軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第382話 革新的な技術と普及

「小生の悩みも無事解決したことだし!さて、これから何する?魔法実験の見学でもしに行くー?」

「ぃゃ、俺ら魔術師ギルドの所属じゃねえし……その手のやつは部外者に見せていいもんじゃないと思うぞ?」

「そこはほら、レオちん魔法使えるじゃん? 冒険者ギルドだけじゃなくてさ、魔術師ギルドにも重複登録してくれていいのよ?」

「いや、俺は冒険者ギルド一本で十分だ」

「ちぇー、レオちんのケチぃー」

ピースがさり気なくレオニスに魔術師ギルド入りを勧めるが、レオニスは全く靡く気はない。

このサイサクス世界には様々なギルドがあるが、必ずしもどれか一つにしか所属してはいけない、という訳ではない。

例えばジョブが魔術師系統で冒険依頼をこなして金銭を稼ぎたければ、魔術師ギルドと冒険者ギルドの両方に所属することもできる。その逆もまた然り。

そこら辺は割と自由でその人が持つジョブを主軸にしていくことがほとんどだ。

ただし、どのギルドが本命の所属かは明確に示さねばならない。副業可でも本業がどれだか分からないというのは本末転倒である。

するとここで、ふとレオニスがとあることを思い出しピースに質問する。

「そういや何ヶ月か前に、空間魔法陣機能がついた袋?だかが発見されたって噂で聞いたが」

「ああ!我が師が天空島の遺跡で見つけたという、世紀の大発見のアレね!あれ、ホンットにすごい代物だよ!」

「今は魔術師ギルドで解析作業してんのか?」

「うん、あのアイテムバッグ……あ、アイテムバッグってのは我が師が命名したんだけどね? 今それを研究班総出で絶賛解析中なんだー」

かつてライトが提案し、レオニスが苦労して研究開発し、フェネセンが監修等手伝って作り上げたアイテムバッグ。

フェネセンがラグナロッツァを旅立った後、しばらくしてから遠い僻地で『天空島の遺跡で発見した出土品』として冒険者ギルドに提出した品だ。

レオニスの予想では、アイテムバッグは魔術師ギルドのもとで研究及び解析される、と見ていたが、その思惑通りの展開となっているようだ。

「で?そのアイテムバッグとやらの研究の方は進んでいるのか?」

「それがさー、聞いてくれるー? あのアイテムバッグ、確かに革新的なんだけどさぁ。術式が難し過ぎて解析がなかなか進まんのよー」

「そうなのか?」

「うん。最近ようやく術式の書き写しができるところまでは何とかこぎ着けたんだけど、そこから先の改良が 全然(じぇーじぇん) 進めらんないの」

ピースが眉間に皺を寄せ、何やら不満気な顔をする。

フッフーン、そりゃそうだろう、ありゃフェネセンからもお墨付きをもらった品だし。簡単に改竄できないように、そりゃもう超厳重にガッチガチな術式組んだからな!如何に魔術師ギルドであろうとも、そう易々と突破させんぞ?

レオニスが内心でほくそ笑んでいると、なおもピースの愚痴が続く。

「あれさぁ、術式組んだヤツは絶対に性格悪いね!多分盗用防止とか改竄阻止のためなんだろうけどさ? だからってあすこまで複雑怪奇な仕様にするとか、ホンット性格捻じ曲がり過ぎやろがえぃ!」

「……」

「あの捻くれ方、ホントにすんげーよ?レオちんも一度現物見てみる? アレね、マジキチ頭おかしいレベル。あんだけ捻くれた魔法陣展開するヤツの顔が見てみたいもんだよ、さぞかし意地悪な極悪面してるに違いないッ」

「…………」

「でもまぁね、天空島から出た遺跡出土品だからね、製作者の顔なんて拝んだところで骨だけどねッ!キャハハハ!」

「………………」

レオニスが内心でほくそ笑んでいられたのも束の間、ピースに頭おかしいだの性格捻じ曲がってるだのと散々こき下ろされまくる。

その製作者、貴様の目の前にいるぞヲィコラ?とは口が裂けても言えないレオニス、ひたすら我慢するが。心なしか頬が引き攣り、こめかみには血管がピキピキと浮いてきている気がする。

そうとは知らないピース、不詳の作者に向かってひたすら罵詈雑言を並べてはきゃらきゃらと笑う。

その 罵詈雑言(負け惜しみ) は、ひたすら眼前にいるレオニスにぶつけられているのだが。そんなことは知る由もないピース、完全に言いたい放題である。

そんな二人の様子を横で見ているライトは、たまったものではない。内心ハラハラしながら慌てたように話に入り込む。

「ぁ、ぇ、えーと、ピィちゃん? 術式の書き写しが既にできてるなら、まずはそれを商品化して世に出せばいいのでは?改良とかは、後からいくらでもできるし……」

「うん、そこはライっちの言うことも一理あるんだけどね? でもほら、そこは魔術師ギルドの面子というか威信を賭けて、何としてでも完全解明してから世に出したい!って気持ちもあんのよ」

