軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第421話 先制カミングアウト

二日後の土曜日。

ライトとレオニスは、水の女王に会うために目覚めの湖に探索に行く準備をしていた。

レオニスは朝早くに起きてカタポレンの森の警邏に回り、その間にライトはイードへの手土産『魔物のお肉たっぷり激ウマ絶品スペシャルミートボールくん』を台所でいそいそと作っている。

本日のスペシャルミートボールくんはバレーボール大、これを二十個作りアイテムリュックに順次収納していく。

いつもより量が多いのは、ライトの新たな仲間である水神アープのアクアへの分も含まれているためだ。

アクアがスペシャルミートボールくんを喜んで食べるかどうかは不明だが、おそらくは雑食なので普通に食べてくれるだろう。もし万が一見向きもしなくても、それはそれでイードにあげれば喜んで食べてくれるから何の問題もない。

スペシャルミートボールくんの準備も終え、今度は二人分の朝食の準備をしているとレオニスが警邏から帰ってきた。

「ただいまー」

「おかえりー!朝御飯の支度もうほとんどできてるよー。先に珈琲でも飲んでてー」

「おう、ありがとうな」

ライトはレオニスの分の珈琲を先に淹れ、食堂テーブルの椅子に座ったレオニスの前に置く。

レオニスはライトの言葉に甘え、珈琲を一口二口啜り一息つきながら朝食を食べ始める。

「朝食食べ終えて少し休んだら目覚めの湖に行くか」

「うん!イード達へのお土産も用意できてるしね」

「イード達ってーと、ウィカにも手土産あんのか?」

「うん。前にラウルといっしょにウィカの好物?を試してみたことがあるんだけど、魚介類や海藻類なんかを好んで食べてたよー」

「そうなんか……お前ら、俺の知らないところでいろんなことして遊びまくってんのね……」

ライトが用意した朝食を、まくまくと食べながら会話する二人。

レオニスはウィカとの接触はあまりというかほとんどなく、オーガの里の襲撃事件当日に一度会っただけでそれ以降会ってはいない。むしろラウルの方が、八咫烏の里からの帰り道やツェリザークの往復時の黄泉路の池などで何度もウィカと会っていたりする。

くっそー、ラウルの方がウィカと仲良しとは一体どういうことだ……とレオニスがぐぬぬと歯軋りしている。

その横で、二人とも朝食を食べ終えた頃合いを見計らったライトが何やらもじもじしつつ話を切り出した。

「……あのね、レオ兄ちゃん。一昨日の湖水神殿の話なんだけどさ」

「ン? どうした?」

「そのことで実はもう一つ、レオ兄ちゃんに言っておかなきゃならないことがあってさ?」

「…………何だ?」

ライトの話し方に、何となーく嫌な予感がするレオニス。

イードとウィカの力添えによって既にライトが単身で湖底神殿を発見していた、と知らされただけでもレオニスにとってはかなりの衝撃だったというのに。まだ他にも言っておかなきゃならないことがあるというのだから、レオニスが身構えるのも無理もない。

「目覚めの湖の湖底神殿を見つけた時に、ウィカといっしょに中も散策してね? あ、イードは身体が大き過ぎて神殿に入れなかったんだけど」

「……おう、それで?」

「中に祭壇みたいなところがあって、そこにすっごく大きな卵が置いてあってね?」

「……卵?」

「うん。その卵に近づいたらね? ちょうど孵化する寸前だったようでぇー……」

「…………」

「卵の中から水竜が生まれたんだ!」

「……………………」

レオニスの反応を伺いつつ、最後は満面の笑みで締め括られたライトの告白。それを聞き終えたレオニスの方は、白目を剥いたまま石のように固まり微動だにしない。

ペカーッ☆と輝かんばかりの笑顔のライトと白化したレオニス、二人の時間がしばし止まる。

そこから三十秒ほど経過しただろうか、レオニスが「……プハァッ!」という声とともに呼吸を再開した。

どうやら驚きのあまり、思考回路とともに呼吸すら完全に停止してしまっていたようだ。

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……お、おま……ちょ……ちょっと待て……湖底神殿の、祭壇の、卵から……水竜が生まれた?」

