軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第355話 踊り子達のパレード

孤児院を出る頃には、外はもう日が暮れかけてきていた。

レオニスの休日は日暮れまで。そろそろ今日の夜勤に向かわなければならない。

「さ、じゃあライト達は家に帰りな。俺はこのまま冒険者ギルドに向かうわ」

「そっかぁ、レオ兄ちゃんはもうお仕事に行くんだね……晩御飯はどうするの?」

「どこか途中の屋台で適当に何か買ってくわ」

「……じゃあ、ぼくも冒険者ギルドまでついてっていい?」

「お、何だ、ギルドまでお見送りしてくれるのか?」

「うん。屋台でレオ兄ちゃんと同じもの買って、家帰ってラウル達と食べるから」

「そうか、んじゃ冒険者ギルドまでいっしょに行くか」

四人は冒険者ギルドに向かう道すがら、串焼やタコ焼きなどを買っていく。

串焼十本にタコ焼き五舟、お好み焼き十枚等々、レオニスの購入する量が一人前分の食事にしてはかなりおかしいが、他の冒険者達といっしょに食べるのだろう。……多分。

ラウルも今晩の食事分として、レオニスと同じものを適当に買っては空間魔法陣に収納していく。

そうしていくつか買っていくうちに、冒険者ギルドの建物に着いた。

「さ、俺の二日目の祭りは終わりだ。これからまた仕事しなきゃな」

「うん……レオ兄ちゃん、お仕事頑張ってね」

「ライト達も気をつけて帰れよ。ラウル、帰り道の護衛をしっかり頼むぞ」

「おう、任せとけ」

いつもなら聞き分けのいいライトだが、今日はどことなくぎこちない。やはり賑やかな祭りの後は寂しさも一入なのか、まだ帰りたくないようだ。

レオニスは俯くライトの前にしゃがみ込んで、ライトの頭をくしゃくしゃと撫でながら小さく微笑む。

「今日の祭りは楽しかったな。俺もこうして生誕祭を一日ゆっくり見て回るなんて初めてだったから、すんげー新鮮で面白かったぜ。これもライトのおかげだな。俺一人じゃ祭りに出かけようとすら思わんからな」

「うん……また来年もいっしょに行こうね?」

「ああ、そのためにまた冒険者ギルドでの仕事も頑張るさ。そして来年もちゃんと休みを取って皆で祭りに行こうな」

「……うん!」

冒険者ギルドの建物の前で、ライト達が家路に向かう背中を見送ったレオニス。その背中が見えなくなってから、建物の中に入っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

翌日朝、生誕祭三日目。

今日はアクシーディア公国生誕祭最終日である。

ライトも普段通りの時間に起きて、ラウルやマキシとともに朝食を摂る。

「ぼくは今日は午後三時に、学園の友達と観に行く公演があるけど。ラウルやマキシ君は今日はどうする?」

「んー、そうだなぁ……買い物はもう散々したし、後はのんびりと屋台や露店を見て回るくらいか」

「あ、お昼に市場の大通りで踊り子さん達のパレードがあるそうですよ?アイギスで踊り子さん達の衣装のお直しをしている時に、そんな話を聞きました」

ここでマキシから、耳寄り情報がもたらされる。

職場であるアイギスでの仕事関連で得た情報らしい。

「へー、そうなんだ?そしたらお昼ちょっと前に出かけて、お昼ご飯も外で食べながら皆でパレード観に行く?」

「そうだな。せっかくの生誕祭だ、最後の日までとことん楽しむか」

「そうしましょう!」

こうしてライト達のお昼の行き先は決まった。

踊り子達のパレードということは、きっと豪華絢爛に違いない。どれほどの規模かは分からないが、今から楽しみだ。

午前十一時に出かけることにしたライト達は、それまで各々時間を過ごしていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「おおお、今日も結構混雑しているねぇ」

「これではぐれたらまた大変だからな、二人とも手ぇ繋いで歩けよ」

「「はーい」」

祭りに繰り出したライト達。パレードが行われる大通りは、パレードを観るために集まった人達で既に結構混雑していた。

真ん中の広い道路部分は、パレードの通路確保のためにもう縄が張られていて通れない。縄の外である外縁部分にはまだ普通に露店があり、通路は狭いがそれでも人の行き来はできる。

ライトは皆とはぐれないよう、マキシとしっかり手を繋いでいる。

露店を見ながら、昼食用のお祭りフードを買っていくラウル。そのついでにまた小物雑貨などを見ていく。

ラウルはパン切り包丁を一本購入し、マキシもまたブローチやペンダントなどの小物を数点購入したようだ。本物を見る目はアイギスでの修行で養うとしても、こうした祭りの場でのちょっとチープなお手頃価格のアクセサリー類もまた見て買うのも楽しいものである。

そんな風に祭りでの最後の買い物をしばし楽しんでいると、遠方の方から歓声が聞こえてきた。どうやら踊り子達のパレードが来たようだ。

歓声のする方向をじっと見るライト達。だが、ライトの背は小さくて人の壁で前方が全く見えない。

さりとて人の波に割り込んで縄のある最前列に入り込むのも無理がある。何とか前を見たくてライトがぴょんぴょんと上に向かってジャンプしていると、ラウルに脇をむんずと掴まれた。

