軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第352話 レオニスの行きたい場所

「あー……酷ぇ目に遭ったわ……」

まだ少し目がクラクラするのか、レオニスが頭を抑え軽く左右に振りながらぼやく。

背丈の近いラウルに肩を貸してもらいながら公園まで歩き、そこで一休みすることにしたライト達。

初日同様に今日もお昼ご飯を食べる人達で混雑しているが、とにかくどこかに座って落ち着きたかったのだ。

先程冒険者ギルドの店で買ったばかりの、魔物の肉の串焼を頬張るライト達。ちなみに、レオニスの飲み物だけエクスポーションだ。

他にも初日に買った豚のちゃんちゃか焼き等、レオニスの好物を中心にご馳走を並べる。野外の食事でレオニスに少しでも元気を取り戻してもらおうという、ライトの涙ぐましい努力と配慮である。

ラウルの機転とその指示に即時従ったマキシのおかげで、何とか窮地を脱したレオニス。生誕祭という楽しいイベントで、まさかレオニスが失神する事態に陥るとは夢にも思わなんだ一同。

その詫びとして、マスターパレン特製プロテインを大袋で十個ももらってしまった。もちろんそれはマスターパレンの自腹出費である。

ちなみに直筆サイン入り手形色紙やら肖像画タペストリーや抱き枕なども持たせてくれようとしていたが、さすがにそれは丁重にお断りした。

何故なら、それ目当ての買い物客も多そうだったから。

『え!?それ持ってっちゃうの!?』『私それ欲しかったのに!』『パレン様からの抱擁だけでも羨ましいってのに!キーーーッ!』という数多の視線が、あの騒動の中レオニス達に集まっていたのである。

「あははは……でも、パレンさんの人気ってものすごいんだね」

「ああ、俺も初めて知ったわ。あんなすごいもんだとはな……さすが冒険者ギルド総本部マスターだけのことはある」

後で聞いた話によると、生誕祭中の冒険者ギルドの店の売上のトップは何とあの『マスターパレンコーナー』だという。

何でも総売上の約四割を占め、魔物の肉の串焼と双璧を成す看板商品なのだとか。

その話を聞いたレオニスは、サイン色紙やタペストリーをもらわずにお断りしておいて本当に良かった……と思ったらしい。

そこら辺の大作は高価格なものも多く、売上高に大きく響く品々だ。これらをマスターパレンの自腹とはいえ、無償で受け取るにはあまりにも高価過ぎて申し訳ない。

そして何よりもああいった趣味嗜好の強い品は、本当に好きな人、欲しいと思う人のもとにいくべきである。間違ってもレオニス宅で持て余された挙句、お蔵入り確定していいような品ではないのだ。

「レオ兄ちゃん、具合の方はどう?」

「おう、エクスポもがぶ飲みしたことだしもう大丈夫だ。心配かけてすまんな」

「そりゃ良かった。さて、ご主人様も何とか回復したようだし、昼飯食った後はどうする?」

「そうだねー。レオ兄ちゃんのお休みは今日一日だけだから、レオ兄ちゃんが見たいものにしようよ!」

「それが一番いいですね、僕達はまた明日もお祭り行けますしねー」

「という訳で。レオ兄ちゃん、どこ行きたい?」

レオニス以外の三人の視線がレオニスに集中する。

注目の的となったレオニスは、しばし考え込んだ後に口を開いた。

「……そうだな。そしたら一ヶ所だけ行きたいところがある。生誕祭の祭りの会場とは全く関係ない場所なんだが、それでもいいか?」

「もちろん!レオ兄ちゃんの行きたいところなら、どこでもついていくよ。ラウルとマキシ君も、それでいい?」

「もちろんだ」

「当然です!」

ライトの問いかけに、ラウルとマキシも当然の如く同意する。

早速四人は『レオニスの行きたい場所』に向かった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その場所は、生誕祭の祭りが行われているメインエリアからかなり離れたところにあった。

人通りはほとんどなく、石畳は傷みきり、立ち並ぶ家屋もボロボロなものばかりだ。祭りの賑やかさとは対極の寂れた空気だけが漂う中を、レオニスを先頭として歩くライト達。

その寂寥感は、安易な軽口を叩くことを許さない。ライトは無言のままレオニスの後をついていく。

そうしてしばらく歩いていった先で、レオニスが足を止めた。

レオニスが歩を止めたと同時にライト達も止まり、周囲を見回す。

立ち止まったレオニスの前には、教会のような建物があった。

「レオ兄ちゃん、ここは……?」

「ここはラグナロッツァ唯一の孤児院だ」

「……ラグナロッツァにも孤児院なんてあったんだ……」

「ああ。本当は俺やグランの兄貴、レミ姉、カイ姉達が育った孤児院に行きたいところなんだがな。ディーノ村の孤児院はもうないんだ」

「そうなの?」

「ディーノ村の人口激減に伴い、孤児院もだいぶ前に廃止されたんだ。もう孤児が出るほどの人口もなかったしな」

寂しげにそう語るレオニスに、ライトは何と声をかけてよいものやら分からない。

「でな、俺が世話になったシスターも、俺が卒院後に他の孤児院の要請で他の街に移ってな。求められるまま応じ続けて、各地の孤児院を転々としていたらしいんだが。去年の秋頃に、このラグナロッツァに来たという話を最近聞いてな」

