包むようにして小箱を隠しながらそっと箱を開いた。

ハリエット用のお返しの品。それは小鳥の置き物だった。

「……これは……」

「えーとね、木彫りの小鳥の置き物。買ったものじゃなくて、ぼくが彫ったの」

「とっても可愛い……」

「ホントはハリエットさんの好きな小ブタとか彫れれば良かったんだけど……ぼく、紐は編めても木彫りの彫刻って今まで一度もしたことないから、難しいの作れなくて……ごめんね」

小箱の中にちょこんと納まってある小鳥を見て、思わず「可愛い」と呟くハリエット。

だが、ライトはあまり納得していなかったようだ。

実際木彫りの小鳥を作り始めた当初、ライトはふと小ブタのことを思い出し「……これ、小ブタで作った方がもっと喜んでくれる、かも?」という考えが脳裏を過った。

だが、どう考えても小ブタの造形は素人が一朝一夕で彫れるもんじゃない、と早々に諦めたという経緯があったのだ。

そのことを謝るライトに、ハリエットは思わず大きな声を上げた。

「そんなことはありませんわ!これだってとても愛らしくて、私は大好きです!」

「そ、そう? ハリエットさんにそう言ってもらえると、ぼくも嬉しいな!……あ、ちなみにこれ、材料の木がちょっと特殊なんだ」

「特殊?」

「うん。……ちょっと耳を貸してもらえる?」

ライトの言葉に不思議そうな顔のハリエット。木彫りの置き物の原材料に、普通とか特殊とかあんの?と訝しく思われても致し方ないところではある。

そんなハリエットに、ライトはちょいちょい、と手を招いてその素材名を耳打ちで明かした。

(これね、皆にはナイショなんだけど。カタポレンの森にいる神樹の枝で作ったの)

(……シン、ジュ?)

(ほとんど神様みたいな樹。樹齢千年近い樹なんだって)

(!?)

(魔力が高くて知性もあって、ぼくとも普通にお話できるくらいに賢くてとっても優しい性格の樹なんだ)

(!?!?)

(名前はユグドラツィ、図鑑とかにも載ってる有名な神樹だよ)

(!?!?!?)

大きな声では話せない衝撃の耳打ち話に、ハリエットの 円(つぶら) な瞳はどんどん大きくなっていく。

ハリエットは極々普通の貴族令嬢なので、神樹と言われてもすぐにはピンと来なかったらしい。

だがライトの内緒話を聞くにつれ、それがどれだけ常識外のことであるかを理解していったようだ。

「し、神樹の枝の置き物……そ、そんな貴重な品をいただいてもいいのですか……?」

「もちろん!ハリエットさんからはとっても可愛い缶入りのチョコレートをもらえて、ぼくすっごく嬉しかったし!だから御礼は絶対に手作りのものって決めてたんだ!」

半ば呆然としているハリエットの問いかけに、ライトは満面の笑みで答える。

「ハリエットさんは伯爵令嬢で、ぼくは普通の平民だけど。これからも仲良くしてね!」

「……!!も、もちろんですわッ」

ライトの言葉を聞いたハリエット、もとから紅かった頬をさらに紅く染め、耳まで真っ赤になりながらピューッ!とその場を走り去ってしまった。

どうやらライトの言葉とともに、先程の耳打ちシーンを思い出して煮えてしまったらしい。

そしてハリエットが走り去るのを見計らったかのように、今度はジョゼがスススー、とライトの横に来た。

「ライト君、おはよう」

「あっ、ジョゼ君、おはよう」

「ねぇ、ライト君はもうイヴリン達にお返しした?」

「うん、さっき皆に渡したよー」

ジョゼはライトにお返しをしたかどうかを聞いただけで、どんなものを渡したかは聞いてこない。何を渡したかを聞けば、自分の渡したものも明かさねばならないから。

きっとそれは、ジョゼにとって恥ずかしいことに違いない。

「バレンタインデーにチョコをもらえるのは嬉しいけどさ。お返しが本当に悩ましいよねぇ」

「そうだね……ぼくもずっと悩んじゃったよ……」

何とかお返しできたことに、二人にして安堵のため息をつく。

「これから毎年、バレンタインデーの度にこうなるんだよねぇ」

「でも、皆仲良しでいられる証だと思えば、ね?」

「うん、そうだね。また来年もこうして悩みたいね」

ライトとジョゼ、二人してふふふ、と笑う。

一世一代のホワイトデーを乗り越えた男子二人にも、また新たな友情が育まれた瞬間だった。