突然の出来事に、あひゃンッ!と変な声が出たライト。

ラウルはそのまま最後方の壁際に引き下がってから、ライトを肩に乗せた。

「これならよく見えるだろう?」

「うん!ありがとう、ラウル!」

背の高いラウルの肩車は、観客の誰よりも高い位置となって通路を見渡せる。その見晴らしの良さに、ライトはただただ興奮するばかりだ。

すると、今度はマキシが後ろでこっそりと八咫烏の姿に戻り、ラウルの頭にちょこんと乗ってきたではないか。もちろん真ん中の脚には隠蔽魔法をかけて消している。

マキシとしては、これでも一応普通のカラスに化けているつもりなのだ。残念なことに大きさ的にはかなりおかしいのだが。

ライトはむっちりムチムチの 八咫烏(マキシ) を腕いっぱいに抱き抱えながら、パレードが来るのを待つ。

「ラウル、もうすぐこっち来るよ!」

「おう、よく見とけよ。刃物屋の話によると、この踊り子のパレードは生誕祭三日目の名物にして大人気の目玉行事らしいからな」

「うん!!」

ラウルがパン切り包丁を購入した際に、パレードの詳細を聞いてきたようだ。

高い位置からパレードの来る方向を見ると、遠目にパレード本隊らしき人影の塊が見える。

だんだんと歓声が大きくなるにつれて、パレード本隊もどんどん近づいてくる。その歓声に混じって音楽も聞こえてくる。どうやらパレード本隊の中に音楽隊もいるようだ。

いよいよパレードの先頭が見えてきて、ライト達のいる辺りも熱狂の渦に包まれる。

先頭には綺麗な衣装を着た若い踊り子達数人が、軽いステップを踏みながらくるくると舞っている。にこやかな笑顔で、その動きもとても華やかだ。

その可憐さに息を呑んで見ていると、今度は大きな玉に乗った道化師が続いて行進している。ピエロの玉乗りなんて、ライトにとっては前世のテレビで観たサーカスショー以来である。

道化師は玉乗りをこなしつつ、お手玉を数個同時に手のひらでひょいひょいと操る。何とも器用なものだ。

その道化師の玉乗りの横では、笛や太鼓を叩きながら歩く音楽隊がいる。軽やかな音で、生誕祭を祝う祭りに相応しい綺麗な音色だ。

道化師達の後ろにはとても大きな神輿があり、その神輿の上には踊り子の中でもトップクラスであろう一人の美姫が踊っている。

艷やかな黒髪の巻き毛に黄金色の瞳がより美しく映える。

その手にはゴージャスな羽根つき扇子を持ち、肩に羽織る二重の羽衣がひらひらと舞う姿は壮絶なまでに美しくも妖艶だ。

そして最も刮目すべきは、その神輿を持つ縁の下の力持ち。筋骨隆々の逞しき裸体を誇る褌一丁姿の男達である。

左右に三人づつ、神輿の前後と真ん中にいて如何にも重たそうな神輿を軽々と担いでいる。その筋肉は伊達ではないようだ。

男達は舞姫が乗る神輿を担ぎ支えるという立派な仕事を全うしながらも、その惚れ惚れするような肉体美を全方位に披露しつつ練り歩く。

沿道の観衆の歓声も、心なしか『キャー♪』という黄色い声がかなり増えている気がする。

だがしかし。マスターパレンもそうだったが、この寒空で半裸パンイチは寒くないのだろうか?それとも寒中水泳や真冬の滝行のように、気合いさえあれば乗り越えられるものなのか。

ああ、自分にゃ絶対に真似できんわ、とライト達はそれぞれ心中で思いながら華麗なパレードを眺め堪能する。

神輿を担ぐ男達をさらにもう一周囲むようにして、数多の踊り子達が華麗な舞を披露する。

神輿の上や下はもちろんのこと、前後左右も全てにおいて一切の隙なく豪華絢爛なパレード。それはまさに、生誕祭という盛大な祭りを締め括るに相応しいイベントだ。

ゆっくりと練り歩く神輿もついにライト達の前を通り過ぎ、観客の歓声はどんどん神輿とともに遠ざかっていく。これでライト達のパレード鑑賞は終了だ。

パレードを観るために集まった人々もまた散り散りに去っていき、行進のための区分の縄も取り外されていく。

ライト達もラウルの肩車から降り、マキシはまたこっそりと人化の術で八咫烏の姿から人間風に変化する。

二人とも興奮醒めやらぬといった表情で、はしゃぎながら会話する。

「はぁー……すっごい豪華なパレードだったねぇ」

「はい!あの踊り子さん達の衣装、間違いなくアイギスで見たものでした!」

「踊り子さん達はもちろんだけど、衣装もすっごく綺麗だったもんね!」

「音楽に玉乗り、神輿、踊り、もう全てが豪華でしたね!」

「ホントにね!!……って、ラウル、どしたの?」

ライトとマキシ、二人が先程まで観ていたパレードの豪華絢爛さに感動している横で、何やらラウルがものすごーく渋い顔をしている。

あのパレードに、何か不満でもあったのだろうか?

ラウルのただならぬ様子に、ライトが心配そうに顔を覗き込む。

「ラウル、どうしたの?……もしかして、ぼくを肩車してたからラウルがよく見れなくてつまらなかった?……ごめんね」

「……あ、いや、すまん。違うんだ、ライトが悪いとかそういうことじゃないんだ」

「じゃあ、どうしたの?」

自分のせいでパレードが見れなくて怒ってるんだ、と勘違いしたライトがしょんぼりとしながら謝るも、慌ててラウルがそれを否定する。

ではラウルは一体何故あんなに苦々しい顔をしていたのだろう。訳が分からないライトは、改めてラウルに問うた。

これ以上ライトに勘違いや要らぬ心配をさせてはいけない、と思ったラウルは観念して白状する。

「パレードの中心部、大きくてド派手な神輿に乗っていた踊り子がいただろう?」

「うん、とっても綺麗な人だったね。でも、それがどうかしたの?」

「…………」

ライトの問いに、目を伏せながらしばし無言になる。そして己の頭をガシガシと掻きつつ、はぁぁぁぁ……と大きなため息をひとつついてからその重い口を開いた。

「あいつ…………俺の幼馴染だ」