軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第403話 屍鬼将との死闘

金色の刺繍に縁取られた青黒い魔術師のローブを着た、骸骨と見紛うくらいに痩せこけた青黒い屍鬼。頭にはローブと同じく金の縁取りの青い王冠を被り、窪んだ双眸の眼窩からは赤く禍々しい光が輝く。

肩からは十数匹もの赤黒い蛇が翼のように生え、うねうねと蠢きながら前方にいるレオニス達を凝視している。

手には大きな赤い大鎌を持ち、少し 開(はだ) けたローブの合わさりから僅かに覗く空間に胴体はなく、深淵の如き漆黒の闇が広がり赤い核がその中央に微かに浮かぶ。

見る者全てに恐怖を抱かせる、禍々しい邪悪の化身―――屍鬼将ゾルディスである。

突如現れた最高位の屍鬼に、レオニスはライトを背に庇いつつ身構える。

警戒心を剥き出しにして対峙するレオニスだが、ゾルディスは悠然とした態度で別の方向に視線をやりながら言葉を発する。

『我が名を呼ぶ声がしたから来てみれば―――マードン、また貴様か』

『ピエッ……ゾゾゾゾルディスしゃまァ、お助けくらしゃいィィィィ!』

『貴様という奴は、一体どこまで間抜けなのだ……こうもあっさりと敵に捕まりおって』

『ももも申し訳ごじゃいましぇンンンン……』

地べたに転がるイモムシマードンを、汚物でも見るかのような侮蔑の視線で見下しながら見つめるゾルディス。

あまりにも恐ろしいその不機嫌オーラに、マードンはただただ縮こまりながら必死に謝罪するばかりだ。

そんな憐れなマードンをしばらく眺めていたゾルディスは、ふぅ、と小さくため息をつきながら両手に持った大鎌の刃をゆっくりともたげた。

『貴様にもまだ使い道はあると思い、これまで多少のことには目を瞑ってきたが―――こうも度重なる失態を犯すばかりの愚図に、最早我が配下を名乗る資格はない』

『……ッ!!そそそそンな……ゾルディスしゃまァ……』

『目障りだ―――失せよ』

『ピエェッ……!!』

ゾルディスは赤い大鎌を大きく振りかぶり、その凶刃を以てマードンの生命を刈り取ろうとした、その時。

何とレオニスが瞬時に前に駆け出し、ゾルディスの大鎌がマードンを仕留める寸前を大剣で防いだではないか。

レオニスとゾルディス、両者の得物が鍔迫り合い状態で膠着したまま双方睨み合う。

『貴様―――何の真似だ?』

「テメェこそ一体何の真似だ。こいつはテメェの側近中の側近なんだろうがよ?」

『使えぬ役立たずを始末して何が悪い? むしろその無駄な生を我が手にかかることで、華々しく散り終えることができるのだ。此奴にとってこれほどの栄誉はあるまい』

「……テメェがとんでもねぇ極悪上司だってのは、よーく分かった。少なくとも今この俺の目の前で、テメェの好き勝手にはさせん」

レオニスの大剣とゾルディスの大鎌が激しくぶつかり合い、ギャリギャリという耳障りな音を立てる。

特に部下の公開処刑を邪魔されたゾルディスは、それはもう不機嫌そうな声で苛立っていることがよく伝わってくる。

だが、レオニスも負けじと反論していた。

ゾルディスの視線が、レオニスの方にギロリ!と向けられる。

眼窩から発する不気味な赤い光が、レオニスを射抜かんばかりに凝視する。

『…… 其方(そのほう) 、オーガの里にても一度会うたな?』

「ああ。あの時は声を聞いただけで、実際に会うのはこれが初めてだがな」

『あの時は、我も多忙にて見逃してやったが―――一度ならず二度三度、尽く我の邪魔をするとあっては最早許すこと能わず』

「…………」

『その矮小な生命を以て償うべし』

ゾルディスが言葉を言い終わるや否や、その肩にゆらゆらと蠢いていた多数の蛇が一斉に伸びてレオニスに襲いかかってきた。

「ライト、後ろに離れてろ!」

「う、うん!」

レオニスがライトを戦闘に巻き込まないように、後ろに離れるように指示を出す。

ライトもその指示に従い、急いで走って後方に離れた。

レオニスとゾルディスの激しい剣戟が続く。

多方向から攻撃してくる蛇をレオニスは全て斬り伏せるが、斬ってしばらくすると切り口から再び蛇の頭が生えてきてまたレオニスに襲いかかる。この激しい攻防が数分の間に渡り繰り広げられた。

このままでは埒が明かん―――双方とも同じことを考えたのか、ほぼ同時に飛び退いて距離を取った。

レオニスとゾルディス、今にも火花が散りそうなくらいに壮絶な圧を伴う睨み合いが続く。

レオニスはまだ息も上がっていないし、ゾルディスもまた悠然と構えているが、このままではただの消耗戦になることが互いに分かりきっていた。

しばしの沈黙の後、先に言葉を発したのはゾルディスだった。

『……ふむ。下賤にして矮小なる人族の分際で、我とここまで渡り合えるとはの。驚嘆を禁じ得ぬ』

「はっ、テメェに感心されたところで嬉しくも何ともねぇな」

『フッ、剛毅なことよ。だが、その余裕———いつまで続けられるかな?』

言葉を言い終わるや否や、ゾルディスは再び数多の蛇を動かし鋭い攻撃を放つ。だがその矛先はレオニスではなく、そのずっと後ろ―――ライトを狙っていた。

そう、狡猾なゾルディスが敵の弱点を易々と見逃すはずがない。レオニスと正面切って戦闘するよりも、レオニスよりさらに脆弱な子供であるライトを付け狙うことで、ゾルディスはレオニスの油断を突こうとしているのだ。