「じゃあ、レオ兄ちゃんを育ててくれたシスターさんがここにいるの?」

「ああ」

「……じゃあ、ぼくもご挨拶しないとね!」

レオニスの話を聞き、ライトも張り切った様子で答える。

レオニスが育ったディーノ村の孤児院のシスター。それはレオニスだけでなく、ライトの父グランや母レミの育ての親でもある。それは即ちライトにとっても大恩ある人ということになるのだ。

レオニスが孤児院の扉をそっと開く。ギシギシと嫌な音を立てるその扉は、もはや建付けが悪い云々の問題ではなく扉自体が相当傷んでしまっている。

四人はそっと中に入っていくが、人の気配はない。扉に続き床までもが扉以上にギシギシと軋む嫌な音がする。

体躯のいいレオニスはともかく、小柄なライトが歩いてさえ軋む音がするとは相当な傷みようだ。

「シスター、いるか?」

レオニスが奥の方に向かって声をかける。声量は普段と変わらないのだが、静寂に包まれた建物の中故によく響き渡る。

そのまましばらく待っていると、奥から誰か人が来る気配がする。

静かに出て来た老齢の女性。修道女特有の質素な装いにも拘らず、ピンとした背筋に凛とした佇まいは清貧を旨とする聖職者の威厳を放っている。

その人こそ、かつてレオニスがディーノ村の孤児院で卒院するまでずっと世話になっていた修道女、ミス・マイラだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「どちら様ですか?当院にどういった御用件で?」

「…………シスター、俺のことが分かるか?」

「??………………レオ坊、かい?」

「ああ、レオニスだ」

マイラはレオニスが誰だか最初は分からなかったようだが、レオニスの突然の不躾な問いに顔を顰めつつもその顔を改めてじっと眺める。そしてようやくその正体がレオニスであることに気づいたようだ。

かつてはかなり美しかったであろう整った顔立ちに刻まれた数多の皺が彼女の苦労を忍ばせる。

そんな彼女の顔に、驚きと喜びが満ちていくのにそう時間はかからなかった。

「ああ、レオ坊、こんなに大きくなって……!」

「久しぶりだな、シスター。だいぶご無沙汰してて申し訳ない」

「いいんだよ、いいんだよ、そんなこと。私だっていろんな街を転々としていたからね。それにレオ坊だって忙しいんだろう?どこにいてもレオ坊の噂は聞いてたよ。いつも活躍してるんだってねぇ」

「ん、まぁな……俺もそこそこの冒険者になったよ。これも昔、孤児院で俺達孤児を育ててくれたシスターのおかげだ」

眦にうっすらと涙を浮かべながら、レオニスの顔を見上げるマイラ。己の涙を指で拭いつつ、感極まったように呟く。

「あのやんちゃ坊主でクソガキだったレオ坊が、こんな立派になるなんて……私ゃ嬉しいよ」

「ぇ?ぃゃ、ちょ、待、あの、シスター?やんちゃ坊主はともかくクソガキは酷くね?」

「何言ってるんだい、この子は。孤児院時代のあれやこれや、身に覚えはないのかい?」

「…………ぁー、少ーしだけ、ある、か、な……?」

「少ーしだけ、かい?」

「ぃゃ、ぇーと、その、結構というか、かなーり、ある、かも?」

「ある、かも、ねぇ……まぁいいよ、それでも一応自覚はあるようだし」

「すんません……」

レオニスの幼少期をとことん知り尽くしたマイラ相手に誤魔化しようもなく、レオニスは大きな身体を平身低頭縮こまらせるしかない。

「本当にレオ坊は、グランといっしょになって散々手を焼かせてくれたもんだったよねぇ」

「……ははは……」

「でも、あの頃が一番賑やかで毎日が楽しかったよ。孤児院という環境で楽しかったと思える時期なんて、私の長い人生の中でも指折り数えるくらいしかない……レオ坊達といっしょにディーノ村にいた頃が、間違いなく数少ない幸せな時期だった」

「シスター……」

マイラが小さく微笑みながら、目を伏せる。かつてレオニス達とともにディーノ村で過ごした日々を思い出しているのだろう。

「そうだ、シスターに紹介したい子がいるんだ」

「私に紹介したい子?誰だね、それは?」

「ライト、こっちにおいで」

レオニス達のいるところから、少し離れたところで二人の様子を見守っていたライト。レオニスに名を呼ばれ小走りに駆け出すも、床がギシギシ鳴り響き慌ててゆっくり歩き直す。

そうしてレオニスの横に立ったライトは、マイラに向かってペコリと頭を下げた。

「初めまして。ぼく、ライトと言います」

「ライト君ね。初めまして、私はシスター・マイラ。孤児院に勤める修道女です」

ライトとマイラが軽く自己紹介を交わす。

その後レオニスがシスターに向かって、改めてライトの出自を明かした。

「シスター。この子はな、グランの兄貴とレミ姉の子なんだ」