軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第388話 特別仕様のマント

二日後の金曜日。

この日レオニスは、二つの重要案件を抱えていた。

午前中のうちに森の警邏と魔石の回収を済ませ、ラグナロッツァの屋敷で昼食を摂った後に重要案件の一つ、アイギスに出向く。

「いらっしゃいませー。そろそろ来る頃だと思ってたわ、レオ」

「よう、メイ。頼んでおいたアレは出来上がったか?」

「ええ、もちろんよ。試着していく?」

「……ぃゃ、遠慮しとく」

レオニスを迎え入れたメイが、レオニスの顔を覗き込みつつ、ふふっ♪といたずらっぽく笑う。

今日レオニスがアイギスに来たのは、炎の洞窟調査用に注文しておいた防火耐熱仕様の装備品類を受け取るためだ。

それらの中には冷却性能を持つものもある。そんなものをこの真冬の最中に着込む物好きはおるまい。

レオニスもそこまで物好きではないので、メイのいたずらなお誘いをやんわりと断る。

「姉さん達は奥で作業中よ。あれはかなり特殊な品物だから、カイ姉さんが直接レオに説明するって言ってたわ」

「分かった、ありがとう」

レオニスはメイに礼を言うと、店の奥に入っていく。

作業場に行くと、いつものようにカイとセイが物作りをしている最中だった。

「よう、カイ姉、セイ姉。いつも仕事に精が出るな」

「……あら、レオちゃん。いらっしゃい」

「いらっしゃい、レオ。カイ姉さん、丁度いい時間だから私達も少し休憩しましょうか」

「ええ、そうしましょうか。レオちゃんも、ここじゃあれだから応接室の方に行きましょう。セイ、お茶の支度をしてきてくれる?」

「はーい」

二人は作業する手を止め、セイはお茶の準備をしに台所に向かいカイはレオニスを連れて先に応接室に向かう。

応接室にレオニスを招き入れた後、カイはレオニスに渡す品物を持ってくるために一度応接室を出てからすぐに戻ってきた。

カイの手には大きな篭があり、その中には何らかの衣装が入れられているのが見える。

「レオちゃんから頼まれた品、できてるわよ」

「ありがとう、カイ姉」

「アンダー類の試着はしなくてもいいけど、マントだけは一回羽織ってサイズを見ておいてもらいたいの。こっちに来てくれる?」

「分かった」

レオニスが席を立ち、応接室の広いスペースがある方にカイとともに移動する。

直立姿勢のレオニスの後ろにカイが立ち、その手に出来上がったマントを持ってレオニスの背中に当てて大きさを見ている。

そこからレオニスの前に移動し、再びマントを当てて大きさを確認するカイ。

「ジャケットのようなカッチリとした着衣じゃないから、サイズ的には大丈夫だと思うけど。一応袖を通してみてくれる?」

「了解」

レオニスはカイの手からマントを受け取ると、マントを開いてバサッ、と勢いよく背中に回して羽織る。

そのマントは赤茶色の革製で、見た目よりも結構ずっしりとした重さがあった。

袖口から手を出し、襟元についているボタンを留めるレオニス。最後にフードを深く被り、マントの試着が完了だ。

「レオちゃん、着た感じはどう?」

「ああ、ゆったりとしてて動きやすいし、何よりも袖口からちゃんと手が出せるのがすごく良いな」

「洞窟の調査なら、魔物と鉢合わせして戦うことも普通にあるでしょうからね。防火耐熱も大事だけど、レオちゃんの戦闘を邪魔しないように動きやすさも重視した形にしたのよ」

レオニスがその場で一回二回くるっと回ったり、腕を水平にしたり真っ直ぐ頭上まで上げたりして身体がどこまで動かせるかを確認している。大判でとてもゆったりとしていて、動きやすさを身を以て実感するレオニス。

その動きやすさ、取り回しの良さにレオニスはただただ感嘆するばかりだ。

そのマントは見た目は普通のポンチョの形をしているが、身頃の一部から手を出せるように袖口が左右に設けられている。単なるポンチョだと腕を振り回す動きが制限されてしまうが、これならレオニスも思う存分剣や拳を振るえるだろう。

着丈はレオニスの膝を隠すくらいの位置で、炎の洞窟の熱気から十分に身を守りつつ戦闘の邪魔にもならない。実に絶妙かつ理想的な丈の長さだ。

襟元のボタンを外し、内側に付けられた複数のポケットの位置や個数を確認するレオニス。これもレオニスが事前にオーダーしておいたもので、ここに氷の魔石や身代わりの実などの必需品を入れる予定だ。

