軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第415話 神樹の枝のアクセサリー

冒険者ギルド総本部でマスターパレンに報告を終えたレオニス。次に向かった先はアイギスである。

今日は日曜日なので、客が結構入っているかも……と思いつつ、レオニスが店の外からそっと中を伺う。やはりレオニスの予想通り何組かの客がいるようだ。

接客担当のメイだけでなく、セイも貴族相手に接客しているのが見える。今日のアイギスはかなり忙しそうだ。

「んー、表側の客商売の邪魔しちゃ悪いな……裏口に回るか」

中の様子を見たレオニスは、アイギスの裏口に向かう。

裏口からは住居の母屋と作業場に行けるようになっている。

普段はキニシナイ!大魔神のレオニスだが、さすがに貴族然としたアイギスの客達の中に冒険者然とした自分が乱入することを良しとするほど間抜けでもない。

いや、レオニスが普段知らない場所ならそれも平然としてのけただろう。だがここはアイギス。レオニスが姉と慕うカイ、セイ、メイの三姉妹が経営する店。

彼女達の迷惑になりそうなことは極力避けたかった。

そうして回った裏口から入れる作業場では、カイが一人で作業をしていた。

「よう、カイ姉」

「……あら、レオちゃん、いらっしゃい。裏口から来るなんて珍しいわね、どうしたの?」

「いや、店の方は客がいっぱいいるようだからこっちの方に回ったんだ」

「まぁ、そうなの? ……気を遣わせちゃったわね」

「ああ、気にしないでくれ」

カイが作業の手を止めてレオニスのもとに向かう。

「今セイもメイもお店の方に出てるの。私で良ければ奥の部屋でお話しましょう」

「カイ姉も仕事中だろうに、邪魔してすまんな」

「そんなこと気にしなくていいのよ、ちょうど休憩時間になるところだし」

カイは作業用エプロンを脱ぎながら、レオニスとともに来客用の部屋に移動した。

扉に『使用中』の札がかかっていないことをカイが確認し、改めて『使用中』の札をかけてから客間に入る。

「今お茶を淹れてくるから、ちょっと待っててね」

「カイ姉こそ気を遣わんでくれ、俺は別にお茶なんて出してもらわなくても平気だし」

「ダーメ。姉さんだって休憩時間にお茶くらい飲みたいんだから。レオちゃんはそこでおとなしく待ってること、いいわね?」

「はい……」

「よろしい。じゃ、すぐ戻ってくるからね」

お茶を淹れるために、カイが一旦客間を出ていく。

カイは相変わらずレオニスのことはレオちゃん呼びで、可愛い弟扱いのままだ。天下無双の最強冒険者であるレオニスをここまで子供扱いできるのは、サイサクス世界広しと言えどアイギス三姉妹くらいであろう。

だが、子供扱いされるレオニスの方も別に悪い気はしない。

一度はカイからのレオちゃん呼びにちょっとだけ抵抗してみたものの、それもカイのしょんぼりとセイ、メイの強烈な圧により敢え無く撃沈した。

その時にカイからのレオちゃん呼びはもう諦めて、一生受け入れることにしたレオニス。そう明確に決めたら後は気も楽になり、むしろ金剛級冒険者となった自分を今でも実の弟のように可愛がってくれるカイ達の存在がありがたく思えるようになった。

親兄弟には恵まれなかった、孤児院育ちの天涯孤独のレオニス。そんな彼でも、孤児院仲間であるカイ、セイ、メイ、そして今は亡きグランやレミ、その忘れ形見であるライト。

今ではたくさんの家族に囲まれていることを、レオニスはカイにレオちゃんと呼ばれる度にしみじみと噛みしめるのだ。

あー、カイ姉達には本当にいつも心配ばかりかけてるしなぁ……セイ姉の言うように、今度姉孝行として何かしてやらなくちゃな。そしたらどこか旅行でも連れてってやろうかな?

でもなー、カイ姉達は仕事大好き人間だもんなー、アイギスの店を閉めて何日も店から離れるとか絶対に無理!とか言いそうだ。

んー、そしたら旅行以外なら何がいいだろう。ドレスや宝飾品……はカイ姉達の本業だから、本職相手にそんなもんプレゼントできんし……そうなると、食い物?

そしたら今度ラウルにスペシャルスイーツでも作ってもらうか……って、完全に他力本願だけどな!