「うん、孵化する時にちょうど立ち会っちゃったみたいなんだよね」

「そ、それじゃお前……もしかしてその水竜に、親認定されてるってことか……?」

「ンー……多分そうなる、のかな?」

ライトの答えに、レオニスはぐったりしながら食堂のテーブルに突っ伏した。もはや魂が半分抜けかけているんじゃないかと思われるくらいの有り様である。

朝っぱらからライトの衝撃の告白で疲弊するレオニス。傍から見ればご愁傷さま、としか言いようがない。

だがライトとしては、どうしてもこのタイミングでアクアのことを告白しておかねばならなかった。

そう、目覚めの湖に行けば当然イードやウィカとともにアクアもライトのもとにお出迎えに出てくる。

その時にレオニスを驚愕させ過ぎては不味い、とライトは考えたのだ。

ただ単に驚愕するだけならいいが、レオニスは現役最強の金剛級冒険者だ。見知らぬ魔物らしき生物が突然目の前に現れたら、反射的に攻撃に出てしまうかもしれない。

そうした突発的な衝突だけは何としても避けたかった。だからこそ目覚めの湖に出かける前、今このタイミングでカミングアウトするしかなかったのだ。

ただし、孵化した時に聖なる餅を餌として与えたなどの経緯やアクアが水神アープであることは伏せている。

何故ならそれらの情報は、BCO由来の知識が深く関連していたからである。

例えばもしアクアが水神アープであることを最初から明かせば『何故そんなことを知っている?』と問い詰められかねない。

まさか『詳細鑑定スキル持ってまーす☆』とは口が裂けても言えないし、他に誤魔化せそうな上手い説明のしようもない。

故にその正体には言及せず、見た目だけで判断できる『水竜』と話したのである。

一昨日ライトはレオニスと『大きな隠し事は無しな?』という約束を交わしはした。ライトのその気持ちに嘘偽りはない。

だが、さすがにBCOに繋がることだけは隠し通さねばならなかった。明かしたところで理解してもらえる保証などどこにもないし、ライトにしか使えないシステムなど実在の証明のしようもないのだから。

これからも、BCOにまつわることはずっと隠していかなきゃならない。でも、絶対に隠さなきゃならない部分だけは隠して、話せる部分はどんどんレオ兄に話していくべきだ。

アクアのことだってそうだ。湖底神殿を見つけたことや、卵が孵化して水竜が生まれたという部分だけなら、レオ兄に話そうと思えばその日のうちに話すこともできたんだ。

それをしなかったのは自分の過ちだ。レオ兄に余計な心配をかけないためにも、これからは話せるところは話していこう。

そんなことをライトが悶々と考えているうちに、ぐったりしていたレオニスがヘロヘロになりながらも何とか起き上がってきた。

「……はぁぁぁぁ……ライト、お前って子は本当に……朝っぱらから心臓に悪いことばかり教えてくれるね……」

「えーと……報告が遅くなっちゃって、ごめんなさい……」

「いや、起きてしまったことはもういい。それに、その水竜?はお前に懐いているんだろ?」

「うん。もう『アクア』って名前も付けてね、とっても可愛い子だよ!」

「名付けまで済んでんのか……」

テーブルに肘をつき、両手で目と額を覆いながら思いっきり項垂れるレオニス。

しかし、驚かされることばかりとはいえその水竜がライトに懐いているというならまだマシだ。レオニスとしてはそう考える他ない。

「とりあえず目覚めの湖に行ったら、アクアと名付けたその水竜を俺にも紹介してくれ」

「もちろん!」

「……で? 目覚めの湖関連で他にもう隠し事はないな?」

「う、うん!もちろんだよ!」

「…………」

思わず言葉に詰まるライトを、レオニスはじっとりとした疑いの眼差しで見てくる。

実際アクアに関してはまだ伏せていることもいくつかあるが、ライトとしてもそれを今ここで明かす訳にはいかない。

だが、レオニスの方も衝撃の連続で疲れてきたのかそれ以上追及してはこなかった。

「……ま、いいだろう。もう少ししたら出かけるぞ」

「うん、分かった!」

はぁぁぁぁ……と大きなため息をつきながら、のっそりと動き出すレオニス。

俺もカイ姉達やシスターマイラから散々散々やんちゃ坊主扱いされてきたが、当時俺を見守ってくれていた皆も今の俺のような気分だったんだろうか……カイ姉、セイ姉、メイ、シスターマイラ、正直すまんかった。俺、これから今まで以上に皆に恩返ししていかないとな……

レオニスはそんなことをふつふつと考えながら、告白が済んでスッキリ晴れやかなライトを眺めつつ己が過去の所業を振り返る。

こうしてライトのアクアに関するカミングアウトは無事成功したのだった。