そのことに瞬時に気づいたレオニス、それまで以上に素早い斬撃で次々と蛇を斬り落としていく。それでも蛇は怯むことなく胴体を伸ばし続け、徐々にライトに迫る。

斬り落とされた蛇の頭が再生せずとも、胴体だけでもライトを縛り上げて捕縛することはできる。そうしてライトを人質に取られたら、レオニスは文字通り手も足も出せなくなることは明白だ。

ゾルディスの真の狙いに気づいたレオニスは、懸命に蛇を斬り落とし続ける。だが、レオニスはゾルディス本体からの大鎌による襲撃も同時に受けていた。

ゾルディスからの攻撃を受けながら、十数匹の蛇を同時に斬り落とし続けるのは限界があった。

「ライト!奥に走れ!こいつの蛇が届かないくらい遠くに逃げるんだ!」

「……う、うん!」

『そうはさせん』

レオニスがライトに向かって叫び、離れたところからレオニスの戦いを見守っていたライトも動こうとした、その時。

ゾルディスの蛇がレオニスに先んじてその太さを瞬時に替え、より細い身となってライトに差し迫る。

攻撃力を重視した太く鈍重な姿を捨て、より俊敏性と機動性を高めるために細い蛇に変身させたのだ。

スピードを格段に上げた蛇の何匹かが、レオニスの脇を通り抜ける。その素早さはそれまでより倍以上の早さになっていた。

あとほんの数秒で、数多の蛇がライトを取り囲み捕まえると思われた、その瞬間―――

ライトのマントの隙間から、強烈な光が放たれた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『ぬうっ……何だ、この光は……っ……!』

ライトとはちょっとした距離があるゾルディス本体にまで、ライトの胸元から発する強烈な光が届く。

眩い光を浴びたゾルディスは、思わずたじろいだ。

もう少しでライトを捕まえられそうだった細い蛇は全て動きを止め、光に最も近い先端から黒ずんでボロボロと崩れ落ちていく。

先程までのように、すぐに再生することはできないようだ。

『これは…… 古(いにしえ) の遺失魔法【精霊の記憶】!』

『何故だ……貴様ら如き下賤の者が、何故そのような失われた秘法をっ……!?』

それまで常に泰然自若としていたゾルディスが、明らかに狼狽している。

突如起きた出来事に怯む敵、そこにできた大きな隙をレオニスもまた絶対に見逃さない。

背後からライトの強烈な光を受け、逆光状態でゾルディスに斬りかかった。

「おらァッ!!」

レオニスの初撃はゾルディスの持つ大鎌を弾き飛ばし、立て続けに閃光の如き斬撃を幾度も繰り出してゾルディスを切り刻んでいく。

レオニスの激しい斬撃を受け続けたゾルディスの身体が大きくよろめいたところで、レオニスの渾身の一撃が炸裂する。

「ハァァァァッ!」

レオニスの大剣から放たれた、縦横一閃の衝撃波。ゾルディスの身体の中央、青黒いローブの隙間から僅かに覗く赤い核の中心を見事なまでに十字に切り裂いた。

『グアアアアァァァァッッッ!!』

核を砕かれたゾルディスが、屍鬼の身体を保てずぐずぐずと崩れ落ちていく。十字に斬られたところから霧と化し、じわじわと消え逝くゾルディス。

それと同時に、ライトの胸元の光も徐々に薄くなっていく。

『そ、そんな馬鹿な……この我が、卑小なる人族如きに討たれるなど……あり得ぬ……』

『おのれ、忌々しき者共め……どこまで我等の邪魔をすれば気が済むのだ……』

顔の表情は分からないが、ゾルディスのその声には怨嗟の念がこれでもかというくらいに滲み出ている。

身体の半分以上が消え、もうすぐ全てが塵と化す寸前のゾルディスが憎々しげに言葉を吐き出す。

『クックック……せいぜい今のうちに、我が世の春を楽しむが良い。貴様等脆弱なる人族の生など、瞬きの如き短さよ』

『我等屍鬼こそ、いずれ不死に至り世を統べる至高の種族―――我は滅びぬ、何度でも蘇る。何百年後、何千年後であろうとも必ずや現世に復活し、その時こそ塵芥にも等しき人族を殲滅してくれようぞ』

『その時まで、首を洗って待つがよい―――もっともその頃には、貴様等など生きてはおらぬだろうがな』

『…………ハーッハッハッハッハ!!』

耳を 劈(つんざ) くような高笑いとともに、ゾルディスの身体が完全に消滅した。それと同時に、ライトの胸元から発していた光も完全に消えていた。

屍鬼将ゾルディスの断末魔の叫びは洞窟内に木霊し、長い時間響き渡り続けていた。