一通り確認を終えた後、レオニスはマントを脱いで一旦カイに渡す。

「カイ姉、ありがとう。予想以上に素晴らしい出来栄えだ」

「満足してもらえたなら嬉しいわ」

「満足なんてもんじゃない、大満足さ!カイ姉の作る物はいつでも最高で、俺の望み以上のものをくれるんだからな」

「うふふ、レオちゃんにそう言ってもらえると姉さんも頑張って作った甲斐があったわ」

マントの出来に大満足のレオニスが、カイの腕を手放しで褒めちぎる。それを聞いたカイも、嬉しそうに微笑む。

「このマントの材質は何でできているんだ?」

「表地はインフェルノリザードの革、裏地は凍砕蟲糸の生地よ」

「つーか、これ、着ただけでは暑い寒いが全く変わらんが……何か特別な作りにでもなってんのか?」

「さすがレオちゃん、いいところに気づいたわね。そう、このマントには二つのポイントがあるのよ」

レオニスの質問に、カイがニコニコとした笑顔で答える。

「まず一つ目は、耐熱や防寒性能。マントに魔力を通すことで、それらの性能が発動する仕組みにしてあるの」

「ふーん、魔力を通さなければ普通のマントとしても使えるってことなんだな。……って、耐熱に、防寒??」

「そう。インフェルノリザードの革を表に着れば防火耐熱、凍砕蟲糸の生地側を表に着れば防寒具としても使えるの。いわゆるリバーシブルね」

「何ソレすげぇ!!」

カイのとっておきの秘策、それは一着で耐熱防寒どちらも使える、一粒で二度美味しい的なリバーシブル機能である。

寒暖の性能を有する二種類の生地を用いることにより、どちらの環境にも対処できる仕様を実現したのだ。

そしてそれらの生地は、直接合わせるとそれぞれの機能が相殺されてしまうので、革と生地の間に絶縁体機能を持つ薄手の生地をさらに挟んであるという念の入れようだ。

「そんな訳で、生地が三重で着丈も長めだから結構な重さになっちゃったけど。でも、レオちゃんならこれくらいは平気よね?」

「ああ、この程度の重さなら全然問題ないさ!それより、これなら炎の洞窟だけじゃなくてノーヴェ砂漠や氷の洞窟にも着ていけるってことだよな!」

「ええ、魔力を通さなければ普通のマントとしても着れるわよ。どう? 気に入ってくれた?」

「ああ、気に入ったなんてもんじゃないよ、カイ姉!こんなすげーもん、カイ姉にしか作れないよな!」

「うふふ、レオちゃんが全く新しい装備を作るのなんて、ものすごく久しぶりですもの。姉さんいつも以上に張り切って作っちゃったわよ?」

「ああ、本当にありがとう!」

予想以上の高性能つきマントに、レオニスが破顔しつつ重ねて礼を言う。

主目的である炎の洞窟や同じ灼熱地獄のノーヴェ砂漠はもとより、それらとは真逆の氷の洞窟でも使えると聞けばレオニスが大喜びするのも当然である。

「ライト君のマントも、レオちゃんのものと同じ仕様にしたわ。もちろんサイズは子供用だけど、その分重さもそこまでじゃないし。今のライト君の背丈よりは若干大きめに作ったから、数年は着れるでしょう」

「で、こっちは中に着るベストにアームカバーとネックカバー二枚。ライト君用の小さいサイズもそれぞれ作ってあるわ」

「リバーシブルにするために、付与魔法用のボタンや金属系部品はほとんどつけられなかったけど……そこは勘弁してね」

カイが篭の中にある他の品々を取り出しながら、それぞれ解説しつつ持ち帰り用の袋に丁寧に入れていく。

全ての品をいくつかの袋に入れ終え、カイがレオニスに全ての袋を差し出した。

「勘弁なんてとんでもない!付与魔法なんざ他にいくらでもつけられる方法あるんだから。そんなもんより、このリバーシブル機能の方がはるかに有益なんだ、カイ姉が謝る必要なんざどこにもないさ」

「そう言ってもらえると嬉しいわ」

炎の洞窟調査用の装備品の試着や受け渡しが一通りできたところで、応接室の扉が開いた。

お茶を用意していたセイが戻ってきたのだ。

「お待たせー。セイさん特製の美味しいお茶を淹れてきたわよー」

「お、セイ姉もありがとう」

「マントの試着とかはもう終わったの?」

「ああ、今回もすんげー素晴らしい装備を作ってもらえて助かるよ。本当にありがとう」

お茶をテーブルに置きながら、セイとレオニスが和やかに会話する。

「あ、遅くなったが、これ。ラウルからの差し入れ。ホールの苺のタルトな」

「まあ、ラウルさんの新作スイーツ!? これはありがたく受け取っちゃうわよ!」

「お、おう。遠慮なく受け取ってくれ」

「カイ姉さん、これは今晩のデザートとしていただきましょうねー♪ ……あ、レオの分は今出さなくてもいいわよね? レオならラウルさんのスイーツをいつでも食べれるんだし」

「も、もちろんだとも。是非ともアイギスの皆で食べてくれ」

「うふふ、ありがとーぅ♪」

セイがレオニスの出した苺のタルト入りの箱を、それはもう嬉しそうに腕の中に抱えながら再び応接室を出ていく。

一昨日のウォーベック家当主クラウスもそうだったが、ここ最近ラウルのスイーツが手土産としてとても大人気だ。そう、ラウルの料理の腕を知る者は誰もが皆その味に魅了されて大ファンになるのである。

おかげで最近、ライトやレオニスも手土産には事欠かない。実に良いことである。

「あらまぁ、セイってば……ごめんなさいね、レオちゃん。うちの中でラウルさんのスイーツが最も大好きなのが、セイなのよね……」

「ぃゃまぁ、カイ姉も気にしないでくれ。俺がいつでもラウルのスイーツ食べれるってのは本当のことだしな」

それはもうウッキウキでくるくると小躍りしながら去っていったセイを、呆然と眺めていたカイとレオニス。

カイが申し訳なさそうに謝るも、レオニスもさほど気にしてはいないのでカイには気にしないよう伝える。

レオニスも内心で「あー、こりゃラウルのスイーツの出番がまた増えるなー……材料費と給金上乗せしてやらなきゃな」と考えつつ、代金の支払いを終えてアイギスを後にした。