「はぁ……」

ライトの懸命のアドバイスも、ピースには今ひとつ届かない。

確かに目の前に革新的かつ未知なる技術が現れたら、完全に解明したくなるのは研究者の 性(さが) だろう。

空間魔法陣という、善悪どちらにも使える諸刃の剣は間違いなく多大な影響を世に及ぼす。これをなるべく悪用されないために組んだ厳重な術式が、逆に魔術師達の研究者魂に火をつけた格好となっていた。

「でもぼく、アイテムバッグほしいなぁ。一日も早く買える日が来るといいんだけど……」

「そうだな。空間魔法陣なんて、今は俺やフェネセン、ピースといった極一部の者しか使えないが。ライトのような子供や普通の平民がアイテムバッグを持てるようになったら、さぞかし便利で役立つだろうになぁ」

「うん、空間魔法陣って使える人の方が少ないもんね。ぼくだってまだ使えないし、そもそも将来使えるかどうかも分かんないし」

ライトが如何にもしょぼんとした顔で呟き、レオニスもそれに呼応するように頷きながら肯定する。

ライト達はアイテムバッグの詳細を全く知らないことになっているので、その体でレオニスがピースに質問をする。

「なぁ、ピース。発見されたアイテムバッグってのが、どれだけの物を入れられるかは知らんが。出土品の現物にはどれくらいの量が入るんだ?」

「ンーとねぇ、そのままだとだいたい100リットルくらいかな」

「普通の鞄に100リットルも物が入るの!? すごいね!」

「一つの鞄にそんだけの量が入れば、日常生活レベルならかなり役立つんじゃないか?つーか、それよりもっと大量に入れられるようになると、今度は悪用されるリスクも跳ね上がるだろ」

ピースの回答にライトは驚いて見せて、レオニスは悪用リスクの懸念をピースに問う。

二人ともアイテムバッグの詳細は知っているのだが、全て初耳情報として聞いたフリをする。ライトとレオニス、双方なかなかに役者である。

「まぁねぇ、確かに容量を大きく拡げ過ぎると悪用への懸念も格段に大きくなるんだけどねぇ」

「だろう?あまり大容量のものが出回るのも良くないんじゃないか?そんなのを盗賊や戦争物資の運搬なんかに使われたら洒落にならんぞ?」

「そうだよねぇ……ホントは今の倍、200リットルくらい入るアイテムバッグを開発したくてさ。 目下(もっか) それを目指して日夜解析してるところなんだ」

「それは追々開発すればいいんじゃないか? まずは100リットルサイズの品を世に出して広めた方が、絶対に世の発展になって役に立つと思うぞ?」

「ンーーー……」

レオニスの説得力のある話に、ピースも真剣な顔で考え込む。実際レオニスの言うことは全て正論で、しかも世の発展に寄与するというのも決して大袈裟な言い分ではないことはピースも理解していた。

ピースの思い悩む様子を見たライトが、あと一息!とばかりにダメ押しの言葉を放つ。

「ぼく、100リットルのでもいいからアイテムバッグほしいな!ぼくが冒険者になったら、ポーションとかエーテルとか回復アイテムたくさん入れて、レオ兄ちゃんといっしょに冒険するんだ!」

「そうだな、アイテムバッグなんて物が買えるようになったらライトの願いも叶うな。とはいえ、最初のうちは100リットルのやつでもとんでもない値段になりそうだが」

「そしたら、冒険者になったら貯金して買うよ!いっぱい依頼こなして、いっぱい貯金して、いつかアイテムバッグ買うんだ!」

実際にアイテムバッグが何らかの形で売りに出されたら、その売値がいくらになるか想像もつかない。

だが、革新的な技術とは得てしてそういうものだ。最初のうちは何十万何百万と大金を積まねば手に入れられない。

しかし、人々が本当に必要とするものならどんなに高くても売れていき、流通量も増えていつしか世の中に受け入れられていく。需要面で考えても、アイテムバッグは絶対に売れるはずだ。

アイテムバッグを世に広く普及させるには、兎にも角にも魔術師ギルドが第一歩を踏み出さねば始まらないのだ。

最初のうちは小芝居だったつもりだが、その小芝居を続けているうちに本当にワクワクしてきたライト。その目はキラキラと輝き、冒険者になる未来に思いを馳せる顔は夢を追い求める少年そのものだ。

そんなライトの顔を見て、ピースも笑顔を浮かべながら決断する。

「……そうだね。出土品の術式をそのまま書き写しただけのものでも、アイテムバッグとしては十分役に立つよね」

「まずはラグナ大公に複製第一号を献上して、その後しばらくは高位貴族にも作れ寄越せと迫られるだろうけど。高位貴族相手なら、お高めの値段で買い取ってもらえばいいんだもんねーぃ!」

