軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第413話 確たる断言

―――君がここに来る度に、私は私の知る真実を君に伝えよう―――

ライトが初めてヴァレリアに会った時に言われた言葉が、ライトの頭の中で木霊する。

ヴァレリアは、その言動からライトが知るBCOの知識とはまた違った知識を持っているようだ。

彼女はどんなことを知っているのだろう。このサイサクス世界の真実とは一体―――

ライトは言葉に詰まりながら逡巡していると、ヴァレリアが微笑みながら口を開いた。

「何、もしかして聞きたいこと一つもないとか言う?」

「……あッ、いいえ!決してそんなことは……!」

「じゃあ、聞きたいことあり過ぎて選べない感じ?」

「……はい、そんな感じです……」

ヴァレリアに図星を指された格好のライトは、俯きながら照れ臭そうに返事をする。

そんなライトを見たヴァレリアは、笑顔のままライトに話しかけた。

「別に今すぐじゃなくてもいいよ? 次回に繰り越してもいいし。二つ目の四次職マスターの時に、二回分をまとめて聞くとかでも全然OKだよ」

「……いえ、せっかくならここで聞いておきたいです」

「いいのかい? 無理して急ぐこともないんだよ?」

「……次にヴァレリアさんに会えるのだって、何ヶ月も先のことになるでしょうし」

ライトは今日、ミーアの助言とヴァレリアの尽力のおかげでいつでも転職神殿に移動できる手段を得た。

これにより、ライトは念願の転職マラソンを行うことができるようになった。通称『転マラ』に励めば、今までよりも職業習熟度上げが格段に早く進められ捗ることだろう。

だがそれでも、限られたSPで日々コツコツと地道に修練を積み重ねなければならない。そして職業の頂点たる四次職は、一朝一夕で到達できるほど容易いものではないことに変わりはなかった。

「……そっか。じゃあ何が聞きたい? あッ、質問は一回会う毎に一つまでだからね?」

「はい。じゃあ、お聞きします。ぼくが尋ねたいのは―――」

ライトの心臓は、これまでにないほど高鳴る。

胸の中でバクバクと鳴り響き、何ならもう外にまで聞こえそうなくらいに激しく鼓動し続ける。

あまりの緊張に頬は上気し、額には汗がうっすらと滲む。

ライトは逸る気持ちを抑えるように、大きく息を吸ってゆっくりと吐き出す。

深呼吸で息を整えてから、改めて顔を上げてヴァレリアの顔を真っ直ぐに見つめながら言葉を発した。

「この世界は、サイサクスという企業が作り上げたBCO―――ブレイブクライムオンラインというゲームの世界、ですよね?」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライトの質問を聞いたヴァレリアは、無言のままライトを見つめている。目は少しだけ見開かれ、驚いているようにも見える。

彼女のその表情は一体どのような感情から来るものなのか。

ライトはドキドキしながら、ヴァレリアの回答を待つ。

そしてヴァレリアがようやく口にした言葉は―――

「答えはもちろん『Yes』だけど……え、何、一回目の質問が本当にそんなんでいいの?」

ヴァレリアは何とも意外というか、拍子抜けしたような顔をしていた。どうやらそんなことを聞かれるとは全く予想もしていなかったようだ。

だが、ヴァレリアにしてみれば意外なことであっても、ライトにとっては本当に真剣なことだった。

ヴァレリアからの回答を得たライトの目から、ほろりとひと粒の涙が零れ落ちる。

「……え!? ちょ、ままま待って、私何か下手打った!?」

『ヴァレリアさん……こんな小さな子供を泣かせるなんて……』

「イヤーーー!待って待ってミーア、それは誤解というものだよーーーッ!!」

ライトの涙を見たヴァレリアが心底慌てふためいている。

横で一連の流れを見ていたミーアにもほんのりと責められ、ヴァレリアは頭を抱えながら天を仰ぐ。

一方でミーアはライトの傍に寄り、そっと声をかけた。

『ライトさん、どうしたんですか? 何か悲しいことでも思い出したのですか?』

「……いえ、ごめんなさい。そうじゃなくて……」

一度出始めたら止まらない涙を、ライトは懸命に手でぐしぐしと拭いながらミーアに答えようとする。

「ここが、BCO……ゲームの世界、なんて……今まで誰にも、言えないし、聞くこと、もできなくて……」

「ぼく以外に、BCO、のことを、知っていそう、な人も全然、いなくて……」

「ぼくは、BCOを、よく知って、いるから、絶対にそうだ、と思っていても……ゲームと違う、ところも結構、あって……」

「だって、ジョブなんて、訳の分かんない、システムになっ、てて……職業のことも、誰も知らなくて……転職神殿だって、こんなボロボロ、にされてるし……」

「ずっと不安だっ、たけど……誰にも、聞くことが……できなかっ、たんです……」

止めどなく零れ落ちる涙とともに、ヒック、ヒック、と出続けるしゃっくりで言葉がつかえまくるライト。

それはまるで、今までずっと一人で抱え続けてきた不安が一気に溢れ出しているかのようだ。

そんなライトの姿を見たヴァレリアはライトの前に立ち、その小さな肩にそっと手を置きながら声をかける。

「……そっか、ごめんね。さっき君が聞いてきた質問、私にとっては当たり前のこと過ぎて拍子抜けしちゃったんだけど。君にとってはものすごく大事なことで、それを真っ先に確認したかったんだね」