そんなことをつらつらと考えていると、カイがお茶を乗せたワゴンとともに客間に戻ってきた。

「レオちゃん、お待たせ。バレンタインデーにはちょっと早いけど、姉さんからレオちゃんへの家族チョコはこのチョコレートケーキね」

「お、美味そうなチョコレートケーキだな。いつもありがとう」

「うふふ。レオちゃんほどの人ともなれば、それこそいろんな人からたくさんのチョコレートをもらうでしょうけどね」

「ハハハ……そんなことを言ってくれるのはカイ姉だけさ……」

力無く笑うレオニスに、カイが不思議そうな顔で「あら、そうなの?」と問い返す。

その後も「うん、そうなんだ……」「まぁ、不思議ねぇ、どうしてかしら?」「うん、それは俺が聞きたい……」「姉さんから見たら、レオちゃんはとっても格好良いのに」「そう思うのはカイ姉だけかもな……ハハハ」などと、それはもうレオニスが萎れる一方ののんびりとした会話が続く。

レオニスの項垂れ具合がズンドコ酷くなるのを見て、さすがにカイもマズいと思ったのか少し慌てたように話題を変える。

「え、えーと……そういえばレオちゃん、本日のご用件は何かしら?」

「……ン? あ、ああ、前に頼んだ神樹の枝のアクセはどうなったかな、と思ってさ。様子を見に来たんだ」

「ああ、あの神樹の枝ね!ちょっと待っててね、出来上がった品を今持ってくるわ!」

レオニスの用件を聞き、カイがパァッ!と明るい顔になる。

カイは品物を持ってくるために急いで客間を出ていき、そして間を置かずに戻ってきた。

「ハァ、ハァ、レオちゃん、お待たせ。どんなのが気に入ってくれるか分からないから、思いつくままにいくつか作ってみたんだけど。見てくれる?」

「カイ姉、そんな走って取りに行かなくてもいいのに……でも、ありがとう。早速見せてもらうことにするよ」

カイが持ってきた籠の中にあったアクセサリー類を、レオニスが一つ一つ丁寧に取り出ししながら眺めていく。

「これはそのまま腕に通すバングルか……シンプルだけどとても良いな」

「タイピンにカフスボタン、どんな服装にも装備できて使いやすそうだ」

「これは滴型のペンダントか……金属製のチェーンじゃないな。カイ姉、これは何でできている紐なんだ?」

次々と手に取ってじっくりと眺めては、どれも素敵だと絶賛するレオニス。

ペンダントを通している紐の種類が分からなかったので、素直にカイに質問する。

「それはね、アースタランテラの糸を縒って作った紐なの。いわゆる蜘蛛の糸だからとても丈夫だし、それを十本で縒った糸をさらに何度も縒ってから編み込んで紐状にしてあるの。だから多少の剣で斬りつけられてもびくともしないくらいに頑丈で、しかもアースタランテラは地属性の魔物だから火や水にも強いの」

「そんなすごいものを、わざわざこれのために作ってくれたのか?」

「基本的に木は金属を嫌うものなのよ。神樹の枝という最上級の素材ですもの、相性の悪いものを組み合わせる訳にはいかないわ」

「そうか……そこまで考えてくれたんだな。いつもありがとう」

カイの解説を聞き、心から感謝するとともに深く頭を下げるレオニス。

そんな素直なレオニスの姿を、カイは微笑みながら見つめる。

「うふふ、いいのよ。私もこんな素敵な素材で物作りができて、とても楽しかったもの」

「そう言ってもらえると助かる」

「それにね、ほら、見て。これ、可愛いでしょう?」

カイが立ち上がりながら客間の中にある飾り棚に向かう。

そこから一つのアイテムを持ってきて、レオニスに見せる。カイの両手にすっぽりと収まったそのアイテムとは、幻獣カーバンクルの彫刻だった。

「これは……フォルか? 可愛いな」

「でしょう? フォルちゃんや飼い主のライト君に許可を取らずに彫っちゃったけど、どうしても作りたくなっちゃって……」

「別に許可はいらんと思うぞ? それどころかライトもこれを見たら喜ぶと思うけどな」

「そうかしら?」

「試しにマキシに見せてみ、絶対に絶叫しながら大絶賛すると思うぞ」

カイの話によると、このフォルの彫り物は昨日出来上がったばかりだという。

カイの他にもセイは小鳥の置き物を作ったり、メイは扇子の骨に神樹の枝を使いふわふわゴージャスな婦人用の扇子を作ったりしているらしい。

「いろんな物を作って楽しんでくれてるようで何よりだ」

「それもこれも、こんな素晴らしい素材を持ってきてくれたレオちゃんのおかげよ。いつもありがとうね」

カイがにっこりと微笑みながら、レオニスに礼を言う。

そんなカイの優しさに、レオニスは戸惑うばかりだ。

「いや、そんな……俺の方こそ、いつもカイ姉達には心配をかけるばかりで……本当にすまないと思ってる」

「あら、そんなの今更でしょう? レオちゃんが皆に心配させるのなんて、それこそ孤児院時代の頃からじゃない」

「うぐッ」

レオニスの謝罪の言葉に、カイはきょとんとしながら追い打ちをかける。

そんなことないわよー、などという否定の言葉をカイからもらえるとはレオニスも思ってはいない。だが、孤児院時代の小さな頃のことまで持ち出されて追撃されるとは、夢にも思っていなかった。