「で、その次は貴族相手にアホほど儲kゲフンゲフン、お買い上げいただけば魔術師ギルドの資金もがっぽり……ウヒョヒョ♪」

「高位貴族に一通り渡りきったら、その頃には値段も少しづつ落ち着いて、平民でもちょっと頑張れば買える程度の価格で出せるようになる、はず……」

最初のうちこそ世のため人のため、という空気だったが、何故か徐々に金銭要素が強くなっていき、終いにはピースの目に『G』の文字が浮かび上がりそうになっていく。

別にピースは守銭奴という訳ではないが、それでもこの革新的なアイテムバッグを売りに出すとなれば間違いなく莫大な利益を生むだろう。

魔術師ギルドの利益となり、潤沢な資金確保ができるとなれば目がGの字になっても致し方ない。

「……よし、決めた!これからすぐにラグナ大公への献上品を作り上げて、近日中にアイテムバッグを正式に販売するよ!」

「ピィちゃん、本当!?」

「うん!最初のうちは王侯貴族向けの超高額品になると思うけど、まずはそこを通過しないことには皆の手に渡らないからね!」

「いつ頃ぼくやレオ兄ちゃんが買えるようになるの?」

「ンー、そうだなぁ……一個一個全部手作りだし、素材の調達問題とかもあるからそんなにすぐには出回らないだろうけど……一年後くらいには平民の富裕層が買えるようになるんじゃないかな?」

ピースの見立てでは、一年後あたりには裕福な平民が買えるようになるだろうという。

そこからさらに先、一人一個持てるような時代が来るまでにはまだまだ長い年月がかかるだろう。だが、平民でも頑張れば手の届く範囲になれば、ライトも人前で堂々とアイテムバッグが使えるようになる。何故ならライトもまたレオニスという、立派な富裕層の庇護下にあるのだから。

「そしたらぼくが十歳になって冒険者登録ができる頃には、アイテムバッグも普通にお店で買えるようになってるかなぁ?」

「そうだね、ライっちの冒険者登録祝いでレオちんに買ってもらえるんじゃない?」

「おう、100万Gくらいならいつでも買ってやれるぞ」

「レオちん、それ絶対に平民用価格じゃないよ?」

「何言ってんだ、ピース!ライトの冒険者登録のお祝いだぞ?そんな目出度い節目の時だ、それくらい出したって罰は当たらんだろ!」

将来ライトが十歳になって真っ先に冒険者登録した時のことを、今から喧々諤々で話すレオニスとピース。一年以上も先の話を今から真剣に語るレオニス、久しぶりに兄バカ激甘モード突入である。

ライトが自分と同じ冒険者の世界に入り、同じ土俵に立てる―――レオニスにとって、これほど喜ばしいことはない。

レオニスが今も敬愛してやまないグラン。グランとともに冒険者として過ごした日々は短かったが、今度はグランの血を引くライトが自分の背を追うようにして冒険者の世界に飛び込んでくるのだ。

ライトがレオニスを追い求めて走るその姿は、かつてレオニスがグランの背を目指し追いかけた姿そのものだった。

「ンー、まぁね? レオちんがライっちに甘々なのは、師匠からも聞いて知ってたけどね? ま、とりあえずアイテムバッグの値段は、おそらくこの先どんなに安くなっても10万Gを割ることはないと思うよー」

「ん? そうなのか? ……思ったより安くならんな、何か問題でもあんのか?」

「うん、アイテムバッグの主動力が魔石なのよ」

「「…………あ」」

そういやそうだったっけ、とライトとレオニスが内心で思い出す。

アイテムバッグは『高い魔力持ちでなくても、誰でも持てるように』というコンセプトで作られている。そのため魔法陣の主動力を魔石にして、その補助に太陽光で魔力チャージできる仕様にしてある。そしてこの魔石自体が、実はかなり高価なアイテムなのだ。

「魔石ってさー、ものすごぉーくお高いんだよねぇー。……はぁー、魔石がもっと安く手に入ればさー、アイテムバッグも安くできるんだけどぉーーー」(チラッ

「……」

「あー、どこかに良質の魔石を安く売ってくれる人、いないかなぁーーー」(チラッ、チラッ

「…………」

ピースが大きなため息をつきつつ、レオニスの顔をずっとチラッチラッと見続ける。そのあからさまな視線を隠そうともしないピースのあざとさたるや、いっそ清々しい程である。

「……分かった。アイテムバッグを用途とする分に限り、魔石を格安で定期的に卸そう」

「ホント!?レオちん、ありがッとーーーぅ!」

「その代わり、アイテムバッグ以外のことに使うなよ? あくまでもアイテムバッグ普及のための助力として提供するんだからな?」

「うんうん、分ぁーかってるってぇー!このピィちゃん、我が名に誓って決して嘘はつかぬ!小生を信用してくれたまいッ!」

魔石交渉で見事レオニスから好条件を引き出したピース、嬉しそうに飛び上がりつつ胸を張りながら己を信頼しろと言う。

無論レオニスとてピースを信用しない訳ではない。フェネセンが弟子と認めた人物だ、信を置くに値する人物であることは間違いない。

ライトとレオニスの魔術師ギルド訪問により、アイテムバッグの普及が大きく前進した日だった。