「…………はい」

「そう、ここは君のような埒外の者が『ブレイブクライムオンライン』と呼ぶ世界だよ。君が言うように、大元のゲームと結構相違点もあるけどね。それでもここは、ブレイブクライムオンラインがベースとなっている世界。それが事実であることに何ら変わりはない」

「……!!」

ヴァレリアが改めて姿勢を正しつつ、ライトの質問を肯定した。

ライトの不安を一掃するかのようなヴァレリアの確たる断言。その言葉を聞き、ライトはまたも言葉を失う。

だが、ライトのその見開かれた目にはこれまでとは違う、力強い光が宿っていた。

ヴァレリアの言葉により、まさしくライトの不安は全て払拭されたのだ。

だがそうなると、今度は別の疑問が次々とライトの中に湧いてくる。

どうしてゲームと違う箇所がいくつもあるのか、しかも職業というゲームの根幹を成すシステムが何故全くの別物にすり替わっているのか、自分以外にもユーザーとしての記憶を持つ者はいるのか等々。

「だったらどうしてこの転職神殿は、こんなにボロボロに―――」

「おっと、そこまで。ここから先の質問はまた次回ね」

思わずライトが勢い込んで聞こうとしたが、ヴァレリアの立てた人差し指がライトの唇に当てられて遮られてしまう。

そう、確かにヴァレリアは『質問は一回会う毎に一つまで』と言っていた。

他愛もない世間話ならともかく、世界の真実に関わる重大な内容はそう簡単には教えてくれないようだ。

「四次職はまだ他に十一個もあるんだからね。そんなに慌てていろいろ聞いてもつまらないでしょ?」

「……はい」

「全職業マスターまでの道のりは長いんだからさ。元のシステムとの違いも含めて、それら全て丸ごと解明してやる!くらいの勢いで楽しまないと。それがゲーマー魂ってものさ」

ライトの性急さを揶揄うように、うふふ、と笑いながらヴァレリアは両腕を広げてくるりと身を翻す。

何とも掴みどころのないふわりとした言動だが、言われてみれば確かにそうだ、とライトも思う。

ヴァレリアと会って真実を問う機会は、少なくともこれから十一回はある。そしてゲーム世界の謎を自力で解明していく、これもまたゲームの楽しみ方であり醍醐味でもあるのだ。

前世で散々遊び倒した愛すべきソシャゲ、BCO世界にせっかく生まれついたのだからヴァレリアの言うように全身全霊で楽しまなければ!とライトは思いを新たにした。

「……分かりました。一日でも早くまたヴァレリアさんに会えるように、職業習熟度上げを頑張ります!」

「うんうん、その意気だよ。私もまた君という勇者と会える日を―――心から待っているからね」

ライトとヴァレリア、二人は静かに向かい合いながらまた次に会うことを約束する。

そんな二人を眺めながら、ミーアが名残惜しそうにおずおずとヴァレリアに話しかけた。

『ヴァレリアさん、もうお帰りになるのですか?』

「うん、ライト君への四次職マスターのご褒美もちゃんとあげられたしね」

『そうですか……』

「というか、瞬間移動用の魔法陣まで作っちゃってさー、今日のヴァレリアさんってすごーく太っ腹で、とーっても気前が良い超素敵な善人だよね? 君達もそうは思わないかい?」

「『思います!』」

ヴァレリアの言外に漂う『褒めて褒めて!』というおねだりオーラがダダ漏れの言葉。それは名残を惜しむミーアの寂しさを吹き飛ばすかのような道化た口調。

だがそれこそが、ヴァレリアなりのミーアに対する思い遣りなのだろう。

チラッ、チラッ、とこちらを伺うようなチラ見攻撃を受けたライトとミーアは、声を揃えて肯定しヴァレリアの褒めて!オーラに存分に応える。

二人の声の揃い方のあまりの一致ぶりに、三人はしばし互いの顔を見合う。

「…………ぷふッ」

誰からともなく漏れ出した笑い声は、瞬時に三人の爆笑を誘う。

一頻り笑い転げた三人、笑いが落ち着いてきた頃に初めて言葉を口にしたのはヴァレリアだった。

「さて、じゃあ私はそろそろ帰るよ。ライト君、ミーア、またね」

「ヴァレリアさん、今日は本当にありがとうございました!また近いうちにお会いしましょう!」

『ヴァレリアさんもお元気にお過ごしくださいね』

「ああ、二人とも元気でね!また会える日を楽しみにしているよ!」

ヴァレリアの言葉と同時に、一陣の強い風がライト達を包む。その風が止んだ頃には、ヴァレリアの姿はもう既に消えていた。