「レオちゃんは昔っからやんちゃ坊主だったし。冒険者になった今でもやんちゃ坊主のままなんですもの」

「そ、それは……俺だって、昔よりは少しはマシに……」

「なってないわよ?」

「ぐぬぬぬぬ……」

もともとカイには頭の上がらないレオニス、今でも心配をかけている自覚はあるだけに反論のしようがなく言葉に詰まる。

だが、そんなレオニスを見ながらカイはいつもの優しい笑顔を浮かべる。

「だって、レオちゃんは昔も今もずっと変わらないもの」

「……?」

「強くて、優しくて、皆を守ってくれるやんちゃ坊主な英雄。それがレオちゃんだもの」

「!!」

カイの言葉に、凹んで俯き気味だったレオニスが思わず顔を上げた。

カイが語った英雄像―――それはレオニスがかつてその背を追い、常に目指した憧れの人グランの姿そのものだった。

俺はグラン兄のような、立派な男になれているんだろうか?

冒険者階級こそグラン兄を追い越すことはできたが、人としての大きさはまだまだグラン兄に及ばない―――

そんなレオニスの考えを見透かすかのように、カイがレオニスに言葉をかける。

「レオちゃんは本当に、グラン君に似てるわよねぇ。貴方達、本当は実の兄弟なんじゃないの?って何度も思ったわ」

「そ、そうか……?」

「ええ。見た目じゃなくて性格とか、そう―――魂がそっくりとでも言うのかしら? 孤児院の皆や大事なもののために戦う姿は、二人とも本当にそっくりよ」

カイの言葉に、レオニスもじわじわと嬉しくなってくる。

己が憧れた人とそっくりと言われて、悪い気などするはずもない。

だが、そんなレオニスにカイは一つだけ注文をつけた。

「でもね、レオちゃん。レオちゃんがグラン君のこと大好きなのは私もよく知ってるけど。命の短さまで真似しちゃ駄目よ?」

「……!!」

「レオちゃんにはね、グラン君がしたくてもできなかった『長生き』という偉業を成してもらわなくちゃ」

「……ああ」

「そのためなら姉さんはいくらでもレオちゃん用にアクセサリーを作り続けるわ。黒水晶のアクセサリーもまた新しいのを作ってる最中だし、この神樹の枝のアクセサリーもそう。きっと神樹がレオちゃんを守ってくれる、そう信じてる」

カイが思いの丈をレオニスに語って聞かせる。

カイはいつもレオニスに『レオちゃんは長生きしてね』と言い続けている。ともすればそれは耳にタコができそうではあるが、それでもこうして時々カイの願いとして言い聞かせなければレオニスは簡単に無茶をしてしまうのだ。

レオニスもそれが分かっているからこそ、己への戒めとしてカイの願いの言葉を素直に受け入れるのだ。

「……そうだな。作ってもらったアクセサリーに神樹ユグドラツィの分体を入れてもらって、御守りにしなきゃな」

「私は直接神樹のもとに出向けないけど、神樹ユグドラツィによろしくお伝えしといてね」

「ああ、ちゃんと伝えておくよ」

カイに作ってもらったアクセサリー全てを受け取ったレオニスは、大事そうに空間魔法陣に仕舞い込んだ。

その後レオニスは改めてカイに向かって話しかける。

「そしたらカイ姉、このカーバンクルの置き物も預かっていいか?」

「ええ、それは別にいいけど……レオちゃん、この置き物が気に入って欲しくなったの? もう一つ同じものを作りましょうか?」

「いや、カイ姉の渾身作をもらう訳にはいかん。ただ、あまりにも可愛らしいから是非とも神樹のツィちゃんにも見せてやりたいんだ」

「……ツィちゃん?」

カイがレオニスの口にした『ツィちゃん』という愛称に、不思議そうな顔をする。

確かに神樹相手にちゃん付けで呼ぶなど、誰も考えもしないだろう。それどころか、人によっては罰当たりにしか聞こえないかもしれない。

「でもって、この置き物にも神樹の祝福をつけてもらえないかツィちゃんに頼みたいし。このカーバンクルの置き物がカイ姉達とアイギスの御守りにならないかな、と思ってさ」

「アイギスの御守り……それはいいわね、もしそうなったらとても素敵なことね!」

レオニスの意図するところをカイも理解し、パァッ!と明るい顔になり喜ぶ。

飾りとしても十分可愛いフォルの置き物に、さらに神樹の祝福がついて店の御守りになるならばこれほど嬉しいことはない。

「ああ、だからこの木彫りのフォルを少しだけ俺に預からせてくれ」

「分かったわ」

「近いうちにまたここに来るからよろしくな」

「ええ、レオちゃんも気をつけてお出かけしてね」

こうしてレオニスは神樹の枝で作ったアクセサリーを手に入れたのだった。